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第5章 帝国決戦
第57話 進む世界、止まる世界
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こうして講和会議は破談に終わり、その日のうちに煌夜たちは軍を率いてデンダ砦を出て行った。
俺たちも一度ヨジョー城に戻り、水鏡たちも一時帰国の路をたどることになる。
女神は一応、準備期間として1か月の停戦期間を定めた。
軍事的な準備期間もそうだが、何より個々の去就についての準備期間だ。
何せ負ければ死ぬのだ。
自分がどこに所属すべきか、一度考えてこいと言うことだろう。
停戦を破った者は、女神の名においてペナルティを課すという。
指を折られた達臣以上の罰ということだから、誰もがそこは慎重になっているに違いない。
というわけでヨジョー城に戻ってそのまま会議を開いた。
もちろん、喧々諤々の議論になったわけで、一時は俺に対する責任の話が出たが、俺は何も言えなかった。
というより自分自身が色々な出来事に打ちのめされて、まともに反論できる精神状態ではなかった。
達臣がこの世界にいたこと。帝国側についていること。この世界の本質のこと。元の世界には戻れないこと。統一すれば俺が死ぬこと。世界が滅ぶこと。一時は講和が成り立つ寸前まで行ったこと。女神が現れたこと。蒼月麗明というプレイヤーの体を乗っ取ったこと。最悪のルールのこと。マリアのこと。水鏡の本心のこと。達臣の殺意のこと。
そして、講和の破談のこと。
わずか半日。
たったそれだけの時間で、天国から地獄へと突き落とされた気分だ。
あと半年ほどの時間ですべてが終わる。
大陸を統一して元の世界に戻るか、それとも敗北してこの世界で死ぬか。
この世界で生きるという選択肢は、俺が望んだ選択肢はもろくも崩れ去っていた。
たとえ俺にまだ講和の意志があったとしても、いくら講和を叫んでも、相手に聞く気がなければ意味がないし、槍を向けてくれば迎え撃たなければならない。
そう、今の俺は、俺だけの命じゃない。
里奈、イッガー、竜胆、ミスト、マツナガ、林檎、新沢。
彼らの命、そしてオムカ王国数百万の命を俺は背負っているのだ。
負ければ、いや、勝たなければそれらの命が消える。
もはやそこまで追い詰められているのだ。
あの女神の言葉1つで。スキル1つで。
女神を殺す。
煌夜がずっと言い続けていたその必要性が、この時になって初めて分かった。
あの存在はあっちゃいけない。
人は、そんなものの言いなりになって生きていちゃいけないんだ。
けど、今の俺には――俺たちには何もできない。
はっ、知力99が聞いてあきれる。
所詮頭がよかろうが、人の心を知ることができようが、そんなものを超えた存在には勝てるわけがない。
ましてや俺には力も何もない。
筋力も財力も政治力も発言力も交渉力も何もかも。
そうなればもう、この流れに任せて戦うしかないのだろう。
そんな自暴自棄な気分になっていたせいもあり、俺は針のむしろの中でも反論をしなかったのだろう。
だが乾山の上に座らされるような時間は、その日の夜に終わった。
というのも、声が聞こえたからだ。
誰かに呼びかける対話ではない。
誰もに呼びかける――そうまさに神の言葉だ。
『この世界に生きる全ての生命に語り掛けます。わたしはパルルカ。この世界の創世神です』
突如天から降りてきた言葉に、ヨジョー城にいる人々は騒然となった。
あとから聞くことによれば、王都にいる人たちでなく、帝国もシータもビンゴも南群も誰もが動きを止めて、降ってくる言葉に耳を傾けたという。
『わたしは人間がよりよく生きるために、時に導き、時に教え、時にたしなめながらも、人々のしるべとなるべくこの世界に関与してきました。しかし人々は争うことを止めず、いつ終わるとも知れない戦乱の世を嘆くばかりです』
最初は戸惑っていた人々も、その超常的な現象ながらも慈愛と慈悲に満ちた言葉を投げかけられているうちに、耳を傾けて始めていた。中には感涙にむせび泣く人もいたという。
オムカ王都にパルルカ教徒は少ないはずだが、それでも俺たちのいる時代よりはやはり迷信や信仰が深い時代だ。
真っ向から否定するよりまずは受け入れようとする心理が働いているのかもしれない。
逆に俺は冷めていた。
あの青天井のテンションに存在も含めふざけた奴が、どうしてこうも真面目っぽく言えるのか。それが癇に障って逆に平静になったのだ。
『なぜ人々は争うのでしょう。土地を、名誉を、富を、食料を、女を、それらを得るために人は争いを起こす。しかしそれは、不幸です。皆が皆、一つでも我慢することができれば、誰も傷つかず、死ぬこともなく、悲しむこともないというのに。わたしはそんな世界を変えたい。そのために今、こうして皆さんに話しかけているのです』
なぜ争うかって?
お前が焚き付けたからだろ。
そう言うのは簡単だが、後が恐ろしい。
俺はあの女神の性格や、その言動についてを知っているが、一般人にはそれを知る由もない。
そんな人たちに、あれは詐欺師だと言ったところで信じないだろう。逆にふざけたことを言うなと石を投げられる可能性だってある。
『しかし、やめろと言って争いが止まるのであれば、ここまで戦火が拡大することはないということをわたしは知っています。己が権益を守るために、戦争を使嗾する愚か者が、少なからずいるからです。わたしはこの害悪を除くことを決意しました。そしてこれがこの世界における最後の戦いになることを確信しています。ですから人の子らよ。戦いなさい。その手で今年中に他国を滅ぼし、このラインツ大陸を統一しなさい。その統一王朝こそ、すべての人を導く単一国家としてわたしは恒久の庇護を与え、永遠の繁栄を約束しましょう』
これだ、あの女神の真骨頂。
他人に責任をなすりつけ、自分は間違ってない、だけど仕方なくという立場を貫き、飴をちらつかせて、結果自分の想い通りに事を運ぼうとする。
事情を知らない一般の人からすれば、そういうものなのだと認識してしまう、詐術のような――いや、実際詐欺師に近い。
怒りだけが募る。
けど何もできない。
『戦いなさい、人の子らよ。この戦いが最後の戦いとなり、以降は全ての人が正しく平和に生きられる世界を作り出すのです』
それで女神の言葉は終わった。
しばらく呆然としていた人たちが、神の言葉に従い帝国を倒すのだ、と息巻くようになるのに時間はかからなかった。
それに対しても、俺は何も言わない。言えない。
ジルが心配そうに俺を見てきたが、俺は視線を合わせることはなかった。
合わせたら、もう、色々と駄目だと思った。
「一度、王都に帰りましょう。話によれば1か月は猶予があるとのこと。ヨジョー城の守りはアーク、貴方に任せます。いつ攻められても3日は持たせるよう、防備を固めてください。後の者は王都へ帰還。そして宰相を交えて今後の方針を最終決定します。よろしいですね、女王様」
「うむ……それでよいのじゃ」
それでその場は解散となった。
マリアやジルが何か言おうとしてきたが、俺は疲労を理由にサッと自室に籠って、倒れるように眠りについた。
眠りながらも考える。
自問自答する。
俺にはもう何もできないのか。
あの女神の言う通り、皆と殺し合わなければいけないのか。
あぁ、何もできない。
この出来上がった流れを、一個人で覆すことなどできやしない。
それでも、そんなことを許していいのか?
最後まで停戦を呼び掛けるべきではないのか?
それで敵が攻めてきたらどうする?
それでも大人しく不戦を決め込み、殺されるつもりか?
墨子が辿った末路、知らないわけないだろ。
それでも……それでも、俺は。
そんなありもしない希望にすがるな。
マリアを、ニーアを、ジルを、サカキを、クロエを、竜胆を――里奈を死なせていいのか?
いいわけがない。
彼らも、ほかのみんなも。この国に住む人も。
死なせていい理由なんてない。
なら答えは決まってるだろ。
戦え。
俺には敵を直接倒す力はなくとも、敵に勝つ力はある。
だから戦い、そして勝つんだ。
血にまみれろって言うのか。
自分の欲望のために。
それの何が悪い?
有史以来、人は戦い続けてきた。
己の欲望のため、己の命を守るため。
他者の命の上に繁栄を築いてきた。それが人の歴史だろう?
でも、それを認めてしまったら……俺は、ひどい人間になってしまう。
なんだそれは。
自分がひどい人間になりたくないから。
結局は自分のことしか考えてないんじゃないか。
今まで何を学んできたのか。
違う。
何のために歴史を学ぶか。
それは先人の生き方を見て、真似するべきところ、すべきじゃないところを学ぶんだ。
俺は、そんなことはしたくない。
したいしたくないで論ずる場面はもう過ぎた。
あとは殺すか、殺されるかだけだ。
喜べよ。お前の好きな戦国時代と同じ論理で生きていけるんだ。
所詮この世は弱肉強食。たとえ敵を殺しても、俺は罪に問われない。むしろよくやったと褒められるはずだ。
逆に負ければ逆に石を投げられる。いや、処刑されるかもな。
一度は国を救いながら、結局は国のせいで処刑される。
あぁ、これこそまさに、ジャンヌ・ダルクの生き方そのもじゃないか。
それは……嫌だ。
俺はまだ生きていたい。
なら殺せ。
徹頭徹尾遠慮容赦忖度慈悲なく完膚なきまで綺麗さっぱり圧倒的に殺せよ。
そうすればお前はこの世界で救世主だ。
末代まで語られる大軍師様だ。
そして今度こそ本当の元の世界に戻れる。
里奈と一緒になれる。
写楽明彦の一世一代の冒険活劇、その最後をしめくくってあとは平和に生きりゃあいい。
素晴らしいじゃないか。俺はそこらの他人がするより数倍も濃密な時間を、ありえない体験をして里奈と一緒に平和に暮らせるんだ。
それを考えれば、なに、たった半年だ。
半年頑張れば、半年我慢すれば、そのあとはバラ色の人生だぜ?
さぁ、だから殺そう。
根切りだ。なで斬りだ。殺戮だ。殲滅だ。撃滅だ。皆殺しだ。
殺して殺して殺して、死なせて死なせて死なせて、滅ぼして滅ぼして滅ぼそう。
何も考えずに殺せ。作業のように殺せ。虫けらのように殺せ。踏みにじるように殺せ。あっけなく殺せ。苦しめてから殺せ。血みどろにして殺せ。もう殺せ。さぁ殺せ。やれ殺せ。それ殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
「違うっ!!」
俺はもう、誰も死んでほしくなかった。
だから辛くても講話を望んだ。
それなのにこの展開は……なしだろ。
それでもこれは現実として、間違いなくここにある。
この世界に。充満してしまっている。
だから俺は。
俺は。
俺は――
【後書き】
第5章はここまでとなります。戦闘の少ない章となりましたが、恐らくおふざけなどしていられない次章へのつなぎとして、ここで一度区切らせていただきました。
間章を挟み最終章へと進みますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。
俺たちも一度ヨジョー城に戻り、水鏡たちも一時帰国の路をたどることになる。
女神は一応、準備期間として1か月の停戦期間を定めた。
軍事的な準備期間もそうだが、何より個々の去就についての準備期間だ。
何せ負ければ死ぬのだ。
自分がどこに所属すべきか、一度考えてこいと言うことだろう。
停戦を破った者は、女神の名においてペナルティを課すという。
指を折られた達臣以上の罰ということだから、誰もがそこは慎重になっているに違いない。
というわけでヨジョー城に戻ってそのまま会議を開いた。
もちろん、喧々諤々の議論になったわけで、一時は俺に対する責任の話が出たが、俺は何も言えなかった。
というより自分自身が色々な出来事に打ちのめされて、まともに反論できる精神状態ではなかった。
達臣がこの世界にいたこと。帝国側についていること。この世界の本質のこと。元の世界には戻れないこと。統一すれば俺が死ぬこと。世界が滅ぶこと。一時は講和が成り立つ寸前まで行ったこと。女神が現れたこと。蒼月麗明というプレイヤーの体を乗っ取ったこと。最悪のルールのこと。マリアのこと。水鏡の本心のこと。達臣の殺意のこと。
そして、講和の破談のこと。
わずか半日。
たったそれだけの時間で、天国から地獄へと突き落とされた気分だ。
あと半年ほどの時間ですべてが終わる。
大陸を統一して元の世界に戻るか、それとも敗北してこの世界で死ぬか。
この世界で生きるという選択肢は、俺が望んだ選択肢はもろくも崩れ去っていた。
たとえ俺にまだ講和の意志があったとしても、いくら講和を叫んでも、相手に聞く気がなければ意味がないし、槍を向けてくれば迎え撃たなければならない。
そう、今の俺は、俺だけの命じゃない。
里奈、イッガー、竜胆、ミスト、マツナガ、林檎、新沢。
彼らの命、そしてオムカ王国数百万の命を俺は背負っているのだ。
負ければ、いや、勝たなければそれらの命が消える。
もはやそこまで追い詰められているのだ。
あの女神の言葉1つで。スキル1つで。
女神を殺す。
煌夜がずっと言い続けていたその必要性が、この時になって初めて分かった。
あの存在はあっちゃいけない。
人は、そんなものの言いなりになって生きていちゃいけないんだ。
けど、今の俺には――俺たちには何もできない。
はっ、知力99が聞いてあきれる。
所詮頭がよかろうが、人の心を知ることができようが、そんなものを超えた存在には勝てるわけがない。
ましてや俺には力も何もない。
筋力も財力も政治力も発言力も交渉力も何もかも。
そうなればもう、この流れに任せて戦うしかないのだろう。
そんな自暴自棄な気分になっていたせいもあり、俺は針のむしろの中でも反論をしなかったのだろう。
だが乾山の上に座らされるような時間は、その日の夜に終わった。
というのも、声が聞こえたからだ。
誰かに呼びかける対話ではない。
誰もに呼びかける――そうまさに神の言葉だ。
『この世界に生きる全ての生命に語り掛けます。わたしはパルルカ。この世界の創世神です』
突如天から降りてきた言葉に、ヨジョー城にいる人々は騒然となった。
あとから聞くことによれば、王都にいる人たちでなく、帝国もシータもビンゴも南群も誰もが動きを止めて、降ってくる言葉に耳を傾けたという。
『わたしは人間がよりよく生きるために、時に導き、時に教え、時にたしなめながらも、人々のしるべとなるべくこの世界に関与してきました。しかし人々は争うことを止めず、いつ終わるとも知れない戦乱の世を嘆くばかりです』
最初は戸惑っていた人々も、その超常的な現象ながらも慈愛と慈悲に満ちた言葉を投げかけられているうちに、耳を傾けて始めていた。中には感涙にむせび泣く人もいたという。
オムカ王都にパルルカ教徒は少ないはずだが、それでも俺たちのいる時代よりはやはり迷信や信仰が深い時代だ。
真っ向から否定するよりまずは受け入れようとする心理が働いているのかもしれない。
逆に俺は冷めていた。
あの青天井のテンションに存在も含めふざけた奴が、どうしてこうも真面目っぽく言えるのか。それが癇に障って逆に平静になったのだ。
『なぜ人々は争うのでしょう。土地を、名誉を、富を、食料を、女を、それらを得るために人は争いを起こす。しかしそれは、不幸です。皆が皆、一つでも我慢することができれば、誰も傷つかず、死ぬこともなく、悲しむこともないというのに。わたしはそんな世界を変えたい。そのために今、こうして皆さんに話しかけているのです』
なぜ争うかって?
お前が焚き付けたからだろ。
そう言うのは簡単だが、後が恐ろしい。
俺はあの女神の性格や、その言動についてを知っているが、一般人にはそれを知る由もない。
そんな人たちに、あれは詐欺師だと言ったところで信じないだろう。逆にふざけたことを言うなと石を投げられる可能性だってある。
『しかし、やめろと言って争いが止まるのであれば、ここまで戦火が拡大することはないということをわたしは知っています。己が権益を守るために、戦争を使嗾する愚か者が、少なからずいるからです。わたしはこの害悪を除くことを決意しました。そしてこれがこの世界における最後の戦いになることを確信しています。ですから人の子らよ。戦いなさい。その手で今年中に他国を滅ぼし、このラインツ大陸を統一しなさい。その統一王朝こそ、すべての人を導く単一国家としてわたしは恒久の庇護を与え、永遠の繁栄を約束しましょう』
これだ、あの女神の真骨頂。
他人に責任をなすりつけ、自分は間違ってない、だけど仕方なくという立場を貫き、飴をちらつかせて、結果自分の想い通りに事を運ぼうとする。
事情を知らない一般の人からすれば、そういうものなのだと認識してしまう、詐術のような――いや、実際詐欺師に近い。
怒りだけが募る。
けど何もできない。
『戦いなさい、人の子らよ。この戦いが最後の戦いとなり、以降は全ての人が正しく平和に生きられる世界を作り出すのです』
それで女神の言葉は終わった。
しばらく呆然としていた人たちが、神の言葉に従い帝国を倒すのだ、と息巻くようになるのに時間はかからなかった。
それに対しても、俺は何も言わない。言えない。
ジルが心配そうに俺を見てきたが、俺は視線を合わせることはなかった。
合わせたら、もう、色々と駄目だと思った。
「一度、王都に帰りましょう。話によれば1か月は猶予があるとのこと。ヨジョー城の守りはアーク、貴方に任せます。いつ攻められても3日は持たせるよう、防備を固めてください。後の者は王都へ帰還。そして宰相を交えて今後の方針を最終決定します。よろしいですね、女王様」
「うむ……それでよいのじゃ」
それでその場は解散となった。
マリアやジルが何か言おうとしてきたが、俺は疲労を理由にサッと自室に籠って、倒れるように眠りについた。
眠りながらも考える。
自問自答する。
俺にはもう何もできないのか。
あの女神の言う通り、皆と殺し合わなければいけないのか。
あぁ、何もできない。
この出来上がった流れを、一個人で覆すことなどできやしない。
それでも、そんなことを許していいのか?
最後まで停戦を呼び掛けるべきではないのか?
それで敵が攻めてきたらどうする?
それでも大人しく不戦を決め込み、殺されるつもりか?
墨子が辿った末路、知らないわけないだろ。
それでも……それでも、俺は。
そんなありもしない希望にすがるな。
マリアを、ニーアを、ジルを、サカキを、クロエを、竜胆を――里奈を死なせていいのか?
いいわけがない。
彼らも、ほかのみんなも。この国に住む人も。
死なせていい理由なんてない。
なら答えは決まってるだろ。
戦え。
俺には敵を直接倒す力はなくとも、敵に勝つ力はある。
だから戦い、そして勝つんだ。
血にまみれろって言うのか。
自分の欲望のために。
それの何が悪い?
有史以来、人は戦い続けてきた。
己の欲望のため、己の命を守るため。
他者の命の上に繁栄を築いてきた。それが人の歴史だろう?
でも、それを認めてしまったら……俺は、ひどい人間になってしまう。
なんだそれは。
自分がひどい人間になりたくないから。
結局は自分のことしか考えてないんじゃないか。
今まで何を学んできたのか。
違う。
何のために歴史を学ぶか。
それは先人の生き方を見て、真似するべきところ、すべきじゃないところを学ぶんだ。
俺は、そんなことはしたくない。
したいしたくないで論ずる場面はもう過ぎた。
あとは殺すか、殺されるかだけだ。
喜べよ。お前の好きな戦国時代と同じ論理で生きていけるんだ。
所詮この世は弱肉強食。たとえ敵を殺しても、俺は罪に問われない。むしろよくやったと褒められるはずだ。
逆に負ければ逆に石を投げられる。いや、処刑されるかもな。
一度は国を救いながら、結局は国のせいで処刑される。
あぁ、これこそまさに、ジャンヌ・ダルクの生き方そのもじゃないか。
それは……嫌だ。
俺はまだ生きていたい。
なら殺せ。
徹頭徹尾遠慮容赦忖度慈悲なく完膚なきまで綺麗さっぱり圧倒的に殺せよ。
そうすればお前はこの世界で救世主だ。
末代まで語られる大軍師様だ。
そして今度こそ本当の元の世界に戻れる。
里奈と一緒になれる。
写楽明彦の一世一代の冒険活劇、その最後をしめくくってあとは平和に生きりゃあいい。
素晴らしいじゃないか。俺はそこらの他人がするより数倍も濃密な時間を、ありえない体験をして里奈と一緒に平和に暮らせるんだ。
それを考えれば、なに、たった半年だ。
半年頑張れば、半年我慢すれば、そのあとはバラ色の人生だぜ?
さぁ、だから殺そう。
根切りだ。なで斬りだ。殺戮だ。殲滅だ。撃滅だ。皆殺しだ。
殺して殺して殺して、死なせて死なせて死なせて、滅ぼして滅ぼして滅ぼそう。
何も考えずに殺せ。作業のように殺せ。虫けらのように殺せ。踏みにじるように殺せ。あっけなく殺せ。苦しめてから殺せ。血みどろにして殺せ。もう殺せ。さぁ殺せ。やれ殺せ。それ殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
「違うっ!!」
俺はもう、誰も死んでほしくなかった。
だから辛くても講話を望んだ。
それなのにこの展開は……なしだろ。
それでもこれは現実として、間違いなくここにある。
この世界に。充満してしまっている。
だから俺は。
俺は。
俺は――
【後書き】
第5章はここまでとなります。戦闘の少ない章となりましたが、恐らくおふざけなどしていられない次章へのつなぎとして、ここで一度区切らせていただきました。
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