知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

第56話 最低の結末

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 提示された新たなルール。
 それはもう、なんというか……頭の中で何度も繰り返してようやく飲み込める。そんなありえない内容だった。

 マリアを殺す?
 しかも負けた国のプレイヤーは全員死ぬ!?

 許されるはずがない。

 いや、それは煌夜も同じだ。

 大切な人を賭ける。
 そんなことをされたら……戦わざるを得ない。
 講和なんて、できなくなる。

 この女神……なんて最悪の状況に最低の条件を持ってきやがった。

「うふふ、だから駄目だってアッキー。わたしは女神。あんたたち人間のことわりとは違うの。というかね、アッキーたちが苦しみもだえるのを見るとね……もう、嬉しすぎて我慢できなくなっちゃうの」

 こっちこそもう我慢の限界だった。
 頭が沸騰しておかしくなりそうだった。

 こんな争いをけしかける奴。
 安全な場所にいて、苦しむ人を見て愉悦に浸る奴。

 一番嫌いなパターンだ。

 だからこの女神に対し、俺の怒りを爆発させようと席を立った。

 ――その直前に。

「それに勝ったら――」

「ん?」

「それに勝ったら、本当に元の世界に戻す? 死後の世界とかじゃなく?」

「お、おい。水鏡」

 両手を組んだまま、睨むように女神を射すくめる水鏡に、どこかいつもとは違った迫力を感じた。

「モチ! 今度こそちゃんと、皆にとっての現実の世界に戻すよ。つか誰も元の世界が死後の世界とか言ってないんだけどー。コーヤくんの風評被害だし」

「その言葉、信じるわよ」

「オッケーオッケー! 安心と信用の女神金融にお任せなさい!」

 お前のどこに安心と信用がある!
 そう言いたかったが、こいつに構っている暇はない。

「お、オレは姐さんを信じます!」

「ミカがやるなら、やる」

 吉川と雫も水鏡に追従するようだ。
 くそ、今は水鏡をどうにかしないと!

「水鏡、考え直せ。こいつの口車に乗ると後悔するぞ!」

「アッキーこそ考え直しなさい。もしこの自称女神が本物だとして。あんたは責任が取れる? このまま講和をして、この世界が滅んだ時に。ここに住む命のすべての責任を」

「それは……」

「それにね、私はやっぱり元の世界に戻りたい。たとえ卑怯者とののしられようとも、人殺しとさげすまれようとも、私には元の世界で帰りを待ってる人がいるから」

 くそ、駄目だ。
 水鏡の意志は固い。

 ならもう一方から攻めるしかない。

「おい、煌夜。お前もこんな条件飲めるわけないよな。世界が滅びるとか、大切な誰かが死ぬとか。そんなのが嫌で女神に逆らって来たんだよな!?」

 俺は必死に訴えかける。
 煌夜は目を閉じて黙って何かを考えていた。
 だから俺はそこに向かって言葉の弾丸を浴びせる。

 そしてようやく煌夜が目を開いて言うことには、

「ええ、残念ですが――」

 よし、2人なら水鏡を説得できる。
 だが――

「講和の話はここまでですね」

「煌夜!?」

「私は死ぬつもりはありません。そして何より、麗明を死なせるわけにはいかない。講和が成れば全員死ぬ。ならば戦って勝って、私は私の未来をつかみます。勝手を言って達臣には申し訳ないが」

「僕に依存はないよ」

 達臣がすました表情で言う。
 俺とは目も合わせない。どうしちまったんだよ……。

「ほらほら、アッキー。アッキー以外みんな乗り気だよ? こうなったら乗るしかないでしょ、このビッグウェーブに!」

 ここまで付き合ってきて、初めてこいつに殺意を抱いた。
 叶うなら俺がこの場で女神を殺せば、すべてが丸く収まるんじゃないかと。

 けど俺の力じゃ、女神を名乗る相手に敵うわけない。
 いや、その前に彼女の体を傷つけようとする俺を煌夜が放っておかないだろう。

 くそ、どこまで無力だ、俺は!

 ここまでなのか?
 せっかく、お互いが少し歩み寄れたと思ったのに。

 こんな最低な横やりで台無しになるのか?

「煌夜。1つ献策していいか?」

 と、その時。
 不意に達臣が煌夜に向かって切り出した。

 献策?
 何のつもりだ?

「ああ、なんだい?」

「ここで始末すれば、僕らの勝ちだ」

「…………あぁ、なるほど。じゃあお願いしていいかな?」

「やれやれ、人使いが荒い」

 え? 何だって?

 彼らが何を言っているか分からない。
 だが、どこか恐ろしい、聞き捨てならない内容の予感がした。
 そしてそれは当たった。

「燃え尽きろ、『罪を清める浄化の炎バーン・マイ・クライム』」

 達臣が声を発し、俺を指さした途端、俺の目の前が赤く染まった。
 いや、違う。俺が、燃えている。
 炎。
 俺を殺した、炎。
 それがまた、俺を包む。

 何が起きたか分からない。
 けど懐かしい、自分が焦げていく臭い。

 いや、俺だけじゃない。
 水鏡、雫、吉川も炎に包まれている。

 あ、死ぬ。

 そうはっきり認識した。

 その刹那。

「ぐぁ!」

「はいはーい、フライングはペナルティーだよー」

 途端、視界が元に戻る。
 そして自分が焦げる臭いも何もない。
 ついさっきまでと同じ光景が広がっていた。

 ハッとして体を見る。
 服も焼けてなければ、肌もいつも通りつやつや。火傷の1つもない。
 水鏡たちも何ら起きていないようだ。

 助かった……?
 でもなぜ?

「ぐっ……貴様」

 達臣の怒りと苦痛のこもった声。
 見れば、達臣の右手、その人差し指があらん方向に曲がっている。折れていた。

 その怒りのこもった視線の先にいる人物――当然、女神だ。

「もう、せっかちだなぁシーバくんは。そんなんじゃ女の子にモテないゾ。というわけでペナルティーに指一本いただきましたぁん!」

 嬉しそうにはしゃぐ女神。
 どうやら俺たちは女神に助けられたらしい。

 それを屈辱と思うが、それよりも俺の心を打ったのは達臣の行動だ。

「達臣……今、本気で……」

「……ふん」

 痛みをこらえながら、視線を逸らす達臣。
 なんでそんな態度なんだ。前の世界では、それなりにうまくやっていたはずなのに。
 本気で俺を殺そうとしたぞ。

「そっちの宣戦布告、もらったわ。手袋があったら投げつけてたところよ」

「こちらこそ麗明を殺させるわけにはいかないのでね。精一杯ぶっつぶしてやりますよ」

 水鏡と達臣が、机を挟んでにらみ合う。

 くそっ、もう俺には彼らは止められない。
 それどころか、達臣の理不尽な殺意に俺の心は打ちのめされてしまっていた。

 本当、なんでこんなことになってしまったのだろう。
 ほんの10分前は、講和の話で平和にうまくやっていけそうだっていうのに。

「おお、言い感じで火花が散ってるね! やっぱ最後だし、景気よく行かなきゃ!」

 本当に、こいつのおかげですべてが水泡に帰した。
 まさかこいつがここまで現実世界に介入してくるなんて……。

 本当に……最低だ。
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