知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第70話 白旗

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「というわけで王太子は亡くなりました。ビンゴ王室滅亡でーす」

「えぇ……」

 首都スィート・スィトンに到着した時、すでに戦闘が始まっていた。
 というより一方的にやられていて、喜志田は何をやってるんだと思ったけど……。

 あっさり退いたと思ったら、こっちに喜志田が単騎でやってきて報告した。
 やけにニコニコしてたと思ったらそうなったか……。

「いや、これでも頑張ったんだけどね。聞く耳もたないというか……もうなるべくしてなったというか……本当残念だよ」

「そ、そうか……」

 急にしおれて肩を落とした喜志田に、それ以上突っ込んだことを聞けなかった。
 これは悪気があってそうなったわけじゃないみたいだ。まぁ、そういう人だったってことか。王太子は。

「うん、わかった。ご苦労様。その、なんだ。後はこっちに任せて少し休んでくれ――」

「え? 本当に? よっし、じゃあアッキー。後は任せた。いやー、やっぱり慣れないことすると疲れるねぇ」

 ん……なんか変だぞ。
 この変わり身の良さ。まさか演技? いや、でも……。

「まぁそんなことはどうでもいいからさ。アッキーはどうするの? 30万の籠城に帝国最強の帝国元帥でしょ? いやー、俺も前にやったけど、ありゃ強いよー」

「……お前、楽しんでないよな?」

「まさかー。これでも俺は心底からアッキーのことを心配してるんだよ。これからアッキーがどうやって戦って、どうやって勝って、どうやって収めて、どうやって支配するかを」

「他人事だな!」

「そりゃ他人だもん。え、それともアッキーと俺、結婚したってこと? いや、俺そういう趣味ないから。ごめんねー」

「そういう問題じゃない!」

 こいつ、いつになくハイテンションだな。
 何か良いことでもあったのか。

「で、とりあえずそっちの2万は戦えるのか?」

「そりゃあもう。王様の仇討ちだって燃えてるよ。でも相手がビンゴ国民だって知って複雑な気持ちになってるけど」

「駄目じゃん!」

「ま、だからビンゴ軍は帝国に向けるしかないねー。てことはオムカが攻城戦に入るってことだよね。そうなると、勝っても複雑だよねー。だって罪もないビンゴ国民を殺して首都を落とすんだからさ」

「お前、本当に楽しんでるだろ。状況最悪じゃねぇか!」

「アッキーの想いを代弁してるだけだよ。実際それくらいめんどくさい状況。それはアッキーも分かってるでしょ?」

「……ああ」

 本当にめんどくさいくらい難しい。
 正直、勝ち筋が全く見えないくらいに。

 いや、そもそも何をもって勝ちとするかなんだけど、その線引きが本当に立場によって違いすぎるのだ。

 俺たちオムカにとっては帝国軍の撃退が第一。極端に言ってしまえば、決して口外はできないが、首都スィート・スィトンの人たちがどうなってもそこまで大事ではない。

 ビンゴ軍はもちろん、帝国軍の撃退と首都の可能な限り被害を抑えた解放だろう。

 そして――帝国はどうなのだろう。
 わからない。わかるはずがない。

 だが、その答えを知る機会は意外と早く来た。

「ジャンヌ、とキシダ将軍か。ちょうどいい。帝国軍のお出ましだぜ」

 サカキが陣幕に入ってきて言った。

「来たか。意外に遅かったな」

 外に出る。
 陽が傾き始めているころで、山から吹き下ろす寒風が身も心も凍らせる。そんな中、兵たちは汗だくになって動き続けている。

 さすがに標高が上がっている分、かなり寒い。
 こんなところで野宿したら風邪をひくか、最悪凍死する。

 だから超突貫で陣と仮宿舎を作っている。
 もちろんゼロから作って1日で終わるはずもないから、もともとあった村を接収してそこを改造している形だ。

 村人は国の滅亡に際して逃散ちょうさんしているから廃村と言ってもいい場所だが、俺たちにとってはありがたかった。
 とりあえず寒風をしのいで寝る場所は確保できそうだからだ。

 おそらくこの首都を巡る戦いは長丁場になる可能性がある。
 ある程度の居住空間はここに作るつもりでいた。小屋に柵や逆茂木さかもぎ(木で作ったバリケード)に使用する木は、背後の山にたくさんあるので材料に困ることはなかった。

 そんな慌ただしく兵たちが走り回る中を、俺とサカキ、それから喜志田は進む。

「サカキ、お前が慌ててないってことは相手も野営か?」

「ああ。さすがにこの時間、攻めちゃこねぇだろ」

 サカキの言葉通り、遠くに見える黒い塊がごちゃごちゃと動いているが、こちらに向かってくる気配はない。

 配置的には首都スィート・スィトンを中心に、南東に俺らオムカ&ワーンス連合軍。南にビンゴ王国軍。そして北東に帝国軍がいることになる。
 俺たちと帝国軍の距離はおよそ5キロ。
 遠くもないが近くもない微妙な距離だ。

 とはいえ帝国から打って出ることはないだろう。
 こちらに攻めてくるにあたって、帝国軍は必ず首都スィート・スィトンの東門の前を通らなければならない。
 はっきりと帝国に対し敵対を表明したユートピア国にわき腹を見せながら戦うなんてことはできないだろう。
 俺たちと同様に、寝床を確保する意味もある。

 つまり気を付けるべきは夜襲。
 だからこそ急ピッチで柵と逆茂木を最優先で作らせているわけだが。

「敵は5万って話だったよな、サカキ」

「ああ。実際、5万って感じだ。そして旗が見えた。元帥府だ」

「元帥……帝国軍最強、か」

「そうそう、強いからアッキーも頑張ってね」

「だからなんでお前は他人事なんだよ、喜志田。てかお前ならわかんんだろ。相手が何してくるのか」

「いや、それが分かったら苦労はしないっての。何をやってくるか予想もつかない。それが帝国元帥なんだから」

「なんだそりゃ。勘でやってるってことか?」

「いや、分かんないけど。多分、そんな感じじゃないかな。頭で考えて作戦立てて戦ううちらとは真逆」

「勘……直感。サカキみたいな形ってことか……厄介だな」

「お? それってジャンヌが俺のこと認めてるってこと?」

「まぁ、認めてるというかなんというか……」

「っしゃー! 俺の春が来たー!」

 急に空へ向かって叫びだす馬鹿に、周囲の兵たちが驚いてこちらを見てくる。
 そんな中、喜志田が冷ややかな目でこちらを見てささやいてきた。

「素直に馬鹿だって言ってあげればいいのに」

「色々面倒になるから嫌」

 とはいえサカキには悪いが、相手はそんな何も考えてない単純な奴ではないだろう。
 その感性が優れているからこそ、帝国軍最強の名をほしいままにしているわけだし、一国を滅ぼすことができたに違いない。

 これまで戦ってきた相手は、そういう直感に頼るタイプの敵はいなかった。
 いや、ヨジョー地方で戦った相手は、どちらかといえばそっちよりだった気がする。
 あれも元帥府の人間だったな。

 どちらにせよ、厄介な相手だ。
 そんな相手が一体、どういう手を打ってくるのか。

 これからは俺の知力99が勝るのか、それとも相手の直感が勝るかの勝負。
 一瞬たりとも気が抜けない。

 そう思っていると、遠くに馬の影を見た。
 それは帝国軍の陣の方から悠然とこちらに近づいてきている。

「なんだ、あれ」

 サカキもそれに気づいたようだ。

「サカキ、全軍に作業中止。いや、逆茂木は続けさせろ。柵を作っている班を警戒に回せ」

「了解だ!」

 サカキが勢いよく飛び出していく。
 その間も俺は向かってくる影に目を凝らす。

 一騎、か。

 あるいはそちらに目を引いて、東の山に兵を伏せている可能性もなくはない。
 数が多いなら、それくらいのことはダメもとでやる。

「あれ、誘いだと思う?」

 喜志田が俺の心を読んだように、のんびりした声色をあげる。

「いや、可能性は低い。低い、が……警戒をしてしすぎなことはない」

「ま、そうだね。俺でもそうする」

 喜志田が同意してくれたことがなんとなく心のつっかえを無くした。

 後はその意図を見抜くだけだが……。

 と、じっと見ていた孤影こえいに動きがあった。
 それは何かを取り出したようで、それを頭上に掲げる。

 それは暮れなずむ陽の光に照らされて、赤々と翻っているが、その元の意味を考えれば――

「白……旗?」

 目を皿のようにして見ても、やはり白旗にしか見えない。
 周囲の兵もざわめく。

 すると相手の方から更なる反応があった。

「私は軍使ぐんしである! 攻撃は遠慮願いたい!」

 俺は即座に警戒を落とさせた。

 軍使。
 戦時において、敵に交渉のために派遣される者だ。
 殺されるかもしれない覚悟をもって敵軍に単騎で乗り入れるのだから、よほど総大将から信認を受け、かつ豪胆な性格でないとこの役は務まらない。

 もちろん、これに危害を加えることは近代では国際法にて禁じられているし、中世においてはほぼ丸腰の相手を傷つけることは臆病者とそしられることになるため、手出しは厳禁とされてきた。

 だから俺もそれに倣って攻撃を控えさせたわけだ。
 しかし喜志田は疑っているようで、

「偽装かもよ?」

「……分かってる。周囲の警戒は続けさせる」

「ならいいけど」

 軍使が徐々に近づいてくる。
 長身の男性のようで、金髪が風にたなびく様はなかなかに絵になっている。

 しかも武装は腰に差した剣のみで、鎧は一切帯びずに動きにくそうなローブをまとっているのみ。

 俺が矢を一斉に撃たせればハリネズミのようになって死ぬのに、顔色変えずにこちらに来る。
 馬の足にも怯えはない。
 まったく、大したものだ。

 その想いは他の兵たちも同様のようで、作業を中断して、ただただ男に見入っている。

 そして男が陣にたどり着く。
 馬から降り、くつわを右手に、白旗を左手にもってこちらに近づいてきた。

 俺から10メートルほど離れた位置で、男は来訪の目的を、告げた。

「私は帝国軍元帥の副将を務める者だ。こちらの責任者、ジャンヌ・ダルク殿にお取り次ぎをお願いしたい。我々帝国は、貴軍と争う気はなく、ここに停戦を求めるものである」
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