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第4章 ジャンヌの西進
閑話42 堂島美柑(エイン帝国軍元帥)
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正直、期待していたのと少し違って拍子抜けしていた。
オムカを独立に導き、尾田張人を撃退し、高岩を討ち、帝都に侵入し、杏と引き分け、そして諸人、キッド、椎葉の3人を手玉にとり、命を奪ったプレイヤー。
どんな人物か楽しみだった。
だが見て早々、呑まれてしまったように棒立ちになっている彼女を見て、あぁこれは駄目だ、と思った。
この世界に来て5年。
まさか自分の才能が人を殺すことに特化しているなんて思いもしなかった。幸か不幸か、これまでもまだ負け知らずでここまで災禍なく過ごしている。
だからどこか飽きていたのかもしれない。
格闘技に長け、霊長類最強をほしいままにした者がいたとして、互する相手がいなければ、競い合う敵がいなければそれはもう終局だ。
それ以上の成長も、発展も、面白味も何もかもがなくなる。ただの作業。
いや、私の場合はただの虐殺になってしまう分、たちが悪い。
それはとてもつらく、滅入り、後味が悪く、つまらない。
だから対等の相手を求めた。
どこかに自分と互角以上に戦う敵がいて、そして初めての敗北を与えてくれる。
それを楽しみに北へ南へ東へ西へ、ところかまわず戦ったのだ。
杏はそれを叶える力を持つ相手だと思った。
だが味方である以上、本気で殺しい合うわけにはいかない。
一度、杏に敵国へ走って戦おうじゃないかと言ったことがあるが、
『馬鹿言ってくれるよね。ま、元帥が出てくならいいけど? 僕様が帝国元帥として相手してあげるよ』
そう一蹴された。
だからこのもやもやしたフラストレーションの塊はどこへ行けばいいのか分からず、胸の奥に凝り固まっていく。
唯一、ビンゴ王国の戦線で気になったのがいた。
夢中になるほどではないが、身構えていないと殺されるくらいの覚悟をしなければならない相手だ。
だがくだらないいざこざでそれも消えた。
ようやく少しは楽しめる相手が出てきたと思ったのに、消化不良で、欲求不満が溜まり、それを発散させる意味でビンゴ王国を滅ぼした。
けどやはりそれでもすっきりしない。
つきまとうのはどこか虚しさに似た悲しみ。
まったく。椎葉は優秀だが、ここら辺の呼吸が分かってくれなかった。そう今は亡き友を想う。
だがそれは結果的に1つの僥倖を産んだ。
ジャンヌ・ダルク。
その名は杏から嫌というほど聞いていた。
そして興味を持った。
ただ目をつけたのは杏が先ということで、お預けをくらった感じだったわけだが。
だがジャンヌ・ダルクがビンゴ領で動き、丹姉弟の動きが不穏になり、それにかこつけてこの会見が成立した。
どれだけ戦いたいと願っても、私事と国の大事を混同するわけにはいかない。
それだけの責任のある役職にはついているはずだ。
だから戦略上の都合で、ついでに噂のジャンヌ・ダルクを見てやろうと思ったわけだが。
「……ふん」
鼻を鳴らす。
少なくとも今見える少女は、何も知らないただの村娘でしかない。
とはいえ第一印象だけで決めるのはよくない。
あるいはと思い、席を勧める。
「座ったらどうだ、ジャンヌ・ダルク?」
「…………」
少女は一瞬迷ったようだが、意を決したように左右を見ることもなくまっすぐこちらに足を進め、ゆっくりと椅子に座った。
度胸はあるようだ。
だが度胸と蛮勇は似て非なるもの。
もちろん蛮勇でここまで来れる道理はないが、万が一のこともある。
「オムカ王国軍師。ジャンヌ・ダルク」
少女が名乗る。
思ったより高い声。年相応ともとれるが、人に死ねと言う声にしては軽い。
「この度はこのような席を――」
「前置きはいい。本題に入ろう」
ジャンヌ・ダルクの体がビクリと動く。
その反応でもう彼女のことは見切った。見限った。
どうやら期待外れで間違いないようだ。
これはもう終わらせることにしよう。
「我々は教皇の命を受け、スィート・スィトンに巣くう逆賊を討滅しにきた。貴軍は引き上げよ」
「……どういう意味です?」
「分からんのか? 邪魔だ、と言っている」
「……っ!」
「あの反逆者どもの城は我らだけで陥とす。もし邪魔だてするなら、貴軍らも討ち滅ぼす」
「5万で、スィート・スィトンが陥とせると?」
「他の人間にはできない。私にはできる。それだけだ」
別に過信で言っているわけじゃない。
ビンゴ王国を滅亡させた時、スィート・スィトンの地形はしっかりと見た。
弱点になりうる場所も見つけてある。
さらに攻城兵器も持ってきているし、スキルで強化された兵たちにとって城門などあってないものだ。
「相手は、30万だぞ」
ジャンヌ・ダルクが食い下がるように声を放つ。
だがその声も、小鳥が必死にさえずっているようで虚しく、そして哀れだ。
「それがどうした」
「どうしたって……分かってるだろ。同じ軍にいたなら、その30万がどういうものか。どういう人間で構成されているのか!」
あぁ、何を言い出すかと思えば。
なんだ、そんなことか。
生きるか死ぬかの戦いをしているのに、随分悠長なことを言う。
「関係ない。それが兵だろうと民だろうと」
「罪のない民衆を殺す気か!?」
「関係ないと言った。私の前に立つ、邪魔するなら滅ぼす。それだけだ」
「30万も殺すっていうのか?」
「必要ならば。だがそれも他の人間にはできない。私にはできる。それ以上でもそれ以下でもない」
虚勢ではない。
この5年。その間に見た地獄と比べれば、まだ今はマシな方だ。
ただの事実を告げたつもりだった。
だがジャンヌ・ダルクは顔を真っ赤にして食い下がる。
「白起……いや、項羽になるつもりか」
「誰だ、それは?」
知らない人間だ。そんなものが私を動かす理由にはならない。
「まぁしかし。あの双子が降伏して帝都に戻るならそれで終わりだが……」
それは物足りない。
正直、30万という大軍を聞いて心が躍ったのは事実。
だから降伏だけはやめてくれ。
そう願う自分がいた。
「罪の意識は、ないのか?」
「そんなもの、この世界には邪魔だろう?」
「あんただって! あんただって俺と一緒の――」
「随分」
ジャンヌ・ダルクの眠くなるような言葉を遮る。
「随分と、悠長なことを言うのだな。ジャンヌ・ダルク。お前もすでにこの世界の一部だというのに」
「違う、俺はただ――」
いや、もういい。
もう分かった。
この人物も私の敵足りえない。
色々なものが足りない。
だから、これ以上話しても無駄だ。
「時間の無駄だ。我々は明日より首都を攻撃する。邪魔するなら、貴軍も敵だ」
それだけ言って椅子から立ち上がる。
反論は来なかった。物足りない。
いや、もはや興味も失せた。
杏も随分とつまらない人間に興味を持ったものだ。
「ちょっと待ってくれないかな」
と、足を止めるような別の声がした。
男の声。ジャンヌ・ダルクの右後ろに立つ、中背で髪がぼさぼさの男。
外見で人を判断するわけではないが、ろくな男ではないと感じた。
「誰だ?」
「旧ビンゴ王国の喜志田ってもんだけど」
喜志田?
日本名。プレイヤーか。
「まぁ亡国の将なんてどうでもいいとか思ってんのかもしんないけどさ。こうもあからさまに無視されるのもイラっとくるよね」
「それは失礼した。彼女の従者だと思った」
「ふん、まぁいいさ。それより久しぶりに会ったんだから、もう少し話をしないか? いや、あんたがそんな美しい女性とは思わなかったなぁ。これならもっとお近づきになる方法を考えたんだけどね。そう、たとえばもっとちゃんと殺す方法を考えてあげれば、その美しい首を撥ね飛ばしてあげれたんだけど」
ふむ。どうやらこの男。
過去に戦ったことがあるらしい。
戦ってなお、こうして生きている相手はそう多くはないが……はて。
「というわけでどうかな? つかなかったあの時の決着。ここでつけないか?」
「興味ない」
「あ?」
「それより、君は誰だ?」
「は?」
「私は君を知らない。興味がない。故に戦う必要もない。簡単な三段論法だ。以上。他にないな。では」
いうだけ言って踵を返す。
もはや誰も声をかけてこない。故に振り返らない。
だからそのまま扉を押し開けて部屋を出た。
背後で扉が閉まる。その奥から何かしら破壊音が聞こえた。
その時になって、喜志田という男が、あのビンゴ王国軍で唯一手ごたえのあった相手だと想像に及んだ。
だがもはやどうでもいい。
そうであっても、もはやそれがどうしたレベル。
だからそのまま外へ出た。
案内の者も待たず、憂さを晴らすように馬を走らせ陣へと戻った。
陣の建築にはまだ時間がかかる。
だがもう始めよう。
これ以上待っていたら、本当に退屈に取り殺されてしまいそうで。
「お帰りなさいませ。お客様がお待ちです」
留守中に客が来たと副官のボージャンが伝える。
陣の構築やら兵糧の手配、斥候や見張りなど必要なことはすべて彼がやってくれる。だからこそ、自分がこうして気ままに会見にも臨めるわけで。
ボージャンに奥の陣幕へと誘導される。
陣において個室は作らない。
たとえ疲れていても、将たる者も兵と同じ辛さを味わうべきだ。
だからそこは一応秘密を確保できるよう、周囲を幕で覆っただけの簡単なスペース。
そこで待っていたのは2人だった。
いや、うち1人は付き添い。本当に私を待っていたのはこの男だ。
「死に損なったか、椎葉」
男――椎葉達臣の顔を見て、挑発的に告げる。
すると彼は少し悲しそうな顔をして、
「ああ。生き恥……なんてものはないけど、無様に生きながらえているよ」
「なら手伝いたまえ。少しややこしい状況になっていてね」
「ああ……そのために僕は来た」
その答えに、自然、頬が緩むのを感じた。
期待していた敵に肩透かしを食らわされ、死んだと聞かされた人物が蘇って訪れる。
まったく、これだから戦は――この世界は面白い。
心の底から、そう思った。
オムカを独立に導き、尾田張人を撃退し、高岩を討ち、帝都に侵入し、杏と引き分け、そして諸人、キッド、椎葉の3人を手玉にとり、命を奪ったプレイヤー。
どんな人物か楽しみだった。
だが見て早々、呑まれてしまったように棒立ちになっている彼女を見て、あぁこれは駄目だ、と思った。
この世界に来て5年。
まさか自分の才能が人を殺すことに特化しているなんて思いもしなかった。幸か不幸か、これまでもまだ負け知らずでここまで災禍なく過ごしている。
だからどこか飽きていたのかもしれない。
格闘技に長け、霊長類最強をほしいままにした者がいたとして、互する相手がいなければ、競い合う敵がいなければそれはもう終局だ。
それ以上の成長も、発展も、面白味も何もかもがなくなる。ただの作業。
いや、私の場合はただの虐殺になってしまう分、たちが悪い。
それはとてもつらく、滅入り、後味が悪く、つまらない。
だから対等の相手を求めた。
どこかに自分と互角以上に戦う敵がいて、そして初めての敗北を与えてくれる。
それを楽しみに北へ南へ東へ西へ、ところかまわず戦ったのだ。
杏はそれを叶える力を持つ相手だと思った。
だが味方である以上、本気で殺しい合うわけにはいかない。
一度、杏に敵国へ走って戦おうじゃないかと言ったことがあるが、
『馬鹿言ってくれるよね。ま、元帥が出てくならいいけど? 僕様が帝国元帥として相手してあげるよ』
そう一蹴された。
だからこのもやもやしたフラストレーションの塊はどこへ行けばいいのか分からず、胸の奥に凝り固まっていく。
唯一、ビンゴ王国の戦線で気になったのがいた。
夢中になるほどではないが、身構えていないと殺されるくらいの覚悟をしなければならない相手だ。
だがくだらないいざこざでそれも消えた。
ようやく少しは楽しめる相手が出てきたと思ったのに、消化不良で、欲求不満が溜まり、それを発散させる意味でビンゴ王国を滅ぼした。
けどやはりそれでもすっきりしない。
つきまとうのはどこか虚しさに似た悲しみ。
まったく。椎葉は優秀だが、ここら辺の呼吸が分かってくれなかった。そう今は亡き友を想う。
だがそれは結果的に1つの僥倖を産んだ。
ジャンヌ・ダルク。
その名は杏から嫌というほど聞いていた。
そして興味を持った。
ただ目をつけたのは杏が先ということで、お預けをくらった感じだったわけだが。
だがジャンヌ・ダルクがビンゴ領で動き、丹姉弟の動きが不穏になり、それにかこつけてこの会見が成立した。
どれだけ戦いたいと願っても、私事と国の大事を混同するわけにはいかない。
それだけの責任のある役職にはついているはずだ。
だから戦略上の都合で、ついでに噂のジャンヌ・ダルクを見てやろうと思ったわけだが。
「……ふん」
鼻を鳴らす。
少なくとも今見える少女は、何も知らないただの村娘でしかない。
とはいえ第一印象だけで決めるのはよくない。
あるいはと思い、席を勧める。
「座ったらどうだ、ジャンヌ・ダルク?」
「…………」
少女は一瞬迷ったようだが、意を決したように左右を見ることもなくまっすぐこちらに足を進め、ゆっくりと椅子に座った。
度胸はあるようだ。
だが度胸と蛮勇は似て非なるもの。
もちろん蛮勇でここまで来れる道理はないが、万が一のこともある。
「オムカ王国軍師。ジャンヌ・ダルク」
少女が名乗る。
思ったより高い声。年相応ともとれるが、人に死ねと言う声にしては軽い。
「この度はこのような席を――」
「前置きはいい。本題に入ろう」
ジャンヌ・ダルクの体がビクリと動く。
その反応でもう彼女のことは見切った。見限った。
どうやら期待外れで間違いないようだ。
これはもう終わらせることにしよう。
「我々は教皇の命を受け、スィート・スィトンに巣くう逆賊を討滅しにきた。貴軍は引き上げよ」
「……どういう意味です?」
「分からんのか? 邪魔だ、と言っている」
「……っ!」
「あの反逆者どもの城は我らだけで陥とす。もし邪魔だてするなら、貴軍らも討ち滅ぼす」
「5万で、スィート・スィトンが陥とせると?」
「他の人間にはできない。私にはできる。それだけだ」
別に過信で言っているわけじゃない。
ビンゴ王国を滅亡させた時、スィート・スィトンの地形はしっかりと見た。
弱点になりうる場所も見つけてある。
さらに攻城兵器も持ってきているし、スキルで強化された兵たちにとって城門などあってないものだ。
「相手は、30万だぞ」
ジャンヌ・ダルクが食い下がるように声を放つ。
だがその声も、小鳥が必死にさえずっているようで虚しく、そして哀れだ。
「それがどうした」
「どうしたって……分かってるだろ。同じ軍にいたなら、その30万がどういうものか。どういう人間で構成されているのか!」
あぁ、何を言い出すかと思えば。
なんだ、そんなことか。
生きるか死ぬかの戦いをしているのに、随分悠長なことを言う。
「関係ない。それが兵だろうと民だろうと」
「罪のない民衆を殺す気か!?」
「関係ないと言った。私の前に立つ、邪魔するなら滅ぼす。それだけだ」
「30万も殺すっていうのか?」
「必要ならば。だがそれも他の人間にはできない。私にはできる。それ以上でもそれ以下でもない」
虚勢ではない。
この5年。その間に見た地獄と比べれば、まだ今はマシな方だ。
ただの事実を告げたつもりだった。
だがジャンヌ・ダルクは顔を真っ赤にして食い下がる。
「白起……いや、項羽になるつもりか」
「誰だ、それは?」
知らない人間だ。そんなものが私を動かす理由にはならない。
「まぁしかし。あの双子が降伏して帝都に戻るならそれで終わりだが……」
それは物足りない。
正直、30万という大軍を聞いて心が躍ったのは事実。
だから降伏だけはやめてくれ。
そう願う自分がいた。
「罪の意識は、ないのか?」
「そんなもの、この世界には邪魔だろう?」
「あんただって! あんただって俺と一緒の――」
「随分」
ジャンヌ・ダルクの眠くなるような言葉を遮る。
「随分と、悠長なことを言うのだな。ジャンヌ・ダルク。お前もすでにこの世界の一部だというのに」
「違う、俺はただ――」
いや、もういい。
もう分かった。
この人物も私の敵足りえない。
色々なものが足りない。
だから、これ以上話しても無駄だ。
「時間の無駄だ。我々は明日より首都を攻撃する。邪魔するなら、貴軍も敵だ」
それだけ言って椅子から立ち上がる。
反論は来なかった。物足りない。
いや、もはや興味も失せた。
杏も随分とつまらない人間に興味を持ったものだ。
「ちょっと待ってくれないかな」
と、足を止めるような別の声がした。
男の声。ジャンヌ・ダルクの右後ろに立つ、中背で髪がぼさぼさの男。
外見で人を判断するわけではないが、ろくな男ではないと感じた。
「誰だ?」
「旧ビンゴ王国の喜志田ってもんだけど」
喜志田?
日本名。プレイヤーか。
「まぁ亡国の将なんてどうでもいいとか思ってんのかもしんないけどさ。こうもあからさまに無視されるのもイラっとくるよね」
「それは失礼した。彼女の従者だと思った」
「ふん、まぁいいさ。それより久しぶりに会ったんだから、もう少し話をしないか? いや、あんたがそんな美しい女性とは思わなかったなぁ。これならもっとお近づきになる方法を考えたんだけどね。そう、たとえばもっとちゃんと殺す方法を考えてあげれば、その美しい首を撥ね飛ばしてあげれたんだけど」
ふむ。どうやらこの男。
過去に戦ったことがあるらしい。
戦ってなお、こうして生きている相手はそう多くはないが……はて。
「というわけでどうかな? つかなかったあの時の決着。ここでつけないか?」
「興味ない」
「あ?」
「それより、君は誰だ?」
「は?」
「私は君を知らない。興味がない。故に戦う必要もない。簡単な三段論法だ。以上。他にないな。では」
いうだけ言って踵を返す。
もはや誰も声をかけてこない。故に振り返らない。
だからそのまま扉を押し開けて部屋を出た。
背後で扉が閉まる。その奥から何かしら破壊音が聞こえた。
その時になって、喜志田という男が、あのビンゴ王国軍で唯一手ごたえのあった相手だと想像に及んだ。
だがもはやどうでもいい。
そうであっても、もはやそれがどうしたレベル。
だからそのまま外へ出た。
案内の者も待たず、憂さを晴らすように馬を走らせ陣へと戻った。
陣の建築にはまだ時間がかかる。
だがもう始めよう。
これ以上待っていたら、本当に退屈に取り殺されてしまいそうで。
「お帰りなさいませ。お客様がお待ちです」
留守中に客が来たと副官のボージャンが伝える。
陣の構築やら兵糧の手配、斥候や見張りなど必要なことはすべて彼がやってくれる。だからこそ、自分がこうして気ままに会見にも臨めるわけで。
ボージャンに奥の陣幕へと誘導される。
陣において個室は作らない。
たとえ疲れていても、将たる者も兵と同じ辛さを味わうべきだ。
だからそこは一応秘密を確保できるよう、周囲を幕で覆っただけの簡単なスペース。
そこで待っていたのは2人だった。
いや、うち1人は付き添い。本当に私を待っていたのはこの男だ。
「死に損なったか、椎葉」
男――椎葉達臣の顔を見て、挑発的に告げる。
すると彼は少し悲しそうな顔をして、
「ああ。生き恥……なんてものはないけど、無様に生きながらえているよ」
「なら手伝いたまえ。少しややこしい状況になっていてね」
「ああ……そのために僕は来た」
その答えに、自然、頬が緩むのを感じた。
期待していた敵に肩透かしを食らわされ、死んだと聞かされた人物が蘇って訪れる。
まったく、これだから戦は――この世界は面白い。
心の底から、そう思った。
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残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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