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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
第1話 最後の戦いに向けて
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停戦が明けても俺は王都にいた。
帝国の動きがないこともあり、また別の方向から攻められても対応しやすいように、大陸の中央に位置する王都バーベルにいた方がよいと思ったからだ。
最前線はアークがいるし、ジルもほどなく出発するから、すぐに陥落することはないだろう。
そもそも、停戦明けの速攻はしてこないはずだ。
返還した皇帝というガバガバな情報源がいるだけじゃない。
期限まであと半年あるのだ。
速攻の奇襲など危険なことをしなくとも、帝国には十分に勝つ力がある。
何よりあの元帥なら、きっと正面から堂々と来る。そんな気がしていたのだ。
それなら逆にこちらから奇襲をかけるのはどうか。
それもノーだ。
俺たちが速攻で敵を攻めても、地の利は向こうにあるわけだし、城攻めには3倍の兵力が必要という常道を踏むのであれば、相手は2万も防衛線に張り付ければ俺たちは足止めされる。
その隙に別動隊を組んで王都を強襲されれば、それだけで王都は落ち、俺たちは負ける。
だからそんなギャンブルはできないわけで、こうしていつでも出れる準備をしながら、相手の出方をみるしかない。
後手に回るのはよくないが、これもまたしょうがないと言える。
そして、停戦明けから2週間が経過した。
「帝国に動きあり!」
その報告を持ってきたのは、王都で諜報活動の統括をしているイッガーだった。
「方角は!?」
「南、数は1万弱!」
南門――以前俺たちが帝都に行くときに使った門だ――を通ったということは、目標は間違いなくオムカだろう。
もちろん南門を出たからといって一直線に来るとは思えないが、その場合でも最前線はヨジョー城だ。
「シータには?」
「伝令がすでに川を下ってます」
上出来だ。
距離はあるけど、川を下るから明日――いや、今日の夜には水鏡の元に報告がいくだろう。
そうなれば前回の帝国の動きを視野に入れても、シータの援軍はギリギリ間に合うはずだ。
オムカの軍3万に、シータの3万も入れて合計6万。
さすがに何十万もの大軍を何度も動かせるわけがないから、今回は多くとも10万くらいだろう。
6万対10万。
それならなんとか勝負になる。
ヨジョー城から川を渡っての平原での決戦も可能だ。
帝国がどう思ってるかは分からないけど、こちらとしてはこれが最初で最後の決戦だと思っている。
どんな形であれ、初戦はその後の戦闘に大きな影響を与える。
何より予備兵の多いあちらと違って、こちらは一度負ければそれで終わりだ。
先ほど帝国が財政的にも10万くらいしか出せないだろう、と言ったが、それはこちらも一緒。
いや、もうすでに火の車で、今回以上の外征は少なくとも1年以上は不可能だ。
だからこれが文字通り最後の戦い。
やるからには絶対勝たなければならない。
絶対なんて言葉は嫌いだけど、ここで勝たなければ負けてみんなが死ぬ。
だからそう言うしかない。
「イッガー、お前はすぐ北に行って、敵の兵力、装備、敵将の名前、兵糧、地形、すべて探ってきてくれ」
「わかりました。けど、そうなると王都の防諜は……」
「そのことについてなんだけど、新沢は使えると思うか?」
「あいつ、ですか……」
イッガーが露骨に嫌そうな顔をする。
物静かな彼にしては意外な反応だ。
「いや、まぁやればできると、思います。ただどうも合わないというか」
「あぁ、なんとなく分かるよ」
人の話を聞かない、無駄なハイテンションは疲れるんだよな。
俺もイッガー寄りの人間だから分かってしまう。
「王都の政治的なところはマツナガ、治安維持の現地要員は新沢、防諜と補給の元締めはミストに任せようと思ってる。お前にはできれば現地で俺の耳目になってほしいんだ」
「はぁ……」
あれ、なんか反応薄い?
感動してほしいわけじゃないけど、一緒に頑張っていきたいという感じの意気込みを伝えたと思ったんだけど。
「えっと、嫌だったか?」
「いや、とても嬉しいです。自分なんかを、こんな信用してくれるなんて……なかった、ですから」
だったらもっと反応くれてもいいんじゃない?
そう思ったけど、でもそれがイッガーらしいと言えばイッガーらしいか。
なんだかんだで優秀だからなこいつ。
「そういえばだけど」
「なんでしょうか?」
「イッガーはもとの世界に戻りたいか?」
「それは……」
その反応だけで十分だった。
イッガーのさっきの言葉を信じるなら、彼はもとの世界でもそれほど役目を得ていたわけではなさそうだ。
それが今、こうやって各地を飛び回りながらも活躍しているのを考えると、この世界に手ごたえを感じているのかもしれない。
それが元の世界に戻ってしまえば、彼のこれまでの活躍を知る人はいなくなり、かくいう俺も学生に戻るのだから、彼を雇って金銭面で支えることも生きがいを与えることもできないのだ。
「そうか、ごめんな。帰りたいわけじゃないのに、こんなことで」
「いえ、自分もまた死ぬの、嫌ですから」
「違いない」
イッガーが苦笑し、俺もそれに倣った。
そうだ。じゃあせめて。これだけでも知っておくべきだ。
「なぁ、じゃあ教えてくれないか? イッガーの本当の名前」
「え……」
「元の世界に戻ったら、こうして一緒に何かを、ってことはすぐには難しいかもしれないけど、年も近いだろうし、友達になれるんじゃないかなって。だから、名前を知っておきたいなって」
「あ……はぁ」
イッガーは少し困ったようにして、それでも意を決したように、
「えっと、イッガー……いが、五十嵐、央太です」
「え、イッガー央太?」
「いや、その、いが……らし、です」
「あー」
五十嵐央太。
五十嵐、いが、イッガー。
なるほどね。
「いい名前だな。覚えておくよ。そして向こうの世界に戻ったら、また会おう」
「あ、はい。でも……えっと、隊長の」
「あぁ、そうか。ジャンヌ・ダルクはこっちでの名前だもんな。俺は写楽明彦、大学生だ」
「…………え?」
「ん? その反応……って、え? あれ、言ってなかったっけ?」
俺が男だってこと。
「えっと、それって、明彦……そういえば里奈さんも……え、ってことは……隊長は、その……」
「男です、すみません」
なんか謝っていた。
もしかしたらイッガーの、央太の心にとんでもない傷を作ってしまったような気がして。
「あ、いや……自分は、その、問題、ない、です」
「めっちゃ問題ありそうだなー!」
「いや、えっと……びっくりはしてます。けど、なんか納得って」
「なんか納得って、どういう納得だよ……。あ、っていうかこれ、竜胆には絶対内緒な!? 頼むから!」
「え、あ、はい。なるほど、です」
危ない危ない。
こういうことも気をつけなくちゃな。
最後の最後でぼろが出るとか、勘弁願いたいものだ。
という、そんな出発前の出来事。
大一番の勝負に出る前の緊張感と、まだみんなと一緒にいたいという弛緩した思い。
それらがないまぜになった中途半端な時期。
その2日後。
俺の出発の日。
その日に、さっそくプレイヤーの離脱者が出るとは、さすがの俺も予見できなかった。
帝国の動きがないこともあり、また別の方向から攻められても対応しやすいように、大陸の中央に位置する王都バーベルにいた方がよいと思ったからだ。
最前線はアークがいるし、ジルもほどなく出発するから、すぐに陥落することはないだろう。
そもそも、停戦明けの速攻はしてこないはずだ。
返還した皇帝というガバガバな情報源がいるだけじゃない。
期限まであと半年あるのだ。
速攻の奇襲など危険なことをしなくとも、帝国には十分に勝つ力がある。
何よりあの元帥なら、きっと正面から堂々と来る。そんな気がしていたのだ。
それなら逆にこちらから奇襲をかけるのはどうか。
それもノーだ。
俺たちが速攻で敵を攻めても、地の利は向こうにあるわけだし、城攻めには3倍の兵力が必要という常道を踏むのであれば、相手は2万も防衛線に張り付ければ俺たちは足止めされる。
その隙に別動隊を組んで王都を強襲されれば、それだけで王都は落ち、俺たちは負ける。
だからそんなギャンブルはできないわけで、こうしていつでも出れる準備をしながら、相手の出方をみるしかない。
後手に回るのはよくないが、これもまたしょうがないと言える。
そして、停戦明けから2週間が経過した。
「帝国に動きあり!」
その報告を持ってきたのは、王都で諜報活動の統括をしているイッガーだった。
「方角は!?」
「南、数は1万弱!」
南門――以前俺たちが帝都に行くときに使った門だ――を通ったということは、目標は間違いなくオムカだろう。
もちろん南門を出たからといって一直線に来るとは思えないが、その場合でも最前線はヨジョー城だ。
「シータには?」
「伝令がすでに川を下ってます」
上出来だ。
距離はあるけど、川を下るから明日――いや、今日の夜には水鏡の元に報告がいくだろう。
そうなれば前回の帝国の動きを視野に入れても、シータの援軍はギリギリ間に合うはずだ。
オムカの軍3万に、シータの3万も入れて合計6万。
さすがに何十万もの大軍を何度も動かせるわけがないから、今回は多くとも10万くらいだろう。
6万対10万。
それならなんとか勝負になる。
ヨジョー城から川を渡っての平原での決戦も可能だ。
帝国がどう思ってるかは分からないけど、こちらとしてはこれが最初で最後の決戦だと思っている。
どんな形であれ、初戦はその後の戦闘に大きな影響を与える。
何より予備兵の多いあちらと違って、こちらは一度負ければそれで終わりだ。
先ほど帝国が財政的にも10万くらいしか出せないだろう、と言ったが、それはこちらも一緒。
いや、もうすでに火の車で、今回以上の外征は少なくとも1年以上は不可能だ。
だからこれが文字通り最後の戦い。
やるからには絶対勝たなければならない。
絶対なんて言葉は嫌いだけど、ここで勝たなければ負けてみんなが死ぬ。
だからそう言うしかない。
「イッガー、お前はすぐ北に行って、敵の兵力、装備、敵将の名前、兵糧、地形、すべて探ってきてくれ」
「わかりました。けど、そうなると王都の防諜は……」
「そのことについてなんだけど、新沢は使えると思うか?」
「あいつ、ですか……」
イッガーが露骨に嫌そうな顔をする。
物静かな彼にしては意外な反応だ。
「いや、まぁやればできると、思います。ただどうも合わないというか」
「あぁ、なんとなく分かるよ」
人の話を聞かない、無駄なハイテンションは疲れるんだよな。
俺もイッガー寄りの人間だから分かってしまう。
「王都の政治的なところはマツナガ、治安維持の現地要員は新沢、防諜と補給の元締めはミストに任せようと思ってる。お前にはできれば現地で俺の耳目になってほしいんだ」
「はぁ……」
あれ、なんか反応薄い?
感動してほしいわけじゃないけど、一緒に頑張っていきたいという感じの意気込みを伝えたと思ったんだけど。
「えっと、嫌だったか?」
「いや、とても嬉しいです。自分なんかを、こんな信用してくれるなんて……なかった、ですから」
だったらもっと反応くれてもいいんじゃない?
そう思ったけど、でもそれがイッガーらしいと言えばイッガーらしいか。
なんだかんだで優秀だからなこいつ。
「そういえばだけど」
「なんでしょうか?」
「イッガーはもとの世界に戻りたいか?」
「それは……」
その反応だけで十分だった。
イッガーのさっきの言葉を信じるなら、彼はもとの世界でもそれほど役目を得ていたわけではなさそうだ。
それが今、こうやって各地を飛び回りながらも活躍しているのを考えると、この世界に手ごたえを感じているのかもしれない。
それが元の世界に戻ってしまえば、彼のこれまでの活躍を知る人はいなくなり、かくいう俺も学生に戻るのだから、彼を雇って金銭面で支えることも生きがいを与えることもできないのだ。
「そうか、ごめんな。帰りたいわけじゃないのに、こんなことで」
「いえ、自分もまた死ぬの、嫌ですから」
「違いない」
イッガーが苦笑し、俺もそれに倣った。
そうだ。じゃあせめて。これだけでも知っておくべきだ。
「なぁ、じゃあ教えてくれないか? イッガーの本当の名前」
「え……」
「元の世界に戻ったら、こうして一緒に何かを、ってことはすぐには難しいかもしれないけど、年も近いだろうし、友達になれるんじゃないかなって。だから、名前を知っておきたいなって」
「あ……はぁ」
イッガーは少し困ったようにして、それでも意を決したように、
「えっと、イッガー……いが、五十嵐、央太です」
「え、イッガー央太?」
「いや、その、いが……らし、です」
「あー」
五十嵐央太。
五十嵐、いが、イッガー。
なるほどね。
「いい名前だな。覚えておくよ。そして向こうの世界に戻ったら、また会おう」
「あ、はい。でも……えっと、隊長の」
「あぁ、そうか。ジャンヌ・ダルクはこっちでの名前だもんな。俺は写楽明彦、大学生だ」
「…………え?」
「ん? その反応……って、え? あれ、言ってなかったっけ?」
俺が男だってこと。
「えっと、それって、明彦……そういえば里奈さんも……え、ってことは……隊長は、その……」
「男です、すみません」
なんか謝っていた。
もしかしたらイッガーの、央太の心にとんでもない傷を作ってしまったような気がして。
「あ、いや……自分は、その、問題、ない、です」
「めっちゃ問題ありそうだなー!」
「いや、えっと……びっくりはしてます。けど、なんか納得って」
「なんか納得って、どういう納得だよ……。あ、っていうかこれ、竜胆には絶対内緒な!? 頼むから!」
「え、あ、はい。なるほど、です」
危ない危ない。
こういうことも気をつけなくちゃな。
最後の最後でぼろが出るとか、勘弁願いたいものだ。
という、そんな出発前の出来事。
大一番の勝負に出る前の緊張感と、まだみんなと一緒にいたいという弛緩した思い。
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