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間章 それぞれの決断
間章11 写楽明彦(オムカ王国軍師)
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翌日、俺は無理言って皆に集まってもらった。
ジル、サカキ、ブリーダ、クロエ、ウィット、マール、ルック、サールらこの世界のオムカ王国の軍人。クルレーンとアークはヨジョー城に詰めていない。
そして里奈、イッガー、ミスト、竜胆、林檎、新沢のプレイヤー陣。
合計14人の主だった人たちに加え、文武百官が謁見の間にずらりと集まっている。
彼らは特に何を話すわけでもなく、ただ黙って事の始まりを待っていた。
やがてニーアとマツナガを伴ってマリアが現れ、玉座に座る。
「突然の招集にもかかわらず全員が集まってもらって感謝します」
マツナガが代弁して議事を進める。
当然、俺が呼び出した理由も知っての上だから、その進行によどみはない。
「それでは、ジャンヌ・ダルク。話を伺いましょう」
呼ばれ、全員の視線がこちらに向くのを感じる。
俺は小さく深呼吸して、
「その前に、ここ数日。軍師の立場でありながらも、職務を放棄し、多大な迷惑を与えたことをここに謝罪します」
そう言ってマリアに振り返り頭を下げる。
「うむ。罰は追って定める故、今は軍師の責務を果たすのじゃ」
「はっ」
寛大な言葉をいただいて再び叩頭――と言えば聞こえはいいが、これもある意味、茶番だ。マリアに俺を罰するつもりはこれっぽちもないのだから。
けれど信賞必罰。それをしっかりと知らしめることが大事なのだ。
頭を上げた俺は、集まったみんなに向き直り、再び一礼して話し始めた。
「この度は、集まっていただき感謝します」
茶化す者はいない。
女王のいる以上、公式の場だ。
だから俺も言葉遣いには気を付けて先を進める。
「今回、集まってもらったのは他でもありません。来るべき帝国との戦いについてです」
その言葉に、さっと緊張が走る。
特にジルやサカキといった軍人の面々には覇気のようなものが見え、逆に里奈たちプレイヤーからは心配するような戸惑いの視線を感じた。
「今度の戦いは、文字通りオムカ王国の死命を決する戦いとなります。負ければ降伏は許されず、女王様は敗軍の将として処断されることになります」
そして俺は語った。講和会議で起きたことを。女神の存在を。
もちろんただでは信じられないような話だ。けど、あの全土に響いた神の啓示がその話に信ぴょう性を持たせた。
里奈たちにはざっくりと話していた。
だからショックは幾分か少ないようだったけど、改めて話を聞かされてこの置かれた状況に沈思するように顔を伏せる。
対してオムカの臣下としている人々には、顔を高揚させている者が多い。
仕えるべきマリアが死ぬ、それ以上にその後に待つ現実を理解しているからだろう。
「我らが負ければ、女王様は処断され、そしてオムカの正統なる血筋は途絶え、オムカ王国は滅亡します。あとはそう。帝国の支配が再び全土を覆いつくすでしょう」
帝国の支配。
ほんの数年前の話だ。誰もがその当時の過酷な時代を知っている。
そうなることを進んで望むものなどいない。
だから今やオムカの人間の士気は最高潮と言ってもいい。
望んでこの状況を生み出したというなら、あの女神。本当に底意地が悪い。
そして、それを利用とする俺自身も。
そう、俺は着火するためにここにみんなを集めた。
オムカの人間を、心理的に追い詰め。帝国を打倒するための戦いに駆り出すため。
そんな彼らに対し、殺せ死ねと言うのだから俺はもう本当にどうしようもない、最低の人間だ。
だが、それも甘んじて受け入れよう。
戦うと決めた。
守ると決めた。
勝つと決めた。
そして俺ひとりではどうにもならないのだから、ほかの人の手を借りるしかない。
頭を下げて、助力を請うて、誠心誠意真心を伝えるしか方法はないのだ。
だから俺は言うんだ。
自分の想い。
戦う想い。
守る想い。
勝つ想い。
それを、これまでさんざん嘘を吐き出した口から、真実として、祈りとして、外に放つ。
「私は、この国に来てまだ数年の新参者です。しかし、この国を、女王を思う気持ちに偽りはありません。ゆえに私は戦います。しかし相手は強力。いかに軍略があろうと、戦うのは私ひとりではできない。だから、ここにお願い申し上げる! 皆の力を、私に貸してほしいと!」
場の空気が、ピリッと変わった気がした。
何か揺れ動くような、何かが蠢動するような、そんな空気に。
だからそれを爆発させるために、さらに声を大にして、力を込めて火をともす。
「これは女王様を守る戦いであり、そして皆自身、父母を、子を、友人を守るための戦いである! 帝国という圧倒的な暴力から、圧政から、国を、人を守る戦いである! 耳ある者は聞け、瞳ある者は見よ! 私はジャンヌ・ダルク! この国の建国の英雄と同じ名を持つものである!」
そう、今こそこの名を叫ぼう。
不敗のジャンヌなんかより、よほど収まりがいい、この名を。
「私は旗を振る! 軍の先頭で旗を振る! それがこの世界に生まれた、旗を振る者としての使命だと信じて!」
マリアの方を見る。
彼女が小さくうなずいたように思えた。
するとすぐにマリアは立ち上がり、小さな体を大きく振るいあがらせ、大広間に響く声で宣言した。
「ジャンヌ・ダルクの覚悟や、よし! オムカ王国第37代女王がここに宣誓する! 必ずや帝国を打ち破り、この大陸をオムカ王国が統一することを! 皆の者、存分に励むがよい!」
次の瞬間、大歓声に広間は包まれた。
怒声と言ってもいい。
オムカに住む誰もが、涙を流し、声を震わせ大いに叫ぶ。
武官だけでなく、日ごろは書物と格闘する文官すらも、力こぶしを振り上げる。
オムカ万歳だとか、女王陛下万歳だとか、そんな中にジャンヌ様と俺の名前を叫ぶ者もいて、若干赤面。
火が灯り、爆発した。
明日には閲兵式も行うというから、そこでも同じようなことが起き、士気は最高潮に達するだろう。
もう後戻りはできない。
誰もが興奮した様子で広間から退室し、決戦への準備へと移る中。
マリアにジルたち軍人と里奈たちプレイヤーだけが残った。
「ふっ、茶番お疲れさまでした。千両役者ですね」
「ちゃかすなよ、マツナガ」
もはや公式の場所ではない。
いわば身内だけの場なので、砕けた口調になるのも仕方ない。
「ジャンヌ様の覚悟、私は猛烈に感動しました。私も全軍を指揮し、勝利に貢献しましょう」
「ああ、ジル。頼みにしてる」
「俺も出るぜ」
そう言って出てきたのはサカキだ。
重傷の体を押して、今日は出てきたようだが。
「でも、お前の傷は……」
「治った」
「ンなバカな。おい、ちゃんと医者の許可は取ったんだよな。じゃなかったら、お前――」
「俺が治ったっつったら治ったんだよ」
なんだよ、その子供の理論。
そんなのでだまされるわけない。
「ジャンヌ様、こいつは何を言っても無駄でしょう。ここに残しても這ってでも追いついてくるでしょうから、近場において見ておいた方がよいかと」
「でも……」
ちらっとサカキを見る。
やる気が充実して、重傷人とは思えない。
けどどこまで本当かはわからない。
はぁ、しょうがないか。
「わかった。けど無理はするなよ。てか死んだら、あれだからな。嫌うからな」
「死なねーよ。お前と結婚するまでは」
「サカキ、その件については後でじっくり話し合いましょうか?」
「へん、早いもの勝ちだ」
言い合いになるジルとサカキ。
こう見ると良いコンビだよな。
「明彦くん……」
2人を眺めていた俺に、里奈が話しかけてきた。
「里奈、心配かけた」
「ん……大丈夫。信じてたから」
そう言ってほほ笑む里奈に、俺も笑い返した。
本当に、彼女には助けられた。
「なんとか、力になります……だから……えっと……頑張りましょう?」
「先輩! こうなったら勝って終わりましょう! 正義は勝つです!」
「ま、気楽にやろうさ。負けても死ぬだけさ」
「その、あまり期待しないでね。私は歌うだけが仕事だから。その、応援歌くらいは」
「トシ、よくわからんけど己の誠を貫く! それが俺たち新選組だろ」
イッガー、竜胆、ミスト、林檎、新沢がそれぞれの心境を述べに来る。
彼らは何がいいのか、俺なんかに付き合って残ってくれたわけだ。負ければ死ぬというのに。
けど、その意思がありがたい。
負けてなるものか、という気になってくる。
「けど……勝っても、後味、悪いですよね」
イッガーがつぶやくように言う。
そう、勝つということは、相手のプレイヤーは全員死ぬということ。
誰かを犠牲にして自分が生き残る。
それはある意味、生存競争においては間違っていないのだけれど、それを意図してやるかどうかに、心の持ちようがかかわってくるのは当然だろう。
だから安心させるわけじゃないけど、とりあえず言っておくことにした。
「一応、それに対しては秘策があると言っておくよ。だから気にせず……は無理だろうから、まぁ少し力ぬいてやってくれ」
「……っす」
っと、そうだ。
最後にこれは言っておかないと。
「すまないがちょっと聞いてくれ」
せっかくの団らんとした雰囲気に、水を差すようで嫌だが、言わずにおいたら絶対後悔する。
俺たちのこれから。
プレイヤーとしての、後始末。
だから言った。
「出陣したら、俺はこの世界に残れない。この戦いに勝ったら、俺は――俺たちはこの世界からいなくなる」
そのことを知っている人、知らない人。
それぞれがそれぞれの反応を見せる。
無念、驚愕、動揺、悲壮、憂慮。
様々な感情が視線に乗っかって、俺に突き刺さる。
それを俺は受け止めた。
受け止めたうえで、さらに話を進めなければならない。
「勝てばこの世界から消え、負ければ原野に屍をさらす。どちらにせよ、もうこの世界にはいられないんだ。いや、もちろん最後に挨拶しにくる時間はもぎ取ってくるつもりだけど」
マリアは泰然とした様子で、ニーアは憮然とした様子。
ジル、サカキは目を伏せ、ブリーダ、クロエ、ウィット、マール、ルック、サールらは困惑した様子で俺の声を聞いていた。
「なんにせよ、俺は守りたいんだ。マリアを。みんなを。この国を。だから、俺は戦う。戦って、勝つ。けどさっきも言ったとおり、俺だけじゃ無理だ。みんなの力を貸してくれ。それが俺の……最後の奉公だ」
俺の本心。
今までどこかへ行ってしまって、気づかされて取り戻した想い。
それをこれまで戦ってきた仲間たちに打ち明ける。
「ここまで言い出せずにすまない。けど、黙っていなくなりたくなかった。だから最後の最後だけど、こうして言わせてもらった」
再び頭を下げる。
本当、今日は謝ってばかりだ。
「ジャンヌ様、頭をお上げください」
ジルが代表して優しくそう促してくれた。
顔を上げると、ジルが優しく微笑しながら、
「我々はジャンヌ様に助けられてきました。だから今度は我々がジャンヌ様を助ける番です。たとえその先にジャンヌ様の姿がないにしても、この世界を、この国を、女王様を守って盛り立てていくのは、我々の使命ですから」
「……ありがとう、ジル」
やばい、ちょっと涙が出そうだ。
「へっ、どっか行くなら俺もついてくかな。そうすりゃ離れ離れにならないだろ」
「サカキ、相変わらずだな」
「……頭が追い付かないっすけど、その、自分がここにいるのは軍師殿のおかげっす。感謝してます」
「ああ、ブリーダ。俺もだ」
「隊長殿ぉぉぉぉぉ! いっちゃやです。でも……クロエは頑張りますから!」
「馬鹿者! 貴様がそんなでどうする……くっ、いえ、泣いてなんか、いないですから」
「お世話になりました。その、突然で、なんて言ったらいいか。でも、とにかくは勝たないと、ですね」
「寂しいですねー、でも大丈夫ですよ。クロエたちは、強いですからー」
「クロエ、ウィット、マール、ルック。すまないけど後を頼む」
「その、今までジャンヌさんの護衛ができて、よかったです。兄も……兄もぉぉぉぉ、うぅ……わーーーーーん!」
「久しぶりに出たな。でも、今までありがとうな、サール」
視線をマリアとニーアに向ける。
マリアは涙を浮かべながらも、無理やり笑おうとしている。
ニーアは横を向いて舌を出している。涙は、少なくともこちら側からは見えなかった。
俺のことをこんなに思ってくれる人たちがいる。
なら、その人たちに未来を渡す。
それが今の俺の、この世界での俺ができる、最後のことだろう。
そう思ってやまなかった。
ジル、サカキ、ブリーダ、クロエ、ウィット、マール、ルック、サールらこの世界のオムカ王国の軍人。クルレーンとアークはヨジョー城に詰めていない。
そして里奈、イッガー、ミスト、竜胆、林檎、新沢のプレイヤー陣。
合計14人の主だった人たちに加え、文武百官が謁見の間にずらりと集まっている。
彼らは特に何を話すわけでもなく、ただ黙って事の始まりを待っていた。
やがてニーアとマツナガを伴ってマリアが現れ、玉座に座る。
「突然の招集にもかかわらず全員が集まってもらって感謝します」
マツナガが代弁して議事を進める。
当然、俺が呼び出した理由も知っての上だから、その進行によどみはない。
「それでは、ジャンヌ・ダルク。話を伺いましょう」
呼ばれ、全員の視線がこちらに向くのを感じる。
俺は小さく深呼吸して、
「その前に、ここ数日。軍師の立場でありながらも、職務を放棄し、多大な迷惑を与えたことをここに謝罪します」
そう言ってマリアに振り返り頭を下げる。
「うむ。罰は追って定める故、今は軍師の責務を果たすのじゃ」
「はっ」
寛大な言葉をいただいて再び叩頭――と言えば聞こえはいいが、これもある意味、茶番だ。マリアに俺を罰するつもりはこれっぽちもないのだから。
けれど信賞必罰。それをしっかりと知らしめることが大事なのだ。
頭を上げた俺は、集まったみんなに向き直り、再び一礼して話し始めた。
「この度は、集まっていただき感謝します」
茶化す者はいない。
女王のいる以上、公式の場だ。
だから俺も言葉遣いには気を付けて先を進める。
「今回、集まってもらったのは他でもありません。来るべき帝国との戦いについてです」
その言葉に、さっと緊張が走る。
特にジルやサカキといった軍人の面々には覇気のようなものが見え、逆に里奈たちプレイヤーからは心配するような戸惑いの視線を感じた。
「今度の戦いは、文字通りオムカ王国の死命を決する戦いとなります。負ければ降伏は許されず、女王様は敗軍の将として処断されることになります」
そして俺は語った。講和会議で起きたことを。女神の存在を。
もちろんただでは信じられないような話だ。けど、あの全土に響いた神の啓示がその話に信ぴょう性を持たせた。
里奈たちにはざっくりと話していた。
だからショックは幾分か少ないようだったけど、改めて話を聞かされてこの置かれた状況に沈思するように顔を伏せる。
対してオムカの臣下としている人々には、顔を高揚させている者が多い。
仕えるべきマリアが死ぬ、それ以上にその後に待つ現実を理解しているからだろう。
「我らが負ければ、女王様は処断され、そしてオムカの正統なる血筋は途絶え、オムカ王国は滅亡します。あとはそう。帝国の支配が再び全土を覆いつくすでしょう」
帝国の支配。
ほんの数年前の話だ。誰もがその当時の過酷な時代を知っている。
そうなることを進んで望むものなどいない。
だから今やオムカの人間の士気は最高潮と言ってもいい。
望んでこの状況を生み出したというなら、あの女神。本当に底意地が悪い。
そして、それを利用とする俺自身も。
そう、俺は着火するためにここにみんなを集めた。
オムカの人間を、心理的に追い詰め。帝国を打倒するための戦いに駆り出すため。
そんな彼らに対し、殺せ死ねと言うのだから俺はもう本当にどうしようもない、最低の人間だ。
だが、それも甘んじて受け入れよう。
戦うと決めた。
守ると決めた。
勝つと決めた。
そして俺ひとりではどうにもならないのだから、ほかの人の手を借りるしかない。
頭を下げて、助力を請うて、誠心誠意真心を伝えるしか方法はないのだ。
だから俺は言うんだ。
自分の想い。
戦う想い。
守る想い。
勝つ想い。
それを、これまでさんざん嘘を吐き出した口から、真実として、祈りとして、外に放つ。
「私は、この国に来てまだ数年の新参者です。しかし、この国を、女王を思う気持ちに偽りはありません。ゆえに私は戦います。しかし相手は強力。いかに軍略があろうと、戦うのは私ひとりではできない。だから、ここにお願い申し上げる! 皆の力を、私に貸してほしいと!」
場の空気が、ピリッと変わった気がした。
何か揺れ動くような、何かが蠢動するような、そんな空気に。
だからそれを爆発させるために、さらに声を大にして、力を込めて火をともす。
「これは女王様を守る戦いであり、そして皆自身、父母を、子を、友人を守るための戦いである! 帝国という圧倒的な暴力から、圧政から、国を、人を守る戦いである! 耳ある者は聞け、瞳ある者は見よ! 私はジャンヌ・ダルク! この国の建国の英雄と同じ名を持つものである!」
そう、今こそこの名を叫ぼう。
不敗のジャンヌなんかより、よほど収まりがいい、この名を。
「私は旗を振る! 軍の先頭で旗を振る! それがこの世界に生まれた、旗を振る者としての使命だと信じて!」
マリアの方を見る。
彼女が小さくうなずいたように思えた。
するとすぐにマリアは立ち上がり、小さな体を大きく振るいあがらせ、大広間に響く声で宣言した。
「ジャンヌ・ダルクの覚悟や、よし! オムカ王国第37代女王がここに宣誓する! 必ずや帝国を打ち破り、この大陸をオムカ王国が統一することを! 皆の者、存分に励むがよい!」
次の瞬間、大歓声に広間は包まれた。
怒声と言ってもいい。
オムカに住む誰もが、涙を流し、声を震わせ大いに叫ぶ。
武官だけでなく、日ごろは書物と格闘する文官すらも、力こぶしを振り上げる。
オムカ万歳だとか、女王陛下万歳だとか、そんな中にジャンヌ様と俺の名前を叫ぶ者もいて、若干赤面。
火が灯り、爆発した。
明日には閲兵式も行うというから、そこでも同じようなことが起き、士気は最高潮に達するだろう。
もう後戻りはできない。
誰もが興奮した様子で広間から退室し、決戦への準備へと移る中。
マリアにジルたち軍人と里奈たちプレイヤーだけが残った。
「ふっ、茶番お疲れさまでした。千両役者ですね」
「ちゃかすなよ、マツナガ」
もはや公式の場所ではない。
いわば身内だけの場なので、砕けた口調になるのも仕方ない。
「ジャンヌ様の覚悟、私は猛烈に感動しました。私も全軍を指揮し、勝利に貢献しましょう」
「ああ、ジル。頼みにしてる」
「俺も出るぜ」
そう言って出てきたのはサカキだ。
重傷の体を押して、今日は出てきたようだが。
「でも、お前の傷は……」
「治った」
「ンなバカな。おい、ちゃんと医者の許可は取ったんだよな。じゃなかったら、お前――」
「俺が治ったっつったら治ったんだよ」
なんだよ、その子供の理論。
そんなのでだまされるわけない。
「ジャンヌ様、こいつは何を言っても無駄でしょう。ここに残しても這ってでも追いついてくるでしょうから、近場において見ておいた方がよいかと」
「でも……」
ちらっとサカキを見る。
やる気が充実して、重傷人とは思えない。
けどどこまで本当かはわからない。
はぁ、しょうがないか。
「わかった。けど無理はするなよ。てか死んだら、あれだからな。嫌うからな」
「死なねーよ。お前と結婚するまでは」
「サカキ、その件については後でじっくり話し合いましょうか?」
「へん、早いもの勝ちだ」
言い合いになるジルとサカキ。
こう見ると良いコンビだよな。
「明彦くん……」
2人を眺めていた俺に、里奈が話しかけてきた。
「里奈、心配かけた」
「ん……大丈夫。信じてたから」
そう言ってほほ笑む里奈に、俺も笑い返した。
本当に、彼女には助けられた。
「なんとか、力になります……だから……えっと……頑張りましょう?」
「先輩! こうなったら勝って終わりましょう! 正義は勝つです!」
「ま、気楽にやろうさ。負けても死ぬだけさ」
「その、あまり期待しないでね。私は歌うだけが仕事だから。その、応援歌くらいは」
「トシ、よくわからんけど己の誠を貫く! それが俺たち新選組だろ」
イッガー、竜胆、ミスト、林檎、新沢がそれぞれの心境を述べに来る。
彼らは何がいいのか、俺なんかに付き合って残ってくれたわけだ。負ければ死ぬというのに。
けど、その意思がありがたい。
負けてなるものか、という気になってくる。
「けど……勝っても、後味、悪いですよね」
イッガーがつぶやくように言う。
そう、勝つということは、相手のプレイヤーは全員死ぬということ。
誰かを犠牲にして自分が生き残る。
それはある意味、生存競争においては間違っていないのだけれど、それを意図してやるかどうかに、心の持ちようがかかわってくるのは当然だろう。
だから安心させるわけじゃないけど、とりあえず言っておくことにした。
「一応、それに対しては秘策があると言っておくよ。だから気にせず……は無理だろうから、まぁ少し力ぬいてやってくれ」
「……っす」
っと、そうだ。
最後にこれは言っておかないと。
「すまないがちょっと聞いてくれ」
せっかくの団らんとした雰囲気に、水を差すようで嫌だが、言わずにおいたら絶対後悔する。
俺たちのこれから。
プレイヤーとしての、後始末。
だから言った。
「出陣したら、俺はこの世界に残れない。この戦いに勝ったら、俺は――俺たちはこの世界からいなくなる」
そのことを知っている人、知らない人。
それぞれがそれぞれの反応を見せる。
無念、驚愕、動揺、悲壮、憂慮。
様々な感情が視線に乗っかって、俺に突き刺さる。
それを俺は受け止めた。
受け止めたうえで、さらに話を進めなければならない。
「勝てばこの世界から消え、負ければ原野に屍をさらす。どちらにせよ、もうこの世界にはいられないんだ。いや、もちろん最後に挨拶しにくる時間はもぎ取ってくるつもりだけど」
マリアは泰然とした様子で、ニーアは憮然とした様子。
ジル、サカキは目を伏せ、ブリーダ、クロエ、ウィット、マール、ルック、サールらは困惑した様子で俺の声を聞いていた。
「なんにせよ、俺は守りたいんだ。マリアを。みんなを。この国を。だから、俺は戦う。戦って、勝つ。けどさっきも言ったとおり、俺だけじゃ無理だ。みんなの力を貸してくれ。それが俺の……最後の奉公だ」
俺の本心。
今までどこかへ行ってしまって、気づかされて取り戻した想い。
それをこれまで戦ってきた仲間たちに打ち明ける。
「ここまで言い出せずにすまない。けど、黙っていなくなりたくなかった。だから最後の最後だけど、こうして言わせてもらった」
再び頭を下げる。
本当、今日は謝ってばかりだ。
「ジャンヌ様、頭をお上げください」
ジルが代表して優しくそう促してくれた。
顔を上げると、ジルが優しく微笑しながら、
「我々はジャンヌ様に助けられてきました。だから今度は我々がジャンヌ様を助ける番です。たとえその先にジャンヌ様の姿がないにしても、この世界を、この国を、女王様を守って盛り立てていくのは、我々の使命ですから」
「……ありがとう、ジル」
やばい、ちょっと涙が出そうだ。
「へっ、どっか行くなら俺もついてくかな。そうすりゃ離れ離れにならないだろ」
「サカキ、相変わらずだな」
「……頭が追い付かないっすけど、その、自分がここにいるのは軍師殿のおかげっす。感謝してます」
「ああ、ブリーダ。俺もだ」
「隊長殿ぉぉぉぉぉ! いっちゃやです。でも……クロエは頑張りますから!」
「馬鹿者! 貴様がそんなでどうする……くっ、いえ、泣いてなんか、いないですから」
「お世話になりました。その、突然で、なんて言ったらいいか。でも、とにかくは勝たないと、ですね」
「寂しいですねー、でも大丈夫ですよ。クロエたちは、強いですからー」
「クロエ、ウィット、マール、ルック。すまないけど後を頼む」
「その、今までジャンヌさんの護衛ができて、よかったです。兄も……兄もぉぉぉぉ、うぅ……わーーーーーん!」
「久しぶりに出たな。でも、今までありがとうな、サール」
視線をマリアとニーアに向ける。
マリアは涙を浮かべながらも、無理やり笑おうとしている。
ニーアは横を向いて舌を出している。涙は、少なくともこちら側からは見えなかった。
俺のことをこんなに思ってくれる人たちがいる。
なら、その人たちに未来を渡す。
それが今の俺の、この世界での俺ができる、最後のことだろう。
そう思ってやまなかった。
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そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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