知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
548 / 627
第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話15 玖門竜胆(オムカ王国プレイヤー)

しおりを挟む
 騒ぎは遠くから聞こえた。
 ドンっとお腹に響く音と、閃光。
 そして悲鳴。

「なに……?」

 林檎さんがそちらの方を見て眉をしかめる。
 その方向、はるか遠くに一筋の黒い煙が天へ向かってその体を伸ばしている。

「あ、ばくはつした!」

 男の子が無邪気にそう声を上げた。

 王都の門の近くで確かに爆発が起きている。
 しかも1度で終わらず、2度、3度と続く。

 何かとてつもないことが起きていることは間違いない。

「すみません、子供たちをお願いします! 決して建物から、敷地から出ないように」

 近くにいた孤児院に勤める女性に向かってそう告げる。
 爆発なら建物の中にいちゃいけないのかもしれないけど、少なくともパニックに巻き込まれるよりはマシだと思った。

「え、ええ。貴女は……」

「ちょっと見てきます。何か起きているかを調べないと」

 それに、先輩に留守を任されたのもありますし。

「ジャスティスおねえちゃん……」

 子供たちが不安そうな目でこちらを見上げてくる。
 正直言うと、自分も不安だ。

 この世界。
 元の世界なんかより、はるかに命が軽い。一歩外に出れば、命のやり取りが定常化している。

 だからもしかしたらのこともありえる。

 けど私が行かないと。
 留守を任せた先輩に迷惑をかけるだけじゃなく、正義ジャスティスを掲げる私自身の信念が潰れてしまうから。

 だから――

「大丈夫です。ここでじっと待ってるんですよ。すぐに戻ってきて正義ジャスティスごっこの続きをやりましょう!」

「……うん!」

 子供たちに笑顔が戻った。

 そうだ。こういう時は、不安を外に出しちゃいけない。
 それは先輩を見ていて思ったこと。

 どんなに辛くとも、悲しくとも、苦しくとも。
 先輩はそれらをなるべく外に出さないようにしていた。

 だからどんな大変なことも乗り切れたし、ここまで生きてこれたんだろうと思う。
 それを少し真似しただけ。

「私も行く」

 いざ走り出そうとしたとき、林檎さんがそう言ってきた。
 けど私は首を横に振る。

「いえ、林檎さんはここに残ってください」

「でも……」

「子供たちを安心させる歌をうたってあげてください。それができるのは林檎さんだけです」

「…………分かった。気を付けて」

「はい、玖門竜胆、行ってきます!」

 そして走りだす。

 孤児院を出てまずは大通りを目指す。東から西へ抜ける大通り。
 そこではまだ事態を分かっていない人たちが、平和に暮らしている。何やら騒ぎが起こっているのは分かるけど、それが自分に降りかかるまでは普通通りの生活を続けるのだろう。

 それが悪いとは思わない。
 元の世界でも、自分はそんな感じだったから。

 けどこの世界にいて、先輩の傍にいて、それではダメだと思った。
 災難はいついかなる時でもやってくる。
 だから大事なのは当事者意識。
 できるなら、自分から動くこと。

 だから私は、そんな人たちの間を縫って、そのまま西へ。
 そして王宮の手前で南に折れ、いくつかの路地を曲がって大通りに出る。

 そこは王都を縦に割る通り。
 そして、そこでようやく事態が見えてきた。

 南門の右手――地図で言えば、えっと南の右で、こっちから見てだから、右はおはしを持つ方で……南東? いや南西、かな? のあたりの住宅街が燃えている。
 そして爆発は今も続いていて、その位置は――

「近づいてくる!?」

 そう、爆発はこちらにどんどんと位置を動かしてくる。
 それはつまり、こんなことを起こした真犯人もそこにいるということ。

 そう思ったら止まらなかった。
 さらに走り、爆発の進路となるべき方向に向ける。

 大通りの辺りは孤児院の方と異なり、混乱と恐慌で大わらわだった。
 誰もが逃げようと必死に逃げ惑う。

「あ、お花が!」

「馬鹿! お花より命が大事なんだよ、逃げるよ、リン!」

 祖母と孫なのか、おばあさんと小さい女の子が慌てて逃げている。

 怒りがわく。
 こんなことをするのはどこのどいつだと。

 皆、平和に暮らしていたのに、どうしてこんなノン正義ジャスティスなことをするのか。
 しかも先輩がいないときに限って……。

 そう思うと、いてもたってもいられなくなり、さらに加速する。

 前。右手の方。そこにあった民家が爆発に巻き込まれ、燃え上がる。
 その火の粉は隣家へと降り注ぎ、小さいながらも火種が生まれていく。

 類焼ってやつです!

「第二もん! 水竜(すいりゅう)!」

 とっさにスキルで木刀を出し、そのまま地面に突き刺す。
 王都の地下には、川から引いた水脈が巡らされていると先輩から聞いた。しかもその川はすぐそこ、南門の近くを通っているのだから、水が出る条件は十分だ。

 地面が割れ、そこから水が爆発したように吹き出した。
 天高く舞い上がった水は、そのままスプリンクラーのように、周囲に水をまき散らし火の勢いを弱めていく。逃げ行く人々は悲鳴を上げつつも、消えていく炎を見て安堵してくれている。

「これで、よし」

 この調子で燃えているところを鎮火していきましょう。
 ひとまず自分にできることから。それが基本です。

 しかし、その予定はあっさりと覆った。
 そう、すぐそこで爆発したのなら、それを行った人間がすぐそばにいるのは道理ということで。

「まったく、どこの誰ですか。こんな美しくない邪魔の仕方をして」

 すぐそこで舌打ちをするような声が聞こえた。
 女性の声だ。

 そちらを見れば、女性――白いゴスロリ? ドレス的なものを着て、降り注ぐ水を傘で受け止めていたお嬢様的な女性が突っ立っている。

 格好だけでなく、みんなが逃げる中とどまっているという、あからさまに不自然な様子と、その声の内容からその人物が何者か分かった。

「なぞは全て解けました! 犯人は、あなたですね!」

「……アラン」

 答えは命令、いや行動で来た。

 女性の背後に立っていた男性が、ものすごい勢いで突っ込んでくる。
 それがもう、執事服を着たイケメンとか。いや、今は関係ない!

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第五もん! 地竜(ちりゅう)!」

 執事が来る。大きく振りかぶった右こぶしの一撃。
 それを一番硬そうな形態フォームで防ぐ。
 ガイィィィン! と鉄と鉄がぶつかり合ったような音。

「止まっ……え?」

 確かに執事の攻撃は止まった。
 けど、それを止めたはずの木刀に、ビキっという音の後、執事の拳が当たった辺りからひびが走り、

「わっ、わっ!」

 身をかわすのと同時、木刀が砕け、その奥から殺人的な加速でのパンチが私の頭の上をかする。

 あ、危なっ!
 てかあんなのが当たったら、今頃は……。

「おーっほっほ! わたくしのアランに敵うわけありませんわ! このわたくし、クリスティーヌ・マメールの完璧すぎるスキル『完璧すぎる私の執事モン・パルフェ・マジョルドム』の生み出したアランに! どうやら貴女、プレイヤーのようですわね。つまり煌夜様の敵! 堂島様の仇! 手加減はしなくてよ?」

 なんと。この女の人もプレイヤーですか。
 へぇー、つまりスキルで執事を。なるほど。

「竜胆的に分かりました! あなた、ヤバい人ですね!」

「ぶち殺しますわよ、このクソガキ!」

 怒られてしまった。褒めたつもりなのに。

 と、そこへもう1人、煙の向こうから現れた。

 新手!?

 そう身構えた体が、硬直した。

「おい、クリスティーヌ。何をやって――」

「愛良……さん?」

 その声を、そして姿を見て、反射的にそう言っていた。
 いつもの格好いい服じゃない。どこか若干くたびれた感じの普通の格好。けど間違いなく愛良さん。

 相手もこちらに気づいたようで、険しい表情をしながら、

「竜胆、か」

 淡淡と、けどどこか苦々しげに吐き捨てる。

「どうしたんですか、こんなところに……あ、やっぱり戻ってきたってことですよね!」

「…………」

「どうして答えてくれないんですか……? どうして、愛良さん!」

「なるほど、昔のお知り合いということですか」

「そういうもんじゃないさ」

 ドレスのお嬢様的な女性の問いに、そっけなく答える愛良さん。

 対して竜胆は混乱の真っ最中です。
 なんで? どうしてそんなことを言うんですか。
 私たちはとても仲良かったじゃないですか!

「愛良さん、正義ジャスティス!」

「すまないが、もうお前に構ってる暇はないんだよ。どいてくれ」

「何で……一体、何を……?」

「…………オレのため、娘のため」

 一拍。
 言葉をためて、

「オムカ国王を殺す」

「っ!」

「そういうことですの。ああ、抵抗しても構いませんよ。わたくしのアランに勝てる者はいませんから。そしてオムカ国王を殺し、煌夜様によくやったと褒めてもらうのです!」

「頼む。どいてくれ竜胆。オレはお前を傷つけたくない」

 意味が、分からなかった。
 なんでそんな酷いことを言えるのか。

 愛良さんも愛良さんだけど、このお嬢様的な人も大概だ。

 だからこそ、だからこそ。
 理解した。
 自分がここにいる理由。自分の役目。
 自分ができること。しなくてはいけないこと。

「自らの私欲のため、人を傷つけ、人に迷惑をかけ、人の命を奪おうとする……」

「竜胆?」

「そんなの、巨悪です! 人として間違ってます! そんな人……そんな人……」

 愛良さんとの思いでがよみがえる。
 どこか飄々として、それでいてきっぷの良い感じで、子供たちに人気の姉御肌。
 少し陰の入ったところとかも格好良かった。

 少し、憧れもしていた。
 娘のために頑張る。それもまた正義ジャスティスだと思っていた。

 けど、その偶像は、壊れてしまった。

 今ここにいるのは、はっきりとした悪。

 だから、もう迷わない。

「そんな人、ノン正義ジャスティスです! 愛良さん、それからそこのお嬢様的な人! この玖門竜胆が、正義ジャスティス、執行します!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...