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第5章 帝国決戦
第36話 誤算
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ヨジョー城をにらんで、こちらは野営した。
20万ちかい人数を対岸に渡すのは時間がかかるとして、明け渡しを明朝に指定されたからだ。
こちらとしては無理に急かして逆襲される可能性を考えると、黙って見ているしかない。
待っていればタダでヨジョー城を返してもらえるのだから、藪蛇なことはしない方がいい。
一応、約束を反故にする可能性も踏まえて夜襲の対策をとったまま休んだ。
負傷兵は先に王都に返すことになったので、サカキは王都への途上だろう。
そして夜が明け、ヨジョー城の東門が開き、そこから残った帝国軍10万ほどが外に出てきた。
その段階でもまだ敵の方が多いから、一瞬身構えたが、彼らはしずしずと北上して筏に乗って対岸へと渡っていった。
「どうやら約束は守るらしいですね」
ジルがつぶやく。
「ああ。シータも来てるって話だからな」
シータ王国の軍船が来て川を封鎖すれば、退路を失ったヨジョー城は立ち枯れる。
帝国からしても、ギリギリの撤退だったのだ。
「偵察の兵を向かわせます。およそ2時間後には入城できるでしょう」
「ん、頼む」
一応、相手の置き土産がある可能性も考えてのことだ。
何度か自分がやった戦術だから、それに引っかかったらバカみたいだし、慎重に慎重を重ねるのは悪くない。
やがて偵察により城内が安全と見られたようで、俺たちはヨジョー城に入る。
「久しぶりに帰ってきた感じですねー」
「そうだな」
クロエの感想に同意する。
数日いなかっただけだが、確かにこの帰ってきた感はなんだろう。
ここ1年にわたり対帝国に対する最前線になっていたから、しょっちゅうここには世話になったわけで。
「とりあえず敵が本当に退いたのかを確認だな。それから城内をもう一度徹底的に洗いなおして、安全を確保。それから各自交代で休憩を取りつつ、あぁ、城外に避難していた住民たちを戻さないとな」
「あの皇帝はどうします、隊長殿?」
「ん、そうだな。どこかそれなりのところで大人しくしてもらおう。じゃあクロエと……マール、頼む」
「がーん、やぶへび!」
「…………はい」
いつも通りのクロエに対し、マールが少し元気ない、か?
それでも真面目なマールのことだから、心配はないだろう。
俺とジル、ニーアにアズ将軍は政庁に入って、今後のことを話し合うことになった。
出入口はサールが固めているから、不審者が入ることもない。
「我々南群の軍は、一度帰国しようと思います。もちろん正式に和睦の見通しが立ってからですが」
「そうですね、そうしていただけると助かります」
俺たちが帝国と和睦すれば、その同盟国である南群の彼らの国も帝国と和睦ということになる。
そうなればここにいる必要もないわけで。ただ、和睦が破綻したとき、すぐに呼び出せないのは痛いが仕方ない。
「ちなみに、オムカ王国は今後どうするのでしょうか?」
アズ将軍が半ば不安に、半ば好奇心で聞いてきた。
ここで和睦した後のことを考えているのだろう。
それに対して答えるのはジルだ。
「まだ分かりません。そもそもの和睦についても、一度王都に持ち帰り、女王様と方針を決めなくては」
「そう、ですよね」
アズ将軍が肩を落とす。
彼としても一国の軍を預かるわけだから、この後の展開が気になるのも当然だ。
「ところであの皇帝ですが……なんというか、独特な方ですね」
話がひと段落した後、アズ将軍はそう切り出した。
どうやら彼も、俺たちと同じように思ったらしい。
「ええ、そうですね」
こちらとしては苦笑せざるを得ない。
トップがあれで、一番の大国で軍事力を持っているというのだから。もう不公平だ。
「身の安全は問題ありませんか? ここでもし、彼が殺されるなんてことにでもなれば……」
アズ将軍の懸念も分かる。
あの皇帝は、曲がりなりにもこちらのジョーカーだ。
人質にしておくことで意味があるのだから、死んでしまっては元も子もない。
というよりそれは最悪の事態だ。
皇帝が死んだとなれば、それを大義名分に帝国は全面攻勢をしてくる可能性がある。
我らが皇帝を殺したオムカを倒せ、という大義名分を手に入れるわけだ。
そうなってしまっては正直、かなり厳しいことになる。
だから皇帝は虜囚の身でありながら、その健康や命には最大限に守らなければならない。
「それは、大丈夫でしょう。こちらも腕利きを護衛にしてますから」
そう、クロエとマールがついていればよほどの相手でなければ問題ない。
それにその周囲にはクロエの隊も展開してるから、心配はないのだが。
その時、ニーアが思いついたように声をあげた。
「でもさ、クロクロはまだしも、マルルは危ないんじゃない?」
「マールが?」
ニーアの言葉に首をひねる。
「聞いたところによると、あの子。好きな人を殺されたんでしょ?」
「っ!」
馬鹿か、俺は。
そうだ。そうだった。
好きな人なのか微妙なところだが、気になる相手のザインが殺されたのは間違いない。
背景を鑑みれば帝国に殺されたと言っても過言ではないのだ。
そしてザインを殺した帝国、その象徴でもある皇帝は、マールからしてみれば恰好の復讐の相手。
そんなマールを、あろうこと警護に回すだなんて。
迂闊。
というか、人の心を読むスキルを持っていながら、なんて体たらくだ。
慢心なのか、それともそもそも他人の心が分からないのか。
どちらにせよ知力99が聞いてあきれる。
「ジャンヌ」
「分かってる、ニーア。すぐ行く! ジル、後は任せた」
「承知しました」
そのまま政庁から外に出る。
くそ、くそくそ。
本当に何やってんだ。
自分から災いの種をばらまいて。
それで家が燃えたら笑い話じゃすまないぞ。
頼む、早まらないでくれ。
そう祈りながら、皇帝が軟禁されている建物へと急いだ。
20万ちかい人数を対岸に渡すのは時間がかかるとして、明け渡しを明朝に指定されたからだ。
こちらとしては無理に急かして逆襲される可能性を考えると、黙って見ているしかない。
待っていればタダでヨジョー城を返してもらえるのだから、藪蛇なことはしない方がいい。
一応、約束を反故にする可能性も踏まえて夜襲の対策をとったまま休んだ。
負傷兵は先に王都に返すことになったので、サカキは王都への途上だろう。
そして夜が明け、ヨジョー城の東門が開き、そこから残った帝国軍10万ほどが外に出てきた。
その段階でもまだ敵の方が多いから、一瞬身構えたが、彼らはしずしずと北上して筏に乗って対岸へと渡っていった。
「どうやら約束は守るらしいですね」
ジルがつぶやく。
「ああ。シータも来てるって話だからな」
シータ王国の軍船が来て川を封鎖すれば、退路を失ったヨジョー城は立ち枯れる。
帝国からしても、ギリギリの撤退だったのだ。
「偵察の兵を向かわせます。およそ2時間後には入城できるでしょう」
「ん、頼む」
一応、相手の置き土産がある可能性も考えてのことだ。
何度か自分がやった戦術だから、それに引っかかったらバカみたいだし、慎重に慎重を重ねるのは悪くない。
やがて偵察により城内が安全と見られたようで、俺たちはヨジョー城に入る。
「久しぶりに帰ってきた感じですねー」
「そうだな」
クロエの感想に同意する。
数日いなかっただけだが、確かにこの帰ってきた感はなんだろう。
ここ1年にわたり対帝国に対する最前線になっていたから、しょっちゅうここには世話になったわけで。
「とりあえず敵が本当に退いたのかを確認だな。それから城内をもう一度徹底的に洗いなおして、安全を確保。それから各自交代で休憩を取りつつ、あぁ、城外に避難していた住民たちを戻さないとな」
「あの皇帝はどうします、隊長殿?」
「ん、そうだな。どこかそれなりのところで大人しくしてもらおう。じゃあクロエと……マール、頼む」
「がーん、やぶへび!」
「…………はい」
いつも通りのクロエに対し、マールが少し元気ない、か?
それでも真面目なマールのことだから、心配はないだろう。
俺とジル、ニーアにアズ将軍は政庁に入って、今後のことを話し合うことになった。
出入口はサールが固めているから、不審者が入ることもない。
「我々南群の軍は、一度帰国しようと思います。もちろん正式に和睦の見通しが立ってからですが」
「そうですね、そうしていただけると助かります」
俺たちが帝国と和睦すれば、その同盟国である南群の彼らの国も帝国と和睦ということになる。
そうなればここにいる必要もないわけで。ただ、和睦が破綻したとき、すぐに呼び出せないのは痛いが仕方ない。
「ちなみに、オムカ王国は今後どうするのでしょうか?」
アズ将軍が半ば不安に、半ば好奇心で聞いてきた。
ここで和睦した後のことを考えているのだろう。
それに対して答えるのはジルだ。
「まだ分かりません。そもそもの和睦についても、一度王都に持ち帰り、女王様と方針を決めなくては」
「そう、ですよね」
アズ将軍が肩を落とす。
彼としても一国の軍を預かるわけだから、この後の展開が気になるのも当然だ。
「ところであの皇帝ですが……なんというか、独特な方ですね」
話がひと段落した後、アズ将軍はそう切り出した。
どうやら彼も、俺たちと同じように思ったらしい。
「ええ、そうですね」
こちらとしては苦笑せざるを得ない。
トップがあれで、一番の大国で軍事力を持っているというのだから。もう不公平だ。
「身の安全は問題ありませんか? ここでもし、彼が殺されるなんてことにでもなれば……」
アズ将軍の懸念も分かる。
あの皇帝は、曲がりなりにもこちらのジョーカーだ。
人質にしておくことで意味があるのだから、死んでしまっては元も子もない。
というよりそれは最悪の事態だ。
皇帝が死んだとなれば、それを大義名分に帝国は全面攻勢をしてくる可能性がある。
我らが皇帝を殺したオムカを倒せ、という大義名分を手に入れるわけだ。
そうなってしまっては正直、かなり厳しいことになる。
だから皇帝は虜囚の身でありながら、その健康や命には最大限に守らなければならない。
「それは、大丈夫でしょう。こちらも腕利きを護衛にしてますから」
そう、クロエとマールがついていればよほどの相手でなければ問題ない。
それにその周囲にはクロエの隊も展開してるから、心配はないのだが。
その時、ニーアが思いついたように声をあげた。
「でもさ、クロクロはまだしも、マルルは危ないんじゃない?」
「マールが?」
ニーアの言葉に首をひねる。
「聞いたところによると、あの子。好きな人を殺されたんでしょ?」
「っ!」
馬鹿か、俺は。
そうだ。そうだった。
好きな人なのか微妙なところだが、気になる相手のザインが殺されたのは間違いない。
背景を鑑みれば帝国に殺されたと言っても過言ではないのだ。
そしてザインを殺した帝国、その象徴でもある皇帝は、マールからしてみれば恰好の復讐の相手。
そんなマールを、あろうこと警護に回すだなんて。
迂闊。
というか、人の心を読むスキルを持っていながら、なんて体たらくだ。
慢心なのか、それともそもそも他人の心が分からないのか。
どちらにせよ知力99が聞いてあきれる。
「ジャンヌ」
「分かってる、ニーア。すぐ行く! ジル、後は任せた」
「承知しました」
そのまま政庁から外に出る。
くそ、くそくそ。
本当に何やってんだ。
自分から災いの種をばらまいて。
それで家が燃えたら笑い話じゃすまないぞ。
頼む、早まらないでくれ。
そう祈りながら、皇帝が軟禁されている建物へと急いだ。
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