知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第26話 救援要請

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「それでその男……いえ、女性でしたか。今はどこに?」

「本人は今、ドスガ王国に向かってるよ。商売ついでに敵情視察だとか言って」

「それは確かにこちらとしては嬉しい話ですが、信用できますか?」

「だからイッガーを紹介してつけた。ミストが働かなくてもイッガーなら状況を利用して何か掴んでくれるはずだ」

「なるほど、ならば問題ないでしょう」

 ジルが深く頷く。
 新参のイッガーについて、ジルが特に異議を挟まないのは彼の実力を認めたからだろう。
 そう思うと、本人ではないのに誇らしく思える。

 ここは俺の執務室。
 いつもの仕事の話から、ミストの話になった。
 さすがにこれだけの話を俺一人の胸に収めるわけにはいかないので、まずはジルに話したのだった。

「しかし現金1千万に、2万の兵を2年食べさせていくだけの食料とは……ふっかけましたな」

「言ってみるのはタダだよ。それに向こうから交渉に来たんだ。こっちがどうこうより先に、誠意を見せてくれないとね」

「なるほど。ジャンヌ様も政治が苦手と言っておりましたが、勘所は掴んでいるようですね。宰相殿に鍛えられましたかな」

「複雑な気分だけどな……」

 ちなみに、あれだけ脅しをかけて言った要求が金貸してだから、ミストは引きつった笑顔で、

『はっ、ははは。なるほど、これが噂に聞くジャンヌ・ダルクさ。その迫力、遠慮のなさ、さすがさね』

 という感じで収まった。ま、とりあえず俺としても格好がついたってとこか。

 そんな雑談を交えたいつもと変わらない日々。
 だがそれが破られるのはいつも突然のことだった。

「失礼いたします師団長殿、軍師殿!」

 衛兵が執務室に飛び込んできた。

「何だ!?」

「至急、謁見の間にお集りいただきたく! ワーンス王国からの急使にございます!」

「ワーンス王国……南郡の一国か! ジル!」

「ええ、参りましょう」

 手を付けていた仕事をほっぽり出して、長い廊下を走る。

 その間にも脳がフル回転し、思考を加速させる。

 どうやら南郡は俺の予想を超えたスピードで動いていたらしい。
 ドスガ王国が他の2国を平定したというイッガーの報告は半月――いや、もう1か月前だ。

 さらにワーンス王国が救援に来たということは、すでに南郡の中央にあるフィルフ王国は落ちているのだろう。
 ワーンス王国を最後に回したのは、中央のフィルフ王国を制圧しない限り背後を狙われることと、オムカが援軍に来る可能性を考慮した地理的な問題だろう。
 
 現ドスガの王、トゥーナイド・ドスガ。
古の魔導書エンシェントマジックブック』で冷酷かつ事を性急に進めがちという性格は知っていたが、ここまで急ぐとは思わなかった。

 いや、その反省は後だ。
 とりあえず今は情報。
 きっとその急使は南郡の現状を語ってくれるだろう。
 ちゃんと聞いてから考える。それでいい。

 いくつかの廊下を曲がり、そして見慣れた大きな扉を通る。
 謁見の間にはすでにおなじみのメンツが揃っていて、どうやら俺たちが最後だったようだ。

「ジャンヌ・ダルク、参りました」

「ジーン・ルートロワ、遅れて申し訳ありません」

「うむ、ではすぐに使者をここにお通しせよ」

 マリアがニーアに命ずると、ニーアがマリアの傍から離れて部屋を出ていく。

 俺とジルはサカキやブリーダがいる壁際に寄ると、無駄口を叩くことなく待つ。

 5分後。
 重苦しく扉が開き、ニーアが、そして使者らしき男が入って来た。
 男は儀礼用のローブをまとっているが、慌てて着たのかローブはよれよれで、帽子も少しずれていた。

「女王様にはご機嫌麗しく、ご尊顔を拝しえたこと、末代までの誇りといたします」

 男がマリアに拝謁する。

「うむ、おもてをあげよ」

「はっ」

 男が顔をあげる。
 横からしか見えないが、焦燥と苦悩の混じった顔を浮かべている。

「していかがしたのじゃ?」

「貴重なお時間をいただいたことまことに有難く。さっそくではございますが我がワーンス国王より貴国へ緊急のお願いしたき議がございますゆえに、お耳汚しかと思いますが、どうぞお聞き届けいたしますよう」

「よい、許すのじゃ」

「ははっ!」

 そして使者が語る内容はある意味想像の通りだった。
 要は『ドスガが攻めて来るから助けて』という内容だ。

 ドスガ軍、総勢1万6千。
 それに対しワーンスは5千だけと、援軍がなければ状況は絶望的だ。

 語り終えた使者をマリアはねぎらい退室させると、さっそくそれに対しての議論の場になった。

「援軍などもってのほか! 先日のビンゴへの出兵で我が国がどれだけ負担となったか! しかも女王様の戴冠式が迫っている中、そんなことに構っている暇はない!」

 やはりというか、むしろ当然というか真っ先に反対したのはカルキュールだった。

 それに対し、真っ向から反対するのはこれもやはりサカキとブリーダだ。

「おいおい、隣国が攻められてるのに見て見ぬふりかよ」

「そうっす。かつては大陸を支配したオムカの名が泣くっす」

 その2人に対し、カルキュールは唾を飛ばして反論する。

「どれだけ言おうが金がないことは事実! それとも貴様ら、空腹でも戦えるのか!?」

「あ? それを準備するのがお前ら裏方の仕事だろうが!」

「そっすそっす! しっかり仕事しろっす!」

「ぬ、ぬぬぬぬぬ……貴様ら言わせておけば!」

 いつまでも続きかねない無意味な口論にさすがに辟易へきえきとした。
 だから口を開いて彼らを止めようとして――

「いい加減にせんか、サカキ、ブリーダ!」

 雷が落ちた。
 俺じゃない。
 ハワードだ。

「貴様らに宰相殿の苦労の何が分かる。何もかもある状態で戦えるなどありえんことと知れ! ましてや女王様の御前だ。見苦しい真似はするでない」

「うっ………………申し訳ありません」

「す、すまねっす」

 まさに一喝。
 サカキもブリーダも借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった。さすが年の功。

「総司令殿。助かりましたぞ」

 カルキュールがホッと胸をなでおろしたように言う。
 だが、ハワードは憮然ぶぜんとした様子で、

「じゃがわしも出兵すべきだと考えておる」

「なっ!」

 せっかく現れたと思った味方に反旗をひるがえされ、顔面蒼白となったカルキュール。
 そしてハワードはカルキュールからこちらに視線を移して言葉を放った。

「ここで援軍を出さなければ我が国は窮地に陥る。そうではないか、ジャンヌ?」

 はっ、さすが爺さん。
 ここで俺に丸投げするのはどうかと思うが、その見立ては間違ってない。

 俺は小さく咳払いして口を開く。

「爺さんの言う通りだ。ここでドスガ王国が南郡を制圧すると厄介なことになる。今、敵は1万5千だが、少し時間をおけば2万や3万に増えるだろう。つまり俺たちより兵力は上回ることになるんだ。ましてや北には臥薪嘗胆がしんしょうたんに燃えるエイン帝国、西には去就きょしゅう定まらないビンゴ王国がいる。さすがに3方向から攻められたら、この王都じゃもたない」

「…………」

 謁見の間に冷えた空気がぎる。
 誰もが沈痛な表情で黙りこくってしまった。

「けど逆にドスガの野望を防げれば、俺たちにはまだチャンスがあるということだ。ワーンスを足がかりにして、南郡に攻め入ることだって可能になる。今ここで軍を出さなければ滅亡、出せば生存の可能性。どちらを選ぶかは子供でも分かるだろ」

 サカキが、ブリーダが高揚するのが分かる。ジルですらしきりに頷いている。
 ハワードは黙って目を閉じているからわからない。

「し、しかし金が、兵糧がないのだぞ!」

「さすがにゼロってことはないだろ。1か月でもいいなんとかしてかき集めてくれ。メルならなんとか算出してくれるだろう」

「ば、馬鹿な。1か月でどうにかなるものか!」

「聞けばドスガは3カ国を支配するのに3か月はかかった。大軍師の俺なら1か月でなんとかするとも」

 言いながら、俺はこんな大言雑言を吐く人間だったか? と内心首をかしげる。

 だってまだ策も何もない。まっさらな状態だ。
 けどここははったりでもなんでもいいからかます場面だった。
 そうしないと本当に滅ぶしかない。

 案の定、カルキュールは言葉に詰まる。
 奴も軍事には疎い。だからノーとは言えない。

 隣を見る。
 サカキ、ブリーダ、そしてジルは何も言わない。俺を信じてくれている。
 ハワードもあえて口を挟もうとしない。

 ならあとは前へ進むだけ。

「俺に1万3千の軍勢を貸してくれ。ワーンス王国を救い、ドスガ王の野望を打ち砕いてみせる」

「む……むむ……」

 それでもなお、迷い困惑するカルキュール。
 しょうがない。とっておきのカードを切るか。

「あぁ、あと一応。心効く商人から投資したいという申し出が来ている。手付金として1千万。明日には届くらしいから受け取っておいてくれ。その後に随時、兵糧を送ってもらうことになってる。なに、出世払いでいいってよ」

 ミストもなかなか粋なことをする。
 何より信用に値するのは、やっぱり現ナマってことだな。

 対するカルキュールは、しばらくぽかんと口を開けていたがやがて、

「そういうことは早くいわんか!」

「今日、それを話そうとしたんだよ。悪かった」

「ぐ、ぐぐぐ……ええい、分かった。お前らはさっさと行け! その代わり必ず1か月で成果を出すのだぞ! それとその商人とやらが信用できるか、わしが自ら見定める。後でわしのところに来るよう言え!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るカルキュール。
 上手く手のひらで転がってくれたと思うと、若干心が軽くなった。

 俺はマリアに視線を向ける。
 するとマリアは少し驚いたような顔をしたものの、すぐにそれを消しておごそかに宣言する。

「ではジャンヌ・ダルクに命ずる。ワーンス国を救い、南郡を攻めよ」

「ははっ!」

 マリアの声に皆が礼をする。

 我ながらハードルを上げたものだが、こうでもしないと詰みな状態なのだ。

 それでも頭は回る。 
 政治だ戴冠式だと書類と格闘しっぱなしの仕事をぐだぐだとやるより、俺にはこっちの方が性に合ってるらしい。
 まだ見ぬ土地、まだ見ぬ敵との戦いにでも高揚しているのだろうか。
 不謹慎な話だ。どこの戦闘民族だよ。

 けど完全に否定できない。
 確かにどこか楽しんでいる俺がいるのだから。
 何より、これが俺の目的を叶えるための、確かな一歩になるのだから。

 少しくらい浮かれたってかまわないだろ。
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