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第2章 南郡平定戦
第42話 亀裂
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ドスガ王はパーティが終わると早々に帰っていった。
泊まるための部屋を用意したのを丁重に断ると、そそくさと帰国してしまった。
その行動にどこか訝しさを感じてしまう。
というより本当に挨拶だけして帰ったことになる。
ならばわざわざ国王自身が来るか?
本人は自身で謝意を示したい、ということだったがそれも疑わしい。
あれほど低姿勢で紳士的な男だったのか。戦場であれほど傲岸不遜な態度を取っていたというのに。
そもそもなぜこうも早く解放されたのかが分からない。
ワーンス王は本気でドスガの再侵攻を懸念していた。にもかかわらずこうも早く解放するのはどういうことか。あるいは何か理由でもあったのだろうか。そもそもこちらに何の相談もせずに解放とはどういうことか。
色々と不審な感じがするが、打てる手は少ない。
サカキはすでに南に拠点を作りに出発しているので、あとはイッガーたちから逐次情報を得るくらいしかやることがない。
それだけで何か起きても一応対応はできるとは思うが……なんだろう、不安が消えない。
後片付けを済ませて週が明けた日、朝議が開かれた。
週の頭に廷臣を一堂に集めて、先週の振り返りと今週の仕事の確認をするための場だ。
カルキュールが議事進行。最近はもっぱら戴冠式関連の話題が多い。
月も11月に入り、いよいよ戴冠式が目前に迫り空気もピリピリしだした。
一応、なんとか間に合わせるようスケジュール調整をしたから、今のところ大きな問題はなさそうで、議題も30分くらいで尽きた。
最後にマリアが散会の言葉を発して終わりという時、それは起きた。
「先日のドスガ王から受けた件についてじゃが――」
マリアの切り出した言葉に、一同にざわっと緊張が走る。
ドスガ王の件。
ドスガ王国に女王として巡幸する話だ。
それを聞いた途端、俺を含め皆が反対した。
友好国でもない国に、国のトップが乗り込むなど正気の沙汰とは思えない。わざわざ捕まりにいくようなもので、最悪、問答無用で殺される可能性もあるのだ。
「やはり余は行くべきじゃと思う。わざわざ向こうから友好の使者がきたのじゃ。ならばこちらも使者を出さねば不公平というもの。余はそんな礼儀知らずにはなりたくないのじゃ」
俺は口を開こうとして我慢した。
不公平を嫌う王。
俺が教えた言葉。
それをしっかりマリアが受け止めてくれている。それが嬉しくて。
何より俺が言わなくてもあの男が言ってくれる。
席次的には向こうの方が上だから、発言は譲るべきだという判断もあった。
「言語道断でございます。そのような巡幸、政治的にも軍事的にも意味がございません。お考え直しのほどを」
カルキュールが口を酸っぱくして言う。
まったくもってその通り。
こういう時だけカルキュールと意見を同じにするのが気に喰わないけど。
だがマリアは退かない。
「何故じゃ。ドスガは王が直々に参ったのじゃぞ。ならばこちらからも王が行く必要があろう」
「我が国は勝者、向こうは敗者。向こうから王直々に挨拶に来たとしても、こちらから女王様が出る必要はございますまい。こちらからは適当な使者でも見繕っておけば問題ないものです。同盟国でもないのですから」
まったくもってその通り。よく言ってくれた。
「じゃが、これから同盟国になるかもしれないじゃろ?」
「だとしても最初から女王様が出る理由にはなりますまい。変節して万が一、御身に何かあれば我が国はどうなりますか?」
「しかし、向こうは厚遇すると言っておる!」
「そのような口約束、この乱世には何ら効果はありません!」
マリアの主張をことごとくカルキュールは斬って捨てる。
「うぅ、しかし……」
それでもマリアは食い下がりそうにない。。
やれやれ。
ここは俺が少し宥めた方がいいか。
「女王様。残念ながら自分も宰相と同意見です。この度のお話はなかったことにした方が良いかと」
「ジャンヌまで言うのか……何故じゃ! 皆仲良くしようと言ったの時、ジャンヌはそれでいいと言ってくれたではないか!」
「はい。しかしそれも時と場合です。いきなり敵対していた国が急に仲良くする、それはとても難しいのです。女王様と我らが納得したとしても、国民の中には先日の戦でドスガに肉親を殺された者もいるでしょう。彼らの感情を無視して、国交を結ぶこと。それが悪いわけではないですが、やはり段階を踏むべきかと」
「じゃがシータは違うではないか」
「あの時は国が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際でしたから。それに最終的な決め手はシータ王国の援軍でしたので、そこで一気に過去のしこりがとれたのでしょう。そんなシータ王国にもまだ女王様は巡幸されていないのですよ」
「ならばシータに行ってからドスガに行くので良いではないか」
「残念ながらそんな時間とお金がありません。その経路を行けば少なくとも3か月は見積もらなければならず、さらに護衛の兵やその滞在費、各国への心当てなど莫大な費用がかかります。今のオムカにそのどちらもございません。あと1か月と少しで戴冠式がございますゆえ」
本当は少しなら金はある。
ワーンスとドスガからの謝礼を考えればできなくはない。
だがそうすると、せっかくゆとりを取り戻した国庫がまたすぐに空になる。
この先何が起こるか分からない以上、変なところで無駄遣いしたくなかった。
「なら戴冠式を延期すればよいではないか!」
俺は頭を抱えたくなった。
なんでわかってくれないんだ。
俺が倒れるまで頑張っている。その理由。
死なせたくない。
里奈に似たお前を死なせたくないから、オムカを強くして、女王という守られるべき存在にしようとしているというのに。
どうせこの我がままの中身は、旅行したいという軽いものだろう。
ゆるい学生か! そんな我がままで、ここまで作り上げた国を台無しにさせるなんてたまったものじゃない。
「戴冠式は女王様のお誕生日と同日。そのために国民は歯を食いしばって、頑張って準備しております。これは女王様のためになること。気軽に延期などもってのほかです」
「ならいつならできるのじゃ」
「せめて戴冠式が終わってから。そしてもう少し国力と国交が回復してからにしていただきたい」
「それはいつなのじゃ! ジャンヌはいつもいつもそうなのじゃ! また今度。またいつか。そう言っても叶えてくれたことなどないではないか!」
「そ、それは……」
耳に痛い。
図星だったので、内心よろめいた。
弱いところを突かれたと言ってもいい。
けどそうですかと納得できるものではないのだ。
「それとこれとは話が別だ……です」
「別ではないのじゃ! 一緒なのじゃ! 国を運用する人間がそんな嘘つきでいいわけがないのじゃ!」
「そもそもこれは口約束で契約期限のない条件。契約の不履行なだけから、この後に実行すれば嘘じゃない!」
「だからそれはいつなのじゃと言っておる!」
ええい、しつこいぞ。
なんだ。今日のマリアは。
「だからそれはいつかって言ってる!」
時分も段々ヒートアップしていく。
もう止まらない。
「この嘘つきジャンヌ!」
「だから誰も嘘なんか言ってないだろ!」
「むむー、嘘ばっか言って構ってくれないジャンヌなんて、もう絶交なのじゃ!」
あぁ、やっぱり本音が出やがった。
どうせそんなことだろうと思った。
「ああ絶交で結構! 国が亡ぶよりマシだ!」
「うぅ~! ジャンヌのケチバカ人でなし無駄おっぱい!」
「む、無駄!?」
どういう悪口なんだよ。
てか悪口なのか?
女王の言う言葉じゃねぇ。
「もっと国王としての自覚をもってもらえますかね! その言動とか含めて!」
「うるさいうるさーい! そもそもなんじゃ! 口を開けばあーだこだーと。なんだかんだ言ってジャンヌは余が嫌いなのか!?」
「そんなわけないだろ。けど国のことも考えるべきだって言ってる!」
「ならジャンヌは余と国、どっちが大事なのじゃ!」
「当然“国”だ!」
即答だった。
何も考えずに答えていた。
だって国があっての王。王とはただの国の代表。
だから国がなければ王は存在しない。
俺は女王としてマリアを守りたいと思った。
だから国を守る。そうすればマリアも守れるから。
この理論に間違いはない。
そう思った。
そう、勘違いした。
「………………」
沈黙が辺りを支配する。
白けた空気というべきか。
何より視線を感じる。
謁見の間にいるすべての人間の視線が、俺とマリア双方に視線を動かしていた瞳が、今は俺だけに注がれている。
その視線は、どこか冷たく、どこか怯えて見えて、何より強い怒りを感じた。
対してマリアはぽかんとした様子で口を開け、そして閉じ、やっぱり開け。
そして――
「うわあぁぁぁぁん!」
泣き出した。
大声で、恥も外聞もなく、目に手を当てて、叫ぶように泣き出した。
その声量に俺は圧倒されていた。
流れ来る感情の洪水に一歩、後ろに下がる。
俺たちが呆然としている間にマリアは玉座を立ち、そのまま逃げるように奥へと引っ込んでしまった。
「女王様!」
それをニーアが追う。
だが一度足を止めて、
「ジャンヌ、あんた最低」
これまで見せたことのない、あの去年にあったお風呂場での行為も生易しいと感じるほどの敵愾心と殺意のこもった表情でそう吐き捨てると、マリアを追って出ていってしまった。
最低……?
俺が?
なんで?
あんなにマリアのことを思って言ったのに。
どうしてこんな結末になった。
ふっと周囲の空気が弛緩する。
そして皆、三々五々に解散していく。
「ふん、ジャンヌ・ダルク。女王様を諦めさせたのは手柄だが……もう少し言い方はなかったのか」
「まだまだひよっこじゃのぅ。お主は普段は冷静じゃが、売り言葉に買い言葉で熱くなると失敗する。これまでも何度かあったんじゃないのか?」
カルキュールとハワードに言われ、俺は呆然と立ち尽くす。
言い方?
俺は何を言った?
失敗?
俺は何を失敗した?
分からない。
むしろ何を言ったかすら覚えていない。
どうしてこうなったのか。
どうしてこうしてしまったのか。
何かがおかしい。
どこかで歯車が狂った、そんな感覚。
ただ、何もわからないまま、なにも考えられないまま、俺はいつまでもその場に立ち尽くすしかなかった。
泊まるための部屋を用意したのを丁重に断ると、そそくさと帰国してしまった。
その行動にどこか訝しさを感じてしまう。
というより本当に挨拶だけして帰ったことになる。
ならばわざわざ国王自身が来るか?
本人は自身で謝意を示したい、ということだったがそれも疑わしい。
あれほど低姿勢で紳士的な男だったのか。戦場であれほど傲岸不遜な態度を取っていたというのに。
そもそもなぜこうも早く解放されたのかが分からない。
ワーンス王は本気でドスガの再侵攻を懸念していた。にもかかわらずこうも早く解放するのはどういうことか。あるいは何か理由でもあったのだろうか。そもそもこちらに何の相談もせずに解放とはどういうことか。
色々と不審な感じがするが、打てる手は少ない。
サカキはすでに南に拠点を作りに出発しているので、あとはイッガーたちから逐次情報を得るくらいしかやることがない。
それだけで何か起きても一応対応はできるとは思うが……なんだろう、不安が消えない。
後片付けを済ませて週が明けた日、朝議が開かれた。
週の頭に廷臣を一堂に集めて、先週の振り返りと今週の仕事の確認をするための場だ。
カルキュールが議事進行。最近はもっぱら戴冠式関連の話題が多い。
月も11月に入り、いよいよ戴冠式が目前に迫り空気もピリピリしだした。
一応、なんとか間に合わせるようスケジュール調整をしたから、今のところ大きな問題はなさそうで、議題も30分くらいで尽きた。
最後にマリアが散会の言葉を発して終わりという時、それは起きた。
「先日のドスガ王から受けた件についてじゃが――」
マリアの切り出した言葉に、一同にざわっと緊張が走る。
ドスガ王の件。
ドスガ王国に女王として巡幸する話だ。
それを聞いた途端、俺を含め皆が反対した。
友好国でもない国に、国のトップが乗り込むなど正気の沙汰とは思えない。わざわざ捕まりにいくようなもので、最悪、問答無用で殺される可能性もあるのだ。
「やはり余は行くべきじゃと思う。わざわざ向こうから友好の使者がきたのじゃ。ならばこちらも使者を出さねば不公平というもの。余はそんな礼儀知らずにはなりたくないのじゃ」
俺は口を開こうとして我慢した。
不公平を嫌う王。
俺が教えた言葉。
それをしっかりマリアが受け止めてくれている。それが嬉しくて。
何より俺が言わなくてもあの男が言ってくれる。
席次的には向こうの方が上だから、発言は譲るべきだという判断もあった。
「言語道断でございます。そのような巡幸、政治的にも軍事的にも意味がございません。お考え直しのほどを」
カルキュールが口を酸っぱくして言う。
まったくもってその通り。
こういう時だけカルキュールと意見を同じにするのが気に喰わないけど。
だがマリアは退かない。
「何故じゃ。ドスガは王が直々に参ったのじゃぞ。ならばこちらからも王が行く必要があろう」
「我が国は勝者、向こうは敗者。向こうから王直々に挨拶に来たとしても、こちらから女王様が出る必要はございますまい。こちらからは適当な使者でも見繕っておけば問題ないものです。同盟国でもないのですから」
まったくもってその通り。よく言ってくれた。
「じゃが、これから同盟国になるかもしれないじゃろ?」
「だとしても最初から女王様が出る理由にはなりますまい。変節して万が一、御身に何かあれば我が国はどうなりますか?」
「しかし、向こうは厚遇すると言っておる!」
「そのような口約束、この乱世には何ら効果はありません!」
マリアの主張をことごとくカルキュールは斬って捨てる。
「うぅ、しかし……」
それでもマリアは食い下がりそうにない。。
やれやれ。
ここは俺が少し宥めた方がいいか。
「女王様。残念ながら自分も宰相と同意見です。この度のお話はなかったことにした方が良いかと」
「ジャンヌまで言うのか……何故じゃ! 皆仲良くしようと言ったの時、ジャンヌはそれでいいと言ってくれたではないか!」
「はい。しかしそれも時と場合です。いきなり敵対していた国が急に仲良くする、それはとても難しいのです。女王様と我らが納得したとしても、国民の中には先日の戦でドスガに肉親を殺された者もいるでしょう。彼らの感情を無視して、国交を結ぶこと。それが悪いわけではないですが、やはり段階を踏むべきかと」
「じゃがシータは違うではないか」
「あの時は国が滅ぶか滅ばないかの瀬戸際でしたから。それに最終的な決め手はシータ王国の援軍でしたので、そこで一気に過去のしこりがとれたのでしょう。そんなシータ王国にもまだ女王様は巡幸されていないのですよ」
「ならばシータに行ってからドスガに行くので良いではないか」
「残念ながらそんな時間とお金がありません。その経路を行けば少なくとも3か月は見積もらなければならず、さらに護衛の兵やその滞在費、各国への心当てなど莫大な費用がかかります。今のオムカにそのどちらもございません。あと1か月と少しで戴冠式がございますゆえ」
本当は少しなら金はある。
ワーンスとドスガからの謝礼を考えればできなくはない。
だがそうすると、せっかくゆとりを取り戻した国庫がまたすぐに空になる。
この先何が起こるか分からない以上、変なところで無駄遣いしたくなかった。
「なら戴冠式を延期すればよいではないか!」
俺は頭を抱えたくなった。
なんでわかってくれないんだ。
俺が倒れるまで頑張っている。その理由。
死なせたくない。
里奈に似たお前を死なせたくないから、オムカを強くして、女王という守られるべき存在にしようとしているというのに。
どうせこの我がままの中身は、旅行したいという軽いものだろう。
ゆるい学生か! そんな我がままで、ここまで作り上げた国を台無しにさせるなんてたまったものじゃない。
「戴冠式は女王様のお誕生日と同日。そのために国民は歯を食いしばって、頑張って準備しております。これは女王様のためになること。気軽に延期などもってのほかです」
「ならいつならできるのじゃ」
「せめて戴冠式が終わってから。そしてもう少し国力と国交が回復してからにしていただきたい」
「それはいつなのじゃ! ジャンヌはいつもいつもそうなのじゃ! また今度。またいつか。そう言っても叶えてくれたことなどないではないか!」
「そ、それは……」
耳に痛い。
図星だったので、内心よろめいた。
弱いところを突かれたと言ってもいい。
けどそうですかと納得できるものではないのだ。
「それとこれとは話が別だ……です」
「別ではないのじゃ! 一緒なのじゃ! 国を運用する人間がそんな嘘つきでいいわけがないのじゃ!」
「そもそもこれは口約束で契約期限のない条件。契約の不履行なだけから、この後に実行すれば嘘じゃない!」
「だからそれはいつなのじゃと言っておる!」
ええい、しつこいぞ。
なんだ。今日のマリアは。
「だからそれはいつかって言ってる!」
時分も段々ヒートアップしていく。
もう止まらない。
「この嘘つきジャンヌ!」
「だから誰も嘘なんか言ってないだろ!」
「むむー、嘘ばっか言って構ってくれないジャンヌなんて、もう絶交なのじゃ!」
あぁ、やっぱり本音が出やがった。
どうせそんなことだろうと思った。
「ああ絶交で結構! 国が亡ぶよりマシだ!」
「うぅ~! ジャンヌのケチバカ人でなし無駄おっぱい!」
「む、無駄!?」
どういう悪口なんだよ。
てか悪口なのか?
女王の言う言葉じゃねぇ。
「もっと国王としての自覚をもってもらえますかね! その言動とか含めて!」
「うるさいうるさーい! そもそもなんじゃ! 口を開けばあーだこだーと。なんだかんだ言ってジャンヌは余が嫌いなのか!?」
「そんなわけないだろ。けど国のことも考えるべきだって言ってる!」
「ならジャンヌは余と国、どっちが大事なのじゃ!」
「当然“国”だ!」
即答だった。
何も考えずに答えていた。
だって国があっての王。王とはただの国の代表。
だから国がなければ王は存在しない。
俺は女王としてマリアを守りたいと思った。
だから国を守る。そうすればマリアも守れるから。
この理論に間違いはない。
そう思った。
そう、勘違いした。
「………………」
沈黙が辺りを支配する。
白けた空気というべきか。
何より視線を感じる。
謁見の間にいるすべての人間の視線が、俺とマリア双方に視線を動かしていた瞳が、今は俺だけに注がれている。
その視線は、どこか冷たく、どこか怯えて見えて、何より強い怒りを感じた。
対してマリアはぽかんとした様子で口を開け、そして閉じ、やっぱり開け。
そして――
「うわあぁぁぁぁん!」
泣き出した。
大声で、恥も外聞もなく、目に手を当てて、叫ぶように泣き出した。
その声量に俺は圧倒されていた。
流れ来る感情の洪水に一歩、後ろに下がる。
俺たちが呆然としている間にマリアは玉座を立ち、そのまま逃げるように奥へと引っ込んでしまった。
「女王様!」
それをニーアが追う。
だが一度足を止めて、
「ジャンヌ、あんた最低」
これまで見せたことのない、あの去年にあったお風呂場での行為も生易しいと感じるほどの敵愾心と殺意のこもった表情でそう吐き捨てると、マリアを追って出ていってしまった。
最低……?
俺が?
なんで?
あんなにマリアのことを思って言ったのに。
どうしてこんな結末になった。
ふっと周囲の空気が弛緩する。
そして皆、三々五々に解散していく。
「ふん、ジャンヌ・ダルク。女王様を諦めさせたのは手柄だが……もう少し言い方はなかったのか」
「まだまだひよっこじゃのぅ。お主は普段は冷静じゃが、売り言葉に買い言葉で熱くなると失敗する。これまでも何度かあったんじゃないのか?」
カルキュールとハワードに言われ、俺は呆然と立ち尽くす。
言い方?
俺は何を言った?
失敗?
俺は何を失敗した?
分からない。
むしろ何を言ったかすら覚えていない。
どうしてこうなったのか。
どうしてこうしてしまったのか。
何かがおかしい。
どこかで歯車が狂った、そんな感覚。
ただ、何もわからないまま、なにも考えられないまま、俺はいつまでもその場に立ち尽くすしかなかった。
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