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第2章 南郡平定戦
第49話 会戦
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夜を通して進軍し、体力がギリギリのところで野営する。そして夜が明けた頃に再出発した。
ほんの1か月も経ってないのにまた戻ってきてしまった。
それが観光とか旅行だったらまだよかった。
だがそうじゃない。
今回も鎧を着て、軍勢を引き連れて。観光ではなく戦争をしに来たのだ。
本当、嫌になる。
どうしてもっと平和的に進めることができないのか。
どこかで血を流さないといけないのか。
そもそもこんな世界なのだから、それもまたしょうがないとは思う。
またこれは俺が望んだ状況でもあるのだ。
南郡平定のためには、もう一度どこかで必ず武力衝突が必要となる。そのためには大義名分が必要で、決してこちらから仕掛けてはいけない。
ただこの早さは計算違いだった。
ここまで迅速に南郡をまとめあげ、挙兵にこぎつけたのは、誰かが音頭を取ったからに違いない。
その結果がこれだ。
陽が昇りもうそろそろお昼という時間。
視線の先に見える巨大な丘。その丘の上に、巨大な建造物が見える。
だがその建造物は、今やうごめく何かに包囲されている。
もちろん人だ。
南郡3か国の連合軍が包囲しているのだ。
さらに丘を下りた平地に、こちらに対するように陣が敷かれている。
「間に合ったか……」
まだ包囲をしていること、こちらに迎撃の陣を敷いていること。
つまりまだフィルフは無事ということだ。
そのことにまずは安堵。
だがすぐに気を引き締めることになる。
そう、間に合った。
だが間に合っただけだ。
ここからあの敵を突破してジルを助け出す。しかもその後にあの1万を蹴散らさないと安全とは言えない。
「おいおい、ありゃ1万以上はいるぞ。包囲軍もジーンたちより少ないってことはないだろうし。どこにあんな兵力あったんだ」
サカキが包囲されているフィルフ王国の王都を眺めながら歯ぎしりする。
「徴兵したんじゃないっすか。囲むだけなら素人でもできますし」
「っつーことは、あの1万をぶちぬけば勝てるってことだろ。なぁに、前も同じ内容で勝ったんだ。ちょっとくらい兵力が少ないのはハンデだな!」
「いや、そういうわけにはいかないよサカキ」
あまり悲観視したくないが、サカキの楽観につきあうつもりもなかった。
「なんでだよ、ジャンヌちゃん?」
「前回の戦いでは、トロンとスーンはドスガに命令された嫌々ながらの出兵だった。だから戦力にはほぼなりえなかった。でも今回は違う。自分たちを守るため、侵略者である俺たちを追い払うため、必死になって戦う。それにおそらくだけど、このままフィルフを落としてその領土を山分けすることまで考えてるんじゃないか」
「ちっ、何が侵略者だ。ちょっと前まではドスガの横暴から救ってくれた救世主みたいな感じだったのによ!」
その認識は間違っていない。
けど根本的には、俺たちはどこまで行っても侵略者でしかないのだ。
そうとは気づかせないよう心を配ったつもりだったんだけど……。
「でも、うちの政治が良いものだってわかってくれたら、少しは味方してくれるんじゃないっすかね。実際、周辺から移民してきたって人、多いみたいっすよ」
「へぇ、そうなのか。やるなぁ、ジャンヌちゃん」
「いや、それは別に……」
そういう話は耳にしたことはあるけど、本当にそうかまでは追っていなかった。
別にエゴサが好きなわけじゃないし、てか悪い噂を聞くとへこむから話半分以下で聞いてたけど。
…………でもちょっと嬉しいかも。
自分の仕事が少しは評価されているのなら、それはとても誇らしいこと。
あるいはそれが贖罪になるのではと期待してしまう。
良い政治をして、皆さんの生活を楽にするんで侵略されてください。
……いや、ないな。
「謙遜すんなって! んじゃあ、ちょっくら南郡の奴らにジャンヌちゃんの素晴らしさを教えてあげないとな!」
「いやいやいやいや、ちょっと待てサカキ。お前、ここに来た理由忘れてないよな?」
「え? ………………あぁ、もちろん! ジーンの奴を助けるんだろ。ダイジョブダイジョブ。あいつはそう簡単に死なないって。さって、どう勝つか考えようぜ」
2つの意味で本当かよ。
だが、話してちょっとだけ気持ちが軽くなった気がした。
サカキの楽観というか豪放さというか、こういう時は役に立つものだ。
「作戦か……」
改めて状況を見る。
兵力はこちらが6千と200。相手が1万2千くらいか。それと包囲軍5千ほど。
こちらは左右を小高い丘に挟まれた平地に布陣し、相手はフィルフを背にして布陣している。
彼我の距離は数百メートルもない。動き出せばすぐにぶつかる位置だ。
こちらはサカキの歩兵隊と、ブリーダの騎馬隊。そして遊軍として俺の騎馬隊がいる。
対する相手は、ドスガ、トロン、スーンで別れた3軍。
『古の魔導書』で見る限り、ドスガ軍の将軍は四天王筆頭のジョーショーだった。ドスガ王国で一度だけ会話したことのある男だ。
トロンとスーンは知らない人間だ。ただプレイヤーではない。
兵力差は倍以上。しかも動ける軍団が3つもある。
幸いにして、激突するだろう場所は小さな丘がいくつもあって、大軍が展開しづらい場所。
だから相手は軍を分けてくるはずだ。
1軍を当てて、その間に丘をぐるっと回って挟撃する。単純だが効果的な戦法だ。
それにどう対処するか。
それはもう決まっている。
相手より兵力が劣っているこちらが勝つ方法は2つ。
敵の本陣を一直線に狙うか、各個撃破するかだ。
前者は敵の包囲が完成する前に、敵の本陣を突く策。
それで総大将を討ち取ってしまえば、どれだけ兵力差があっても勝ちだ。要は桶狭間。
だが今回でそれは無理だろう。
相手は連合軍なのだ。
真正面の敵を討ったとしても、他の国からすればそれがどうしたなのである。
例えばドスガの四天王を討ったとしたら、トロンとスーンは厄介なドスガを弱体化してくれたことに感謝しながら、俺たちを挟撃して皆殺しにしようとするだろう。
だからこの策は今回は使えない。
後者の各個撃破は、分けた敵を1つずつ撃破するという策。
今の兵力差はおよそ6千対1万2千だが、敵が3つに分かれれば単純計算で6千対4千でこちらが有利になる。
もちろんこれにもデメリットというか難点があって、撃破に手間取ると敵の援軍が来てやはり挟み撃ちになってしまうということ。
とはいえ、この丘陵地帯だ。
敵の援軍が来るには丘を迂回するか登る必要があるから、平地で戦うよりは時間的余裕がある。
……これしかない、か。
それを伝えると、サカキもブリーダも頷いてくれた。
「まぁ、今はそれしかないっすね」
「でも、もう行くのか? ちょっと兵を休ませた方が……」
「いや、ここは時間を置かない方がいい。兵たちには辛いだろうけど、一気に勝負を決めるべきだ」
「そっすね。先手を打つのは常道っす」
「っしゃあ! じゃあ行こうぜ!」
サカキの号令によって、全軍が一丸となって進軍を始める。
さらに狼煙をあげさせた。
援軍が来たことを、フィルフに籠るジルたちに伝えるためだ。
敵は動かない。
ギリギリまで引きつけて一気に決めようという腹か。
ならこっちもギリギリまで進む。
どちらが先に折れるかの根競べだ。
だが万が一に備え、俺は伝令を出した。
もう1つの策を実行に移すために。
進む。
動かない。
進む。
動かない。
進む。
動かない。
そして俺がそれに気づいたのは、敵との距離は300メートルを切った位置にたどり着いた時だった。
敵に動く気配はない。
そりゃそうだ。
あっちは攻め急ぐ必要はないのだから。
急ぐ理由があるのは俺たちの方で、あっちは無理に兵を分けて危険を冒す必要はない。
このまま突っ込んだら兵力差をもろに受けることになる。
なら退却するか。
ダメだ。今後ろを見せたら、すぐに追撃に移るだろう。それも余力を持った追撃だ。
そうなるともう1つの策が活きない。
「サカキ、作戦1は失敗した。さっきの手筈通りに」
念のためが功を奏した。
いや、本来なら使いたくなかったがこうなってはしかたない。
「このまま進むぞ! 鉦ならせ!」
鉦の音が激しく鳴り響く。
前衛の歩兵は歩みを止めない。
敵に少し動揺が走るのが分かった。
不自然な鉦の音に、伏兵を警戒したのだろう。足を緩めずに無防備に接近している俺たちを見て、何か策があるに違いないと見たのだ。
だが策なんてない。歩兵たちは足を緩めない。どこかで止まると思っていた敵はそれで虚を突かれた形になる。
「かかれぇ!」
歩きから一気に駆け足へと。
そのまま敵の前衛にぶつかった。旗からしてドスガ王国の軍だ。
まさかそのまま突っ込んでくるとは思わなかったようで、敵が心構えができる前に戦闘が始まった。
だから最初は味方が優勢になった。
しかしドスガが耐えている最中に、左右に展開するトロンとスーンの軍が突っ込んできた。
そこへブリーダの隊が突っ込むが、兵は敵の方が多い。止まらない。
三方向から攻撃を受けることになったオムカ軍は、じりじりと押されていく。犠牲も出始めている。
このままでは完全に包囲されて全滅する。
そんな時に俺はサカキに合図した。
「退け!」
退却の鉦が鳴らす。
歩兵たちが雪崩を打って、敵に背を向けて逃げ出した。
待ってましたと言わんばかりに敵が追撃してくる。
それを馬上から見た。
追ってくるのはトロンとスーンの軍。
ドスガ軍は正面で戦ってたからか、若干追撃の足が鈍い。
逃げる味方と、勢いに乗った敵の形になった。
最前線で戦っていた兵が最後尾となり、次々と討たれていく。
俺は直接戦闘に参加せずに後方で馬に乗っていたから問題なく逃げられるが、後ろから聞こえてくる悲鳴を聞くと悔しくてたまらない。
手綱を握る手が震え、歯をきつく食いしばって耐えた。
そして敗走すること数百メートル。まだ敵の追撃は終わらない。
つまりそれはまだ味方が完全に負けていないということ。サカキが殿で奮戦しているし、ブリーダの騎馬隊がなんとか敵を食い止めようと駆けまわっている。
俺としては彼らの頑張りに応えるべく、時期を見計らい、そして馬から旗を取り出す。
――今だ!
俺は大きく旗を振る。
すると傍で鉦が鳴る。
それを合図として、左右の丘から兵が現れた。
右にクロエたち200、左にブリーダ配下の500。
数は少ないが左右から逆落としで敵の横腹を食い破っていく。
不意をうたれた敵は混乱し、追撃どころではなくなった。
俺お得意の、釣り野伏せだ。
「よく耐えた! 反転し、敵を撃滅しろ!」
さらに旗を振り、逃げていた足を再び前へと向かわせる。喚声があがり、味方の歩兵たちが再び敵に向かって走り出す。これまでの鬱憤を晴らすように、混乱した敵をこれでもかと痛めつけていく。
勝った。
犠牲は大きかったが、これで南郡の平定は成った。
猛る心に抑えながら、更に追撃を行おうと前のめりになった。
――その時だ。
爆音が戦場に響いた。
ほんの1か月も経ってないのにまた戻ってきてしまった。
それが観光とか旅行だったらまだよかった。
だがそうじゃない。
今回も鎧を着て、軍勢を引き連れて。観光ではなく戦争をしに来たのだ。
本当、嫌になる。
どうしてもっと平和的に進めることができないのか。
どこかで血を流さないといけないのか。
そもそもこんな世界なのだから、それもまたしょうがないとは思う。
またこれは俺が望んだ状況でもあるのだ。
南郡平定のためには、もう一度どこかで必ず武力衝突が必要となる。そのためには大義名分が必要で、決してこちらから仕掛けてはいけない。
ただこの早さは計算違いだった。
ここまで迅速に南郡をまとめあげ、挙兵にこぎつけたのは、誰かが音頭を取ったからに違いない。
その結果がこれだ。
陽が昇りもうそろそろお昼という時間。
視線の先に見える巨大な丘。その丘の上に、巨大な建造物が見える。
だがその建造物は、今やうごめく何かに包囲されている。
もちろん人だ。
南郡3か国の連合軍が包囲しているのだ。
さらに丘を下りた平地に、こちらに対するように陣が敷かれている。
「間に合ったか……」
まだ包囲をしていること、こちらに迎撃の陣を敷いていること。
つまりまだフィルフは無事ということだ。
そのことにまずは安堵。
だがすぐに気を引き締めることになる。
そう、間に合った。
だが間に合っただけだ。
ここからあの敵を突破してジルを助け出す。しかもその後にあの1万を蹴散らさないと安全とは言えない。
「おいおい、ありゃ1万以上はいるぞ。包囲軍もジーンたちより少ないってことはないだろうし。どこにあんな兵力あったんだ」
サカキが包囲されているフィルフ王国の王都を眺めながら歯ぎしりする。
「徴兵したんじゃないっすか。囲むだけなら素人でもできますし」
「っつーことは、あの1万をぶちぬけば勝てるってことだろ。なぁに、前も同じ内容で勝ったんだ。ちょっとくらい兵力が少ないのはハンデだな!」
「いや、そういうわけにはいかないよサカキ」
あまり悲観視したくないが、サカキの楽観につきあうつもりもなかった。
「なんでだよ、ジャンヌちゃん?」
「前回の戦いでは、トロンとスーンはドスガに命令された嫌々ながらの出兵だった。だから戦力にはほぼなりえなかった。でも今回は違う。自分たちを守るため、侵略者である俺たちを追い払うため、必死になって戦う。それにおそらくだけど、このままフィルフを落としてその領土を山分けすることまで考えてるんじゃないか」
「ちっ、何が侵略者だ。ちょっと前まではドスガの横暴から救ってくれた救世主みたいな感じだったのによ!」
その認識は間違っていない。
けど根本的には、俺たちはどこまで行っても侵略者でしかないのだ。
そうとは気づかせないよう心を配ったつもりだったんだけど……。
「でも、うちの政治が良いものだってわかってくれたら、少しは味方してくれるんじゃないっすかね。実際、周辺から移民してきたって人、多いみたいっすよ」
「へぇ、そうなのか。やるなぁ、ジャンヌちゃん」
「いや、それは別に……」
そういう話は耳にしたことはあるけど、本当にそうかまでは追っていなかった。
別にエゴサが好きなわけじゃないし、てか悪い噂を聞くとへこむから話半分以下で聞いてたけど。
…………でもちょっと嬉しいかも。
自分の仕事が少しは評価されているのなら、それはとても誇らしいこと。
あるいはそれが贖罪になるのではと期待してしまう。
良い政治をして、皆さんの生活を楽にするんで侵略されてください。
……いや、ないな。
「謙遜すんなって! んじゃあ、ちょっくら南郡の奴らにジャンヌちゃんの素晴らしさを教えてあげないとな!」
「いやいやいやいや、ちょっと待てサカキ。お前、ここに来た理由忘れてないよな?」
「え? ………………あぁ、もちろん! ジーンの奴を助けるんだろ。ダイジョブダイジョブ。あいつはそう簡単に死なないって。さって、どう勝つか考えようぜ」
2つの意味で本当かよ。
だが、話してちょっとだけ気持ちが軽くなった気がした。
サカキの楽観というか豪放さというか、こういう時は役に立つものだ。
「作戦か……」
改めて状況を見る。
兵力はこちらが6千と200。相手が1万2千くらいか。それと包囲軍5千ほど。
こちらは左右を小高い丘に挟まれた平地に布陣し、相手はフィルフを背にして布陣している。
彼我の距離は数百メートルもない。動き出せばすぐにぶつかる位置だ。
こちらはサカキの歩兵隊と、ブリーダの騎馬隊。そして遊軍として俺の騎馬隊がいる。
対する相手は、ドスガ、トロン、スーンで別れた3軍。
『古の魔導書』で見る限り、ドスガ軍の将軍は四天王筆頭のジョーショーだった。ドスガ王国で一度だけ会話したことのある男だ。
トロンとスーンは知らない人間だ。ただプレイヤーではない。
兵力差は倍以上。しかも動ける軍団が3つもある。
幸いにして、激突するだろう場所は小さな丘がいくつもあって、大軍が展開しづらい場所。
だから相手は軍を分けてくるはずだ。
1軍を当てて、その間に丘をぐるっと回って挟撃する。単純だが効果的な戦法だ。
それにどう対処するか。
それはもう決まっている。
相手より兵力が劣っているこちらが勝つ方法は2つ。
敵の本陣を一直線に狙うか、各個撃破するかだ。
前者は敵の包囲が完成する前に、敵の本陣を突く策。
それで総大将を討ち取ってしまえば、どれだけ兵力差があっても勝ちだ。要は桶狭間。
だが今回でそれは無理だろう。
相手は連合軍なのだ。
真正面の敵を討ったとしても、他の国からすればそれがどうしたなのである。
例えばドスガの四天王を討ったとしたら、トロンとスーンは厄介なドスガを弱体化してくれたことに感謝しながら、俺たちを挟撃して皆殺しにしようとするだろう。
だからこの策は今回は使えない。
後者の各個撃破は、分けた敵を1つずつ撃破するという策。
今の兵力差はおよそ6千対1万2千だが、敵が3つに分かれれば単純計算で6千対4千でこちらが有利になる。
もちろんこれにもデメリットというか難点があって、撃破に手間取ると敵の援軍が来てやはり挟み撃ちになってしまうということ。
とはいえ、この丘陵地帯だ。
敵の援軍が来るには丘を迂回するか登る必要があるから、平地で戦うよりは時間的余裕がある。
……これしかない、か。
それを伝えると、サカキもブリーダも頷いてくれた。
「まぁ、今はそれしかないっすね」
「でも、もう行くのか? ちょっと兵を休ませた方が……」
「いや、ここは時間を置かない方がいい。兵たちには辛いだろうけど、一気に勝負を決めるべきだ」
「そっすね。先手を打つのは常道っす」
「っしゃあ! じゃあ行こうぜ!」
サカキの号令によって、全軍が一丸となって進軍を始める。
さらに狼煙をあげさせた。
援軍が来たことを、フィルフに籠るジルたちに伝えるためだ。
敵は動かない。
ギリギリまで引きつけて一気に決めようという腹か。
ならこっちもギリギリまで進む。
どちらが先に折れるかの根競べだ。
だが万が一に備え、俺は伝令を出した。
もう1つの策を実行に移すために。
進む。
動かない。
進む。
動かない。
進む。
動かない。
そして俺がそれに気づいたのは、敵との距離は300メートルを切った位置にたどり着いた時だった。
敵に動く気配はない。
そりゃそうだ。
あっちは攻め急ぐ必要はないのだから。
急ぐ理由があるのは俺たちの方で、あっちは無理に兵を分けて危険を冒す必要はない。
このまま突っ込んだら兵力差をもろに受けることになる。
なら退却するか。
ダメだ。今後ろを見せたら、すぐに追撃に移るだろう。それも余力を持った追撃だ。
そうなるともう1つの策が活きない。
「サカキ、作戦1は失敗した。さっきの手筈通りに」
念のためが功を奏した。
いや、本来なら使いたくなかったがこうなってはしかたない。
「このまま進むぞ! 鉦ならせ!」
鉦の音が激しく鳴り響く。
前衛の歩兵は歩みを止めない。
敵に少し動揺が走るのが分かった。
不自然な鉦の音に、伏兵を警戒したのだろう。足を緩めずに無防備に接近している俺たちを見て、何か策があるに違いないと見たのだ。
だが策なんてない。歩兵たちは足を緩めない。どこかで止まると思っていた敵はそれで虚を突かれた形になる。
「かかれぇ!」
歩きから一気に駆け足へと。
そのまま敵の前衛にぶつかった。旗からしてドスガ王国の軍だ。
まさかそのまま突っ込んでくるとは思わなかったようで、敵が心構えができる前に戦闘が始まった。
だから最初は味方が優勢になった。
しかしドスガが耐えている最中に、左右に展開するトロンとスーンの軍が突っ込んできた。
そこへブリーダの隊が突っ込むが、兵は敵の方が多い。止まらない。
三方向から攻撃を受けることになったオムカ軍は、じりじりと押されていく。犠牲も出始めている。
このままでは完全に包囲されて全滅する。
そんな時に俺はサカキに合図した。
「退け!」
退却の鉦が鳴らす。
歩兵たちが雪崩を打って、敵に背を向けて逃げ出した。
待ってましたと言わんばかりに敵が追撃してくる。
それを馬上から見た。
追ってくるのはトロンとスーンの軍。
ドスガ軍は正面で戦ってたからか、若干追撃の足が鈍い。
逃げる味方と、勢いに乗った敵の形になった。
最前線で戦っていた兵が最後尾となり、次々と討たれていく。
俺は直接戦闘に参加せずに後方で馬に乗っていたから問題なく逃げられるが、後ろから聞こえてくる悲鳴を聞くと悔しくてたまらない。
手綱を握る手が震え、歯をきつく食いしばって耐えた。
そして敗走すること数百メートル。まだ敵の追撃は終わらない。
つまりそれはまだ味方が完全に負けていないということ。サカキが殿で奮戦しているし、ブリーダの騎馬隊がなんとか敵を食い止めようと駆けまわっている。
俺としては彼らの頑張りに応えるべく、時期を見計らい、そして馬から旗を取り出す。
――今だ!
俺は大きく旗を振る。
すると傍で鉦が鳴る。
それを合図として、左右の丘から兵が現れた。
右にクロエたち200、左にブリーダ配下の500。
数は少ないが左右から逆落としで敵の横腹を食い破っていく。
不意をうたれた敵は混乱し、追撃どころではなくなった。
俺お得意の、釣り野伏せだ。
「よく耐えた! 反転し、敵を撃滅しろ!」
さらに旗を振り、逃げていた足を再び前へと向かわせる。喚声があがり、味方の歩兵たちが再び敵に向かって走り出す。これまでの鬱憤を晴らすように、混乱した敵をこれでもかと痛めつけていく。
勝った。
犠牲は大きかったが、これで南郡の平定は成った。
猛る心に抑えながら、更に追撃を行おうと前のめりになった。
――その時だ。
爆音が戦場に響いた。
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どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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