知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
426 / 627
第4章 ジャンヌの西進

間章5 澪標愛良(オムカ王国プレイヤー)

しおりを挟む
 全てが成り行きだった。
 事故で死んで、気づいたら変な世界にいて。まさか戦争をやってるとは思わなかったから、驚いた。
 正直言うと怖かった。それでもなんとか生き延びて、軍隊に保護された。

 そこでこの世界がとんでもないものだと知る。

 オレも元の世界では相当やんちゃをやってた。
 仲間と一緒に二輪を走らせ、風を全身に受けていると生きてると感じた。

 まぁ、そのせいで死んでしまったわけだけど。
 愛梨沙を一人にしてしまったわけだけど。

 それがすごい心残りだった。
 いきなりオレが消えてしまったのだ。まだ赤ん坊で、独りでは生きていけないあの子が哀れで。

 せめてチームの誰かが心配してみてくれればと思うけど、愛梨沙が成人するまでずっと面倒をみてくれるわけがない。
 最悪、そのまま施設に送られるかもしれない。
 そう思うと、居ても立っても居られなくなった。

 けど帰り方が分からない。そもそも死んでしまったのだから帰るもなにもないのだ。

 そんな時に会ったのが、あのジャンヌ・ダルクとかいう少女。
 一目見た時から、気に食わなかった。

 別に好き嫌いで言ってるわけじゃない。
 あんな少女が、大の男に囲まれて、しかも指示しているのを見て、ものすごい違和感を感じたのだ。

 愛梨沙をダブらせたのかもしれない。
 だからなるべく接しないようにした。

 けど、玖門竜胆という子に、彼女が実は年上で、しかも元の世界に戻ろうとしているというのを聞いて心が揺れた。
 彼女についていけば元の世界に戻れる。
 愛梨沙とまた一緒になれる。

 そう思ったら、駄目だった。

 けど、オレなんかがいてどうこうなるものじゃない。
 それは分かっていた。

 彼女たちは戦争をしていた。
 歴史の教科書か、遠いテレビの向こうにしかないと思っていた戦争というもの。
 それがこの日常としてある。

 そこにオレの居場所はなかった。
 いくら突っ張ってたとはいっても、所詮は命のやり取りじゃない。
 彼女たちに比べれば、どれほど自分が甘い覚悟でいたかを思い知らされた。

 オレにできるのは料理とか裁縫とか、そういうことくらいしかできないから、せめて追い出されないように手伝っていた。
 けどそんな時だ。
 竜胆とちょっとしたことから知り合った里奈っていう子。
 彼女たちが味方にいるスパイを探しているということを聞いた。

 そこで気にかかったのが桑折景斗こおりけいと、オレと一緒に保護された、同じ世界から来た人間だ。

 最初に会った時から、どこかずれている感触を得ていた。
 笑っているのに笑っていない。
 驚いているのに驚いていない。
 喜んでいるのに喜んでいない。
 そんな言葉にできない違和感。

 だから誰にも話せなかったが、それが気になって、ジャンヌ・ダルクと一緒に出かけた時に気になってついていった。
 そうしたら、殺されかけていた。
 あのジャンヌ・ダルクが。
 元の世界に戻るための、唯一の希望が。

 それからは必死だった。必死に戦って、必死に追い返して、それで彼女の知己ちきを得た。
 それだけで満足だった。そして色々あって、オレは今、オムカ王国の王都バーベルというところにいる。

 そこでジャンヌ・ダルクは別世界から来た人々――プレイヤーというらしい、を集めて情報の共有をしてくれた。
 この大陸にある4つの国。それをすべて統一すれば元の世界に戻れるということ。
 今、大国であるエイン帝国と争っていること。
 そしてオレたちプレイヤーにはスキルがあり、それは戦局を一変させるほどの力があるということ。
 そして各国にはそのプレイヤーが多くいて、そのプレイヤー同士の争いでもあるということ。

 そんなの、ゲームとか出来の悪い三文映画かと思ったけど、今まで見てきたことを考えるとそういうものなのだと納得した。
 プレイヤーのまとめ役とも言える彼女は、オレたちにこのままオムカにとどまってほしいと申し出た。オレにはもちろん異論はなかった。
 というより、行く当てがなかったのもあった。

 それからジャンヌ・ダルクは、それぞれのプレイヤーに家を用意してくれた。
 そこにいてくれるだけでいいと言われたが、それはあまりにも苦痛だった。

 愛梨沙のために1秒でも早く元の世界に戻りたい。
 そのためにはただ待つだけのことなんてできなかった。

 けど何をすればいいのかわからない。
 だから竜胆に聞いてみると、

「じゃあ働きましょう! 先輩の国を元気にして恩返しする、それが正義ジャスティスなのです!」

 まさかの就活をすることになった。
 一応オレにもバイトの経験くらいはある。だからやってやれないことはないと思った。

 のだが。

 圧倒的に誤算だった。
 まさかこの世界にはコンロもトーストも電子レンジもミシンも何もなかった。
 そう、オレがやってきたのは現代世界だからこそ通用するものであって、機械文明が発達していないころでは役に立たない才能だったわけで。

 それだけならまだいい。
 一番の原因が、「怖い」ということで不採用になった。

 レディースのアタマを張ってる以上、他から舐められるわけにはいかないから、意図的に怖さを演じたこともある。
 けど普段の仲間といる時は愛嬌もよかったと思うし、愛梨沙をあやすときを考えると笑顔にも自信があった。

 だからそれを立花さん――もとい里奈と竜胆に相談すると、

「えっと、そうだね……ちょっと、眉間にしわが寄りすぎ、かな?」

「はい! いつもメンチ切ってる感じです!」

「ちょ、竜胆! 本当のことを言っちゃ……あっ、違うの。えっと、その……もうちょっと自然に笑えると、いい、かな?」

 正直ショックだった。
 まさかオレは怖い部類に入る人間だったなんて。

 けど彼女たちは優しかった。

「ちょっとあきひ――ジャンヌに聞いてみるね」

 そう里奈が言ってくれたのは嬉しかった。
 同時に自分の無力さに腹が立った。

 そして数日。
 返ってきたのが、

「孤児院?」

「そう。前にこの王国もスラムがあって、身寄りのない子供がいっぱいいたみたいなの。ほら、戦争してるでしょ。だから親を亡くした子供が多いんだって」

 親を亡くした子供。その言葉が胸に刺さる。
 愛梨沙もオレという親を亡くした子供なんだと思うと、胸がギュッと締め付けられる。

「その子供たちを集めた孤児院を作ったんだけど、人手が足りなくて、よかったらそこで働かないかって」

「いいですね! その子供たちに正義ジャスティス教育をして、世間に正義ジャスティスを広めましょう!」

「うん、ちょっとジャスティスはおいておこうか、竜胆」

 正直、迷いはあった。
 愛梨沙と同じ子供たち。そんな彼らを救いたいと思っている。
 けど、彼らを見たら愛梨沙を思い出してしまう。

 忘れていいわけじゃない。
 けど、愛梨沙を思うと怖くなる。今、愛梨沙がどうしてるか。元気でやってるのか。大丈夫なのか。
 そんな思いをしたくないから、卑怯だけど行きたくない思いがあった。
 何より怖かったのかもしれない。
 そんな子供たちに「怖い」と言われてしまえば、きっとオレは立ち上がれないほどのダメージを受けるだろうから。

 けど、結局行くことにした。

「お子さんのこと、聞いてます。私はまだちょっと分からないけど、辛いってことも。だから少しでも、愛良さんの安らぎになればって。辛い思いばかり考えていると、心が摩耗まもうしてしまうから」

 そんな里奈の言葉に後押しされたからだ。
 でも一人じゃ怖くて、里奈と竜胆に一緒に行ってくれないかと頼んだら、二つ返事で快諾してくれた。

 孤児院はそこまで大きくなく、50人くらいの子供たちとそれを世話する保母さん的立場の女性が3人という規模だった。

 彼女たちはオレたちを見てホッと安堵したように思えた。
 その安堵が戦力として見られたからなのか、聞くほどではないと思われたからなのかはわからなかった。

 けど、そこからが戦場だった。
 言うことを聞かない子供たち。いじめたいじめないという喧嘩。おもちゃの奪い合いに、転んで擦りむいた子や病気の子の介護。

 その子たちを見ると、愛梨沙はなんておとなしい子なんだろうと思えた。
 さらに不安に思っていた「怖い」は初日に言われた。

「お姉ちゃん、こわいー!」

 ショックだった。
 けど、保母さんや里奈の後押しもあり、根気よく接していると、それまでの「怖い」よりどこか違うニュアンスに聞こえたのだ。

 その時、思った。
 子供たちは、表層的なものよりもっと内面を見る。そう考えると、自分は果たして心から笑っていたのだろうか。

 竜胆は子供たちと年来の友達のように遊ぶ。

「むむ! こうなったら正義ジャスティス仮面が成敗です!」

「なにをー! こっちはジャンヌ・ダルクが相手だー!」

「ぐわー、やられたー、先輩には勝てぬのですー、竜胆は正義ジャスティスに死す!」

 ……あれは、真似できない。
 いや、無理に真似をする必要はない。

 オレの特技。それを活かせばいい。
 そう思った。

 だから一から料理を学び直した。
 レンジもコンロも炊飯器もない世界で一から学ぶのはとても大変だった。けど保母さんにも手伝ってもらい、野菜の皮むきを学びなおし、里奈に頼んで外来品らしいスパイスや香料をいくつか入手した。

 さすがにカレー粉というものは存在しない。
 それでも一時期、健康と美容に良いということで、スパイスからオリジナルカレーを作ることがチーム内で流行り、そこで学んだことが活きた。
 なんとか試行錯誤を繰り返して、ついに完成したカレーを孤児院の皆にふるまったのだ。

「美味しい!」「なにこれ! すげー、うめー!」

 辛さをかなり控えめにしたのが良かったのかもしれない。
 子供たちの心からの笑顔。
 それを見れたとき、オレも心から笑えた。

「あ、お姉ちゃんが笑った!」

「お姉ちゃんきれいだね」

 子供たちにそう言われ、なんだか恥ずかしくなって、顔をそむけた。涙が出てきた。

 愛梨沙。お母さん、ここでも頑張れるみたい。
 だから待ってて。もう少しで帰れるから。

 心の底からそう思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...