416 / 627
第4章 ジャンヌの西進
閑話48 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)
しおりを挟む
はじめ、王都バーベルに戻った時、何が起きているのか分からなかった。
四方の城門を他国の兵が固めて、人の出入りを激しく制限していたのだ。
私はなんとか入れた。
伝令として報告に来た人が機転を利かせて、その他国の兵になりすましたのだ。
南門から場内に入った後、彼とは別れた。彼にはやるべきことがあると言って人ごみの中に消えていった。
それでその人のことは忘れた。
そもそもその人が伝えた内容が要領をえなかった。
だがここに来てよく分かった。
他国者らしい兵たちが我が物顔で道を歩き、食堂に入っては酒をかっくらい、大声で叫び、支払いを拒否し、道行く人に難癖をつけ金を巻き上げる。さらには昨夜から大砲をバカバカこの王都内で撃っているという。
まさに世紀末。
盗賊と同じだ。
しかも聞くところによると、こうして彼らがここにいるのは全てオムカの民のためだという。
女王陛下の信認厚いジャンヌ・ダルクが、その権力を私事として扱い大量の金を横領していること。ビンゴ領を征服して自分の国を建て、オムカに挑戦しようとしていることなどをあげつらい、彼らはそれを正すためにやってきたのだと声高々に言う。
正直、反吐が出る思いだ。
お前らに明彦くんの何が分かる。
お前らが明彦くんの何を知ってる。
あんなに考えて、心身を削って、ここまで頑張ってきたのに、お前らは何もせずただ破壊しようとしている。
しかも、明彦くんを罪人に仕立てて。
さらには女王をさらっていくという話も聞こえた。
私をお姉ちゃんと呼んだ彼女。それが遠いどこかへ連れ去られるなんて。
許せない。
この道も、この店も、この人たちの幸せも、全部明彦くんが作った。全部妹のものだ。
それをなんでお前らが踏みにじる。
許せない。
けど必死にこらえる。
こんな雑魚を〇したとしても、何にも変わらない。
さすがにこの人数は〇しきれない。
しかもそうなったらここに住む人たちにも被害が及ぶ。
明彦くんと妹が守ろうとした人々を、一時の感情で失うわけにはいかない。
それくらいの理性はまだ残っていた。
だからせめて王都の中央、王宮に行って何が起きているかを確かめようとした時だ。
「ジャンヌおねえちゃんは悪くない!」
そんな声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
「リンちゃん……?」
見れば小さな少女が、その倍以上も背丈のある大の男相手に食って掛かっているのを見つけた。
間違いない。リンちゃんだ。
「はっははははは! おい、聞いたか? このガキ。ジャンヌお姉ちゃんだとよ!」
男が連れとともに大笑いする。
それをリンちゃんは泣きそうな顔でさらに責め立てる。
「ジャンヌおねえちゃんにあやまって! ジャンヌおねえちゃんは、優しいんだから!」
その必死の抵抗も、男たちの爆笑を誘うだけだった。
もう駄目だよ。
早く逃げて。
だが私の願いもむなしく、なおも言いつのるリンちゃんに、男が顔を赤らめ、
「いい加減うるせぇよ、このガキ!」
蹴りを入れた。
リンちゃんの小さな体が吹き飛ぶ。
もう、我慢できなかった。
視界が赤く染まる。
「『収乱斬獲祭』」
地面を蹴った。
5歩で男たちの前に出る。
「あ?」
呆けた男のツラ。
それを横殴りにした。
十分に手加減をして、だ。
リンちゃんの目の前で、こいつらをバラバラにするなんてことできない。
だからせめて十分に手加減をして――首の骨を折るだけにとどめてあげた。
「んだ、てめ――」
男の連れが出てくる前に、下から殴りつけた。骨が砕ける鈍い音。それすらも不快。
こいつらが生きていることが不快。
明彦くんが作った国から出ていけ。
妹の治める国を壊す奴は消えろ。
リンちゃんを傷つける奴は〇ね。
5人の男が物言わぬ物体になるのに10秒もいらなかった。
視界が赤から普通に戻る。
「リンちゃん、大丈夫!?」
「…………あ、おねえちゃん」
よかった。口から血が出てるみたいだけど、無事みたい。
「駄目だよ。あんな無茶しちゃ」
「でも、ジャンヌおねえちゃんはわるくないし……」
「うん。わかってる。リンちゃんはいいことをした。あとでジャンヌお姉ちゃんに褒めてもらおうね」
「うん! ……ぁ」
立ち上がろうとしたリンちゃんがふらつく。
「すみません、どなたかこの子をお願いします!」
周囲に声をかける。
だが誰もが関わり合いになるのを恐れて名乗り出ない。
なんなの。
なんで誰も何もしないの。
明彦くんが作った世界なのに。そんな奴らは――
「おねえちゃん、リンは、大丈夫だから……」
ふと、リンちゃんがこちらを見て小さく笑った。
「でも……」
「ほら、あるけるよ。だから、いって。いそいでるんでしょ?」
「……うん。大丈夫だから。すぐに平和に暮らせる日が来るからね。それまで無茶しちゃだめだよ。お姉ちゃんとの約束」
「うん、リン。やくそくまもる!」
本当にこの子は強い。
これだけ幼いのに、聞けば花屋で住み込みで働いているという。
辛くともいじめられても文句も何も言わず、ただただ毎日を健気に生きている。
いや、健気と言っては彼女に失礼だ。
彼女ほどこの王都で、誇り高く生きている人間はいないだろう。
だから、守らないと。
明彦くんが守ったように、私もこの子を守る。
そして、明彦くんが作ったこの世界も。
「待ってて。すぐに戻ってくるからね」
「うん、がんばって、おねえちゃん」
リンちゃんからの勇気百倍の言葉をもらって、再び走り出す。
目指すは王宮。
正直、自分が行ってどうにかなるものだとは思っていない。
だけど、これ以上この場所で勝手なことはさせない。
それだけを思って、今はただ駆ける。
四方の城門を他国の兵が固めて、人の出入りを激しく制限していたのだ。
私はなんとか入れた。
伝令として報告に来た人が機転を利かせて、その他国の兵になりすましたのだ。
南門から場内に入った後、彼とは別れた。彼にはやるべきことがあると言って人ごみの中に消えていった。
それでその人のことは忘れた。
そもそもその人が伝えた内容が要領をえなかった。
だがここに来てよく分かった。
他国者らしい兵たちが我が物顔で道を歩き、食堂に入っては酒をかっくらい、大声で叫び、支払いを拒否し、道行く人に難癖をつけ金を巻き上げる。さらには昨夜から大砲をバカバカこの王都内で撃っているという。
まさに世紀末。
盗賊と同じだ。
しかも聞くところによると、こうして彼らがここにいるのは全てオムカの民のためだという。
女王陛下の信認厚いジャンヌ・ダルクが、その権力を私事として扱い大量の金を横領していること。ビンゴ領を征服して自分の国を建て、オムカに挑戦しようとしていることなどをあげつらい、彼らはそれを正すためにやってきたのだと声高々に言う。
正直、反吐が出る思いだ。
お前らに明彦くんの何が分かる。
お前らが明彦くんの何を知ってる。
あんなに考えて、心身を削って、ここまで頑張ってきたのに、お前らは何もせずただ破壊しようとしている。
しかも、明彦くんを罪人に仕立てて。
さらには女王をさらっていくという話も聞こえた。
私をお姉ちゃんと呼んだ彼女。それが遠いどこかへ連れ去られるなんて。
許せない。
この道も、この店も、この人たちの幸せも、全部明彦くんが作った。全部妹のものだ。
それをなんでお前らが踏みにじる。
許せない。
けど必死にこらえる。
こんな雑魚を〇したとしても、何にも変わらない。
さすがにこの人数は〇しきれない。
しかもそうなったらここに住む人たちにも被害が及ぶ。
明彦くんと妹が守ろうとした人々を、一時の感情で失うわけにはいかない。
それくらいの理性はまだ残っていた。
だからせめて王都の中央、王宮に行って何が起きているかを確かめようとした時だ。
「ジャンヌおねえちゃんは悪くない!」
そんな声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
「リンちゃん……?」
見れば小さな少女が、その倍以上も背丈のある大の男相手に食って掛かっているのを見つけた。
間違いない。リンちゃんだ。
「はっははははは! おい、聞いたか? このガキ。ジャンヌお姉ちゃんだとよ!」
男が連れとともに大笑いする。
それをリンちゃんは泣きそうな顔でさらに責め立てる。
「ジャンヌおねえちゃんにあやまって! ジャンヌおねえちゃんは、優しいんだから!」
その必死の抵抗も、男たちの爆笑を誘うだけだった。
もう駄目だよ。
早く逃げて。
だが私の願いもむなしく、なおも言いつのるリンちゃんに、男が顔を赤らめ、
「いい加減うるせぇよ、このガキ!」
蹴りを入れた。
リンちゃんの小さな体が吹き飛ぶ。
もう、我慢できなかった。
視界が赤く染まる。
「『収乱斬獲祭』」
地面を蹴った。
5歩で男たちの前に出る。
「あ?」
呆けた男のツラ。
それを横殴りにした。
十分に手加減をして、だ。
リンちゃんの目の前で、こいつらをバラバラにするなんてことできない。
だからせめて十分に手加減をして――首の骨を折るだけにとどめてあげた。
「んだ、てめ――」
男の連れが出てくる前に、下から殴りつけた。骨が砕ける鈍い音。それすらも不快。
こいつらが生きていることが不快。
明彦くんが作った国から出ていけ。
妹の治める国を壊す奴は消えろ。
リンちゃんを傷つける奴は〇ね。
5人の男が物言わぬ物体になるのに10秒もいらなかった。
視界が赤から普通に戻る。
「リンちゃん、大丈夫!?」
「…………あ、おねえちゃん」
よかった。口から血が出てるみたいだけど、無事みたい。
「駄目だよ。あんな無茶しちゃ」
「でも、ジャンヌおねえちゃんはわるくないし……」
「うん。わかってる。リンちゃんはいいことをした。あとでジャンヌお姉ちゃんに褒めてもらおうね」
「うん! ……ぁ」
立ち上がろうとしたリンちゃんがふらつく。
「すみません、どなたかこの子をお願いします!」
周囲に声をかける。
だが誰もが関わり合いになるのを恐れて名乗り出ない。
なんなの。
なんで誰も何もしないの。
明彦くんが作った世界なのに。そんな奴らは――
「おねえちゃん、リンは、大丈夫だから……」
ふと、リンちゃんがこちらを見て小さく笑った。
「でも……」
「ほら、あるけるよ。だから、いって。いそいでるんでしょ?」
「……うん。大丈夫だから。すぐに平和に暮らせる日が来るからね。それまで無茶しちゃだめだよ。お姉ちゃんとの約束」
「うん、リン。やくそくまもる!」
本当にこの子は強い。
これだけ幼いのに、聞けば花屋で住み込みで働いているという。
辛くともいじめられても文句も何も言わず、ただただ毎日を健気に生きている。
いや、健気と言っては彼女に失礼だ。
彼女ほどこの王都で、誇り高く生きている人間はいないだろう。
だから、守らないと。
明彦くんが守ったように、私もこの子を守る。
そして、明彦くんが作ったこの世界も。
「待ってて。すぐに戻ってくるからね」
「うん、がんばって、おねえちゃん」
リンちゃんからの勇気百倍の言葉をもらって、再び走り出す。
目指すは王宮。
正直、自分が行ってどうにかなるものだとは思っていない。
だけど、これ以上この場所で勝手なことはさせない。
それだけを思って、今はただ駆ける。
0
あなたにおすすめの小説
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる