知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第55話 和平交渉6・世界が変わる

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 女神の言葉と同時、周囲の様子が変わった。

 ――ような気がした。

 いや、気のせいだったのかもしれない。
 周囲に変化はないように思えた。

 いや、あるいは外か?

「アッキー?」

 水鏡の不審をよそに、俺は席を立って外に出た。

 昼下がりの砦。
 そして少し離れた位置に置かれたベンチに、2人の人物が座っていた。

「ジャンヌ! もう終わったのかの!?」

 マリアだ。
 その横のニーアもこちらに気づいて、こちらに視線を向けてきた。

「なに? まだちんたらやってるわけ?」

「いや、そうじゃなく。その……何か変わらなかったか?」

「は? 何言ってんだか」

「んー、特に変わったことはなかったのじゃ」

 変わってない?
 じゃあさっきのあの女神はなんだったんだ?

「ジャンヌ?」

 マリアが心配そうに聞いてくる。
 彼女に心配をかけるわけにはいかないと、俺はすぐに頭を切り替えた。

「いや、なんか変な感じがしたんだ。けど何もないようならいい」

「そう、なのじゃ……」

「そんな顔するな。もうすぐ一区切りつくから。そうしたらまた呼ぶよ」

「ん……」

 俺はマリアとニーアの視線から逃げるように、再び陣幕の中に入る。
 再び視線が俺に集まる。だが誰もが何が起きたのかわかっていないようで、困惑した視線を向けてくるだけだ。

 事の張本人を除いて。

「おかえり、アッキー。いきなり飛び出してどうしたのかなー?」

「お前、何をした?」

「いや? 別に? ただちょーっとスキルを発動したくなっただけっていうかー」

「なんだそのちょっとタバコ吸いに行ってたみたいな感じ。そんなわけないだろ」

「ええ、『限界幻怪世界リミテッド・ファンタズム・ワールド』。麗明が持っていたスキルで、自らが望んだ世界を作り上げるというものです。以前、貴女が帝都にいらしたとき、ご存じのはずです」

 煌夜の説明に納得する。
 帝都の時というと、俺が捕らえられた時のことか。確かにあの時、謎の空間に囚われていた。

「つまり、何をしました? 人のスキルを勝手に使って」

 煌夜が凄みを聞かせて女神をにらむ。

「えー? でもこれってもともとわたしが与えたものだしー? ま、いっか。『限界幻怪世界リミテッド・ファンタズム・ワールドかい』は『限界幻怪世界リミテッド・ファンタズム・ワールド』を文字通り改修した発展スキルでね。世界だけを変える無印とは違って、原則ルール自体に変革をもたらす『かい』は、これはもうね……すごいのよ? もはやもう単なるスキルじゃなく、私専用……そう、もう女神スキルと呼んでもいいわね!」

「相変わらずの語彙力でまったくわからん」

 というか、もう付き合うだけで時間の無駄感が半端ない。
 もうこれ無視して話を進めていいんじゃないかな?

「というわけで講和の話は進めていいのか?」

「ええ。その後に麗明を助けるために知恵をお貸し願いたい」

「ちょっとちょっとちょぉーっとぉ! なにこの女神ちゃんを無視して話進めるのかな!? いじめ? これって悪質ないじめですか!? パワハラモラハラセクハラの三段活用かな!? ビッグビガービゲストなのかな!?」

「女神、うるさい」

 てか本当に中身変わらないな。
 今の見た目は清楚系のお嬢様なのに、このバカテンションはちょっと色々違和感しかない。

「うぅ……もういいもん。講和とかなんか、勝手にやって勝手にみんな死んじゃえばいいんだ」

 とんでもないことを言っていじけ始めたぞ、この女神。

 はぁ……こんなのが神とか、世界を滅ぼすとか。
 信じられないというか、荒唐無稽というか、なんというか、子供だよな。

 けど仕方ない。

 俺は煌夜に目線で聞くと、彼も仕方なく頷いた。
 一応、不審な言動ゆえに確認しておこうという気持ちは分かってくれたようだ。

「で? なんなんだよ、その廻だとか原則ルールがどうとか」

「よくぞ聞いてくれました! それでこそわたしのアッキー! もうどうにでもして!」

「そういうのいいから」

 煌夜の敵意に満ちた視線が痛い。
 俺がそんなことするわけないだろうに。ったく。

「えっとねー。リミテッドなんとかかんとか廻はねー」

 もはやスキル名すらうろ覚えだった。
 もうこいつの話、聞かなくていいよね。どうせどうでもいい、こいつに都合の良い適当なルールでも作ったんだろうし。

「この世界の原則ルールを変えたの。今年中に大陸を統一する国が現れないと、世界が滅びるって」

 ほら、やっぱり。世界が滅ぶとか、どうでもいいルールが…………。

「はぁ!?」

「お、いいねー。ナイスリアクション!」

「ナイスじゃ……いや、待て。なんだ、その……滅びる!?」

「イエース! もうきれいさっぱり跡形もなく滅んでもらった方が、色々面倒ないしね!」

 跡形もなく滅ぶ。
 それって……俺たちも、なのか?

「そりゃもちろん。世界が滅ぶのに生き残りがいるわけないでしょ。ここにいる全員も外にいる人も、国にいる人も。老若男女、プレイヤー非プレイヤー関わらず全て、虚空のかなたに消え去ってもらうから。それで2周目……もとい18942周目かな? その世界から始めようってね。もちろんそこには今ここにいる人も、アッキーたちプレイヤーもいない世界だけど」

 馬鹿な。
 そんなゲームみたいにリセットボタンを押して世界が繰り返すみたいなことが……。

「できるよ。だって、わたし神だもん」

 ある意味最強の言い訳だ。
 けどこいつに至っては嘘とは言い切れないものがある。

「……何のために、そんなことを」

「決まってるじゃん。女神は見てるのが楽しいんだよ。人間たちが醜く争っている様を。トロイア戦争しかり、殷周革命しかり、アーサー王しかり」

 トロイア戦争のパリスの審判。
 殷周革命の蘇妲己そだっき
 アーサー王のグィネヴィア。

 全部、女性がらみの戦争が起こっている。

「お前がやったってのか」

「もっちろん! じゃなきゃアキレスとかヘクトールとかガウェインみたいな超人とか、仙人とか出てこないっしょ、普通に考えて」

「まさか、スキル……あれもプレイヤーだと!?」

「だいせいかーい。そう、地球って世界で行われたいくつもの神話、伝説とかはもうプレイヤーの実験場だったわけ。よくたどり着いたね、世界の真実に。褒めてしんぜよう」

「ふっ、ざけるな! そんなこと……そんな、こと。人間をなんだと思ってる!」

「言ったでしょ? 面白シチュエーションを見せてくれるかもしれない存在だって。大事な演者キャストなんだからさ」

「そのために、何人、いや、何万人死んだ!?」

「貴様は今まで食べたパンの枚数を数えているのか? なーんつって! 一度言ってみたかったのよねー! すごい悪役っぽいWRYYYな感じで! だからありがとね、アッキー! ま、それに別にわたしの命じゃないし?」

「そんなこと、許されるわけがない!」

「許されるんだよ。言ったでしょ? だってわたしは神だもん。あー、じゃあ言ってあげようか。そこまで言うならあの言葉を放ってあげちゃおう。いいかな? 一度しか言わないからよぅく聞くんだよ?」

 ――神の前に、人間なんて木っ端も同然。ただの駒でしかない。

「きゃっ、言っちゃった! なんか超悪役の超ラスボスっぽいこと言っちゃった! え? そうなるとわたしがラスボスー? うーん、ま、いっか。どうせ暇だし。それに人間のやることだし。あー、じゃあこれも言っておこうかな。フラグっぽいけどさ。人間が神に敵うと思うな? あははー、これわたし負けるパターン」

「…………」

 絶句した。
 まさか本当にこんな存在がいるのかと。許されていいのかと。

「だから言っているでしょう。我々の真の敵は女神だと」

 煌夜が物静かに、だが瞳の奥に炎をたぎらせて言う。

 その言葉に、俺は言葉が詰まる。
 あるいは彼の言葉をもっと早くに真に受けていたら、こんな展開にならなかったんじゃないかと。

「じゃあ、もういいかな? 気が済んだかな? そろそろルール説明に行きたいんだけど?」

「…………」

 何も言えない。言わない。
 俺は今、自分を見失ってる。
 ゆえに翻弄される。
 だからとりあえず相手の言い分を聞きながら、反撃の機会を見定める。
 そのために。

「うん、いいね静かになった。それじゃあ説明しよう! 勝利条件は簡単! 相手の代表を殺したら勝ち! そして負けた国のプレイヤーは全員死んでもらおうかな!」

「死!?」

「やっぱり最終決戦だからそれくらいの緊張感がないとね! あー、といってもあのお馬鹿皇帝じゃあテンション上がらないだろうから……。そうだね、オムカ王国はマリアンヌ・オムルカ。シータ王国は九神明。そしてエイン帝国はわたしこと蒼月麗明が代表ってことでどうかな? むふふー、ここにいる皆の大事な人を選んでみましたー。ナイス人事! あはっ、わたしってエンタメの天才!?」
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