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第5章 帝国決戦
第21話 実地検証
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翌朝、俺たちはノザーン砦を後にした。
昨日の昼食後にヨジョー城目指して馬を走らせる予定だったが、今日の出立になった。
改めてノザーン砦の周辺を改めて調査しようと思ったのだ。
結論から言えば、やはりノザーン砦での防衛はなかなかに厳しいことが分かった。
2万が籠れると言っても、それは一時的なものであって、生活空間を犠牲にしてそれだけが籠れるということ。
つまり持久戦になれば居住性の悪さから士気がどんどん落ちることになる。
帝国は近くに小さな砦を2つ築いて、そこに分散させて兵力を維持していたが、それも今は焼かれている。
まぁそもそも2万なんて大軍をここに常駐させる兵力がないからどうしようもないんだけど。
厳しい理由はほかにもある。
平地のど真ん中にある平城ということだ。
それはつまり大軍に包囲されやすいということ。
そして大砲などの攻城兵器を展開されやすいということ。
各方面に1万ずつ展開されて、そこからバカスカ大砲を撃たれるだけでこの砦は簡単に落ちる。
そしてそれを行える兵力を帝国は持っているのだ。
だからここでの防衛は無理。というか兵力の無駄。
もしここまで敵が迫ったら、火を放って王都に逃れろ、とハルスさんに言ったが、
「王都を守るため、たとえ全滅しようとも戦うのみです」
その答えに俺は何も言えなくなった。
王都のため――王都に残した家族たちのため、少しでも敵を減らして勝機を作る。
その覚悟が分かったからだ。
その覚悟を背負って、俺は翌朝に砦を出た。
この場所まで敵を引き込んではいけない。
あの人の好い、そして有能な隊長とその部下たちを犬死にさせてはいけない。
また1つ加わった、負けられない理由を胸に、俺は黙然と馬を北へ走らせる。
この辺りも平原が続く。
50万――実質30万もの敵がこの平原を進めば、ちょっとやそっとじゃ崩せない。
帝国から補給線が伸びるので、そこを突けばと思うが、その時にはヨジョー城が補給ポイントになるので、おいそれと手は出せないだろう。
かといってヨジョー城に迫る前に敵の補給線を寸断することも考えるのも難しい。
俺たちの築いた4つの砦に対し、帝国は城を築いたのは前に見た通り。
しかもそれだけではない。
帝国は帝都に至るまでの道――俺たちが去年通った場所だ――に、3つの城塞を築いたというイッガーの報告が追加であった。
つまり兵糧の輸送距離が短くなり、襲いづらくなったということ。
これでヨジョー城から打って出て、補給線をつぶすということは難しくなった。
となるとやはりヨジョー城、そして対岸の4つの砦がキーとなるか。
とはいえ相手は前代未聞の30万という軍勢。
それをあの砦で防げるのか?
いくら防備を固めたといっても、平地に築かれているのは変わりない。砲兵が耕し歩兵が収穫する、という陸軍の基礎を行われれば手も足も出ない。その大砲を狙おうにも、数万もの人間の壁が容易に突破を許さないだろうから。
仮にそこで打撃を与えたとしても、こちらにも相応の犠牲が出る。
犠牲の点で言えば、1人の損失が敵の10倍以上の損失になる。
だから犠牲を承知で突撃など無謀なことはできない。
では野戦か、と考えるがそれは論外。
3万の軍勢など、30万の前には一飲みだろう。
大軍に兵法なし。
兵力が相手に勝っているなら、下手に小細工せずとも正面から当たれば勝てるという、戦の本質とも言える言葉だ。
ただそれはどちらかというと戦術ではなく戦略レベルの話になってくる。
いかに大軍を率いる環境を整え、大軍が展開に有利な場所で戦端を開き、大軍による兵力差で敵を撃滅するか。それに腐心するために、古来より政略と国家の運営は一つになっていた。
もちろん俺もそれを分かっていたから、国力を増させるために色々手を打ったが……。
さすがに政治力と時間が足りなすぎた。
というか、そもそも自分は戦術レベルの戦いが得意なタイプだ。
史実の諸葛亮が戦術家ではなく戦略家と言われるのとは、まったく逆なわけで。なんともまぁ皮肉な話だ。
とはいえないものねだりしても仕方ない。
現状に至ってはもはや戦術レベルの話で、あるいは戦う場所と開戦の機会をこちらで主導権がとれるのなら、それはもう俺の領域だ。
そのための視察ではあるんだけど……。
正直、絶望的な気分しか襲ってこないのが現状だ。
「ここら辺は、まだひどいですね……」
マールが周囲を見回しながら言う。
なるほど。彼女の言うひどい部分とは、見わたせば分かる。
平原の中に、ひび割れた部分や段差となった部分がそこかしこに見えるのだ。
去年にヨジョー地方を襲った大地震のせいだ。
ここら辺にも田畑があったようだが、住民は避難したか、別の場所に移り住んだかしたのだろう。
昔のように人が住み、田畑が蘇るには数年を必要とするはずで、改めて自然の恐ろしさを感じた。
そこからさらに北に行くと、大地の崩壊は激しさを増していた。
前回、ここを通った時にはあまり気にしなかったが、地形を見ながらなのでその激しさが際立つ。
そして俺は、運命のポイントを探り当てる。
「ここは……」
そこはヨジョー城とノザーン砦の間の、ヨジョー城よりの場所。
遠くにヨジョー城が見える辺りだ。
『古の魔導書』を開き、地図と見比べる。
右手に山、左手に森が見えるといっても数キロは続くだろう広大な平原。
そこに変化が起きていた。
平原の右寄り、山に近いところに、大きな大地の切れ目ができているのだ。
去年に起きた地震の名残だろう。地図で見る限り1キロほども続く断層で、広いところでは2メートル近い割れ目があるらしい。
それだけでない。
地面が割れた影響で、一部分は1メートル近く隆起しているようだ。
俺がその断層を眺めていると、横からウィットが声に出した。
「あちら側から撃ちおろせば一方的に攻撃できるんじゃないですか?」
さすがウィットだ。
そう、この断層はいわば一種の天然の堀。しかも深さは無限大というおまけつき。
この隆起した部分に陣取れば、相手は落ちればどこに行くか分からない堀を飛び越えて、しかも隆起した壁をヤモリのように登っていかなければならない。
ある意味鉄壁の防壁だ。
だがもちろん欠点はある。
「でもこっちも鉄砲と矢で撃たれたらおしまいじゃない?」
クロエが何も考えていないようで、その弱点を突いた。
「と、当然だ。貴様に言われるまでもない。だから…………そうだ、隊長はここに砦を築くつもりですね!?」
「え、でも普通に回り込まれたら終わりじゃない? 時間かかるけど戻れば断層のないところから砦側に回れるし。ちょっとした高台になってるってことは、出口押さえられたら袋のネズミになるし」
それもまさしくその通り。
「そ、それなら北のところに柵を設ければ――」
「相手は北から来るんでしょ? 先に柵を壊されて終わり。しかも柵があるってことはそっちに敵がいるってことだから、砦側を進軍してくるんじゃない?」
「…………」
ウィットは考えを巡らせているようだが、何も思い浮かばないようだ。
うん、ここらへんかな。
「ウィットの考えは間違ってない。この地形を活用しようという発想は当然のものだ」
あからさまな擁護だったが、それでもウィットは胸をなでおろしたように見えた。
ここで全然ダメとか言ったら、それこそウィットは再起不能になるかもしれないわけで。
実際、ウィットの策も悪くないのだ。
だが、それにしては前提条件が色々悪すぎた。
相手は30万もいるのだ。
ちょっとやそっとを倒しただけでも全体に影響はないし、部隊を分けるなんて何ら問題ない。
だからそれだけだと無理。
あといくつかの策を組み合わせていかなければ、オムカ全土が蹂躙される羽目になる。
だからこそのこの地形。平地が多いこの辺りで、偶然出来た天然の要所。
ここを活かせず、帝国軍などに勝てるわけがない。
「ちょっと一列に向こうに並んでくれないか?」
俺は旗下の500騎を平地に並べた。
実際に30万がここを通る時、どういう状態になるかを見ておきたかった。
それぞれの間は1メートル弱を開けさせて騎兵が並ぶ。
こちらの端は断層の1メートルほど手前。
その反対の端はというと、
「森の辺りまで来るのか」
500騎を横に並べて通れるほどの隙間。
それで30万なら600列になるわけで。
うぅん、そんな行列。
想像しただけでますます絶望しそうになる。
いや、諦めたら駄目だ。
シンクシンクシンク。
考えろ。
考えることは神が人間に与えた最強の武器だ。
考えることがあまねく与えられた平等の力。
考えることで凡人は天才を打倒しうる。
考えぬけ。さすれば与えられん。
「だーかーらー、ここら辺に爆雷を埋めて、一気にドカンってするの! そうすれば勝ちでしょ!」
「馬鹿か、貴様! そんな見え見えの罠に誰がかかるか。やっぱりさっきのはまぐれだったようだな」
「ウィットが囮になって全力でここに逃げ込むの。そうすればウィットごとドカンでしょ」
「俺を殺す気か!?」
「まーまー、でも罠ってのは悪くないんじゃないかなー。こう、弓の部隊で一気にさ」
「それ、お前が活躍したいだけじゃないのか、ルック」
「あははーばれたかー」
「それより補給を断つのがいいんじゃない? 相手は30万でしょ?」
「マールは食事になると張り切るからねー」
「ち、違うわよルック! これは大軍に対する基本じゃない!」
「相手もそれは予測してるだろ。なんせ相手は50万。5万を補給の護衛につけられたらこっちは手も足も出ないぞ」
「それに相手からしたら王都まであと少しだからねー。補給を断たれても王都を落せば問題ないんじゃないかなー」
「うっ……」
「ウィットのくせに真面目ぶって、生意気!」
「貴様は真面目に考えろ!」
こいつら……。
なんだかんだでクロエたちがこうやって交し合う議論は刺激になる。
欠けていたジグソーパズルに、彼女たちの手でピースをはめられるような思いだ。
頭が回るのが分かる。
足りなかったピース。
埋められたピース。
今度の戦いの絵が頭の中に構築されていく。
…………うん。
おおまかなところだけど、これならいけそうだ。
あとは詳細を詰めて、ヨジョー城にいるサカキに色々指示して、それぞれと相談していけば事足りる。
「よし、それでいこう」
「隊長殿! 何か思いついたんですか!?」
クロエを筆頭に、こちらに勢いよく振り向いた彼らの眼には期待と信頼の色が見える。
重いな。
けど、彼らの期待に応えられなければ、彼らに未来は永遠に閉ざされることになる。
死なせたくない。
元の世界に戻るとかこの世界に残るとか今は関係ない。
ただ彼らを死なせたくない。
王都にいる皆を守りたい。
ただその思いだけで俺は――人を殺す。
なんて矛盾。
人を守るために人を殺すなんて。
けどそれがこの世界。
今の状況。
だというのなら、俺は――
昨日の昼食後にヨジョー城目指して馬を走らせる予定だったが、今日の出立になった。
改めてノザーン砦の周辺を改めて調査しようと思ったのだ。
結論から言えば、やはりノザーン砦での防衛はなかなかに厳しいことが分かった。
2万が籠れると言っても、それは一時的なものであって、生活空間を犠牲にしてそれだけが籠れるということ。
つまり持久戦になれば居住性の悪さから士気がどんどん落ちることになる。
帝国は近くに小さな砦を2つ築いて、そこに分散させて兵力を維持していたが、それも今は焼かれている。
まぁそもそも2万なんて大軍をここに常駐させる兵力がないからどうしようもないんだけど。
厳しい理由はほかにもある。
平地のど真ん中にある平城ということだ。
それはつまり大軍に包囲されやすいということ。
そして大砲などの攻城兵器を展開されやすいということ。
各方面に1万ずつ展開されて、そこからバカスカ大砲を撃たれるだけでこの砦は簡単に落ちる。
そしてそれを行える兵力を帝国は持っているのだ。
だからここでの防衛は無理。というか兵力の無駄。
もしここまで敵が迫ったら、火を放って王都に逃れろ、とハルスさんに言ったが、
「王都を守るため、たとえ全滅しようとも戦うのみです」
その答えに俺は何も言えなくなった。
王都のため――王都に残した家族たちのため、少しでも敵を減らして勝機を作る。
その覚悟が分かったからだ。
その覚悟を背負って、俺は翌朝に砦を出た。
この場所まで敵を引き込んではいけない。
あの人の好い、そして有能な隊長とその部下たちを犬死にさせてはいけない。
また1つ加わった、負けられない理由を胸に、俺は黙然と馬を北へ走らせる。
この辺りも平原が続く。
50万――実質30万もの敵がこの平原を進めば、ちょっとやそっとじゃ崩せない。
帝国から補給線が伸びるので、そこを突けばと思うが、その時にはヨジョー城が補給ポイントになるので、おいそれと手は出せないだろう。
かといってヨジョー城に迫る前に敵の補給線を寸断することも考えるのも難しい。
俺たちの築いた4つの砦に対し、帝国は城を築いたのは前に見た通り。
しかもそれだけではない。
帝国は帝都に至るまでの道――俺たちが去年通った場所だ――に、3つの城塞を築いたというイッガーの報告が追加であった。
つまり兵糧の輸送距離が短くなり、襲いづらくなったということ。
これでヨジョー城から打って出て、補給線をつぶすということは難しくなった。
となるとやはりヨジョー城、そして対岸の4つの砦がキーとなるか。
とはいえ相手は前代未聞の30万という軍勢。
それをあの砦で防げるのか?
いくら防備を固めたといっても、平地に築かれているのは変わりない。砲兵が耕し歩兵が収穫する、という陸軍の基礎を行われれば手も足も出ない。その大砲を狙おうにも、数万もの人間の壁が容易に突破を許さないだろうから。
仮にそこで打撃を与えたとしても、こちらにも相応の犠牲が出る。
犠牲の点で言えば、1人の損失が敵の10倍以上の損失になる。
だから犠牲を承知で突撃など無謀なことはできない。
では野戦か、と考えるがそれは論外。
3万の軍勢など、30万の前には一飲みだろう。
大軍に兵法なし。
兵力が相手に勝っているなら、下手に小細工せずとも正面から当たれば勝てるという、戦の本質とも言える言葉だ。
ただそれはどちらかというと戦術ではなく戦略レベルの話になってくる。
いかに大軍を率いる環境を整え、大軍が展開に有利な場所で戦端を開き、大軍による兵力差で敵を撃滅するか。それに腐心するために、古来より政略と国家の運営は一つになっていた。
もちろん俺もそれを分かっていたから、国力を増させるために色々手を打ったが……。
さすがに政治力と時間が足りなすぎた。
というか、そもそも自分は戦術レベルの戦いが得意なタイプだ。
史実の諸葛亮が戦術家ではなく戦略家と言われるのとは、まったく逆なわけで。なんともまぁ皮肉な話だ。
とはいえないものねだりしても仕方ない。
現状に至ってはもはや戦術レベルの話で、あるいは戦う場所と開戦の機会をこちらで主導権がとれるのなら、それはもう俺の領域だ。
そのための視察ではあるんだけど……。
正直、絶望的な気分しか襲ってこないのが現状だ。
「ここら辺は、まだひどいですね……」
マールが周囲を見回しながら言う。
なるほど。彼女の言うひどい部分とは、見わたせば分かる。
平原の中に、ひび割れた部分や段差となった部分がそこかしこに見えるのだ。
去年にヨジョー地方を襲った大地震のせいだ。
ここら辺にも田畑があったようだが、住民は避難したか、別の場所に移り住んだかしたのだろう。
昔のように人が住み、田畑が蘇るには数年を必要とするはずで、改めて自然の恐ろしさを感じた。
そこからさらに北に行くと、大地の崩壊は激しさを増していた。
前回、ここを通った時にはあまり気にしなかったが、地形を見ながらなのでその激しさが際立つ。
そして俺は、運命のポイントを探り当てる。
「ここは……」
そこはヨジョー城とノザーン砦の間の、ヨジョー城よりの場所。
遠くにヨジョー城が見える辺りだ。
『古の魔導書』を開き、地図と見比べる。
右手に山、左手に森が見えるといっても数キロは続くだろう広大な平原。
そこに変化が起きていた。
平原の右寄り、山に近いところに、大きな大地の切れ目ができているのだ。
去年に起きた地震の名残だろう。地図で見る限り1キロほども続く断層で、広いところでは2メートル近い割れ目があるらしい。
それだけでない。
地面が割れた影響で、一部分は1メートル近く隆起しているようだ。
俺がその断層を眺めていると、横からウィットが声に出した。
「あちら側から撃ちおろせば一方的に攻撃できるんじゃないですか?」
さすがウィットだ。
そう、この断層はいわば一種の天然の堀。しかも深さは無限大というおまけつき。
この隆起した部分に陣取れば、相手は落ちればどこに行くか分からない堀を飛び越えて、しかも隆起した壁をヤモリのように登っていかなければならない。
ある意味鉄壁の防壁だ。
だがもちろん欠点はある。
「でもこっちも鉄砲と矢で撃たれたらおしまいじゃない?」
クロエが何も考えていないようで、その弱点を突いた。
「と、当然だ。貴様に言われるまでもない。だから…………そうだ、隊長はここに砦を築くつもりですね!?」
「え、でも普通に回り込まれたら終わりじゃない? 時間かかるけど戻れば断層のないところから砦側に回れるし。ちょっとした高台になってるってことは、出口押さえられたら袋のネズミになるし」
それもまさしくその通り。
「そ、それなら北のところに柵を設ければ――」
「相手は北から来るんでしょ? 先に柵を壊されて終わり。しかも柵があるってことはそっちに敵がいるってことだから、砦側を進軍してくるんじゃない?」
「…………」
ウィットは考えを巡らせているようだが、何も思い浮かばないようだ。
うん、ここらへんかな。
「ウィットの考えは間違ってない。この地形を活用しようという発想は当然のものだ」
あからさまな擁護だったが、それでもウィットは胸をなでおろしたように見えた。
ここで全然ダメとか言ったら、それこそウィットは再起不能になるかもしれないわけで。
実際、ウィットの策も悪くないのだ。
だが、それにしては前提条件が色々悪すぎた。
相手は30万もいるのだ。
ちょっとやそっとを倒しただけでも全体に影響はないし、部隊を分けるなんて何ら問題ない。
だからそれだけだと無理。
あといくつかの策を組み合わせていかなければ、オムカ全土が蹂躙される羽目になる。
だからこそのこの地形。平地が多いこの辺りで、偶然出来た天然の要所。
ここを活かせず、帝国軍などに勝てるわけがない。
「ちょっと一列に向こうに並んでくれないか?」
俺は旗下の500騎を平地に並べた。
実際に30万がここを通る時、どういう状態になるかを見ておきたかった。
それぞれの間は1メートル弱を開けさせて騎兵が並ぶ。
こちらの端は断層の1メートルほど手前。
その反対の端はというと、
「森の辺りまで来るのか」
500騎を横に並べて通れるほどの隙間。
それで30万なら600列になるわけで。
うぅん、そんな行列。
想像しただけでますます絶望しそうになる。
いや、諦めたら駄目だ。
シンクシンクシンク。
考えろ。
考えることは神が人間に与えた最強の武器だ。
考えることがあまねく与えられた平等の力。
考えることで凡人は天才を打倒しうる。
考えぬけ。さすれば与えられん。
「だーかーらー、ここら辺に爆雷を埋めて、一気にドカンってするの! そうすれば勝ちでしょ!」
「馬鹿か、貴様! そんな見え見えの罠に誰がかかるか。やっぱりさっきのはまぐれだったようだな」
「ウィットが囮になって全力でここに逃げ込むの。そうすればウィットごとドカンでしょ」
「俺を殺す気か!?」
「まーまー、でも罠ってのは悪くないんじゃないかなー。こう、弓の部隊で一気にさ」
「それ、お前が活躍したいだけじゃないのか、ルック」
「あははーばれたかー」
「それより補給を断つのがいいんじゃない? 相手は30万でしょ?」
「マールは食事になると張り切るからねー」
「ち、違うわよルック! これは大軍に対する基本じゃない!」
「相手もそれは予測してるだろ。なんせ相手は50万。5万を補給の護衛につけられたらこっちは手も足も出ないぞ」
「それに相手からしたら王都まであと少しだからねー。補給を断たれても王都を落せば問題ないんじゃないかなー」
「うっ……」
「ウィットのくせに真面目ぶって、生意気!」
「貴様は真面目に考えろ!」
こいつら……。
なんだかんだでクロエたちがこうやって交し合う議論は刺激になる。
欠けていたジグソーパズルに、彼女たちの手でピースをはめられるような思いだ。
頭が回るのが分かる。
足りなかったピース。
埋められたピース。
今度の戦いの絵が頭の中に構築されていく。
…………うん。
おおまかなところだけど、これならいけそうだ。
あとは詳細を詰めて、ヨジョー城にいるサカキに色々指示して、それぞれと相談していけば事足りる。
「よし、それでいこう」
「隊長殿! 何か思いついたんですか!?」
クロエを筆頭に、こちらに勢いよく振り向いた彼らの眼には期待と信頼の色が見える。
重いな。
けど、彼らの期待に応えられなければ、彼らに未来は永遠に閉ざされることになる。
死なせたくない。
元の世界に戻るとかこの世界に残るとか今は関係ない。
ただ彼らを死なせたくない。
王都にいる皆を守りたい。
ただその思いだけで俺は――人を殺す。
なんて矛盾。
人を守るために人を殺すなんて。
けどそれがこの世界。
今の状況。
だというのなら、俺は――
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