知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第10話 軍議の場にて

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 再び朝食を食べる気にはなれず、ニーアを連れて馬車に乗ると観衆の間を縫って再び王宮へ向かった。

 先日と同じ謁見の間には九神だけでなくあまつもいた。

「よく来てくれたね。ん? なんか疲れているみたいだけど」

「昨日のおかげで人が詰めかけて……」

 さすがに筋肉痛です、と言うのは恥ずかしかったので他の事実を言った。

「ああ、なるほど。それは仕方ない」

「しかし悲しい事です。これで私のジャンヌさんから、皆のジャンヌさんになってしまったのですね」

「いや、誰も天のものになった覚えはないし、皆のものになった覚えもないんだけど」

 天の嘆きに俺は嘆息。
 こっちはこっちで絶好調かー。朝から辛い。

「さて、今日アッキーに来てもらったのは他でもない。そろそろ帝国領への侵攻作戦を実行に移そうと思う」

「それは、申し訳ない。自分の出立が遅れたり、昨日みたいなことがあったりでここまでずれてしまったんだな」

「まさか。さすがに一個人の動向で国の大事を決めたりはしないよ。ここまでずれこんだのは、念には念を入れて軍備を拡張したのと、敵の動きがよく見えなかったからさ」

 確かにそりゃそうだと納得。
 さすがに一国の王ともなると、説得力がある。

「詳細は、天、説明してやって」

「はっ、承知しました。ではこちらの地図をご覧ください」

 天が手を鳴らすと、隣室のドアが開いて宮仕えらしい若い男2人が現れる。1人は大きな巻物を持って、もう1人は小さな木箱を持っている。
 何を、と思っていると、巻物を俺と九神の間の絨毯に広げた。

 それは地図だった。
 さらに木箱を渡された天は、そこから木彫りの駒を取り出して地図の上に配置していく。
 シータ王国の領土に緑の駒、対してエイン帝国の領土に黄色の駒を置く。どうやら軍勢を示す駒らしい。地図は内海に浮かぶここ首都ケイン・ウギを中心にした範囲が記されている。
 内海を対岸に渡り陸地を北上すると、再び水辺が行く手を遮る。海に注ぎ込む巨大な川だ。そこが国境。川を超えれば対岸はもうエイン帝国の領土になる。

 つまりシータ王国とエイン帝国は、この巨大な川を境に領土を保っていることになる。
 天はその沿岸に幅広く駒を配置していく。国境の守備隊か。

「これは……厳しいな」

 思わずつぶやいた。
 何せ敵前渡河ほど難しいものはないからだ。

 シミュレーションゲームとかでは、船から降りたら軍勢がごっそり出現するから簡単だと思うだろう。
 だが実際の船、しかも数百人を輸送する船では一斉に全員が降りられるわけがない。どれだけ乗降口を大きく取ろうにも、順次下船しないといけないのだ。

 しかもそれは岸に直接船が乗り付けられた場合のこと。木造の船で数百人が乗るとなれば喫水線きっすいせんは上昇する。そうなると浅瀬になっているところには乗り付けられない。座礁してしまうからだ。
 その場合、川底の深いところを見つけるか、それがなければ小舟に乗り移って随時岸に乗り付けるしかない。
 そうなったら身を護るものもない小舟の上のこと。敵は岸から矢を撃っているだけでこちらは一方的に殲滅されるだろう。

 複数個所で同時上陸すればいいと思うかもしれないが、通信の発達していないこの世界ではそれも難しい。
 そもそも兵力はエイン帝国の方が上なのだ。各個撃破の的になるだけで、成果をあげられるとは思えない。

「さすがジャンヌさん。この地図を見ただけでそこに気づくとは」

 天が揶揄やゆするように言うが、彼自身の表情も晴れたようには見えない。

「この兵力配置は……無理だな。上陸する前にやられる。川の上流は警戒は薄いが、補給線が伸びて背後を取られたら全滅コースだ。だから警戒が薄いんだろうけど。それは海に出て北から行っても同じかな」

「その通りです。さすがに補給なしで敵のど真ん中には出れませんね」

「なら闇夜に乗じて攻めてみるとか?」

「いえ、それも難しいでしょう。このウォンリバーと呼ばれる大河、流れが速いところもありお互いの位置を目視しづらい夜間の航行は危険です。船同士が激突したらそれこそ目も当てられません。しかも川幅が最大で10キロ以上もあるため、少しでも火をともせばかなり遠くからでも見つけられましょう」

「10キロか、広いな……」

「また、この岸辺には狼煙台が点在します。我らの姿を見たらすぐに狼煙が上がります。我々が岸に乗り付けるころには、敵が岸辺で手ぐすね引いて待ち受けていることでしょう。さらに狼煙台には大砲が設置されており、その付近から近づくと撃沈される危険性があります」

「上陸ポイントも制限されるってわけか。こりゃ天然の防壁だな。打つ手がないじゃないか」

「いえ、だからこそ敵前渡河をします」

「無茶だ。皆殺しにされるのがオチだ」

「いえ、そうはならないよう工夫します。というより、そのためにジャンヌさんのお力を貸してほしいのです」

「俺? 策を考えろっていうの? だから無理だって。これは考えてどうこうできるものじゃない」

「策はもう考えてあります。要は上陸する際に敵を撃退する火力があればいいだけの話。小舟に乗った上陸隊を船から援護する武器があれば事足ります。とはいえ矢や鉄砲に人員を割いては、その分だけ上陸する兵が減ることになります。船には大砲がありますが、連射も出来ないし、一艘に2門しかないため敵を撃退するには難しい。だからもう1つ、手軽で連射ができて複数の敵を攻撃できる武器が欲しい」

「そんな都合のいい兵器がある?」

「あります……というかそう聞いています。ジャンヌさん、貴女が使ったと聞いたのですが」

「俺が?」

「爆雷と呼ばれるものがあると」

「ああ……」

 なるほどそういうことか。
 爆雷とか名付けているが、要は黒色火薬を使った爆弾だ。

 確かにそれならある程度の範囲を攻撃できるかもしれないけど……。

「別に教えるのは構わないけど……届かないんじゃないか? それだけでどうにかなるとは思えないけど」

「ええ、してみますよ。では是非教えていただきたい」

 といっても難しいものじゃない。
 火薬を袋につめて導火線をつける、それだけだ。

 だからこの場で説明してしまおうと口を開いた時に、

「ジャンヌ! ちょっと待った!」

 ニーアの制止が響く。
 それがどんな表情で出されたのか、その後を聞かなくても何で止めようとしたのか想像がつく。大方、爆雷は国家機密の兵器に該当するから、同盟国とはいえ他国にペラペラ喋って良い内容じゃないといいたいのだろう。
 だがそれは見当違いの杞憂というものだ。

「あれは別に秘密兵器でもなんでもないよ、ニーア。というか火薬をたくさん輸入できるシータならいつかは誰かが思いつく。それにこれはもうエイン帝国も使ってるものだから秘密にするものでもないし」

「む……うぅ……」

 ニーアが押し黙ってしまった。
 気の毒だがしょうがない。

「帝国も使ってきているのですか……それは厄介ですね」

 天が表情を曇らせる。

「あ、いや。多分俺が知ってる相手だけだと思う。その相手は今、うちとビンゴ国に向き合ってるからこっちには来ないだろう」

「なるほど。ありがとうございます。では、それを試作しながら調整を行い、出陣は2週間後でよろしいでしょうか、国王」

「あぁ。けどそれだとアッキーたちは帰ってしまうね。是非我が国の水軍の威容を見せたかったのだけど」

「え? 帰る?」

「さすがに戦場まで来てもらう必要はないよ。一応、アッキーは国を代表する使者だし。知恵なら今十分に借りたから。それで勝算が立つ。そうだろ、天?」

「はい、これにてウォンリバー対岸にシータ王国の旗を立てられましょう」

「うん、だからこっちは僕たちに任せて、アッキーは帰るといいよ。まだ向こうも大変だろうし」

 なんか拍子抜けした気分だ。
 確かに知恵を借りたいとは言っていたが、それは戦場でのことだと思っていた。こんなところで、はい終了となるとは思わなかった。

 九神の言う通り俺は国の使者という立場でもあるから、他国の戦争に介入するのは越権とも言えるし、身の危険となった時は外交問題になりかねない。

 でも、天たちはギリギリのところで俺たちを救ってくれた命の恩人だ。
 その恩返しが、たったこれだけでいいなんて。良い人たちすぎる、というか逆に何かを疑ってしまう。

 …………いや、これもただの感傷か。

 ちょっとばかり帰るのが遅くなっても大丈夫だろ。それにシータがエイン帝国に優勢となるのはオムカにとっても悪い事じゃない。

「ニーア、すまん。帰るのはもうちょっと先になる」

「ん、いいんじゃない。あたしはジャンヌの行くところについてくし」

 ニーアは察してくれたようだ。
 ありがたいことだ。いつもこれくらい素直なら楽なんだけど。

「お願いがあります」

 一応使者としての言葉なので姿勢を整え、丁寧に話す。

「ん、なんだろうか」

「俺も、従軍させてもらえないでしょうか」

「それには及ばないって言ったばかりじゃないか」

「いえ、これは国と国との問題であり、一個人としての問題です。命を救ってくれた恩人に、これだけで帰るのは義が立たない。逆に自分が女王に叱られるでしょう。従軍して、城の1つや2つ取ってからでなければ恩返しにはなりません」

「それは……どうかなあまつ?」

「こちらとしては願ってもないことですが……本当によろしいので?」

「もちろん。こちらから伏してお願いします。たとえ戦場で死ぬことになっても、こちらの責任問題にならないよう連絡は取りますので」

 沈黙が降りる。
 ニーアは俺に下駄を預けてるし、水鏡はあまり興味なさそうだ。
 天は叶うならという立場なので、後は九神が頷けば従軍は成る。

 そして――

「分かった。従軍を認めよう。しかしあくまで天の相談役としてでだ。総帥は天だからその命令にも聞くように。それでいいかな?」

「もとより」

 頭を下げて感謝を告げる。

 それで決まった。
 次の戦は北、エイン帝国だ。
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