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第4章 ジャンヌの西進
第83話 丹姉弟
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部屋の中には丹姉弟以外いないようだった。
味方の兵たちが彼らを包囲するように展開し、俺は彼らと相対するように真正面に立つ。
右にはクロエとセンド、左にはウィットとサールを従えて対峙する。
それでも彼らはまったく動じた様子もなく、ただその四肢を動かして、さらに互いを確かめるようにひっつき合う。
「初めまして、と言っておこうか。丹姉弟」
俺がそう言葉をかけると、双子は笑みを濃くして答えた。
「初めまして、ジャンヌ・ダルク。私は丹蓮。そう兄さんは言っています」
「初めまして、ジャンヌ・ダルク。私は丹蓮華。そう姉さんは言っています」
一瞬戸惑う。
どっちがどっち。
いや姉が蓮華、弟が連ということか。
お互いを代弁するようなしゃべり方。本当にややこしい。
「俺のことは知ってるんだな」
「もちろんです。貴女は有名だから。そう兄さんは言っています」
「もちろんです。桑折景斗から聞きました。そう姉さんは言っています」
「っ! やはり、彼はお前らの」
「ええ。とんだ役立たずでした。そう兄さんは言っています」
「ええ。少しも役にたちませんでした。そう姉さんは言っています」
「だから彼に暇を与えました。二度と覚めることのない休暇を。そう兄さんは言っています」
「だから彼に土地を与えました。良い養分になってくれているでしょう。そう姉さんは言っています」
婉曲な言い方だが、その示しているのは1つの事象に間違いない。
「……殺したのか!?」
「いいえ。勝手に死んだのです。どうか助けてくれと頭を下げてはいつくばって。そう兄さんは言っています」
「いいえ。自殺したのです。わざわざ3本目のラインを増やしにきたのですから。そう姉さんは言っています」
絶対嘘だ。
不要になった景斗を切り捨てたに違いない。
景斗は俺たちを裏切った(彼からすれば裏切ってはいないのだろうが)のだが、一時は共闘した仲だ。
偽りだとしても友人として話し合えたこともあったと思う。
だからこそ、彼の無念が分かる。
なのに、怒りは沸かない。
沸くのは困惑だけだ。
なんなんだ、この2人は。
このしゃべり方といい、この格好といい、この余裕といい、まったくもって理解が及ばない。
ただ1つだけわかる。
この双子は尋常じゃない。
これならまだあの堂島帝国元帥の方が話が通じる。
死者でも元は人間。会話はできるだろうし、何を考えているかある程度は理解できる。
だがこの2人は別だ。
死者ではないが、人間でもない。
彼らはまさに俺たちにとっての妖怪や宇宙人ほどにも違う。
人間の格好をした人間でない存在。
人知の及ばない未知なる存在。
だから話は通じないし、思考回路もまったく別物で理解できない。
無駄とは思いつつも、この問いを発するしかなかった。
「一度だけ聞く。なんでこんなことを?」
これを聞くために、何千という距離を歩き、何万という人の命を失った。
それが最大の焦点であり、この戦いの結末であるのだから。
帝国軍と俺たちをけしかけ。
帝国軍が負けたと思ったら独立し。
採算の合わない国のため、人々に命を賭けさせる。
まったくもって意味が分からない。
けど俺には理解できない何かが、目的があるのではないか。
だからこそ、ここまで来て聞いたのだ。
だが、その目的はやはりというか、当然というか、無残にも砕かれることになる。
「意味? そんなものはありえない。そう兄さんは言っています」
「意味? そんなものはくだらない。そう姉さんは言っています」
同じ顔、同じ声がサラウンドで俺の耳を打つ。
似たようで異なって、でも全く同じ結末を持つ言葉を。
「なん、だと……」
「私たちの目的はただ1つ。そう兄さんは言っています」
「私たちの目的はただ1つ。そう姉さんは言っています」
「「理想郷で死ぬことです」」
軽く、めまいがした。
まさか、本当に。
『あるいは死にたがりだったりして。自分たちだけ死にたくないから、他人を巻き込んで皆で一緒に死にましょう、みたいな?』
戯言のようにそう言ったのは喜志田だったか。
まさかそこまでドンピシャだったとは。
「ふざ、けるな」
「何もふざけてなどいない。そう兄さんは言っています」
「我々は真実を語っています。そう姉さんは言っています」
「じゃあ、死ぬために! こんなくだらないことをしたのか!?」
「はい。私たちは私たち以外の存在は必要ない。そう兄さんは言っています」
「はい。私たちは私たち以外の存在を認めない。そう姉さんは言っています」
「だから、閉じた世界を作った。そう兄さんは言っています」
「だから、素敵な箱庭を作った。そう姉さんは言っています」
「そこで死にゆく人を眺めながら死ぬために。そう兄さんは言っています」
「そこで滅びゆく国を眺めながら死ぬために。そう姉さんは言っています」
「すべては死のため。そう兄さんは言っています」
「すべては滅びのため。そう姉さんは言っています」
畳みかけるような双子の音声に俺は、いやこの場にいるすべての人間が言葉を失う。
今、この場の空気は人間ではない何者かに支配されていた。
だが、それを破ったものがいた。
「馬鹿言わないで!」
俺じゃない。
俺の横にいるクロエだ。
「あんたたちは最っ低。姉弟だというのに、2人で閉じこもって、外の世界に目も向けないで!」
「外の世界に意味はない。そう兄さんは言っています」
「外の世界に興味はない。そう姉さんは言っています」
「そういうことをしているからでしょう! もっと、姉弟だというなら! 家族だというのなら! もっとお互いを気にかけられる存在でしょう!」
「クロエ……」
クロエがここまで激昂するのは意外だった。
それこそ(手前味噌ながら俺を除いて)他人に気をかけるようなタイプじゃなかったはずだ。
「これまで、私は色んな家族に会った。妹を守るために身を挺して亡くなった兄。兄のような人を助けるために命令を無視して行動する妹。よくわからないけど姉を名乗って、でもしっかりと私たちを気にかけてくれるお姉ちゃん」
最初はフレールとサールの兄妹。
次は……ブリーダとアイザ、か。あれも兄と妹みたいなものか。
そして――最後のって里奈だよな? てかクロエにそう言われちゃ……やめて、吹く。今はシリアスな場面なのに。
「それに、娘のために必死に頑張ってるお母さんだっている。支配されて苦しんでいる家族を守るため、死ぬまで戦った兵隊だっている! 皆、みんなが家族のために頑張ってるのに……あんたたちは何!?」
「お説教はうんざりだ。そう兄さんは言っています」
「同情は必要ありません。そう姉さんは言っています」
「お説教も同情もしてない! ただあんたたちが気に食わない。そう言ってるだけ!」
容赦どころか救いのないクロエの一喝。
けどそれでも彼女はわかってる。
「私もそうだった! けど私は変わった! 変えてくれた! ここにいる隊長殿と……ウィットの、みんなのおかげで変わったの! だからあんたたちも変われるはず! 何もせずに耳を閉じて目をふさいで、ただただ引きこもっているだけじゃ、世界は変わらない!」
そうだ。彼女も最初はそうだったから。
1人で閉じこもって、周囲も見えず、ただがむしゃらにあがいて、そして死のうとした。
けど、彼女は変わった。
俺が救ったとは思ってない。
彼女が自分で克服し、そして仲間たちに助けられたんだ。
だから彼女はこの双子を救いたいと思っているのだろう。
かつての自分に重ね合わせて、彼らもまた変われると信じて。
「ごめんなさい、隊長殿。センドさん。本当はいけないと思っても、やっぱり……」
「いや、いいんだ。クロエ。俺がなんとかする。センド。とりあえず彼らは拘束するにとどめたい。処遇はそれから考えよう」
「ええ。もうなんとでもしてください。私にはもう理解ができない」
センドがあきらめ顔で首をすくめる。
理解できない。それは俺も一緒だよ。
それでも、彼らに少しでも救いがあって、違う種別から同じ人間になれたとしたら。
それは同じ人間として、同じプレイヤーとして、とても素晴らしいことじゃないのか。
もちろん彼らの起こしたことが許されるわけじゃない。
けどそれは俺も一緒なわけで。
少しでも罪を償っていけるようになればいいわけで。
あるいは、と思っていた双子の助命。
それをクロエの方から提案し、センドも(やや諦めながらも)同意してくれたのは、なんだか通じ合ったみたいでとても嬉しいことだと思った。
だが物事がそう簡単に進めばこの世に苦労という文字は存在しない。
双子は同時にため息をつき、
「やっぱりお説教じゃないか。そう兄さんは言っています」
「けっきょく同情じゃないか。そう姉さんは言っています」
「違う、そういうわけじゃ――」
「もう結構です。みなさま、ご退席ください。そう兄さんは言っています」
「もう結構です。みなさま、ご退場ください。そう姉さんは言っています」
「駄目、ここにいたら、あんたたちは!」
クロエが叫ぶ。
だが双子の表情は全てを拒絶するかのように、もはやクロエを見ていない。
「どうしてもというなら、お代をいただいていきましょう。そう兄さんは言っています」
「どうしてもというなら、覚悟を示してもらいましょう。そう姉さんは言っています」
「何を……」
嫌な、予感がした。
双子を取り巻く空気が変わったような。
いや、押さえつけられていたものが解放されたような。
妖気。
人間では持ちえない何か。
双子は絡めていて腕を外すと、こちらに掌を向ける。
そして、互いの言葉ではなく、自身の言葉を初めて口にする。
「我が有するは全てを明かし蹂躙する常世の瞳。『支配する呪われた左目』」
「我が有するは全てを覆い隠し抑圧する常夜の瞳。『使役する呪われた右目』」
ゾッとした。
感じた嫌な予感以上のものが、呪詛のような彼らの言葉が、俺を叫ばせる。
「全員、目と耳をふさげ!」
とっさに叫び、耳をふさぎ目を閉じて双子から意識をそらす。
それで効果があるかはわからない。
けど彼らのスキルが洗脳だというのなら、目、または耳そこから入り込んで人を操る。
そう感じたからこその処置。
だが――
「「解放せよ『皆殺す呪われた貴神』。さぁ、全員で殺し合いなさい」」
ぐにゃりと、場の空気が一変した。
そんな気がした。
味方の兵たちが彼らを包囲するように展開し、俺は彼らと相対するように真正面に立つ。
右にはクロエとセンド、左にはウィットとサールを従えて対峙する。
それでも彼らはまったく動じた様子もなく、ただその四肢を動かして、さらに互いを確かめるようにひっつき合う。
「初めまして、と言っておこうか。丹姉弟」
俺がそう言葉をかけると、双子は笑みを濃くして答えた。
「初めまして、ジャンヌ・ダルク。私は丹蓮。そう兄さんは言っています」
「初めまして、ジャンヌ・ダルク。私は丹蓮華。そう姉さんは言っています」
一瞬戸惑う。
どっちがどっち。
いや姉が蓮華、弟が連ということか。
お互いを代弁するようなしゃべり方。本当にややこしい。
「俺のことは知ってるんだな」
「もちろんです。貴女は有名だから。そう兄さんは言っています」
「もちろんです。桑折景斗から聞きました。そう姉さんは言っています」
「っ! やはり、彼はお前らの」
「ええ。とんだ役立たずでした。そう兄さんは言っています」
「ええ。少しも役にたちませんでした。そう姉さんは言っています」
「だから彼に暇を与えました。二度と覚めることのない休暇を。そう兄さんは言っています」
「だから彼に土地を与えました。良い養分になってくれているでしょう。そう姉さんは言っています」
婉曲な言い方だが、その示しているのは1つの事象に間違いない。
「……殺したのか!?」
「いいえ。勝手に死んだのです。どうか助けてくれと頭を下げてはいつくばって。そう兄さんは言っています」
「いいえ。自殺したのです。わざわざ3本目のラインを増やしにきたのですから。そう姉さんは言っています」
絶対嘘だ。
不要になった景斗を切り捨てたに違いない。
景斗は俺たちを裏切った(彼からすれば裏切ってはいないのだろうが)のだが、一時は共闘した仲だ。
偽りだとしても友人として話し合えたこともあったと思う。
だからこそ、彼の無念が分かる。
なのに、怒りは沸かない。
沸くのは困惑だけだ。
なんなんだ、この2人は。
このしゃべり方といい、この格好といい、この余裕といい、まったくもって理解が及ばない。
ただ1つだけわかる。
この双子は尋常じゃない。
これならまだあの堂島帝国元帥の方が話が通じる。
死者でも元は人間。会話はできるだろうし、何を考えているかある程度は理解できる。
だがこの2人は別だ。
死者ではないが、人間でもない。
彼らはまさに俺たちにとっての妖怪や宇宙人ほどにも違う。
人間の格好をした人間でない存在。
人知の及ばない未知なる存在。
だから話は通じないし、思考回路もまったく別物で理解できない。
無駄とは思いつつも、この問いを発するしかなかった。
「一度だけ聞く。なんでこんなことを?」
これを聞くために、何千という距離を歩き、何万という人の命を失った。
それが最大の焦点であり、この戦いの結末であるのだから。
帝国軍と俺たちをけしかけ。
帝国軍が負けたと思ったら独立し。
採算の合わない国のため、人々に命を賭けさせる。
まったくもって意味が分からない。
けど俺には理解できない何かが、目的があるのではないか。
だからこそ、ここまで来て聞いたのだ。
だが、その目的はやはりというか、当然というか、無残にも砕かれることになる。
「意味? そんなものはありえない。そう兄さんは言っています」
「意味? そんなものはくだらない。そう姉さんは言っています」
同じ顔、同じ声がサラウンドで俺の耳を打つ。
似たようで異なって、でも全く同じ結末を持つ言葉を。
「なん、だと……」
「私たちの目的はただ1つ。そう兄さんは言っています」
「私たちの目的はただ1つ。そう姉さんは言っています」
「「理想郷で死ぬことです」」
軽く、めまいがした。
まさか、本当に。
『あるいは死にたがりだったりして。自分たちだけ死にたくないから、他人を巻き込んで皆で一緒に死にましょう、みたいな?』
戯言のようにそう言ったのは喜志田だったか。
まさかそこまでドンピシャだったとは。
「ふざ、けるな」
「何もふざけてなどいない。そう兄さんは言っています」
「我々は真実を語っています。そう姉さんは言っています」
「じゃあ、死ぬために! こんなくだらないことをしたのか!?」
「はい。私たちは私たち以外の存在は必要ない。そう兄さんは言っています」
「はい。私たちは私たち以外の存在を認めない。そう姉さんは言っています」
「だから、閉じた世界を作った。そう兄さんは言っています」
「だから、素敵な箱庭を作った。そう姉さんは言っています」
「そこで死にゆく人を眺めながら死ぬために。そう兄さんは言っています」
「そこで滅びゆく国を眺めながら死ぬために。そう姉さんは言っています」
「すべては死のため。そう兄さんは言っています」
「すべては滅びのため。そう姉さんは言っています」
畳みかけるような双子の音声に俺は、いやこの場にいるすべての人間が言葉を失う。
今、この場の空気は人間ではない何者かに支配されていた。
だが、それを破ったものがいた。
「馬鹿言わないで!」
俺じゃない。
俺の横にいるクロエだ。
「あんたたちは最っ低。姉弟だというのに、2人で閉じこもって、外の世界に目も向けないで!」
「外の世界に意味はない。そう兄さんは言っています」
「外の世界に興味はない。そう姉さんは言っています」
「そういうことをしているからでしょう! もっと、姉弟だというなら! 家族だというのなら! もっとお互いを気にかけられる存在でしょう!」
「クロエ……」
クロエがここまで激昂するのは意外だった。
それこそ(手前味噌ながら俺を除いて)他人に気をかけるようなタイプじゃなかったはずだ。
「これまで、私は色んな家族に会った。妹を守るために身を挺して亡くなった兄。兄のような人を助けるために命令を無視して行動する妹。よくわからないけど姉を名乗って、でもしっかりと私たちを気にかけてくれるお姉ちゃん」
最初はフレールとサールの兄妹。
次は……ブリーダとアイザ、か。あれも兄と妹みたいなものか。
そして――最後のって里奈だよな? てかクロエにそう言われちゃ……やめて、吹く。今はシリアスな場面なのに。
「それに、娘のために必死に頑張ってるお母さんだっている。支配されて苦しんでいる家族を守るため、死ぬまで戦った兵隊だっている! 皆、みんなが家族のために頑張ってるのに……あんたたちは何!?」
「お説教はうんざりだ。そう兄さんは言っています」
「同情は必要ありません。そう姉さんは言っています」
「お説教も同情もしてない! ただあんたたちが気に食わない。そう言ってるだけ!」
容赦どころか救いのないクロエの一喝。
けどそれでも彼女はわかってる。
「私もそうだった! けど私は変わった! 変えてくれた! ここにいる隊長殿と……ウィットの、みんなのおかげで変わったの! だからあんたたちも変われるはず! 何もせずに耳を閉じて目をふさいで、ただただ引きこもっているだけじゃ、世界は変わらない!」
そうだ。彼女も最初はそうだったから。
1人で閉じこもって、周囲も見えず、ただがむしゃらにあがいて、そして死のうとした。
けど、彼女は変わった。
俺が救ったとは思ってない。
彼女が自分で克服し、そして仲間たちに助けられたんだ。
だから彼女はこの双子を救いたいと思っているのだろう。
かつての自分に重ね合わせて、彼らもまた変われると信じて。
「ごめんなさい、隊長殿。センドさん。本当はいけないと思っても、やっぱり……」
「いや、いいんだ。クロエ。俺がなんとかする。センド。とりあえず彼らは拘束するにとどめたい。処遇はそれから考えよう」
「ええ。もうなんとでもしてください。私にはもう理解ができない」
センドがあきらめ顔で首をすくめる。
理解できない。それは俺も一緒だよ。
それでも、彼らに少しでも救いがあって、違う種別から同じ人間になれたとしたら。
それは同じ人間として、同じプレイヤーとして、とても素晴らしいことじゃないのか。
もちろん彼らの起こしたことが許されるわけじゃない。
けどそれは俺も一緒なわけで。
少しでも罪を償っていけるようになればいいわけで。
あるいは、と思っていた双子の助命。
それをクロエの方から提案し、センドも(やや諦めながらも)同意してくれたのは、なんだか通じ合ったみたいでとても嬉しいことだと思った。
だが物事がそう簡単に進めばこの世に苦労という文字は存在しない。
双子は同時にため息をつき、
「やっぱりお説教じゃないか。そう兄さんは言っています」
「けっきょく同情じゃないか。そう姉さんは言っています」
「違う、そういうわけじゃ――」
「もう結構です。みなさま、ご退席ください。そう兄さんは言っています」
「もう結構です。みなさま、ご退場ください。そう姉さんは言っています」
「駄目、ここにいたら、あんたたちは!」
クロエが叫ぶ。
だが双子の表情は全てを拒絶するかのように、もはやクロエを見ていない。
「どうしてもというなら、お代をいただいていきましょう。そう兄さんは言っています」
「どうしてもというなら、覚悟を示してもらいましょう。そう姉さんは言っています」
「何を……」
嫌な、予感がした。
双子を取り巻く空気が変わったような。
いや、押さえつけられていたものが解放されたような。
妖気。
人間では持ちえない何か。
双子は絡めていて腕を外すと、こちらに掌を向ける。
そして、互いの言葉ではなく、自身の言葉を初めて口にする。
「我が有するは全てを明かし蹂躙する常世の瞳。『支配する呪われた左目』」
「我が有するは全てを覆い隠し抑圧する常夜の瞳。『使役する呪われた右目』」
ゾッとした。
感じた嫌な予感以上のものが、呪詛のような彼らの言葉が、俺を叫ばせる。
「全員、目と耳をふさげ!」
とっさに叫び、耳をふさぎ目を閉じて双子から意識をそらす。
それで効果があるかはわからない。
けど彼らのスキルが洗脳だというのなら、目、または耳そこから入り込んで人を操る。
そう感じたからこその処置。
だが――
「「解放せよ『皆殺す呪われた貴神』。さぁ、全員で殺し合いなさい」」
ぐにゃりと、場の空気が一変した。
そんな気がした。
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疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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