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38話 お嬢様の選挙殺法
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「じゃあ、今日はここまでね」
上町にある選挙事務所。そこでの一日の作業を終えてスタッフ――もといダウンゼンとその子分たちに告げる。
「いやー、疲れたー!」「ほんとだぜ。目が痛くなる」「こんなちまちました作業あわねーんだよなー、俺たち」
「おい、お前ら。くだらねーことくっちゃべってないでさっさと撤収準備だろ!」
「は、はいぃ! アニキ!」「す、すみませんでしたぁ!」
ダウンゼンの一喝で愚痴を垂れていた子分たちがいそいそと帰り支度をしはじめた。
ここは一応、事務所というていをしているので夜は閉めて全員帰ることにしている。だから夜が更けて真っ暗になる前に撤収することにしていた。
「なぁ、エリよぉ」
子分たちに撤収の準備をさせつつも、自分は机の上に散らばった封筒の束を整えるダウンゼン。
その様子は事務作業に疲れたというのもあるだろうけど、それだけじゃないみたい。むすっとした様子で聞いてくる。
「俺たち、一体なにやってんだ?」
ダウンゼンが机に並べたのは紙束と茶封筒の山。それと紙で作ったB4サイズの箱。
コンビニなんてないから、それらを作り上げる内職を彼らに頼んでいたわけで。
「言ったでしょ。この選挙戦を国中に知らせるための新聞づくりよ」
「そのシンブンってのはなんとなくわかったけどよ。この封筒は何のために?」
「国中って言ったでしょ? この王城から離れた場所にも届けるための封筒よ」
「じゃあこの箱は? 封筒があるなら別に要らないだろ」
「それはお菓子入れよ。皆に配ろうと思って」
「…………」
ダウンゼンはジッと箱を見て、それから私に視線を移す。
何を考えているのか。あるいは何かを感じ取っているのか。
やがてダウンゼンは身を乗り出して小声で。
「それだけのわけねーよな。お前がそれだけのためにこんなことをするわけがねぇ」
「買いかぶり過ぎよ。私はたただのいち貴族のお嬢様」
「それがあの大貴族2つを相手に立候補するか?」
「流れでそうなっただけ。私に勝つ意志はないわ。だから外に立って2人の争いを眺めているだけ」
「――のわけねーよな? なにせこんな事務所を作っちまうんだ。なぁエリ。俺はお前の役に立ちたい。だから俺はここにいる。盾になれと言われれば盾になるし、何かを奪ってこいって言われたらやる。あのガーヒルの野郎をぶっ飛ばせと言われればやるさ」
真剣な瞳と声色に、少し気おされる。
ふーん。この男もこの男なりに色々考えているわけね。
ま、いっか。
「この紙は新聞にする。それは本当よ。それとこの封筒も」
「郵便のための封筒ってか?」
「ええ。ただその中身は新聞じゃなく、誰かさんの醜聞だったり、あることないこと書いた紙かもしれないけど」
「…………へ?」
「それとこの箱。お菓子を入れるのは嘘じゃないわ」
「そうなのか」
「ええ。ただ金色と銀色に輝くものだけど」
「は?」
「それにしても不便よね、金貨と銀貨って。丸いから小判みたいに紐でくくれないし、札束より断然重いし、じゃらじゃらいうから。まぁ大判金貨数枚でも賄賂……こほん、献金としては十分だけど」
「わ――」
「しぃー、ダウンゼン?」
ダウンゼンの大きく開かれた口の直前に人差し指を伸ばしてその先を封じる。
まったく。大声で人聞きの悪いことを言おうとするなんて。やっぱりこの男もまだまだね。
「ね、ダウンゼン。選挙で必要なの知ってる?」
「い、いや。そもそもセンキョとか知らねーし。けど、まぁ、そうだな。力じゃねぇか。腕力さえありゃ誰でも屈服できる」
「あんたどこの原始人よ。けどまぁ惜しいところではあるのよね」
「じゃあなんだよ」
「カネよ」
「……身も蓋もねぇな」
「それが現実ってやつ。どれだけ高邁な理想や、誰もを幸せにできる思想を持ってても、金がなきゃ選挙に勝てない。だって、10年後の1億より、今日明日の100万が大事な人が多いんだから」
「…………」
ダウンゼンが厳しい顔で口をつぐむ。
彼らの過ごす下町ではまさにそれが真実なんだろう。
前の世界でもそうだった。
結局金がないと選挙には勝てない。どれだけ潔癖で徳があって、絶対この人が当選すればいいのに、と思う人でもあっさり負ける。それは票田という金がなかったから。
悲しいけどそれが現実。現実という名の地獄。
もしそれを変えたいなら、そもそもの仕組みを変えるしかない。
それか、金も実力もあって高い理想と行動力と決断力を持った英雄が名乗りを上げない限り。その地獄は続く。
けどこの世界の人は幸福よね。
だって、金も実力もあって高い理想と行動力と決断力をもった英雄がここにいるんだから。
うぬぼれで言ってるわけじゃない。
だって、ここの貴族どもを見れば、前の世界の小学生でももっといい政治ができるはずだから。
それに今。ダウンゼンには言わなかったけど、選挙で勝つのに必要なものはもう1つある。
それは情報。
情報があれば相手より先んじて動くことができる。相手を陥れることもできるし、逆に相手の罠も回避できる。がさ入れにも対応できるし、逆に選挙法違反で相手を潰すこともできる。
うん。だからとても情報は大事。
別に何も後ろ暗いことはしてないわよ? だって、捕まっちゃったらさすがに再選は難しいって前パパも言ってたからね。無駄遣いはしたくないんだって。
というわけで。内職もこれくらいにして。さっさと動き出さなきゃね。
あの馬鹿男たちが、もっと馬鹿げた祭りを始める前に。
上町にある選挙事務所。そこでの一日の作業を終えてスタッフ――もといダウンゼンとその子分たちに告げる。
「いやー、疲れたー!」「ほんとだぜ。目が痛くなる」「こんなちまちました作業あわねーんだよなー、俺たち」
「おい、お前ら。くだらねーことくっちゃべってないでさっさと撤収準備だろ!」
「は、はいぃ! アニキ!」「す、すみませんでしたぁ!」
ダウンゼンの一喝で愚痴を垂れていた子分たちがいそいそと帰り支度をしはじめた。
ここは一応、事務所というていをしているので夜は閉めて全員帰ることにしている。だから夜が更けて真っ暗になる前に撤収することにしていた。
「なぁ、エリよぉ」
子分たちに撤収の準備をさせつつも、自分は机の上に散らばった封筒の束を整えるダウンゼン。
その様子は事務作業に疲れたというのもあるだろうけど、それだけじゃないみたい。むすっとした様子で聞いてくる。
「俺たち、一体なにやってんだ?」
ダウンゼンが机に並べたのは紙束と茶封筒の山。それと紙で作ったB4サイズの箱。
コンビニなんてないから、それらを作り上げる内職を彼らに頼んでいたわけで。
「言ったでしょ。この選挙戦を国中に知らせるための新聞づくりよ」
「そのシンブンってのはなんとなくわかったけどよ。この封筒は何のために?」
「国中って言ったでしょ? この王城から離れた場所にも届けるための封筒よ」
「じゃあこの箱は? 封筒があるなら別に要らないだろ」
「それはお菓子入れよ。皆に配ろうと思って」
「…………」
ダウンゼンはジッと箱を見て、それから私に視線を移す。
何を考えているのか。あるいは何かを感じ取っているのか。
やがてダウンゼンは身を乗り出して小声で。
「それだけのわけねーよな。お前がそれだけのためにこんなことをするわけがねぇ」
「買いかぶり過ぎよ。私はたただのいち貴族のお嬢様」
「それがあの大貴族2つを相手に立候補するか?」
「流れでそうなっただけ。私に勝つ意志はないわ。だから外に立って2人の争いを眺めているだけ」
「――のわけねーよな? なにせこんな事務所を作っちまうんだ。なぁエリ。俺はお前の役に立ちたい。だから俺はここにいる。盾になれと言われれば盾になるし、何かを奪ってこいって言われたらやる。あのガーヒルの野郎をぶっ飛ばせと言われればやるさ」
真剣な瞳と声色に、少し気おされる。
ふーん。この男もこの男なりに色々考えているわけね。
ま、いっか。
「この紙は新聞にする。それは本当よ。それとこの封筒も」
「郵便のための封筒ってか?」
「ええ。ただその中身は新聞じゃなく、誰かさんの醜聞だったり、あることないこと書いた紙かもしれないけど」
「…………へ?」
「それとこの箱。お菓子を入れるのは嘘じゃないわ」
「そうなのか」
「ええ。ただ金色と銀色に輝くものだけど」
「は?」
「それにしても不便よね、金貨と銀貨って。丸いから小判みたいに紐でくくれないし、札束より断然重いし、じゃらじゃらいうから。まぁ大判金貨数枚でも賄賂……こほん、献金としては十分だけど」
「わ――」
「しぃー、ダウンゼン?」
ダウンゼンの大きく開かれた口の直前に人差し指を伸ばしてその先を封じる。
まったく。大声で人聞きの悪いことを言おうとするなんて。やっぱりこの男もまだまだね。
「ね、ダウンゼン。選挙で必要なの知ってる?」
「い、いや。そもそもセンキョとか知らねーし。けど、まぁ、そうだな。力じゃねぇか。腕力さえありゃ誰でも屈服できる」
「あんたどこの原始人よ。けどまぁ惜しいところではあるのよね」
「じゃあなんだよ」
「カネよ」
「……身も蓋もねぇな」
「それが現実ってやつ。どれだけ高邁な理想や、誰もを幸せにできる思想を持ってても、金がなきゃ選挙に勝てない。だって、10年後の1億より、今日明日の100万が大事な人が多いんだから」
「…………」
ダウンゼンが厳しい顔で口をつぐむ。
彼らの過ごす下町ではまさにそれが真実なんだろう。
前の世界でもそうだった。
結局金がないと選挙には勝てない。どれだけ潔癖で徳があって、絶対この人が当選すればいいのに、と思う人でもあっさり負ける。それは票田という金がなかったから。
悲しいけどそれが現実。現実という名の地獄。
もしそれを変えたいなら、そもそもの仕組みを変えるしかない。
それか、金も実力もあって高い理想と行動力と決断力を持った英雄が名乗りを上げない限り。その地獄は続く。
けどこの世界の人は幸福よね。
だって、金も実力もあって高い理想と行動力と決断力をもった英雄がここにいるんだから。
うぬぼれで言ってるわけじゃない。
だって、ここの貴族どもを見れば、前の世界の小学生でももっといい政治ができるはずだから。
それに今。ダウンゼンには言わなかったけど、選挙で勝つのに必要なものはもう1つある。
それは情報。
情報があれば相手より先んじて動くことができる。相手を陥れることもできるし、逆に相手の罠も回避できる。がさ入れにも対応できるし、逆に選挙法違反で相手を潰すこともできる。
うん。だからとても情報は大事。
別に何も後ろ暗いことはしてないわよ? だって、捕まっちゃったらさすがに再選は難しいって前パパも言ってたからね。無駄遣いはしたくないんだって。
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あの馬鹿男たちが、もっと馬鹿げた祭りを始める前に。
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