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第1章 オムカ王国独立戦記
第57話 王都バーベル防衛戦3日目・投石機破壊作戦
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夕食を兼ねた軍議を開いたが、これといった収穫もなく時間だけが過ぎていく。
「参りましたね。さすがに明日、あの投石機があるのは厳しい」
「かといってそれを守ってるのは2万ほどときたもんだ。夜襲には備えてるだろうし、今の兵力じゃ厳しいぜ」
「ブリーダ殿がいてもダメでしょうか」
「それは無理でしょうね。一昨日の夜襲はいろいろな要素がかみ合って成功しただけに過ぎません。それに今やブリーダに連絡を取れる状況ではない」
「おいてめぇジーン。さりげなく俺の功績を否定してんじゃねぇよ」
「サカキのこれまでの功績を考えれば微々たるものでしょう?」
「お、おぅ。まぁな」
ダメだ。全然話がまとまらない。
正直、状況としてかなり詰んでるんだよな。
明日、投石機により西門が壊されて敵が乱入してくる。
だから今夜中に投石機を壊さないと俺たちは明後日の朝日を拝むことはできないわけだ。
もちろんそれは相手にも分かっていて、俺たちが来るのを待ち構えている。だから、そこに突っ込むのは奇襲でもなんでもない。わざわざ罠にかかりにいくなんて自殺希望にもほどがある。
しかしそれをしなければ明日には城門を破られる。
堂々巡りだ。
あるいは決死隊を集えば可能性はあるかもしれないが……。
「ジャンヌ様。いけません」
「な、なにがだジル」
急に話しかけられ驚いた。
ジルだけじゃない、サカキもクロエもこちらを見て困ったような表情を浮かべている。
「おおかた自分が決死隊を率いていく、とか考えてたんだろ。違う、ジャンヌちゃん?」
「隊長殿、やっぱりそうなのですか? ならば私も連れて行ってください!」
「お前ら……」
どんだけ俺の心が駄々洩れしてたんだ。恥ずかしい。
「いえ、ジャンヌ様にそんな役目はさせられません。命じるなら私に」
「おい、お前は総大将だろ!?」
「総大将だからこそやらねばならないこともあるでしょう」
「あ、じゃあ俺が行くー」
「隊長殿、ジャンヌ隊ならいつでも出陣できます!」
「いやいやいやいや。勢いに押されそうになってるけど、総大将に副将が99%死ぬ戦いに突っ込むってのはダメだろ。総大将の仕事は最後の最後まで生き残って責任取る事! それにクロエ! お前らが100人いようが1万人いようが無理なものは無理! お前ら全員却下だ却下!」
唾を飛ばして否定すると、ジルとサカキが噴き出すように笑い出した。
「へへっ、いつもの調子出てきてんじゃん」
「それでこそジャンヌ様です」
こいつら。
俺が思考の迷宮に入り込んでいたのを見て、一芝居打ったのか。
あぁ、くそ。もう乗せられてやる!
なら考えろ。
シンク、シンク、シンク!
脳が焼き切れるまで、トライアンドエラー。
あがいてあがいてあがきまくれ。
「隊長殿、私は本気ですよ。隊長殿が行けと言われれば2万だろうが5万だろうが突っ込んでみせます!」
「クロエー、お前分かってて言ってるのか? 2万の敵が待ち構えているところに突っ込んでいって、投石機を破壊しなくちゃいけないんだぞ。速攻袋叩きにあって終わりだよ」
「別に燃やせばいいじゃないですか。火矢でボッて」
「そこまで近づかせてくれるか? それに爆雷ももうないんだぞ」
「うー、じゃあこっちも投石機です! それで火の玉をびゅって飛ばして」
「そんな簡単に行くか! てか投石機がねーよ」
「ならもうみんなで炎を持って突撃です。牛みたいに一直線に。それで投石機を燃やしてどっか行っちゃえばいいんです!」
「どっかってどこだよ! ここの守りはどうすんだよ!」
「ならあとはー、あとはー分かった! 穴を掘って投石機の下からばーんって!」
「今から掘って明日の朝に間に合うかよ」
適当言ってるだろ、こいつ……。
「やべっ、クロエちゃん面白っ!」
「しかし発想力は大したものじゃないですか」
サカキは大笑い、ジルはどこまで本気か苦笑している。
はぁ、特攻とか火矢とかはまだしも、牛とか穴とかどう考えても無理だろ。
大体そんなのがここに――
いや……待てよ。
はたと思いつく。
あるいは、いや、いける。
だがそれには準備が必要だ。
外には出れない。だからこの王都にあるのか。
いや、あるはずだ。この都市の特性上、あってしかるべきだ。あってほしい。
そして、それがあったなら投石機は破壊できる。
その時、遠くに動物の鳴き声が聞こえた。
犬に豚、それから牛だ。
「動物? 家畜がいるのか」
「西門が集中的に狙われましたからね。農耕用の牛や豚が飼われていたのですが、飼育舎も破壊されてしまいましたので」
「さすがに家畜を中央や人の多いところに置いとくわけにはいかねーからなぁ」
「うぅ、私も動物の臭いは苦手です……」
「勝ったぞ」
「え?」
3人が意外そうな表情で一斉に振り返る。
動物愛護の視点から見るととても心苦しい。訴えられたりしないよな。
とはいえ人間が生きるために食用として殺されて食われるか、多くの人間を救ったうえで殺されて食われるか。
欺瞞であることは分かっている。人間なんてものはもともと傲慢で欺瞞に溢れているんだ。
だから迷わない。
その時、俺は笑ったんだと思う。
「さて、田単、木曾義仲に倣ってみるか」
「参りましたね。さすがに明日、あの投石機があるのは厳しい」
「かといってそれを守ってるのは2万ほどときたもんだ。夜襲には備えてるだろうし、今の兵力じゃ厳しいぜ」
「ブリーダ殿がいてもダメでしょうか」
「それは無理でしょうね。一昨日の夜襲はいろいろな要素がかみ合って成功しただけに過ぎません。それに今やブリーダに連絡を取れる状況ではない」
「おいてめぇジーン。さりげなく俺の功績を否定してんじゃねぇよ」
「サカキのこれまでの功績を考えれば微々たるものでしょう?」
「お、おぅ。まぁな」
ダメだ。全然話がまとまらない。
正直、状況としてかなり詰んでるんだよな。
明日、投石機により西門が壊されて敵が乱入してくる。
だから今夜中に投石機を壊さないと俺たちは明後日の朝日を拝むことはできないわけだ。
もちろんそれは相手にも分かっていて、俺たちが来るのを待ち構えている。だから、そこに突っ込むのは奇襲でもなんでもない。わざわざ罠にかかりにいくなんて自殺希望にもほどがある。
しかしそれをしなければ明日には城門を破られる。
堂々巡りだ。
あるいは決死隊を集えば可能性はあるかもしれないが……。
「ジャンヌ様。いけません」
「な、なにがだジル」
急に話しかけられ驚いた。
ジルだけじゃない、サカキもクロエもこちらを見て困ったような表情を浮かべている。
「おおかた自分が決死隊を率いていく、とか考えてたんだろ。違う、ジャンヌちゃん?」
「隊長殿、やっぱりそうなのですか? ならば私も連れて行ってください!」
「お前ら……」
どんだけ俺の心が駄々洩れしてたんだ。恥ずかしい。
「いえ、ジャンヌ様にそんな役目はさせられません。命じるなら私に」
「おい、お前は総大将だろ!?」
「総大将だからこそやらねばならないこともあるでしょう」
「あ、じゃあ俺が行くー」
「隊長殿、ジャンヌ隊ならいつでも出陣できます!」
「いやいやいやいや。勢いに押されそうになってるけど、総大将に副将が99%死ぬ戦いに突っ込むってのはダメだろ。総大将の仕事は最後の最後まで生き残って責任取る事! それにクロエ! お前らが100人いようが1万人いようが無理なものは無理! お前ら全員却下だ却下!」
唾を飛ばして否定すると、ジルとサカキが噴き出すように笑い出した。
「へへっ、いつもの調子出てきてんじゃん」
「それでこそジャンヌ様です」
こいつら。
俺が思考の迷宮に入り込んでいたのを見て、一芝居打ったのか。
あぁ、くそ。もう乗せられてやる!
なら考えろ。
シンク、シンク、シンク!
脳が焼き切れるまで、トライアンドエラー。
あがいてあがいてあがきまくれ。
「隊長殿、私は本気ですよ。隊長殿が行けと言われれば2万だろうが5万だろうが突っ込んでみせます!」
「クロエー、お前分かってて言ってるのか? 2万の敵が待ち構えているところに突っ込んでいって、投石機を破壊しなくちゃいけないんだぞ。速攻袋叩きにあって終わりだよ」
「別に燃やせばいいじゃないですか。火矢でボッて」
「そこまで近づかせてくれるか? それに爆雷ももうないんだぞ」
「うー、じゃあこっちも投石機です! それで火の玉をびゅって飛ばして」
「そんな簡単に行くか! てか投石機がねーよ」
「ならもうみんなで炎を持って突撃です。牛みたいに一直線に。それで投石機を燃やしてどっか行っちゃえばいいんです!」
「どっかってどこだよ! ここの守りはどうすんだよ!」
「ならあとはー、あとはー分かった! 穴を掘って投石機の下からばーんって!」
「今から掘って明日の朝に間に合うかよ」
適当言ってるだろ、こいつ……。
「やべっ、クロエちゃん面白っ!」
「しかし発想力は大したものじゃないですか」
サカキは大笑い、ジルはどこまで本気か苦笑している。
はぁ、特攻とか火矢とかはまだしも、牛とか穴とかどう考えても無理だろ。
大体そんなのがここに――
いや……待てよ。
はたと思いつく。
あるいは、いや、いける。
だがそれには準備が必要だ。
外には出れない。だからこの王都にあるのか。
いや、あるはずだ。この都市の特性上、あってしかるべきだ。あってほしい。
そして、それがあったなら投石機は破壊できる。
その時、遠くに動物の鳴き声が聞こえた。
犬に豚、それから牛だ。
「動物? 家畜がいるのか」
「西門が集中的に狙われましたからね。農耕用の牛や豚が飼われていたのですが、飼育舎も破壊されてしまいましたので」
「さすがに家畜を中央や人の多いところに置いとくわけにはいかねーからなぁ」
「うぅ、私も動物の臭いは苦手です……」
「勝ったぞ」
「え?」
3人が意外そうな表情で一斉に振り返る。
動物愛護の視点から見るととても心苦しい。訴えられたりしないよな。
とはいえ人間が生きるために食用として殺されて食われるか、多くの人間を救ったうえで殺されて食われるか。
欺瞞であることは分かっている。人間なんてものはもともと傲慢で欺瞞に溢れているんだ。
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