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51話 投票開始
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投票が始まった。
投票は1人1人が前に出て、用意されたテーブルで用紙に名前を記入していく。
それは匿名で、誰がどちらに入れたかは分からない。
匿名性の投票となると、ある程度の不正が行われる可能性が出てくるが、紙は1人1枚だし、国王の議長の目の前で書くのだから、そうそう行われることもないだろう。
というかこの形式の選挙というのが、この国では初めての出来事。
私が選挙の仕組みを作り、あとは議長が手を加えてこの方式に落ち付いた以上、不正が入り込む余地はない。
なんていっても、不正が起きるのは“何が不正で何が正なのかが分かってる状態”でないと不正とはならないのだから。
だから誰もが緊張しながらも、どこか厳粛な空気の中、投票が進んでいく。
140人近い投票者が、1人1人名前を書いていくので時間がかかる。
移動、記載、投票、退席の行程を超高速で30秒で行ったとしても、1時間以上かかる。中には足の遅い老人や、何かを考えて用紙に向かう人もいるので実際は2時間以上かかることになる。
議長もそれに気づいたのか、途中から配置を変更。投票箱を中心に、テーブルの左右に記載する場所を設けた。これによって投票速度は2倍。もちろん監視も難しくなるが、まぁ2人程度の見張りならなんとかなるだろう。
そういったわけで、かれこれ1時間はぼんやりと人々の動きと流れを眺めるだけに費やした。
うん。滅茶苦茶暇だった。さっさと終われと思いつつ、どっか適当な部屋に逃げて昼寝でもしたかったわ。
けど一応、これでも私たちの未来を決める行事。最後までしっかり付き合いますか。
そんなわけで全ての投票が終わった時には、立ち疲れてふぅと大きくため息をついてしまった。
「では投票が終わりましたので、これより開票します」
議長がおごそかに告げると、すたすたと開票箱に近づく。
木製の箱は一方が外れるようになっていて、そこを外すとドサッと紙の束があふれ出た。全て投票用紙だ。
それをテーブルに並べる。
テーブルを運んできた男もそれを手伝い、ある程度まとめるとその男は横で用紙を広げてペンを持つ。どうやら彼は書記らしい。これから読み上げられる投票数をメモしていくのだろう。
ふとどうやってカウントするんだろうって気になった。
日本なら正の字を書いていくけど、ここはヨーロッパ然としている世界だから、漢字はないだろう。
「まず1票目」
議長が手近な用紙を取り上げて、それを開く。
ごくり、と誰か唾をのむ音が聞こえた。
普通、そんなもの響かない。あるいは私自身のものだったのかもしれない。
私の命運を分ける選挙。さすがの私も少なからず緊張しているみたいだった。
議長の口から私の名前が読み上げられる。それを願って、軽く目を閉じた。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
小さくため息が出た。
考えていたものとは違う結果。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
すぐに次が読み上げられる。
私の名前。いえ、私のじゃないけど、今の私の名前。
誰かが私を支持してくれる。
それだけでなんとも嬉しい気分になる。
現金な女だ。そう思うけど、それは仕方ないことだろう。
それが選挙のだいご味といっても過言ではないだろうから。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
ガーヒルの名前が読み上げられるたび、本人の顔に余裕の笑みが浮かぶのが気にくわない。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
私の舐めが読み上げられるたび、ガーヒルの顔に侮蔑の色が浮かぶのが気にくわない。
もう私はガーヒルの何もかもが気にくわないのかもしれない。
そう思わないでもなかった。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「白紙」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
コツを掴んできたのか、議長の読み上げる速度があがった。
書記もそれに合わせて線を引いていく。どういったものかと思えば、上と下に別れたエリアに、数字の『1』のようなものを並べるだけの計算だった。それが10集まったら下段に行く。今、ガーヒルが30と4。私が10と7だ。
まだまだ当確はでない。
逆転も可能な票数。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
開票が続いていく。
ただその読み上げられる名前に、一定の偏りが出たのに気づいた。
そしてそれは。そう。私の命運を左右する。そんな命のカウントに聞こえてならなかった。
そして――
「えー、これが最後です。ガーヒル・バイスランウェイ侯爵。以上、138票。すべて開封しました、陛下」
「うむ。では集計を」
「はっ」
議長が秘書の元へと向かって、記載された用紙に目を通す。
秘書はそれなりに計算はできるのか、その合計数をすでに記載していた。
彼によると結果は――
「えー、ガーヒル・バイスランウェイ侯爵、75票。エリーゼ・バン・カシュトルゼ53票。白紙、10票。既定の82票を超えていないため、再投票になります」
投票は1人1人が前に出て、用意されたテーブルで用紙に名前を記入していく。
それは匿名で、誰がどちらに入れたかは分からない。
匿名性の投票となると、ある程度の不正が行われる可能性が出てくるが、紙は1人1枚だし、国王の議長の目の前で書くのだから、そうそう行われることもないだろう。
というかこの形式の選挙というのが、この国では初めての出来事。
私が選挙の仕組みを作り、あとは議長が手を加えてこの方式に落ち付いた以上、不正が入り込む余地はない。
なんていっても、不正が起きるのは“何が不正で何が正なのかが分かってる状態”でないと不正とはならないのだから。
だから誰もが緊張しながらも、どこか厳粛な空気の中、投票が進んでいく。
140人近い投票者が、1人1人名前を書いていくので時間がかかる。
移動、記載、投票、退席の行程を超高速で30秒で行ったとしても、1時間以上かかる。中には足の遅い老人や、何かを考えて用紙に向かう人もいるので実際は2時間以上かかることになる。
議長もそれに気づいたのか、途中から配置を変更。投票箱を中心に、テーブルの左右に記載する場所を設けた。これによって投票速度は2倍。もちろん監視も難しくなるが、まぁ2人程度の見張りならなんとかなるだろう。
そういったわけで、かれこれ1時間はぼんやりと人々の動きと流れを眺めるだけに費やした。
うん。滅茶苦茶暇だった。さっさと終われと思いつつ、どっか適当な部屋に逃げて昼寝でもしたかったわ。
けど一応、これでも私たちの未来を決める行事。最後までしっかり付き合いますか。
そんなわけで全ての投票が終わった時には、立ち疲れてふぅと大きくため息をついてしまった。
「では投票が終わりましたので、これより開票します」
議長がおごそかに告げると、すたすたと開票箱に近づく。
木製の箱は一方が外れるようになっていて、そこを外すとドサッと紙の束があふれ出た。全て投票用紙だ。
それをテーブルに並べる。
テーブルを運んできた男もそれを手伝い、ある程度まとめるとその男は横で用紙を広げてペンを持つ。どうやら彼は書記らしい。これから読み上げられる投票数をメモしていくのだろう。
ふとどうやってカウントするんだろうって気になった。
日本なら正の字を書いていくけど、ここはヨーロッパ然としている世界だから、漢字はないだろう。
「まず1票目」
議長が手近な用紙を取り上げて、それを開く。
ごくり、と誰か唾をのむ音が聞こえた。
普通、そんなもの響かない。あるいは私自身のものだったのかもしれない。
私の命運を分ける選挙。さすがの私も少なからず緊張しているみたいだった。
議長の口から私の名前が読み上げられる。それを願って、軽く目を閉じた。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
小さくため息が出た。
考えていたものとは違う結果。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
すぐに次が読み上げられる。
私の名前。いえ、私のじゃないけど、今の私の名前。
誰かが私を支持してくれる。
それだけでなんとも嬉しい気分になる。
現金な女だ。そう思うけど、それは仕方ないことだろう。
それが選挙のだいご味といっても過言ではないだろうから。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
ガーヒルの名前が読み上げられるたび、本人の顔に余裕の笑みが浮かぶのが気にくわない。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
私の舐めが読み上げられるたび、ガーヒルの顔に侮蔑の色が浮かぶのが気にくわない。
もう私はガーヒルの何もかもが気にくわないのかもしれない。
そう思わないでもなかった。
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「白紙」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
コツを掴んできたのか、議長の読み上げる速度があがった。
書記もそれに合わせて線を引いていく。どういったものかと思えば、上と下に別れたエリアに、数字の『1』のようなものを並べるだけの計算だった。それが10集まったら下段に行く。今、ガーヒルが30と4。私が10と7だ。
まだまだ当確はでない。
逆転も可能な票数。
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
「エリーゼ・バン・カシュトルゼ」
「ガーヒル・バイスランウェイ侯爵」
開票が続いていく。
ただその読み上げられる名前に、一定の偏りが出たのに気づいた。
そしてそれは。そう。私の命運を左右する。そんな命のカウントに聞こえてならなかった。
そして――
「えー、これが最後です。ガーヒル・バイスランウェイ侯爵。以上、138票。すべて開封しました、陛下」
「うむ。では集計を」
「はっ」
議長が秘書の元へと向かって、記載された用紙に目を通す。
秘書はそれなりに計算はできるのか、その合計数をすでに記載していた。
彼によると結果は――
「えー、ガーヒル・バイスランウェイ侯爵、75票。エリーゼ・バン・カシュトルゼ53票。白紙、10票。既定の82票を超えていないため、再投票になります」
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