知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話49 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 冬の晴れ間を切り裂く砲声。
 大砲の音だ。

 前に堂島さんが使っているのを見た。聞いた。
 それと同じような音が今。この王都の中に響いている。

 まだ遠くに見える王宮。
 そこを飛ぶ小さな砲弾を、私の眼は捉えた。

 そのたまは王宮の一部に当たり、爆発を起こして建物を破壊した。
 あそこには女王が、妹がいる。
 なのに大砲を放つ意味は何だ?
 あの噂は嘘だったのか。危害は加えないんじゃなかったのか。
 こんなこと、許されるわけがない。

「おい、なんだ貴様」

 止めに来る2人の兵士。
 その顎を殴りつけた。
 あ、死んだ。
 はっきりと手に伝わる感触。まだ力をセーブしないと。

 倒れる2人を捨て置き、さらに前へ。
 異変に気付いた兵たちがこちらを向き何事か叫ぶ。

 何を言っているかわかんない。
 わかんないから――死んで。

 視界が真っ赤に染まる。
 なるだけ手加減を。
 明彦くんの国に、妹の住処の近くに死体を残したくない。
 やるとしても千切ったりバラバラにしちゃダメ。
 せめて眠っているのと変わらないよう、丁寧に死なせてあげなきゃ。

 敵の群れに突っ込む。殴る。まだ死ぬ。もう少し手加減。右。来る。よけた。蹴る。死んだ。蹴りは難しい。後ろ。回避。そのまま前に跳んで、頭を踏みつける。そしてさらにそばにいた数人の頭を蹴とばした。それだけで人は死ぬ。やはり頭は駄目だ。着地。全方位から剣。前に出る。剣をよけたついでにたたき割った。驚いた敵兵の胸にこぶしを叩き込む。即死はしなかった。けど血反吐をはいて倒れた。汚いなぁ。これも駄目。ならもっと、手加減を。右。殴る。左、こぶし。左、ほほを張る。後ろ蹴り倒す。右、前から来る、左、前、後ろ――

 どれだけ戦い続けたかわからない。
 頭が割れるように痛い。でも止まらない。ただ力尽きるまで暴れるだけ。
 途中、大砲を2台発見したから叩き壊してやった。

「貴様は何者だ! ここがトロン王国のギュレッタ大将軍の陣と知っての狼藉ろうぜきか!」

 あ、将軍だって。
 それは〇していいよね。
 だって、こんなことをした張本人なんだから。

 叫ぶ男の背後。馬に乗った嫌に偉ぶった壮年の男。
 嫌。生理的にタイプじゃない。キモいウザいイラつく無い帰れ不愉快無理邪魔消えろ。きえろ。キエロ。

「明彦くんの世界から――」

 横。突き出された槍を掴む。
 その兵の驚愕がさらに歪む。
 突き出された槍ごと、その男ごと、持ち上げる。

「出てけ!」

 そのままオーバースローで投擲。
 途中で兵は吹っ飛んだが、槍は寸分たがわず大将軍の胴体にぶっ刺さった。

「だ、大将軍ー!」

 目障りな男が落馬しそうになる。
 だから跳んで、ついでに蹴り飛ばしてやった。

 そのままの勢いで王宮の門へと到着した。そのまま中に入る。
 静か。
 いや、奥で闘争の気配。

 だがそれよりも神経が何かを感じ取った。
 奥へ進みながら、闘争の気配から途中で離れる。

 その間にも、いくつかの集団が道をふさいでいるのに遭遇した。
 そのたびに全滅させた。
 もちろん殺していない。

 ここは明彦くんの職場だ。
 ここは妹の住処だ。

 そんなところを、こんな奴らの死臭でけがしたくなかった。

 ボディに一発入れると昏倒した。
 これはいいと思ったけど、途中、胃液をはく奴がいて不快になった。
 だから次は足をへし折ることにした。
 そうすれば這って進むしかない。
 味方を呼ぶような奴は喉をつぶしておいた。
 そうすればもう誰も逆らわない。

 そして私は1つの扉の前に立つ。

 そこがどこか私は知らない。
 この王宮は、最初に妹に会った時くらいしか入っていないから。

 けど何かがいる。
 腐った玉ねぎのにおいのような、反吐がするほどの悪臭の根源。

 だから私は、扉を開けた。

「これはこれは……確か、里奈さん。だったかな? 合っていますよね?」

 かなり広くて豪奢な部屋に、男がいた。
 やせ細った長身の男。
 柔和な笑みを浮かべているように思えるが、目は鋭く笑ってもいない。
 完全にインテリヤ〇ザの部類に思える。

「初めまして。わたしはマツナガ。このオムカ王国の宰相です」

 男が立ち上がって優雅に礼をする。
 そのわざとらしい礼に、唾を吐きかけたくなる。

「一体何のつもり?」

「何のつもり、とは?」

「この状況。王宮が攻められて、妹が連れていかれそうになっているのに。宰相っていうならこんなところでのんびりしていていいわけがない」

「妹……? はて。ちょっと意味が分かりませんが、わたしはただ仕事をしているだけですよ」

「ふざけないで。この喚声が、砲声が聞こえないわけないでしょ?」

「あいにくここは防音で。外の音は拾いにくいのです」

「大砲の玉が直撃してるのに。暢気な宰相もいたものね」

「ええ、それだけが取り柄でして。上が揺らいではまとまるものもまとまりませんから」

 あぁ、分かった。私がこいつが生理的に受け付けないわけ。
 あの男に似ている。
 へらへらして何考えてるか読ませない、最低な男。
 尾田張人おだはると
 今頃野垂れ死にしてるかな。

「とにかくついてきて。この騒ぎを止められるのは、もうあなただけでしょ」

「いえいえ、わたしなんて役に立ちませんよ。それに闘争は苦手でして」

「よく言う……あんたが仕掛けたくせに」

「わたしが仕掛けた? なんのことでしょう? 証拠はありますか? 動機は? わたしが自分の国を売ってなんの得がありましょう?」

「そんなもの知らない。ただの勘よ」

「乙女の勘というやつですか。いやいや、そんなもので連れ出されても困ります」

「困る困らないは関係ない。嫌なら連れ出す。それだけ」

「やれやれ……強情なお嬢さんだ」

 マツナガが机にあるベルを鳴らす。
 すると隣室へ続く左右のドアから屈強な鎧を付けた男たちが、さらには背後の入口にも現れた。

「わたしは臆病でね。こうやって身を守ってくる友達がいないと安心して眠れないんだ。君がジャンヌ・ダルクの大事な人だとは知っている。だが知ったうえで、こう言おう。さようなら、お嬢さん」

 マツナガが指を鳴らす。

 声もなく殺到する男たち。
 その中にいて、私の心はどこまでも澄んでいた。

 この男はミスを犯した。
 私の名前を知っておきながら、どういう人種か、それを見誤った。
 おそらくスキルのことも、これまでのことも知ってはいないのだろう。
 知っていれば、こんな馬鹿なことをせずに逃げるべきだった。
 恥も外聞も捨てて、闘争から逃走すべきだった。

 同時、ホッとしていた。

 ここは王宮。でも、この場所は違う。
 この場所は腐った欲望と脳みそでまみれたどす黒い掃き溜めだ。
 これ以上ない醜悪な居場所。

 ――なら、どれだけ血と臓器にまみれても問題はないということ。

 視界が真っ赤に染まっていく。
 それだけで、あとは身に任せるだけでいい。
 たった1つの制約。マツナガという男を生け捕りにする。
 それ以外は、何をしても、いい。
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