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アルファ聴かせて第二部第二章〈2学期編〉act.34
-沙羅-SARA~沙羅と理事長と…~
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〈-沙羅-SARA〉
~沙羅と理事長と…~
「食った食った………。
今日はチャイムが鳴る前に授業が
終わったから…人が並ぶ前に食券が
買えたからな…幻のスペシャルランチが
食べれた。
まあ、スペシャルって言っても
人気メニューのから揚げとカツカレーが
一緒になったモノなんだけどな?
ボリュームがあって安いから
すぐに売り切れるんだよな…。
さあて……いつものように……
屋上で寝てくるか…」
学生食堂で昼を食べ終わった翔は満足そう
に腹を摩りながら屋上に向かって行った。
・
・
・
「…………あれ? 沙羅?」
「……高村くん」
屋上に上がり昇降口の扉を開けると、
そこには緊張した表情で沙羅が立っていた。
翔は沙羅の側まで急ぎ足で近づき、
沙羅に真剣な表情で聞いた。
「どうしたんだ? こんな所で一人で?
まさかまた…なにかあったのか?」
心配そうに自分に聞いてくる翔の顔を
見上げ、沙羅は少し微笑んで答える。
「違いますわ……。わたくし……
高村くんを待っていましたの……」
沙羅の返事を聞いて翔は少し驚きながら
聞き返した。
「俺を? ここで待ってた?
なんでまた……」
沙羅は翔に対して申し訳なさそうな表情を
見せてから話してきた。
「今日の朝餉の時にお祖父様が高村くんを
「昼休みに連れて来てくれ」と…
おっしゃるものですから……。
……それでここで…お待ちしていました」
沙羅の説明を聞いて翔は不思議に思いながら
沙羅に確認するように聞いた。
「えっ? それだったら……。
こんな所で待っていなくても…教室に
呼びに来ればいいじゃないか?
昼まで休み時間に来て
伝言でも良かったし…。
俺…屋上に毎日来る訳じゃないんだよ…」
翔に言われ沙羅は目を細め顔を
俯きがちに答える。
「………でも。高村くんのクラスには……
わたくし…知っている方は誰も
いませんから…行きづらいですわ……。
それで……つい……屋上で…」
小さな声で答えてくる沙羅の表情は
どこと無く寂しそうに見えていた。
「沙羅……。知り合いって……
俺がいるじゃないか?
俺たち友達だろ?
しかも…同学年なんだから…
遠慮しないで教室に
入って来ればいいんだよ………」
翔は沙羅の気持ちを察し、優しく
微笑みながら伝える。
沙羅は手を口元に当てて驚きながら
言って来た。
「………そうなんですか?
知りませんでした……」
翔は沙羅の頭を撫でながら微笑んで言った。
「これからは……。
用事があるときは教室に来る。
…………わかった?」
沙羅は翔の顔を見つめ、
少し頬を染めながら返事をしてきた。
「はい………。わかりましたわ………」
翔は「よし」と言って沙羅の頭から
手を離しニッコリと笑いながら
沙羅の顔を見た。
「じゃあ…。理事長のところに行こうか?」
「…………はい」
沙羅も頬をさらに紅く染め上げて
ニッコリと微笑んで返事をした。
・
・
・
コンコン……
「お祖父様。沙羅です」
職員等にある理事長室の重厚な両扉を
沙羅が軽くノックをしながら声を掛ける。
『沙羅か?入っていいぞ!』
ノックとほぼ同時にその扉の中から理事長の
嬉しそうな太い声が聞こえてきた。
沙羅が扉を開けて翔と共に中に入って行く。
入って来る二人を見て理事長が嬉しそうに
立ち上がり二人の側に近づいてくる。
「お~やっと来たか……。遅かったの?」
顔は喜んでいるが口調はどこか寂しげな
理事長に翔はペコっと頭を下げる。
「………スミマセン。
俺……教室にいなくて……」
理事長は「ほほう」と自慢の顎鬚を
触りながら翔を見てから、沙羅に向かって
感心するように話してきた。
「そうか…。そうじゃの教室にいなければ…
捜しようがなかったの……。
良く捜せたもんじゃの沙羅。
どこに……おったんじゃ?」
沙羅少し申し訳なさそうな顔をして
理事長に答える。
「……あの……お祖父様。
……わたくしが……」
昼休み前に翔の教室に訪ねて行けなかった
事を気にしてか、答えている途中で沙羅は
チラリと翔の顔を見た。
それを見た翔は笑いながら理事長に答えた。
「沙羅は知らなかったと思うんですが…
昼休みには屋上に行っているので…
屋上(そこ)で沙羅と会いました……」
理事長は翔の返事を聞いて嬉しそうに
手を叩きながら言ってきた。
「ほう…屋上でか?良く捜せたもんじゃ…」
翔は自分の鼻を掻きながら
照れたように答える。
「……まあ……偶然でしたけど……」
理事長はまたもや自分の顎鬚を触りながら
うんうんと頷きながら話してくる。
「偶然けっこう…。それも何かの縁じゃて
案外お前達は結ばれる縁(えにし)
なのかもしれんの……ふぉふぉふぉ…」
理事長の言った言葉を聞いて沙羅は顔を
真っ赤にして声を上げる。
「お祖父様!」
翔は呆れたように理事長を見ていた。
「………………………」
(………………………。
結ばれるって……それ言い過ぎだろ……
クソ理事長(じじい)…)
そして翔は柳眉を少し上げて理事長を
睨みつけた。
理事長は少し目を泳がせて引き攣った
笑いを浮かべ翔に話しかけた。
「まあ…とりあえず。お茶でもどうだ?」
翔はフーと大きな溜息を吐いて
『仕方ないな…」と小さな声で呟き言った。
「……いただきます」
理事長は安心した表情を見せて手振りで
翔達にソファーに座るように勧めパンパンと
二回拍手を打った。
翔と沙羅は理事長の勧めたソファーに
腰を降ろす。
理事長はゆっくりと翔達の正面に
腰を降ろした。
隣の部屋からメイド達が現れ三人の前に
紅茶とお菓子が丁寧に並べられる。
翔は黙ってその様子を見ていた。
「…………………」
(………すごいよな。……あっという間に
お茶の用意がされてしまった……。
しかも…この部屋の隣に何人の使用人が
控えているんだ? それもビックリだ)
理事長はニコニコと微笑みながら
言ってきた。
「……まあ飲んでくれ……」
翔は黙ったままその紅茶を手に取り口に
運び啜った。
ズズズッ
沙羅は高そうな陶器に入ったミルクを
カップに注いで音も無く紅茶を飲んでいる。
翔はカップをソーサーに戻し理事長の顔を
見て話し始めた。
「………で、理事長?
なんの用事なんですか?」
理事長は思い出したようにポンと手を叩き
翔の顔を真剣な表情で見つめた。
「おおそうじゃった……。
話と言うことは他でもない。
中条の事じゃ……」
「………中条の?」
翔は『本当に用事があったんだ」と驚き
理事長の顔を見る。
「そうじゃ…。中条君から…まあ…
あのボンの父親からなんじゃが…。
今一度、あのボンにチャンスをくれと
言ってきおった」
理事長は目を細めチラッと沙羅を見てから
話を続けた。
「儂は正直悩んだじゃがな…
断った方が良いんじゃないか…
とも思ったんじゃ。
それでも…沙羅の父親が絡んでる事も
あるし…。
火村から報告を受けた…先日の翔くんと
あのボンの一件も気になったのでな……。
今一度…あのボンに…チャンスをやろうと
思ってな………」
理事長はニヤリと笑い翔に向かって
言って来た。
「まあ…あのボンがなにか悪さを仕掛けて
きても…翔くんがなんとかしてくれる
じゃろうとも思って…沙羅との婚約は
沙羅の卒業まで…保留という事に
なってしまった……すまんの」
口調では丁寧に謝っているが
目は笑っている理事長であった。
「この件には翔くんも絡んでいるからの…
一応、報告しておこうと
思っての……ふぉふぉふぉ…」
翔はジト目になって理事長の
笑い顔を見ていた。
「………………」
(このクソ理事長(じじい)…。
まあ…中条のあの様子だとたしかに
大丈夫だと思うけどさ…。
だけど…沙羅の…沙羅の気持ちは…)
翔はチラリと沙羅の顔を見て理事長に
向かって口を開く。
「俺への報告は別にいいんです……。
ただ……沙羅のことが気になって………」
沙羅は顔を上げて凛とした態度で返事を
してきた。
「………わたくしはいいんです……。
高嶺家と中条家の決めごとですから……」
そして少し困った顔をして
沙羅は理事長を見て言った。
「ただ……わたくしは……。
今の光一さんとは……」
理事長は笑いながら優しい目を沙羅に
向けて返事をした。
「ふぉふぉふぉ……。
わかっておる。
儂の目の黒いうちは…誰にも好きには
させん。
そして婚約のことを決めるのは
沙羅お前じゃ」
翔は沙羅の方に振り向き彼女の名前を
呼んだ。
「沙羅………」
沙羅は真剣な顔で姿勢を正し理事長に
答えた。
「はい。わかっております。わたくしは
自分の意志で中条家のことを決めたいと
思っております………」
理事長はそんな沙羅を見て嬉しそうに
言って来た。
「まあ……。あのボンも生まれ変わる
つもりで自分を鍛え始めたそうじゃ……。
しばらくは様子を見るのも一興じゃて…」
翔は理事長から出た意外な一言を聞き返す。
「自分を鍛える?」
「そうじゃ。御主に負けないくらい強い男
になるんだそうじゃ…」
理事長は楽しくて堪らないという笑みを
浮かべ翔に向かって話を続けた。
「なんでも有名な格闘家…
なんとかグレイシーとか言ったかの……。
それを師範として屋敷に招いたそうじゃ。
そのうち……御主に試合を申し込むと
言ってきたぞ……」
翔は「へぇー」と思わず漏らし理事長の
顔を見た。
「試合ですか?」
理事長はそんな翔の真剣な目を見て
思わず笑い出す。
「ふぉふぉふぉ……そうじゃ。
儂は弱い男には沙羅をやれんと
話したからの……
どうじゃ翔くん?
あのボンとの試合受けてみるか?」
理事長は沙羅を見て笑って言ってきた。
「勝った方に沙羅を嫁にやるというのも…
面白かろう? ふぉふぉふぉ…」
沙羅は慌てて声を出す。
「お、お祖父様!」
翔は額に手を当てて思わず呟いていた。
「……………じじい………」
沙羅は少し泣きそうな顔で
理事長に言って来た。
「わたくしは嫌です…。
たとえ光一さんが…高村くんよりも…
強くなっても………。
それだけじゃわたくしは…わたくしは…」
沙羅は下を向き膝の上の手を力強く
握り締めていた。
翔は沙羅の手をそっと優しく
包み込むように握った。
「………沙羅……安心していいよ……。
俺は中条には負けない。
沙羅を守るためには負けられないからな」
理事長はそんな翔の言葉に
目を細め聞いてきた。
「ほほう…。 本気になるというのか?」
翔は沙羅の手を握り締めたまま
理事長の顔を真剣に見つめる。
「ええ…。中条が本気で試合を申し込んで
くるなら……自分も本気で試合って
みようかと…思っています。
今回の件で…あいつ自身がどれほど
強くなるか見てみたいですね…」
翔の返事を聞いて、理事長は嬉しそうに
目を開いて聞いてきた。
「それは沙羅を嫁に……」
「お、お祖父様!」
沙羅は顔を紅く染めながら
理事長の言葉を遮る。
翔はヤレヤレと溜息を吐いて
理事長と沙羅の顔を交互に見て話し始めた。
「それとこれは別問題です。
俺と沙羅はそんな仲じゃないでしょう?
ただ……友達として……
沙羅を守りたいだけです」
「………高村くん……」
沙羅は翔の顔を見て名前を呟いた。
理事長は子供っぽく露骨に顔をゆがめ
言って来た。
「なんじゃつまらんの……
まあよしとするか……」
しかたなく納得する理事長。
そして理事長は沙羅の顔を見て沙羅に
話しかける。
「しかしのう沙羅。
儂は一つだけ気にくわん事が
あるんじゃがの……」
沙羅は不思議そうな顔で理事長に
聞き返した。
「……はい。何でしょうか?」
理事長はニコニコと微笑み沙羅に言った。
「儂は沙羅が翔くんの事を未だに名字で
呼んでることが気にくわんのじゃ……。
いい加減名前で呼ばんか?」
沙羅は驚いたように翔の顔を見た。
「えっ? 高村くんのお名前でですか?」
翔も理事長の意見に同意し沙羅に向かって
話しかける。
「それは俺もそうしてもらいたいな?
高村よりも翔の方がいい。
翔って呼んでくれよ?」
「………翔ですか? わかりました。
それでは翔さんとお呼びしても
よろしいでしょうか?」
沙羅は少し困った顔をして決意したように
返事をした。
翔は沙羅に微笑みながら返事を返した。
「それでいいよ」
理事長はそんな二人を見て
笑いながら話してくる。
「ふぉふぉふぉ……。
それでいいんじゃそれで。
それにしても、翔君とあのボンの
試合か…。
儂も真剣に見たくなってきたぞ……」
理事長はニヤリと笑って
翔を見て言ってきた。
「と、言うよりも、儂も御主の本気の
試合を見てみたいもんじゃ……。
あの空手部の連中を瞬時に沈めた技をな?」
沙羅も頷きながら翔の事を見つめる。
「わたくしも見てみたいですわ……」
翔は呆れたように二人の顔を交互に見る。
「………なんでそれを……」
(やっぱり…。女子剣道部の件は
理事長が動いたのか…)
翔が驚いた顔を二人に見せ、
昨日の夏美との話を思い出している時、
理事長は笑いながら翔に言ってきた。
「ふぉふぉふぉふぉ…
儂の情報網を甘く見たらいかん。
この街で起こる殆どの事件はすべて耳に
入るようになっとるんじゃ……。
「特に学園内の事はほぼリアルタイムで
情報がこの耳に入って来る…。
昨日の御主の女子剣道部の仮入部の件も
聞いているからな…。
ちなみに職員間で入部の件が問題になる
前に儂が承認しておいたぞ?
顧問にも話は通している。
これで御主は女子剣道部に入部した唯一
の男子じゃ…。堂々と女子剣道部で修行に
励むこともできるじゃろ…。
ふぉふぉふぉ…」
理事長の衝撃の告白に翔は驚いていた。
「…………本気(マジ)?」
(夏美ちゃん…。本当に申請したんだ…。
その申請をあっさり承認する
理事長も理事長だが…。
顧問の先生も…さぞかし驚いただろうな?
それにしても…あの中条がね………。
なんとかグレイシーって……
けっこう有名な格闘家じゃないのか?
何年か前に世界王者になった…
トップクラスの格闘家だよな?
さすが中条家っていうか…
金持ちの考えている事って…わからん。
できればその人と
試合ってみたいもんだな……)
試合の話で勝手に盛り上がって
いる理事長と沙羅を横目で
見ながら…翔はそんなことを考えていた…。
。
。
。
~沙羅と理事長と…~
「食った食った………。
今日はチャイムが鳴る前に授業が
終わったから…人が並ぶ前に食券が
買えたからな…幻のスペシャルランチが
食べれた。
まあ、スペシャルって言っても
人気メニューのから揚げとカツカレーが
一緒になったモノなんだけどな?
ボリュームがあって安いから
すぐに売り切れるんだよな…。
さあて……いつものように……
屋上で寝てくるか…」
学生食堂で昼を食べ終わった翔は満足そう
に腹を摩りながら屋上に向かって行った。
・
・
・
「…………あれ? 沙羅?」
「……高村くん」
屋上に上がり昇降口の扉を開けると、
そこには緊張した表情で沙羅が立っていた。
翔は沙羅の側まで急ぎ足で近づき、
沙羅に真剣な表情で聞いた。
「どうしたんだ? こんな所で一人で?
まさかまた…なにかあったのか?」
心配そうに自分に聞いてくる翔の顔を
見上げ、沙羅は少し微笑んで答える。
「違いますわ……。わたくし……
高村くんを待っていましたの……」
沙羅の返事を聞いて翔は少し驚きながら
聞き返した。
「俺を? ここで待ってた?
なんでまた……」
沙羅は翔に対して申し訳なさそうな表情を
見せてから話してきた。
「今日の朝餉の時にお祖父様が高村くんを
「昼休みに連れて来てくれ」と…
おっしゃるものですから……。
……それでここで…お待ちしていました」
沙羅の説明を聞いて翔は不思議に思いながら
沙羅に確認するように聞いた。
「えっ? それだったら……。
こんな所で待っていなくても…教室に
呼びに来ればいいじゃないか?
昼まで休み時間に来て
伝言でも良かったし…。
俺…屋上に毎日来る訳じゃないんだよ…」
翔に言われ沙羅は目を細め顔を
俯きがちに答える。
「………でも。高村くんのクラスには……
わたくし…知っている方は誰も
いませんから…行きづらいですわ……。
それで……つい……屋上で…」
小さな声で答えてくる沙羅の表情は
どこと無く寂しそうに見えていた。
「沙羅……。知り合いって……
俺がいるじゃないか?
俺たち友達だろ?
しかも…同学年なんだから…
遠慮しないで教室に
入って来ればいいんだよ………」
翔は沙羅の気持ちを察し、優しく
微笑みながら伝える。
沙羅は手を口元に当てて驚きながら
言って来た。
「………そうなんですか?
知りませんでした……」
翔は沙羅の頭を撫でながら微笑んで言った。
「これからは……。
用事があるときは教室に来る。
…………わかった?」
沙羅は翔の顔を見つめ、
少し頬を染めながら返事をしてきた。
「はい………。わかりましたわ………」
翔は「よし」と言って沙羅の頭から
手を離しニッコリと笑いながら
沙羅の顔を見た。
「じゃあ…。理事長のところに行こうか?」
「…………はい」
沙羅も頬をさらに紅く染め上げて
ニッコリと微笑んで返事をした。
・
・
・
コンコン……
「お祖父様。沙羅です」
職員等にある理事長室の重厚な両扉を
沙羅が軽くノックをしながら声を掛ける。
『沙羅か?入っていいぞ!』
ノックとほぼ同時にその扉の中から理事長の
嬉しそうな太い声が聞こえてきた。
沙羅が扉を開けて翔と共に中に入って行く。
入って来る二人を見て理事長が嬉しそうに
立ち上がり二人の側に近づいてくる。
「お~やっと来たか……。遅かったの?」
顔は喜んでいるが口調はどこか寂しげな
理事長に翔はペコっと頭を下げる。
「………スミマセン。
俺……教室にいなくて……」
理事長は「ほほう」と自慢の顎鬚を
触りながら翔を見てから、沙羅に向かって
感心するように話してきた。
「そうか…。そうじゃの教室にいなければ…
捜しようがなかったの……。
良く捜せたもんじゃの沙羅。
どこに……おったんじゃ?」
沙羅少し申し訳なさそうな顔をして
理事長に答える。
「……あの……お祖父様。
……わたくしが……」
昼休み前に翔の教室に訪ねて行けなかった
事を気にしてか、答えている途中で沙羅は
チラリと翔の顔を見た。
それを見た翔は笑いながら理事長に答えた。
「沙羅は知らなかったと思うんですが…
昼休みには屋上に行っているので…
屋上(そこ)で沙羅と会いました……」
理事長は翔の返事を聞いて嬉しそうに
手を叩きながら言ってきた。
「ほう…屋上でか?良く捜せたもんじゃ…」
翔は自分の鼻を掻きながら
照れたように答える。
「……まあ……偶然でしたけど……」
理事長はまたもや自分の顎鬚を触りながら
うんうんと頷きながら話してくる。
「偶然けっこう…。それも何かの縁じゃて
案外お前達は結ばれる縁(えにし)
なのかもしれんの……ふぉふぉふぉ…」
理事長の言った言葉を聞いて沙羅は顔を
真っ赤にして声を上げる。
「お祖父様!」
翔は呆れたように理事長を見ていた。
「………………………」
(………………………。
結ばれるって……それ言い過ぎだろ……
クソ理事長(じじい)…)
そして翔は柳眉を少し上げて理事長を
睨みつけた。
理事長は少し目を泳がせて引き攣った
笑いを浮かべ翔に話しかけた。
「まあ…とりあえず。お茶でもどうだ?」
翔はフーと大きな溜息を吐いて
『仕方ないな…」と小さな声で呟き言った。
「……いただきます」
理事長は安心した表情を見せて手振りで
翔達にソファーに座るように勧めパンパンと
二回拍手を打った。
翔と沙羅は理事長の勧めたソファーに
腰を降ろす。
理事長はゆっくりと翔達の正面に
腰を降ろした。
隣の部屋からメイド達が現れ三人の前に
紅茶とお菓子が丁寧に並べられる。
翔は黙ってその様子を見ていた。
「…………………」
(………すごいよな。……あっという間に
お茶の用意がされてしまった……。
しかも…この部屋の隣に何人の使用人が
控えているんだ? それもビックリだ)
理事長はニコニコと微笑みながら
言ってきた。
「……まあ飲んでくれ……」
翔は黙ったままその紅茶を手に取り口に
運び啜った。
ズズズッ
沙羅は高そうな陶器に入ったミルクを
カップに注いで音も無く紅茶を飲んでいる。
翔はカップをソーサーに戻し理事長の顔を
見て話し始めた。
「………で、理事長?
なんの用事なんですか?」
理事長は思い出したようにポンと手を叩き
翔の顔を真剣な表情で見つめた。
「おおそうじゃった……。
話と言うことは他でもない。
中条の事じゃ……」
「………中条の?」
翔は『本当に用事があったんだ」と驚き
理事長の顔を見る。
「そうじゃ…。中条君から…まあ…
あのボンの父親からなんじゃが…。
今一度、あのボンにチャンスをくれと
言ってきおった」
理事長は目を細めチラッと沙羅を見てから
話を続けた。
「儂は正直悩んだじゃがな…
断った方が良いんじゃないか…
とも思ったんじゃ。
それでも…沙羅の父親が絡んでる事も
あるし…。
火村から報告を受けた…先日の翔くんと
あのボンの一件も気になったのでな……。
今一度…あのボンに…チャンスをやろうと
思ってな………」
理事長はニヤリと笑い翔に向かって
言って来た。
「まあ…あのボンがなにか悪さを仕掛けて
きても…翔くんがなんとかしてくれる
じゃろうとも思って…沙羅との婚約は
沙羅の卒業まで…保留という事に
なってしまった……すまんの」
口調では丁寧に謝っているが
目は笑っている理事長であった。
「この件には翔くんも絡んでいるからの…
一応、報告しておこうと
思っての……ふぉふぉふぉ…」
翔はジト目になって理事長の
笑い顔を見ていた。
「………………」
(このクソ理事長(じじい)…。
まあ…中条のあの様子だとたしかに
大丈夫だと思うけどさ…。
だけど…沙羅の…沙羅の気持ちは…)
翔はチラリと沙羅の顔を見て理事長に
向かって口を開く。
「俺への報告は別にいいんです……。
ただ……沙羅のことが気になって………」
沙羅は顔を上げて凛とした態度で返事を
してきた。
「………わたくしはいいんです……。
高嶺家と中条家の決めごとですから……」
そして少し困った顔をして
沙羅は理事長を見て言った。
「ただ……わたくしは……。
今の光一さんとは……」
理事長は笑いながら優しい目を沙羅に
向けて返事をした。
「ふぉふぉふぉ……。
わかっておる。
儂の目の黒いうちは…誰にも好きには
させん。
そして婚約のことを決めるのは
沙羅お前じゃ」
翔は沙羅の方に振り向き彼女の名前を
呼んだ。
「沙羅………」
沙羅は真剣な顔で姿勢を正し理事長に
答えた。
「はい。わかっております。わたくしは
自分の意志で中条家のことを決めたいと
思っております………」
理事長はそんな沙羅を見て嬉しそうに
言って来た。
「まあ……。あのボンも生まれ変わる
つもりで自分を鍛え始めたそうじゃ……。
しばらくは様子を見るのも一興じゃて…」
翔は理事長から出た意外な一言を聞き返す。
「自分を鍛える?」
「そうじゃ。御主に負けないくらい強い男
になるんだそうじゃ…」
理事長は楽しくて堪らないという笑みを
浮かべ翔に向かって話を続けた。
「なんでも有名な格闘家…
なんとかグレイシーとか言ったかの……。
それを師範として屋敷に招いたそうじゃ。
そのうち……御主に試合を申し込むと
言ってきたぞ……」
翔は「へぇー」と思わず漏らし理事長の
顔を見た。
「試合ですか?」
理事長はそんな翔の真剣な目を見て
思わず笑い出す。
「ふぉふぉふぉ……そうじゃ。
儂は弱い男には沙羅をやれんと
話したからの……
どうじゃ翔くん?
あのボンとの試合受けてみるか?」
理事長は沙羅を見て笑って言ってきた。
「勝った方に沙羅を嫁にやるというのも…
面白かろう? ふぉふぉふぉ…」
沙羅は慌てて声を出す。
「お、お祖父様!」
翔は額に手を当てて思わず呟いていた。
「……………じじい………」
沙羅は少し泣きそうな顔で
理事長に言って来た。
「わたくしは嫌です…。
たとえ光一さんが…高村くんよりも…
強くなっても………。
それだけじゃわたくしは…わたくしは…」
沙羅は下を向き膝の上の手を力強く
握り締めていた。
翔は沙羅の手をそっと優しく
包み込むように握った。
「………沙羅……安心していいよ……。
俺は中条には負けない。
沙羅を守るためには負けられないからな」
理事長はそんな翔の言葉に
目を細め聞いてきた。
「ほほう…。 本気になるというのか?」
翔は沙羅の手を握り締めたまま
理事長の顔を真剣に見つめる。
「ええ…。中条が本気で試合を申し込んで
くるなら……自分も本気で試合って
みようかと…思っています。
今回の件で…あいつ自身がどれほど
強くなるか見てみたいですね…」
翔の返事を聞いて、理事長は嬉しそうに
目を開いて聞いてきた。
「それは沙羅を嫁に……」
「お、お祖父様!」
沙羅は顔を紅く染めながら
理事長の言葉を遮る。
翔はヤレヤレと溜息を吐いて
理事長と沙羅の顔を交互に見て話し始めた。
「それとこれは別問題です。
俺と沙羅はそんな仲じゃないでしょう?
ただ……友達として……
沙羅を守りたいだけです」
「………高村くん……」
沙羅は翔の顔を見て名前を呟いた。
理事長は子供っぽく露骨に顔をゆがめ
言って来た。
「なんじゃつまらんの……
まあよしとするか……」
しかたなく納得する理事長。
そして理事長は沙羅の顔を見て沙羅に
話しかける。
「しかしのう沙羅。
儂は一つだけ気にくわん事が
あるんじゃがの……」
沙羅は不思議そうな顔で理事長に
聞き返した。
「……はい。何でしょうか?」
理事長はニコニコと微笑み沙羅に言った。
「儂は沙羅が翔くんの事を未だに名字で
呼んでることが気にくわんのじゃ……。
いい加減名前で呼ばんか?」
沙羅は驚いたように翔の顔を見た。
「えっ? 高村くんのお名前でですか?」
翔も理事長の意見に同意し沙羅に向かって
話しかける。
「それは俺もそうしてもらいたいな?
高村よりも翔の方がいい。
翔って呼んでくれよ?」
「………翔ですか? わかりました。
それでは翔さんとお呼びしても
よろしいでしょうか?」
沙羅は少し困った顔をして決意したように
返事をした。
翔は沙羅に微笑みながら返事を返した。
「それでいいよ」
理事長はそんな二人を見て
笑いながら話してくる。
「ふぉふぉふぉ……。
それでいいんじゃそれで。
それにしても、翔君とあのボンの
試合か…。
儂も真剣に見たくなってきたぞ……」
理事長はニヤリと笑って
翔を見て言ってきた。
「と、言うよりも、儂も御主の本気の
試合を見てみたいもんじゃ……。
あの空手部の連中を瞬時に沈めた技をな?」
沙羅も頷きながら翔の事を見つめる。
「わたくしも見てみたいですわ……」
翔は呆れたように二人の顔を交互に見る。
「………なんでそれを……」
(やっぱり…。女子剣道部の件は
理事長が動いたのか…)
翔が驚いた顔を二人に見せ、
昨日の夏美との話を思い出している時、
理事長は笑いながら翔に言ってきた。
「ふぉふぉふぉふぉ…
儂の情報網を甘く見たらいかん。
この街で起こる殆どの事件はすべて耳に
入るようになっとるんじゃ……。
「特に学園内の事はほぼリアルタイムで
情報がこの耳に入って来る…。
昨日の御主の女子剣道部の仮入部の件も
聞いているからな…。
ちなみに職員間で入部の件が問題になる
前に儂が承認しておいたぞ?
顧問にも話は通している。
これで御主は女子剣道部に入部した唯一
の男子じゃ…。堂々と女子剣道部で修行に
励むこともできるじゃろ…。
ふぉふぉふぉ…」
理事長の衝撃の告白に翔は驚いていた。
「…………本気(マジ)?」
(夏美ちゃん…。本当に申請したんだ…。
その申請をあっさり承認する
理事長も理事長だが…。
顧問の先生も…さぞかし驚いただろうな?
それにしても…あの中条がね………。
なんとかグレイシーって……
けっこう有名な格闘家じゃないのか?
何年か前に世界王者になった…
トップクラスの格闘家だよな?
さすが中条家っていうか…
金持ちの考えている事って…わからん。
できればその人と
試合ってみたいもんだな……)
試合の話で勝手に盛り上がって
いる理事長と沙羅を横目で
見ながら…翔はそんなことを考えていた…。
。
。
。
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