知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話17 玖門竜胆(オムカ王国プレイヤー)

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 闇竜あんりゅうによって生まれた闇に潜む。
 そこへあの執事が突っ込んでくる。

 あれはスキルで生まれたというもの。
 なら、手加減はいらないですよね!

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第六もん! 閃竜(せんりゅう)! ビーム!」

 閃光が走る。
 それは一直線に、こちらに突っ込んでくる執事に直撃した。

「アラン!」

 光が闇を斬り裂き、闇が消えうせる。
 そこで見た光景は仰向けに倒れた執事と、愛良さんとお嬢様的な人。

 やがて、仰向けに倒れた執事は、霧散して消えた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 まず、1つ。

 とんでもない相手だった。
 一瞬でも気を抜けば、対応が遅れれば今頃地面に転がっていたのは自分だ。

 けど、正義ジャスティスは勝つのです!

 だからあとは――

「よくも、やってくれましたわね」

「え?」

 お嬢様的な人が、ゆらりと一歩、前に出ながら言う。

 その表情、いや瞳には、どこか狂気じみた何かがあることが遠目でも分かる。

 あ、まずい。
 あの目はヤバいやつ。

「おい、クリスティーヌ。なにするつもりだ……」

「問答無用! 出なさい、アラングレートZハイMk-2カスタム改!」

 地鳴り、いやこれはもう地震。
 一体何が。
 そう思った時には、すでに現象が起きていた。

 お嬢様的な人の背後。そこの地面がべきべきとひび割れ、そして何かが地中から顔を出す。
 そして次第にそれは大きさを増していき、左右幅で5メートルほどの地面(民家の一部も含む)が割れる。

 そこから出てきたのは巨大な鉄の塊。
 最初にあったのは顔。無骨で無表情な機械仕掛けの顔が現れ、そして次に首、肩、腕、胴体と来て足が来る。
 お嬢様的な人は、途中に出てきた手の平に乗せられて、はるか上空へ。

「えっと……」

 正直、理解が追い付かない。

 なんでこんなところに。巨大ロボが出てくるの?

 現れたのは全長10メートル近くの巨大な機械仕掛けの人形。
 ただそれが木偶でくではないことは、その動きから分かる。

「おーっほっほ! 愚民は見下してこそわたくしの高貴さが増すもの! この最強執事のアラングレートZハイMk-2カスタム改がいれば、わたくしが敗けることはありえませんわ!」

「これのどこが執事ですか!」

「何を言うのです! 主のために敵を抹殺し、手のひらに乗れば空飛ぶ移動手段となり、買い物には荷物持ち、指に内蔵されたティーポットからは最高級の茶葉から厳選したかぐわしき紅茶を出す、完璧な執事ロボですわ!」

「無茶苦茶! てかロボ言った!?」

 確かに黒い執事服みたいな装甲してますけど!

 えっと、これさすがにまずくないです?

 さすがにこれは予想外。
 まさかのロボット大戦になるとは。てゆうか勝てる人、いる?
 いかに正義ジャスティスは勝つとはいえ、こっちも大怪獣とか呼び出さないと無理ですよ。

「アラン! 焼き払いなさい!」

 ロボの目が怪しく光り、そして――閃光が走った。

「え?」

 振り向く。
 閃光の先。
 王宮。

 そこには女王さんがいるはずの――

「あ……」

 外れた。
 ホッとするのもつかの間、閃光は勢いを落とさず通り過ぎ、そのままはるか向こうの北門辺りに直撃し、そして爆散した。
 ここからでも見えるほど、大きな炎が北門周辺を染め上げる。

「あ……ああ……」

「むぅ、照準が甘いですわね。アラン、次は当てるんですわよ」

「な、なんてことをしてくれたんですか!」

「何って、暗殺ですが?」

「あ、暗殺って……」

 こんな暗殺がありますか。
 ロボを使うんですか。てかビームっておかしいでしょ。

 色んなツッコミが頭に浮かんだものの、すぐさま打ち消す。

「そのおもちゃ、正義ジャスティスのため、壊します!」

「おもちゃではありません! アランです!」

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第五もん! 地竜(ちりゅう)!」

 もはや問答は無用。

 無機物なら地竜これで壊せる。

「はぁ!」

 がぃぃぃん!
 城壁すら破壊する地竜が、弾き飛ばされた。なんて硬さ!

「なら! 九紋竜形態変化チェンジフォーム、第八もん! 絶竜(ぜつりゅう)!」

 木刀に真剣の力を与える絶竜ぜつりゅう
 これなら!

 ガキャァァン!

「うぅ……」

 反動で腕がしびれた。
 これでもダメ、なら火竜。ダメ。水竜。ダメ。風竜。全然ダメ。雷竜。一瞬止まっただけ、ダメ。なら閃竜。ダメ。闇竜。意味なし!

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 一気に8つの形態フォームを試したせいか、息が切れる。
 そのどれもが通用せず、無力感が両肩にのしかかる。

「おーっほっほっほ! 思い知りまして? もはや愚民が何をしようと無駄! ゆえに最強! これがわたくしの執事ですのよ!」

 高笑いに反論できない。
 それが、悔しい。

「おい、竜胆。もうやめろよ」

 少し距離を取って戦いを眺めていた愛良さんが、悲し気に言う。
 さっきまでの熱が冷めたようで、どこか同情的だ。

「これはもう無理だ。オレも正直、驚いてる。けど、これはもう勝てない」

 そう、勝てない。
 もう自分に打つ手はない。

 けど、それでも――

「勝つとか、敗けるとか、そんなことはどうでもいいんです」

「なに?」

 それでも。
 それでも正義は止まっちゃいけない。

「こんなものを野放しにしたら、もっと被害が出て、子供とかお年寄りとか、色んな人が……死んでしまうかもしれないんです! それはノン正義ジャスティスです! だから、たとえ勝てなくても、こいつをここに足止めして、みんなが逃げ出す時間を稼ぐ必要があるんです!」

 それが――

「それが今の、いえ、私の、玖門竜胆の“正義”です!」

「お前……」

 愛良さんが絶句する。

 敵の攻撃が来る。ただのキックなんだけど、あんな大きな質量をぶつけられば、ミンチになるのは目に見えている。

 だから必死に避ける。
 避け際に木刀をたたきつけるけど、もはや暖簾に腕押し、というかダイヤモンドに猫パンチ。

 もう打つ手がないのは確か。
 いや、ただ1つ。あるような気もする。
 けど、それを使っていいものか。迷う。いや、分からない。

 だから体が壊れるより先、心が壊れそうな絶望的な状況。
 そこへ――

「よく言った、総司! そう勝つのは正義われわれだ! 新選組! 出動!」

 突然、喚声がして路地から、見覚えのある水色の羽織の集団が突っ込んできた。
 その奥で叫ぶのは――

「新沢さん!?」

「よく頑張ったな! それでこそ総司だ!」

 そう言われ、不覚にも涙を流しそうになった。
 私の頑張りを認めてくれる人がいる。
 正義ジャスティスに共感してくれる人がいる。

 それだけで、胸がいっぱいだ。

「えっと、その……新沢さんこそ大丈夫ですか?」

 涙を見せるのが嫌で、別の方向に話題を振った。
 やってきた新沢さんだけど、顔を腫らして、さらにお気に入りの羽織がボロボロの状態だったからだ。

「ふっ……愚問だぞ総司。仲間を失っても戦い続けたトシのように、腕を失っても戦い続けた伊庭八郎いばはちろうのように、男には、傷ついてもやらなければならないことがあるのだ。それが――」

正義ジャスティス!」

「そうだ! いくぞ!」

 その言葉だけ勇気百倍。
 まだまだ戦える!

「ええい、うっとおしいですわ! アラン!」

 巨大ロボが身じろぎして足を振り回す。
 それだけで、足元にいた羽織の集団の何人かが吹き飛んだ。

「ひるむな! 俺に続け!」

「了解です!」

 十数人の羽織の人たちとともに、巨大ロボの脚もとにとりつく。

「踏みつぶしなさい!」

 巨大ロボの単純な――だが効果的すぎる踏みつぶし攻撃。
 もはや私たちは人間にむらがるありんこでしかないのか。

 と、その時。
 空から無数の刀が飛んできて、巨大ロボの至るところに傷を負わせていく。
 それはもちろん、手のひらの上にいるお嬢様的な人も同様で、

「きゃ、きゃあ! 守りなさい! アラン!」

 これは――

「剣豪将軍――飛来」

「愛良さん!」

「別に味方したわけじゃない。ただ、見てられないっつーか……いや、これはやりすぎだ。それに……孤児院が心配だからな」

 そう、視線をそらしながら言う愛良さん。

 素直じゃない。そう言いたかったけど、そうすると不機嫌になるだろうからやめた。
 でもなんだか笑みが止まらない。愛良さんはやっぱり愛良さんだった。戻ってきてくれた。それだけが嬉しい。

 けどそれで戦況が変わるものでもなかった。
 愛良さんが参戦したとはいえ、できることはそこまで私たちと変わらない。
 いや、この巨大ロボの前では、決定打なんてありえない。

 どうする。
 いや、もう迷っている暇はない。

 スキル『九紋竜』で分かっているのは第八までのもので、残る第九の能力は分からない。
 つまり何が起きるか分からないのだ。

 けど、もう腹は決まった。
 ここまで来て、すべてを出さずに終わりたくない。それが力を貸してくれた皆に対する礼儀。

 いえ、この気持ちこそ正義ジャスティス

 だから覚悟を決めて、呼び出す。

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第九もん――神竜!」

 すべてを、解放した。
 何が起こるか分からない。
 いや、もう何が起きても受け入れる。

『アラート、アラート。スキル『九紋竜』の九紋は一度しか使えない最終にて最果て。一度、発動すれば、命が燃え尽きるまで巨大な力を手に入れることができますが、元に戻れる保証はありません。それでも発動しますか?』

 頭の中でガンガン声が響く。

 何を言っているのか、何を言われているのか。
 分からない。分からなくてもいい。

 皆を守るため。
 この世界を救うため。

 それが――

正義ジャスティス

 そして視界が、ブラックアウトした。
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