知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
492 / 627
第5章 帝国決戦

閑話22 椎葉達臣(エイン帝国プレイヤー)

しおりを挟む
 その日。煌夜が帝国にいるプレイヤーを教会に集めた。

 堂島元帥に長浜大将軍はオムカに備えるということで欠席しているが、仁藤という男にクリスティーヌとかいう女性とその横に黒服の執事っぽい人。
 あと東部戦線から戻ってきたらしい飛鳥馬あすまという長身の男が離れて座り、ほか、顔も名前も知らない何人かがバラバラと座っている。

 今年に入ってから現れた新参者だろう。
 とはいえ、前から堂島元帥とやり取りがあったとはいえ、煌夜の元に来たのが去年末の自分も彼らとそう変わらないといえば変わらないわけだが。

 そして蒼月麗明は当然のごとく、無表情に無言で煌夜の隣に控えていた。

 その約10名ほどが、帝国にいるプレイヤーのすべてだ。

 これが多いのか少ないのか。
 他国の情勢をすべて知るわけではないが、オムカとシータ共に5、6人ということだからプレイヤーの数でも帝国の方が圧倒しているのは間違いのないことだろう。
 その誰もが意欲も英気も自分より勝っているだろうから、もう言うことはない。

 今日、煌夜が彼らを集めた理由。
 いよいよオムカへの最終攻勢か、とか、元の世界に戻れる日は近いとか彼らは思っているだろう。

 だが事情を知っている自分としては、そのどちらでもないと分かり切っている分、彼らとは一線を画して事態を眺めていられるが、どこか釈然としないもやもやが胸中にあるのは否めない。

 それもそのはず。
 先日言われたことがやはりまだ尾を引いているのだ。

 強敵として名があがっていたジャンヌ・ダルクが写楽明彦だったということ。
 そして彼を追って里奈がここから出ていったということ。
 そしてこの世界の本質について。

 本当に煌夜は僕に厳しい。
 それを人は信用と取るのかもしれないけど、僕みたいな無能者にはていよくこき使われている感もあるわけで。

 まぁ、それでも煌夜を恨むなんてことはないけど。

 そんなことを考えていると、煌夜が全員に向かって切り出した。

「これより私は、オムカ王国との講和の話し合いに出かけます」

 その宣言にざわめきが走る。
 煌夜の目的を知っている者、知らない者。
 それぞれの思惑があるのだろう。

「ですがこれは戦いの終わりではありません。元の世界にもどるにせよ、この世界で生きるにせよ、倒さなければならない敵がいるのです」

 煌夜はそこで一度言葉を切る。
 目を閉じ、そして次に開いた時には柔和な笑みの中に恐ろしい光を見つけることができた。

「皆さんもご存じ、転生の女神と名乗る女です」

 誰もが息をのむ。
 散々聞かされてきたことだが、この局面、この状況に聞かされるのでは重みが違う。
 いよいよか、という想いが来るのだ。

「それで? 俺たちは何すればいい?」

 見知らぬ若い男のプレイヤーが聞く。
 それに同調するように、何人もが頷くのが見えた。

「そうですね。来たるべき決戦に向けて準備を。おそらくオムカと和議がなれば、すぐにでも女神との戦いに入ると、私の予言にも出ていますので」

 煌夜の予言。
 スキルのうちの1つだと聞くが、果たしてそれがどれほどのものかは知らない。ただ聞くところによると的中率100%というのだから、これはもうその通りなのだろう。

「けど1つ質問なんだけど」

 別の女性が手を挙げた。

「なんでしょう?」

「女神と戦うって、どうなるの? 元の世界に戻るってのはできなくなるってことでしょ?」

 それはもっともな疑問だろう。
 この中には元の世界に戻るためにこの陣営に身を投じた人も多いだろうから。

 自分?
 さぁ、少なくとも今は分からないな。

「心配ありません。私のスキル運命定めるデスティニーズ生命の系統樹・セフィロトの最終到達である『世界』の道にたどり着けば、必ず皆さんを元の世界に戻すと約束しましょう」

 おお、と安堵の息が漏れる。

 それからこまごまとした話が続いたが、自分の意識は他事に呑まれていた。

 オムカと講和。
 そしてオムカと共に女神を倒す。

 煌夜のやることに反対はしない。
 自分なんかがしゃしゃり出てもろくな結末にならないし、慣れないことをするだけでも苦しいことになる。

 けど、果たしてそれがいいのか。

 オムカ王国。
 そこにあいつがいる。
 里奈もいる。

 あの2人と再会した時、自分は果たしてどう思い、どう行動するのか。

「浮かない顔をしているね」

 集会が終わり、煌夜の部屋に呼ばれた直後、そう切り出された。

「それは、あの2人のことを聞かされればね」

「それはすまなかった。では聞かせない方がよかったかな」

「いや、そうしたら何で言わなかったと慣れない詰め寄りをしていた。だからこれでいいさ」

「そうか、ならいい」

 そっけない煌夜の返答。
 こちらの返答を見越して伝えたのでは? と考えてしまう。

「ところで彼らだが――」

 これ以上追及されると困るので、話を切り替えた。
 今日初めて顔を見た新たなプレイヤーたちのことだ。

「ああ、新人たちのことか。あれは駄目だね。ただ帰れるということに目を輝かせて、この世界を見極められない愚者ばかりだ。まぁ女神に対しての囮の役目くらいはしてくれるだろう」

「それは……」

 ひどい言い様だが、それが効果的だとは認めざるを得ない。
 ただ、ここまで人を切り捨てるような人間だったか、少し疑問に感じてしまう。あるいは、年末の引きこもりに影響があるのか。

「非道だと思うかい?」

「正直、少しは」

「その正直さ。好ましいものだよ。けどこれも仕方ないのさ。あの女神と戦うんだ。我々をこの世界に呼び出し、そして戦わせる諸悪の根源。すべての起源にして原初の神。そんな相手に、犠牲ゼロで勝てると思うほど私はうぬぼれていない」

「厳しい戦いになるのか?」

「ああ」

「ではせいぜい切り捨てられる立場にならないようにしないと」

「まさか。私が君を切り捨てるなど」

「それでも、目的のためならばそうする。僕はそう信じてるよ」

「ふっ……奇妙な信頼というのもあるものだな。ああ、その時はそうさせてもらおう」

 不敵に笑う煌夜を見て、どこか安心している自分がいる。
 どんな先が待とうとも、この男がきっと導いてくれる。
 明彦と里奈のことも、すべてうまくいく。

 そう思ってやまなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...