知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第15話 勝利への咆哮

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 敵の攻撃は執拗だった。
 がっちりと組んで、退く気配がない。

 その前に敵の騎馬隊に前線を崩されたのが痛かった。
 あれはおそらく爆雷――とは別に、スキルの力がありそうだ。
 炎を出すスキル。ビンゴ王国のところでも見たスキルで、あの講和会議の時、“あいつ”が見せたスキルと似ていた。

 ……本当にあいつなのか。
 分からない。分かりたくない。

 けど今の俺の立場としては、そういった不確定要素は排除していかないといけない問題。だから考える。だが分からないものは分からない。
 あの炎の使い手と、達臣が一緒なのか。それは一旦置いておいてでも、そういうものがあるのは考慮しながらやらないと致命的なことが起こりかねない。

 そもそもが、その前に逃げてきた味方の収容に手間取ったのが失敗だった。
 ちゃんと想定して動いていたものの、予想以上にギリギリの距離だったこともある。

 あの時に陣形が崩れた。
 それからなんとか立て直したが、万全とはいいがたい。

 その誤算に加え、騎馬隊のかく乱があったわけだ。
 まさか数の少ない敵から攻めてくるとは思わず、油断していたのかもしれない。

 いや、兵を割った分、数では互角だったのだ。
 それが機先を制されて、ずるずると押される形になった。

 このままいけば本当に負けていた。
 がっちりと組んだ状況で、しかも同兵力で敵に後ろを見せれば、それこそ再起不能なほどまでの追撃を受けるはずだ。

 だが、そうはならなかった。

 それはつまり――

「俺たちの、勝ちだ」

 東から喚声。
 1万の軍――元・淡英の軍が敵のわき腹に突っ込んだ。

 昨夜から、偵察や兵の移送の名目で少しずつ随時後方へと送った。
 それもこれも、敵の側面を突くためだ。

 ウォンリバーを下り、途中で支流に入って遡上。
 そのまま敵の城の東の場所で上陸させた。もちろん元・淡英軍を使ったのは、水陸両用として鍛えられた軍だから、この戦法に適していたからだ。

 そこらへんは完全に敵地だったが、『古の魔導書エンシェントマジックブック』を元に地図を作成したから間違いはなかったはずだ。

 そこから気を見て突っ込んでもらう想定だったが、これがなかなかに難しかった。
 上陸地点から、今のこの場所まで5キロほどあるのだ。
 少し急いで1時間ほどの距離。だが早すぎては挟撃にならないし、遅すぎては間に合わずに負けている。

 それを可能にしたのが、雫による合図だ。
 雫の砲撃から1時間以内に敵は打って出るとみて、大砲の音で行軍開始、そして雫の撤退の花火で両軍の激突を知らせたのだ。

 正直、綱渡りの戦法だったが、野戦でしっかり勝つにはこういうことをしないと勝てない。
 そんな難問に、朱賛はちゃんと応えてくれたようだ。

 淡英の仇を討とうとしてか、元・淡英軍は火の出るような勢いで敵を押していく。
 押せ押せだった敵が、急にわき腹に敵を受け、じりじりと後退し始める。

 勝った。

 そして俺はその勝利を決定的なものにするために、旗を振りながら叫ぶ。

「援軍が来たぞ! 勝った! 勝った! 押し返せ!」

 勝った、を連呼させるこの行為。
 無意味に聞こえるだろうけど、そうではない。

 かの日本三大奇襲に数えられる河越城の戦い。
 後北条家の名将「地黄八幡じおうはちまん」と称えられた北条綱成ほうじょうつなしげは、大将であるにもかかわらず、「勝った!」と連呼しながら先頭に立って突撃していったという。
 これは味方を鼓舞するだけでなく、敵に恐怖と敗戦気分を植え付けて士気をくじく狙いがあったとされる。

 少数の小競り合いならまだしも、万の人間がぶつかりあう戦場だ。
 実際に戦っている人からすれば、右翼にいながら左翼の戦況を知ることはできない。だから敵が「勝った!」と叫びながら突撃してくるのを見れば、「もしかしたら左では敗けたのでは?」と思ってしまう。
 そうなればもう戦えない。

 なぜなら左翼が崩れれば、次は残った右翼じぶんが狙われて袋叩きにされて殺されるのだ。
 味方が負けて逃げるのなら、生き残るために自分が逃げても仕方ないと思ってしまうのは人間心理だろう。

 今回は、敵の左翼に援軍が突っ込んだ。
 それを右翼にいる兵に知らせることで、士気をくじく。
 その目的で、各所で「勝った!」と連呼させたのだ。

 そしてその効果はみるみる現れた。
 何もなく「勝った!」と言われているわけじゃない。現に左翼は押されているのだ。だからそれが敵の全体に伝わっていく。

 あとは一か所が崩れれば、あとは総崩れ。
 もちろん手を緩めるつもりはない。こちらも数万の命を預かっているのだ。
 敵に情けをかけて、より多くの命を失うのは愚かというしかない。

「ジル、総攻撃の合図を」

「はっ! 全軍、攻めかかれ!」

 崩れていく敵を、味方が追い打ちする。

 一度こうなればひどいものだ。
 無防備な背中に剣や槍を突き立てていく。

 城が近いから、存分に討ち取ることはできないだろう。
 いや、だからこそ。ここで決めるためにも、つけ入り(城や砦に逃げ込む敵と一緒に突入すること)で一気に落城まで持っていってしまいたい。

 あの女神はこの前線にいるという。
 ならすぐそこにいるはずだ。

 それを捕まえてしまえば終わりだ。
 この世界での俺の仕事も最後になる。

 覚悟をもう一度する時間が欲しかったけど、それはもう仕方ない。
 だから今だ。
 ここが天王山。

 つけ入りできるかどうかで、この後になる犠牲の人数が10倍くらい違う。

 本当に、こういう時に前線で戦える身が羨ましい。
 こうやって見ているしか、祈るだけしかできないことが悔しい。

 それでも人は与えられた役割を果たすしかない。
 ここまではやった。
 だからあとは頼んだ。
 みんななら、きっとやってくれる。

 そう信じて、祈るように俺は目を閉じた。
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