知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

第25話 ひと区切り

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 戦後処理は一応、つつがなく終わった。

 投降してきたのは3万強。
 およそ2万近くが死傷し、5000ほどが逃亡した。

 対するこちらの軍の被害は7千ほど。
 それにゴードンの隊が張り切り過ぎたらしく、3千近い犠牲が出たという。
 ただそれを差し引いてもはっきり大勝利と言っても過言でもない。

 正直、もっと時間がかかっていたらこの何倍もの死傷者が両軍に出ていたことを考えると、これだけの被害で済んだというのは僥倖だろう。
 まぁ勝者の驕りかもしれないけど。

 人材の面で言っても、帝国は軍のトップ2人が戦死。
 その下にいる将軍格が捕虜となり、補佐役の軍師は行方不明と来た。もはや真っ当な戦力はありはしない。

 それはつまり、俺たちの完全勝利ということだが、勝って兜の緒を締めよ。
 まだ不穏の相手がいる。

「コーヤ教皇、でしたっけか。あの城に残っているのは」

 俺とジル、あまつ、水鏡、アズ将軍による軍議でこれからのことが話し合われた。

「あんまり知らないけど、アッキーはあるんでしょ? ちゃんと話したことが。どんなの?」

「どんなのって……なんというか、普通……じゃあなかったな。結構過激なこと言ってたし」

「ま、そうよね。変な新興宗教起こしてるんだから」

 おいおい、水鏡。
 あの女神に怒られるぞ。

「もはや相手に抗う力はないでしょう。降伏勧告でも出してはどうでしょうか」

 天の意見は至極もっともだった。
 この状況に至ってはそれもやむをえない。

 だが問題がある。

「あの皇帝がそれを許さないだろ。あの世界が自分を中心に回ってると本気で思ってるお坊ちゃんが」

「いたわね、そんなのが」

「それに、おそらく煌夜は降伏しないよ。降伏するってことは、彼の愛する人を失うってことだから」

 おそらくこれが一番の問題点。
 正直、皇帝はどうとでもなる。
 かなり強引だけど、尾田張人のスキルで降伏を認めさせればいい。

 けど、エイン帝国のパルルカ教の教皇様はそうはいかない。
 何より、1人の命がかかっているのだ。

 そうやすやすと諦めはしないだろう。

 ここで強硬を主張出来たらどれだけ楽だろう。
 煌夜の愛する人を犠牲にしなければ、俺たちですら生きることはできないのだ。
 本当につくづく最低のルールを設けてくれるよ、あの女神は!

「あのー、そこらへんは私にはよく分からないのですが」

 アズ将軍がおずおずと手を挙げる。
 場違いのところにいると思っているのかもしれないが、彼も立派な国の代表だ。
 俺は発言を促した。

「まずは負傷兵と一部の兵を返して反応を見るのはどうでしょう。あの貴族兵は戦力になりづらいですし、負傷兵もですが、正直こちらで預かるのはなかなか問題が出るかと」

「うむ、それは確かにその通りです」

 アズ将軍の言葉にジル、そして天も納得したように深くうなずいた。

 確かに一理、どころか十理くらいある。

 投降兵といっても、それはそれでめんどくさいのだ。
 食事と寝るところを準備しないといけないし、負傷兵には薬も渡さなければいけない。なぜ将来的に再び敵になるだろう人間を食べさせて治療しなければならないのか、という兵の不満も出てくるだろう。

 何より、数万の捕虜だ。
 油断すれば蜂起されて逆にこちらがさんざんに打ち破られる可能性がある。
 それに神経を使うのも馬鹿らしい。

 かといって全軍を解放するわけにはいかない。
 すぐに戦線復帰できない重傷でない負傷兵と、戦力としては下の貴族兵を返すのは理にかなった方針だ。

「いかがでしょう、ジャンヌ様。一部捕虜の返還を行い、その教皇に話し合いの場を持たれては」

 話し合い、か。
 また先月の講和会議みたいな形になるのか。

 あの時と違うのは、まだ講和の芽が残っていたことと、何人かの人間がもういないということ。
 時の流れをむなしく感じてしまうものだ。

「それと、帝国軍元帥閣下の遺骸も返還しておくべきかと」

「……ああ」

 普通、討ち取った敵は、戦意高揚のため死体を辱めることが多い。
 だが敬意を表す相手なら、その遺骸をきちんと清めて返還することもある。三国志の関羽がその例だ。

「……そうだな。返そう」

 おそらくそれがいいだろう。
 彼女も、俺らなんかより、元の仲間の元へ帰りたいに決まってる。

 ひとまず方針としては決定した。
 負傷兵と貴族兵を送り返し、一度会談の場を持つ。
 そこで降伏するか否かの最後通牒を煌夜に突きつけることになった。

 それで会議は解散。
 護送は各国の軍から一部を割き、あとは残った捕虜を連れてデンダ砦へと戻る。

 俺は撤収の準備をしている兵を眺めていると、不意にジルがやってきた。

「ジャンヌ様、お疲れさまでした」

「まだ終わってないよ。むしろ、最後のもうひと踏ん張りが辛そうだ」

「そうですね。ですが、ここはひと区切りでしょう」

「そう、だな」

 確かに今は王手の段階までこぎつけた。
 だが詰みまで持っていけるかはまだなんとも言えない。

「あいつも喜んでますよ。帝国を、倒したわけですから」

「……そうだな」

 散っていった命。
 それらがここまで俺たちを連れてきたのは間違いないこと。

「ですから、その……元気を出してください」

「元気?」

 あれ、もしかして今。
 俺ってジルに慰められてる?

 そんなに落ち込んでると思われたのかな。

「大丈夫だよ。うん、というか、心の中ではひと区切りと思ってたのかもしれないな」

「お気をつけください。やりきったと感じた者が、急に老け込むというのはよく聞きますので」

「燃え尽き症候群ってか?」

「なるほど、そういう言葉があるのですね。さすが博識であられる」

「そうじゃないさ。それに俺はまだ、そんな年代じゃない」

「これは失礼しました。ジャンヌ様はまだお若い。ならば立って歩く力もお強いはずです」

 やっぱり慰められてるな。
 てかジルこそ何歳だよ。
 まだ20代だろうに、言うことが年寄りの言うことだよな。

「……? なにか?」

「いや、ジルみたいに分別があって良識のある大人になりたいなって」

「私もまだまだです。これから、もっと精進しなければ」

「これから、か……」

 俺たちのこれから。
 そこにあるのは分岐でしかなく、俺はジルのこれからを見ることはできないし、ジルは俺のこれからを知ることはできない。

「ジャンヌ様……」

 ジルがこちらを見てくる。
 これまでとどこか雰囲気が違う。
 何かを覚悟したような、決意したような男の表情。

 その顔に、俺は一瞬胸を締め付けられる想いを抱く。
 ジルが何を言おうとするか、ジルに何を言われるのか。
 見当がつきそうで、それを否定する自分がいて、それでもどこか期待する自分もいた。

 そしてジルは何かを言おうと口を開き――そこで止まり、やがて失笑というような笑みを浮かべると、

「いえ、お疲れ様でした」

 悲し気に、笑った。
 そこにはもう、覚悟や決意といったものは感じられない。

 逆に、何かを無くしてしまったような、そんな表情。

「それ、二度目だぞ」

「ええ……いえ、何度でも言わせていただきます。お疲れ様でした。そして……ありがとうございました」

 その言葉は、何かを含んでいるようで、けど俺としては突っ込んだ話にはしたくない。なんとなくそう思った。

「ああ、俺からもありがとう」

 そう返すと、ジルは少し悲し気に笑った。

 もうすぐだ。
 もうすぐ俺はもとの世界に戻る。

 それをジルは承知しているから、それ以上のことは言わないのだろう。
 あぁ、本当にサカキとはいいコンビだった。
 サカキは猪突猛進に想いを告げてくるけど、ジルは逆に慎重に慎重すぎて想いを外に出さない。

 あるいは。
 あるいはジルに求められたのなら。
 俺はこの世界に残ったのだろうか。

 分からない。

 そんな仮定はもう無意味だし、言っても栓のない話でしかない。

 俺とジルの関係は今まで以上のものはなく、そしてそれで終わっていく。

 少し寂しいと想うのは、やはり自分はどこかおかしくなっているのだろう。
 本当に、俺は男なのかと最近思うようにもなってきたわけで。

 元の世界に戻ったら大丈夫かなぁ……。

 なんてことを思えるのも、ここまで無事にこれたのも、すべてはこの人と出会ってから始まったわけで。
 彼が見守ってくれたから、俺は生きて来れたわけで。

 うん、だから言うことはただ1つだ。

「ジル」

「はい」

「ありがとう」

 ジルは、優しく笑ってくれた。

 それで終わりだった。
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