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第5章 帝国決戦
閑話22 椎葉達臣(エイン帝国プレイヤー)
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その日。煌夜が帝国にいるプレイヤーを教会に集めた。
堂島元帥に長浜大将軍はオムカに備えるということで欠席しているが、仁藤という男にクリスティーヌとかいう女性とその横に黒服の執事っぽい人。
あと東部戦線から戻ってきたらしい飛鳥馬という長身の男が離れて座り、ほか、顔も名前も知らない何人かがバラバラと座っている。
今年に入ってから現れた新参者だろう。
とはいえ、前から堂島元帥とやり取りがあったとはいえ、煌夜の元に来たのが去年末の自分も彼らとそう変わらないといえば変わらないわけだが。
そして蒼月麗明は当然のごとく、無表情に無言で煌夜の隣に控えていた。
その約10名ほどが、帝国にいるプレイヤーのすべてだ。
これが多いのか少ないのか。
他国の情勢をすべて知るわけではないが、オムカとシータ共に5、6人ということだからプレイヤーの数でも帝国の方が圧倒しているのは間違いのないことだろう。
その誰もが意欲も英気も自分より勝っているだろうから、もう言うことはない。
今日、煌夜が彼らを集めた理由。
いよいよオムカへの最終攻勢か、とか、元の世界に戻れる日は近いとか彼らは思っているだろう。
だが事情を知っている自分としては、そのどちらでもないと分かり切っている分、彼らとは一線を画して事態を眺めていられるが、どこか釈然としないもやもやが胸中にあるのは否めない。
それもそのはず。
先日言われたことがやはりまだ尾を引いているのだ。
強敵として名があがっていたジャンヌ・ダルクが写楽明彦だったということ。
そして彼を追って里奈がここから出ていったということ。
そしてこの世界の本質について。
本当に煌夜は僕に厳しい。
それを人は信用と取るのかもしれないけど、僕みたいな無能者にはていよくこき使われている感もあるわけで。
まぁ、それでも煌夜を恨むなんてことはないけど。
そんなことを考えていると、煌夜が全員に向かって切り出した。
「これより私は、オムカ王国との講和の話し合いに出かけます」
その宣言にざわめきが走る。
煌夜の目的を知っている者、知らない者。
それぞれの思惑があるのだろう。
「ですがこれは戦いの終わりではありません。元の世界にもどるにせよ、この世界で生きるにせよ、倒さなければならない敵がいるのです」
煌夜はそこで一度言葉を切る。
目を閉じ、そして次に開いた時には柔和な笑みの中に恐ろしい光を見つけることができた。
「皆さんもご存じ、転生の女神と名乗る女です」
誰もが息をのむ。
散々聞かされてきたことだが、この局面、この状況に聞かされるのでは重みが違う。
いよいよか、という想いが来るのだ。
「それで? 俺たちは何すればいい?」
見知らぬ若い男のプレイヤーが聞く。
それに同調するように、何人もが頷くのが見えた。
「そうですね。来たるべき決戦に向けて準備を。おそらくオムカと和議がなれば、すぐにでも女神との戦いに入ると、私の予言にも出ていますので」
煌夜の予言。
スキルのうちの1つだと聞くが、果たしてそれがどれほどのものかは知らない。ただ聞くところによると的中率100%というのだから、これはもうその通りなのだろう。
「けど1つ質問なんだけど」
別の女性が手を挙げた。
「なんでしょう?」
「女神と戦うって、どうなるの? 元の世界に戻るってのはできなくなるってことでしょ?」
それはもっともな疑問だろう。
この中には元の世界に戻るためにこの陣営に身を投じた人も多いだろうから。
自分?
さぁ、少なくとも今は分からないな。
「心配ありません。私のスキル運命定める生命の系統樹の最終到達である『世界』の道にたどり着けば、必ず皆さんを元の世界に戻すと約束しましょう」
おお、と安堵の息が漏れる。
それからこまごまとした話が続いたが、自分の意識は他事に呑まれていた。
オムカと講和。
そしてオムカと共に女神を倒す。
煌夜のやることに反対はしない。
自分なんかがしゃしゃり出てもろくな結末にならないし、慣れないことをするだけでも苦しいことになる。
けど、果たしてそれがいいのか。
オムカ王国。
そこにあいつがいる。
里奈もいる。
あの2人と再会した時、自分は果たしてどう思い、どう行動するのか。
「浮かない顔をしているね」
集会が終わり、煌夜の部屋に呼ばれた直後、そう切り出された。
「それは、あの2人のことを聞かされればね」
「それはすまなかった。では聞かせない方がよかったかな」
「いや、そうしたら何で言わなかったと慣れない詰め寄りをしていた。だからこれでいいさ」
「そうか、ならいい」
そっけない煌夜の返答。
こちらの返答を見越して伝えたのでは? と考えてしまう。
「ところで彼らだが――」
これ以上追及されると困るので、話を切り替えた。
今日初めて顔を見た新たなプレイヤーたちのことだ。
「ああ、新人たちのことか。あれは駄目だね。ただ帰れるということに目を輝かせて、この世界を見極められない愚者ばかりだ。まぁ女神に対しての囮の役目くらいはしてくれるだろう」
「それは……」
ひどい言い様だが、それが効果的だとは認めざるを得ない。
ただ、ここまで人を切り捨てるような人間だったか、少し疑問に感じてしまう。あるいは、年末の引きこもりに影響があるのか。
「非道だと思うかい?」
「正直、少しは」
「その正直さ。好ましいものだよ。けどこれも仕方ないのさ。あの女神と戦うんだ。我々をこの世界に呼び出し、そして戦わせる諸悪の根源。すべての起源にして原初の神。そんな相手に、犠牲ゼロで勝てると思うほど私はうぬぼれていない」
「厳しい戦いになるのか?」
「ああ」
「ではせいぜい切り捨てられる立場にならないようにしないと」
「まさか。私が君を切り捨てるなど」
「それでも、目的のためならばそうする。僕はそう信じてるよ」
「ふっ……奇妙な信頼というのもあるものだな。ああ、その時はそうさせてもらおう」
不敵に笑う煌夜を見て、どこか安心している自分がいる。
どんな先が待とうとも、この男がきっと導いてくれる。
明彦と里奈のことも、すべてうまくいく。
そう思ってやまなかった。
堂島元帥に長浜大将軍はオムカに備えるということで欠席しているが、仁藤という男にクリスティーヌとかいう女性とその横に黒服の執事っぽい人。
あと東部戦線から戻ってきたらしい飛鳥馬という長身の男が離れて座り、ほか、顔も名前も知らない何人かがバラバラと座っている。
今年に入ってから現れた新参者だろう。
とはいえ、前から堂島元帥とやり取りがあったとはいえ、煌夜の元に来たのが去年末の自分も彼らとそう変わらないといえば変わらないわけだが。
そして蒼月麗明は当然のごとく、無表情に無言で煌夜の隣に控えていた。
その約10名ほどが、帝国にいるプレイヤーのすべてだ。
これが多いのか少ないのか。
他国の情勢をすべて知るわけではないが、オムカとシータ共に5、6人ということだからプレイヤーの数でも帝国の方が圧倒しているのは間違いのないことだろう。
その誰もが意欲も英気も自分より勝っているだろうから、もう言うことはない。
今日、煌夜が彼らを集めた理由。
いよいよオムカへの最終攻勢か、とか、元の世界に戻れる日は近いとか彼らは思っているだろう。
だが事情を知っている自分としては、そのどちらでもないと分かり切っている分、彼らとは一線を画して事態を眺めていられるが、どこか釈然としないもやもやが胸中にあるのは否めない。
それもそのはず。
先日言われたことがやはりまだ尾を引いているのだ。
強敵として名があがっていたジャンヌ・ダルクが写楽明彦だったということ。
そして彼を追って里奈がここから出ていったということ。
そしてこの世界の本質について。
本当に煌夜は僕に厳しい。
それを人は信用と取るのかもしれないけど、僕みたいな無能者にはていよくこき使われている感もあるわけで。
まぁ、それでも煌夜を恨むなんてことはないけど。
そんなことを考えていると、煌夜が全員に向かって切り出した。
「これより私は、オムカ王国との講和の話し合いに出かけます」
その宣言にざわめきが走る。
煌夜の目的を知っている者、知らない者。
それぞれの思惑があるのだろう。
「ですがこれは戦いの終わりではありません。元の世界にもどるにせよ、この世界で生きるにせよ、倒さなければならない敵がいるのです」
煌夜はそこで一度言葉を切る。
目を閉じ、そして次に開いた時には柔和な笑みの中に恐ろしい光を見つけることができた。
「皆さんもご存じ、転生の女神と名乗る女です」
誰もが息をのむ。
散々聞かされてきたことだが、この局面、この状況に聞かされるのでは重みが違う。
いよいよか、という想いが来るのだ。
「それで? 俺たちは何すればいい?」
見知らぬ若い男のプレイヤーが聞く。
それに同調するように、何人もが頷くのが見えた。
「そうですね。来たるべき決戦に向けて準備を。おそらくオムカと和議がなれば、すぐにでも女神との戦いに入ると、私の予言にも出ていますので」
煌夜の予言。
スキルのうちの1つだと聞くが、果たしてそれがどれほどのものかは知らない。ただ聞くところによると的中率100%というのだから、これはもうその通りなのだろう。
「けど1つ質問なんだけど」
別の女性が手を挙げた。
「なんでしょう?」
「女神と戦うって、どうなるの? 元の世界に戻るってのはできなくなるってことでしょ?」
それはもっともな疑問だろう。
この中には元の世界に戻るためにこの陣営に身を投じた人も多いだろうから。
自分?
さぁ、少なくとも今は分からないな。
「心配ありません。私のスキル運命定める生命の系統樹の最終到達である『世界』の道にたどり着けば、必ず皆さんを元の世界に戻すと約束しましょう」
おお、と安堵の息が漏れる。
それからこまごまとした話が続いたが、自分の意識は他事に呑まれていた。
オムカと講和。
そしてオムカと共に女神を倒す。
煌夜のやることに反対はしない。
自分なんかがしゃしゃり出てもろくな結末にならないし、慣れないことをするだけでも苦しいことになる。
けど、果たしてそれがいいのか。
オムカ王国。
そこにあいつがいる。
里奈もいる。
あの2人と再会した時、自分は果たしてどう思い、どう行動するのか。
「浮かない顔をしているね」
集会が終わり、煌夜の部屋に呼ばれた直後、そう切り出された。
「それは、あの2人のことを聞かされればね」
「それはすまなかった。では聞かせない方がよかったかな」
「いや、そうしたら何で言わなかったと慣れない詰め寄りをしていた。だからこれでいいさ」
「そうか、ならいい」
そっけない煌夜の返答。
こちらの返答を見越して伝えたのでは? と考えてしまう。
「ところで彼らだが――」
これ以上追及されると困るので、話を切り替えた。
今日初めて顔を見た新たなプレイヤーたちのことだ。
「ああ、新人たちのことか。あれは駄目だね。ただ帰れるということに目を輝かせて、この世界を見極められない愚者ばかりだ。まぁ女神に対しての囮の役目くらいはしてくれるだろう」
「それは……」
ひどい言い様だが、それが効果的だとは認めざるを得ない。
ただ、ここまで人を切り捨てるような人間だったか、少し疑問に感じてしまう。あるいは、年末の引きこもりに影響があるのか。
「非道だと思うかい?」
「正直、少しは」
「その正直さ。好ましいものだよ。けどこれも仕方ないのさ。あの女神と戦うんだ。我々をこの世界に呼び出し、そして戦わせる諸悪の根源。すべての起源にして原初の神。そんな相手に、犠牲ゼロで勝てると思うほど私はうぬぼれていない」
「厳しい戦いになるのか?」
「ああ」
「ではせいぜい切り捨てられる立場にならないようにしないと」
「まさか。私が君を切り捨てるなど」
「それでも、目的のためならばそうする。僕はそう信じてるよ」
「ふっ……奇妙な信頼というのもあるものだな。ああ、その時はそうさせてもらおう」
不敵に笑う煌夜を見て、どこか安心している自分がいる。
どんな先が待とうとも、この男がきっと導いてくれる。
明彦と里奈のことも、すべてうまくいく。
そう思ってやまなかった。
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