政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
62 / 68

60話 エリ様イン・バス

しおりを挟む
「あ、あのエリ、さん! そ、そ、その……わ、私はもう帰ります!」

 ソフィーが部屋の隅でギュッと自分の体を抱きしめるようにして縮こまる。
 うぅん。この小動物な感じ。それこそギュっとして、わきゃっとしたいわー。

「まぁまぁ。これは私の不始末ですから。それとも自分の不始末に対し、何もしないまま帰すなんて。我が家の沽券にかかわること、許せませんわよ?」

「あ、はぁ……いや、でも」

「アーニィ。お客様のお召し物を洗ってあげなさい」

「はい、エリ様!」

 アーニィが嬉々としてソフィーに襲い掛かる。ソフィーの抵抗虚しく、1枚2枚と脱がされていく。

 そんな騒動を後ろに聞きながら、私も自らの着衣に手をかけた。

 さて、なんでこんなことになっているか。

 今、私は自宅に戻っている。
 なんでって話でしょうけど、これには深いわけがあるの。

 というのも、あのザーラド将軍に話した通り、降伏についてを国王に報告するため。
 全然深くなかったわね。どうでもいいわ。

 とにかく国王に報告のため、王宮にあがったのが今朝。
 そこでの喧々諤々けんけんがくがくな時間の無駄の無駄話は、それこそ時間の無駄なので割愛するわ。何が起こったかは勝手に想像して頂戴。

 というわけで、降伏か抗戦かのどうでもいい議論をすること数時間。手持ち無沙汰な私は先に家に帰されたのだ。
 前線から戻ってきた私に褒美の意味で一度帰宅を許したのが1割、ここで私にへそを曲げられては前線に行きたくない暇人どもに白羽の矢が立つのは嫌だからなるべくご機嫌を取っておく意味が3割、これ以上私に国政に関わらせたくないというのが7割、今回の前線行きでガーヒル派にも揺らぎが出ているのを抑えるのが10割の打算と計算にまみれた温情で私は今、家にいるのだった。

 まぁとりあえず1日の猶予はできたので、疲れたこの身を休ませようと思い、せっかくだからとランチをソフィーと一緒にしようと誘ってみたところ、すんなりOK。
 ついでにガーヒル派の切り崩しの一環として色々おしゃべりしたいな、というのとこの小動物みたいで可愛い子を隅から隅まで愛でて精神の活性化を促したいという欲求から、必殺「あ、お茶をこぼしてしまってごめんなさい。服が汚れたわね。じゃあ一緒にお風呂に入りましょう」を発動して今に至る。

 ただ、ここまで嫌がられるとは思ってもいなかったからちょっとてこずったけど。それでも脱衣所まで来て、さらに本気で嫌なら走って逃げればいいのに部屋の隅で動かないんだから、実は彼女も一緒に入りたいのかもしれないと思ってる。
 この時代、というか世界。あまり入浴というのは一般に広まっていないらしい。あっても週に1回とか。それ以外はシャワーの要領で水をかぶって体を洗うというもの。お湯を張るというのがかなりの贅沢になっているらしい。

 まぁうちはお金持ちだからお風呂あるけど。

 ソフィーも貴族だけど、一応という名の金持ちではない貴族。
 何度かお風呂に入って、その魔力を知ってはいるはず。
 ガーヒルと婚約したといっても、実態がアレだから彼の家で入浴しているということもないだろうしね。

 一度でもその気持ちよさを知れば、それを目の前でぶら下げられて平静でいるはずもない。
 入りたいけど、何かの理由で入りたくない。その気持ちがせめぎ合っての部屋の隅での抵抗ってことでしょう。

 ま、そんな抵抗。魔力と力技の前には無力だけど。

 というわけでソフィーと一緒にレッツ入浴!

「あー……」

 ただその推論は。
 ただの思い込みでしかなく。
 ただの自己満足でしかなく。
 なんとも馬鹿らしくて。
 なんとも人の心を知らない。
 なんとも愚劣な配慮だった。

「あ、あの……あまり、見ないで……くだ、さい」

 ソフィーが。タオルを体の前で隠すようにしたソフィーが肩を震わせて身を隠すようにしている。

 その白く美しい肌――に刻まれた赤い筋や円の痕。

 生まれつきのものではない。
 ――後からつけられた人工的なもの。

 タトゥーといったものでもない。
 ――そんな芸術を感じさせるものでもない。

 それは傷跡。
 あの女の敵に刻まれた隷属の証。

 ああ。そうか。
 彼女はこれを見せたくなかったから、さらしたくない悲しいものだから、服を脱ぐのを躊躇したのだ。

 私は見ていたはずだった。あの日。ガーヒルの家で。
 けどその光景があまりのもひどすぎて、あまりにも現実味がなさすぎて、そういうものだとは理解できなかったというのが実情なんだろうけど。

 本当に、私って幸せ者よね。

 そんなことはない。ありえないとして意識から除外してしまった。

 そんなことはないからソフィーがそういうことはない。
 そんなことはありえないからソフィーに迷惑はない。

 そう思ってしまっていた。
 そう思い込んでしまっていた。

 なんて愚か。
 なんて無粋。

 なんて…………人でなし。

 いえ、違う。
 否定する。私は否定する。

 私も無神経だった。それは罪。認めましょう。
 けど。その大本は。その根底は。その元凶は。
 あの男の身勝手で自己満足で自己顕示欲の塊で最低な暴虐さ。

 ソフィーには断れない。
 家のこと、未来のこと、あの男のこと。
 それらを総合して、自分が我慢すれば全てうまくいく。そう思ってしまったに違いない。

 それはこの子が悪いわけじゃない。
 彼女の純粋な優しさに付け込んで、全てを支配したがる男どもこそがすべての悪。

 やっぱりあの男は許しておけない。

 同時、この子には救われて欲しいと思う。

 うぅん。けどどうすればいいのか。
 分からない。
 分からないけど、とりあえず今すべきことは分かってる。

「ごめんなさい。無理強いしちゃったわね。でもね、ソフィー。大丈夫よ。私はそんなことであなたを侮蔑しない。軽蔑しない。むしろステキな肌ね。何か特別なスキンケアしてる? 化粧水……ってないのよね、この世界」

「エ、エリ……様」

「ほら、また様になってる。呼び捨てでいいって言ったでしょう?」

「あ、う……はい」

「さぁ、そのままじゃ風邪ひくわよ。ほら、行きましょう」

「え、あ、でも……」

「いいから」

 少し強引にソフィーを連れ出す。この子には少し強引な方が上手くいく。

 その後ろでアーニィがソフィーの服を取りまとめて抱えあげていた。

「……では、エリ様。私はお客様のお召し物を――」

「何してるのアーニィ」

「え?」

「あなたも入りたいんでしょう?」

「え!? はい、あ、いや、えっと……」

「そんなのは他の誰かに任せて、一緒に入りましょう。うちの浴場は凄いのは知ってるでしょう? 3人なんて余裕よ」

「いえ、でも私なんかが……エリ様と」

「もう、いいから来なさい。じゃあこれ命令。ここ数日、色々動いてくれたアーニィにご褒美よ。お風呂に入りなさい。いいわね」

「…………は、はい!!」

 喜色満面の笑みを浮かべてアーニィが頷く。

 まったく。素直じゃないんだから。
 すごい羨ましそうな顔して。それで入るなとは言えないわよ。
 いやいや。使用人の不満をしっかりケアする。なんて理想的な雇用主でしょう、私。

 それにしても。みんな、本当に不器用ね。
 ま、それもまたそれで。いい人生なんだろうけど。私みたいに器用に生きるのも、それはそれで大変なんだから。

 というわけでしばしの間。身と心を休めることにしましょう。
 それが仕事を頑張った人に与えられる権利なんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...