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第5章 帝国決戦
第41話 不死身の男
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国としての方針が決まると、さらなる詳細を詰めるため重臣たちの会議が持たれた。
だがそこに俺の席はない。
俺は一介の軍師でしかないから重臣ではなく、また戦場以外のところでの発言権はあまりない。
だから政治的な話には俺が介入する余地はないのだ。
先立っては講和の話を受けた人間として、またマリアに意見を求められる形で応答をしたが、本来の俺の職務としては範囲外の話だったりしたのだ。
だからマリアたちがあーだこーだ話し合いをするようになると、俺はお払い箱になるわけで――
「よぉ、ジャンヌ! 未来の嫁よ、お見舞いに来てくれたのか!」
見舞いはその通りなんだけど帰りたくなった。
誰が未来の嫁だ。
サカキが入院している病院に立ち寄ったわけだけど、意に反してというか相変わらずというか。
手術も終わったらしく、全身包帯は卒業して、まぁなんというかピンピンしていた。
「不死身だな、お前」
見舞いの適当に買った南国っぽいフルーツを棚に置くと、ベッドの横の椅子に座る。
「そりゃあジャンヌと結婚するまでは死ねないからな」
「じゃあ俺と結婚したら死ぬんだな」
「馬鹿言うな。その年で未亡人にしてたまるか。その時はジャンヌのために死ねないことになるんだよ」
へいへい。お熱いことで。
と他人事のように思うのも、1つの発見があった。
たとえ男相手だとしても、面と向かってそう言われるのは悪い気がしないのであって。
というか、腹立たしいことに嬉しい。てか顔が熱い。赤面してないよな、俺。
「へへっ、顔真っ赤にして。カワイイじゃねぇか」
「ば、馬鹿っ。ただの風邪だよ」
「じゃあ俺が暖めてやるよ。ほら、ベッドに……ぐほっ! ちょ、待った! マジで傷口が……」
はぁ、本当こいつは変わらない。
出会った時からこうもへらへらと。
「なぁ、ジャンヌ」
「なんだよ」
「講和、するのか」
急なまじめなトーンで振られて、俺は一瞬息をのんだ。
だがここで嘘を言ってもしょうがない。
なにせ、こいつのおかげで講和の交渉まで持ち込めたと言っても過言じゃないからだ。
「ああ、講和する」
「……そうか」
小さくため息。
サカキにとって、いや、オムカ王国に住む人たちにとって、それはとても悔しいことなのだろう。
これまで帝国に支配され、虐げられてきて、ようやく復讐できるところまで来て、争いはやめましょうだもんな。
正直、俺は部外者だから、そういったところまでは共感できない。
だから彼らの感情を抜きにして結論を出してしまったことに、少し後ろ暗い思いもある。
「あのな、サカキ――」
「いいんじゃねぇか」
「え?」
「帝国と講和。いいんじゃねぇか」
サカキが、こちらをじっと見て、そしてニカっと笑う。
「ま、正直若干殴り足りねぇところはあるけどよ。まぁ現実的に考えて、ここらが引き際だろ」
なんら迷いもなく、後悔もなく。
悔しさも苦しみも無念さも歯がゆさもなにもなく、ただただ笑顔のまま、サカキはそう頷く。
「何より、ジャンヌが辛い思いをしなくていいなら、それでいい」
なんでそこで俺の話になる?
だってお前たちの話じゃないか。
俺は今はここにいると言っても、俺はいわば部外者。
なのにまさか反帝国の急先鋒と思っていた男がそう言うとは思わず、俺はうまく口が回らない。頭も回らない。
「何を……」
「ジャンヌは優しいからよ。誰かが死ぬのが耐えられない優しい子だからよ」
「そんな、俺が優しいとか」
「そうじゃなきゃ、俺たちを死なせないために戦わねーよ。死んだやつのことをいつまでも後悔してねーよ。第一、俺なんかを心配してこねぇよ」
「それは……別に普通だろ。そんな死ぬとか、嫌だし」
「まぁな。けどそれはジャンヌが言う、そっちの世界の都合だろ。こっちの世界は全然そんなんじゃない。だからよ。ジャンヌにはそのままでいて欲しいんだよ。この世界を、少しでも良いようにするために。お前はお前のままでいてくれ」
サカキがそんなことまで考えていたのか、と少し意外だった。
「だから俺は講和には賛成だ。ジャンヌが、悲しまない世界であるなら。今のままでいられる世界になるなら、俺はそれでいい」
「サカキ……」
「それに――俺が好きになったのは、そんなジャンヌだからよ」
いつもの暑苦しさはなく、どこかさわやかで、あぁこういう大人の男に俺はなりたかったな、なんてことを思わせる笑顔。
ある意味自然体。
ある意味イケメン。
クール系のジルの反対。
体育会系というかパッション系のイケメン。
……はぁ。
「……お前のそういう、告白? 何回目だよ。集めたらプレゼントもらえんのかよ」
「いや、俺はそういう……っいてて……」
無理に動こうとして傷口が痛んだらしい、腹を押さえるサカキ。
「ばーか。大人しくしてろよ」
「ジャンヌぅ……」
まったく、情けない声出すなよ。
俺が、男なのに俺が、ちょっと心揺さぶられたんだからさ。
もっと、そのしっかりとした風でいてくれよ。
だから苦笑し、踵を返して、
「ありがとな。そういうお前、好きだぞ」
「……え? いや、おい、ちょっと待て、なんつった、ジャンヌ!? うぉあ! お、落ちた……き、傷が……」
言った後に急に恥ずかしさがこみあげてきて、そのまま病室から逃げるように外に出る。
背後では派手に大きなものが地面に落ちた音。
あぁ、くそ。
次会う時、どういう顔すればいいんだよ。
でも、少し心が軽くなった。
俺を後押ししてくれる人がいる。
大きな決断を前に、それだけでも俺には心の安らぎになった。
だがそこに俺の席はない。
俺は一介の軍師でしかないから重臣ではなく、また戦場以外のところでの発言権はあまりない。
だから政治的な話には俺が介入する余地はないのだ。
先立っては講和の話を受けた人間として、またマリアに意見を求められる形で応答をしたが、本来の俺の職務としては範囲外の話だったりしたのだ。
だからマリアたちがあーだこーだ話し合いをするようになると、俺はお払い箱になるわけで――
「よぉ、ジャンヌ! 未来の嫁よ、お見舞いに来てくれたのか!」
見舞いはその通りなんだけど帰りたくなった。
誰が未来の嫁だ。
サカキが入院している病院に立ち寄ったわけだけど、意に反してというか相変わらずというか。
手術も終わったらしく、全身包帯は卒業して、まぁなんというかピンピンしていた。
「不死身だな、お前」
見舞いの適当に買った南国っぽいフルーツを棚に置くと、ベッドの横の椅子に座る。
「そりゃあジャンヌと結婚するまでは死ねないからな」
「じゃあ俺と結婚したら死ぬんだな」
「馬鹿言うな。その年で未亡人にしてたまるか。その時はジャンヌのために死ねないことになるんだよ」
へいへい。お熱いことで。
と他人事のように思うのも、1つの発見があった。
たとえ男相手だとしても、面と向かってそう言われるのは悪い気がしないのであって。
というか、腹立たしいことに嬉しい。てか顔が熱い。赤面してないよな、俺。
「へへっ、顔真っ赤にして。カワイイじゃねぇか」
「ば、馬鹿っ。ただの風邪だよ」
「じゃあ俺が暖めてやるよ。ほら、ベッドに……ぐほっ! ちょ、待った! マジで傷口が……」
はぁ、本当こいつは変わらない。
出会った時からこうもへらへらと。
「なぁ、ジャンヌ」
「なんだよ」
「講和、するのか」
急なまじめなトーンで振られて、俺は一瞬息をのんだ。
だがここで嘘を言ってもしょうがない。
なにせ、こいつのおかげで講和の交渉まで持ち込めたと言っても過言じゃないからだ。
「ああ、講和する」
「……そうか」
小さくため息。
サカキにとって、いや、オムカ王国に住む人たちにとって、それはとても悔しいことなのだろう。
これまで帝国に支配され、虐げられてきて、ようやく復讐できるところまで来て、争いはやめましょうだもんな。
正直、俺は部外者だから、そういったところまでは共感できない。
だから彼らの感情を抜きにして結論を出してしまったことに、少し後ろ暗い思いもある。
「あのな、サカキ――」
「いいんじゃねぇか」
「え?」
「帝国と講和。いいんじゃねぇか」
サカキが、こちらをじっと見て、そしてニカっと笑う。
「ま、正直若干殴り足りねぇところはあるけどよ。まぁ現実的に考えて、ここらが引き際だろ」
なんら迷いもなく、後悔もなく。
悔しさも苦しみも無念さも歯がゆさもなにもなく、ただただ笑顔のまま、サカキはそう頷く。
「何より、ジャンヌが辛い思いをしなくていいなら、それでいい」
なんでそこで俺の話になる?
だってお前たちの話じゃないか。
俺は今はここにいると言っても、俺はいわば部外者。
なのにまさか反帝国の急先鋒と思っていた男がそう言うとは思わず、俺はうまく口が回らない。頭も回らない。
「何を……」
「ジャンヌは優しいからよ。誰かが死ぬのが耐えられない優しい子だからよ」
「そんな、俺が優しいとか」
「そうじゃなきゃ、俺たちを死なせないために戦わねーよ。死んだやつのことをいつまでも後悔してねーよ。第一、俺なんかを心配してこねぇよ」
「それは……別に普通だろ。そんな死ぬとか、嫌だし」
「まぁな。けどそれはジャンヌが言う、そっちの世界の都合だろ。こっちの世界は全然そんなんじゃない。だからよ。ジャンヌにはそのままでいて欲しいんだよ。この世界を、少しでも良いようにするために。お前はお前のままでいてくれ」
サカキがそんなことまで考えていたのか、と少し意外だった。
「だから俺は講和には賛成だ。ジャンヌが、悲しまない世界であるなら。今のままでいられる世界になるなら、俺はそれでいい」
「サカキ……」
「それに――俺が好きになったのは、そんなジャンヌだからよ」
いつもの暑苦しさはなく、どこかさわやかで、あぁこういう大人の男に俺はなりたかったな、なんてことを思わせる笑顔。
ある意味自然体。
ある意味イケメン。
クール系のジルの反対。
体育会系というかパッション系のイケメン。
……はぁ。
「……お前のそういう、告白? 何回目だよ。集めたらプレゼントもらえんのかよ」
「いや、俺はそういう……っいてて……」
無理に動こうとして傷口が痛んだらしい、腹を押さえるサカキ。
「ばーか。大人しくしてろよ」
「ジャンヌぅ……」
まったく、情けない声出すなよ。
俺が、男なのに俺が、ちょっと心揺さぶられたんだからさ。
もっと、そのしっかりとした風でいてくれよ。
だから苦笑し、踵を返して、
「ありがとな。そういうお前、好きだぞ」
「……え? いや、おい、ちょっと待て、なんつった、ジャンヌ!? うぉあ! お、落ちた……き、傷が……」
言った後に急に恥ずかしさがこみあげてきて、そのまま病室から逃げるように外に出る。
背後では派手に大きなものが地面に落ちた音。
あぁ、くそ。
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