知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話35 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 堂島さんが来た。
 迎え撃つ以外の選択肢はない。

 鋼がぶつかり合う音。
 力の方向を変えてそれをいなすようにする。だが相手もさるもので、滑らせた剣でそのままこちらの首を狙って来る。それをしゃがんで回避。そのまま水面蹴りで相手の軸足を狙う。それを堂島さんは跳んで回避した。

 空中に逃げた。
 聞こえはいいが、次は避けられない。
 だから起き上がる力を利用して剣をたたきつける。
 だがそれは相手も同様だった。
 跳んだあと、引力と自重を使っての斬り降ろし。

 激突した。
 力は、互角。

 弾いた。
 弾かれた。

 2歩、3歩後退。
 相手は反動で大きく後ろに飛ばされるが、難なく着地。
 再び対峙が始まる。

 赤く染まる視界の中、兵士さんたちが距離を取ったおかげで半径10メートルほどの広場ができた。
 ここはまさにコロッセウム。
 どちらかが死ぬまで出られない、闘技場の中。

 もちろん自分が死ぬなんて考えない。
 だって、そうなったら明彦くんが死ぬから。

 そんなことは許されない。

 だからここで彼女を殺す。

 彼女には恩しかなかった。
 この世界に来て、右も左も分からず、ただ情動に任せて行動していた自分を、彼女は救ってくれた。
 生命を守ってくれるだけでなく、生きる術も教えてくれた。

 だから感謝しかない。

 それでも、殺すしかない。

 私の中の優先度では、私より明彦くんが上位にある。
 だから私を救ってくれたからといって、明彦くんより上位になることはありえない。

 だから、行く。

 前に出る。
 同時、相手も出ていた。
 中央で激突する。

 剣を繰り出せば防御され、繰り出されれば回避し、蹴りを放てばガードされ、拳が飛んで来れば受け止める。

「ふはっ!」

 笑っていた。
 一進一退の攻防の中、堂島さんは笑っていた。

「あはっ!」

 自分も笑っていた。
 間一髪の戦況の中、私は笑っていた。

 戦いながら、殺し合いながら笑う。
 こんなの異常以外の何物でもない。

 こんなものが私の中に眠っていたなんて。
 怖い、と思う反面、しょうがないかとも思う。

 だってこの力がなければ、私は生きていけなかった。明彦くんに会えなかった。明彦くんを守れなかった。

 だからこれも私。
 私の中の真実として、確としてある私。

 だからいいという話じゃない。
 それで人殺しの罪が消えるわけじゃない。

 けど、自覚しているからこそ、その罪から目をそらさず生きていけるはずで。
 私は私だと、胸は張れないけど自信をもって生きていける。

 私はもう、大丈夫なんです。
 こうやって、ちゃんと生きています。

 その想いを彼女にぶつける。

 それに対する答えを、彼女はくれた。

 だから、笑った。
 笑いあった。

 あるいは、あのまま帝国にとどまっていれば、とても良い友達になれたかもしれない。

 けど私は明彦くんを選んだ。
 堂島さんを捨てた。
 友情より愛情を取った。

 だから断罪されてもしかるべき場面で、ののしられても仕方ない場面で、

『それでいい』

 そう言われたのだから。
 許してくれたのだから。

 だから、笑うしかないじゃない。

 斬った。
 斬られてもいた。

 鮮血が舞う。
 だが浅い。

 お互いが再び距離を取る。

 見れば堂島さんはすでに満身創痍だ。
 鎧は砕け、ところどころが陽の光に反射して濡れている。

 思えば斬撃が甘いところがあった。
 右わき腹がどす黒く染まっている。
 間違いなく怪我をしている。

 それでもこうして立って、明彦くんを殺すために精一杯戦っている。

 鮮血のヴィーナス。

 思い浮かんだその言葉が、妙にしっくりくる。
 血にまみれて戦うその姿が、どうしても気高く、美しく、誇り高いものに見えるから。

 だから最期の彼女の願いを叶えてあげたい。
 けどそれは絶対に叶えてはいけない。

 果てしない矛盾。
 再び、友情を取るか、愛情を取るかの選択を突きつけられる。

 一瞬の迷い。
 いや、迷うことはない。

 ふぅっと息を吐き出す。
 そして、剣を構えた。

「それでいい。それでいいぞ……君は」

 堂島さんが、そうつぶやき、笑った気がする。
 これまでの愉快だという笑いでなく、ほっとしたような、成長を祝福するような、そんな微笑み。

「負けんがね」

「行きます」

 同時、走り出す。
 急速に縮まる距離の中、相手の動きが視界から消えた。

 あるのはただ純粋な想い。
 堂島さんより早く。相手より速く。敵より疾く。

 剣を、突き立てる。

 硬い、そして柔らかい感触が手に伝わる。
 そして全身が何かにぶつかる衝撃。

 ハッとして、視界が元に戻る。

 見れば、突きに変化させた剣先が、彼女の胸に根本まで突き刺さっていた。
 体ごとぶつかるようにして、止まっていた。

 見上げれば堂島さんの顔。
 血の気の失せたその顔は、白く、蝋人形のように白くなっていたが、それでもその美しさは変わらない。

 ふぅぅぅぅ、と深く息を吐き出す。
 そして、

「ありがとう、里奈……」

 微笑んだ。
 それは自分を殺した相手さえも包み込むような、自らの運命をすべて受け入れたような天使の笑顔。

 そしてそのまま、堂島さんは支えを失い、すれ違うように前へと倒れる。

 動かなくなった堂島さん。
 安らかな顔で、寝ているようにも見える。

「ありがとう……ございました」

 つぶやく。
 視界がにじみ、嗚咽がのどをこみあげてくる。

 泣いてしまおうか。
 いや、ここじゃだめだ。

 もっと人がいないところで――

「里奈」

 声が、した。
 一番守りたかったもの、一番大切だったもの。
 これのために、私は友達を殺した。

 そんな、ひどい女に、言葉をかけちゃいけない。
 だって、明彦くんは、明彦くんなんだから。

 けど、背中に衝撃。
 明彦くんが背中から手を回してくる。

 抱きしめられている。
 温かい、体温を感じる。

「よく頑張ったな。……だから、ありがとう」

 優しい言葉をかけられた。

 もう無理だった。
 感情があふれ出し、制御不能になる。

 私はそして激しく――泣いた。
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