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第2章 南郡平定戦
第50話 抗戦かあるいは…
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反撃に出た味方の前衛がバタバタと倒れる。
何が起きた、というのは状況を見れば一目瞭然だ。
潰走する敵は、左右に分かれて唯一軍を保っているドスガ軍の背後に回ろうとしている。
そのドスガ軍の前衛は横一列に並び、片膝立ちのポーズをとって、こちらに何かを向けている。
それは煙を噴いた筒状のもの。
「……鉄砲!」
迂闊。追撃に手間取ったのはこの準備のためか。
しかもその間にも敵の前列の鉄砲隊が入れ替わる。
再び轟音。
味方が悲鳴を上げて倒れていく。
「鉦を打て! 追撃は中止だ!」
退き鉦が打たれる。
火縄銃の有効射程距離は100メートルほど。
だから大事を取って150メートルほど退いた。
「あれが鉄砲か? ありゃやべぇぞ。何もしてないのに味方が死んだ」
真っ先に戻って来たサカキが俺のところに来て言った。
最前線で戦っていたのだろう。鎧はボロボロでいくつも浅手を受けているらしく、ところどころに血がにじんでいた。
「それが鉄砲だよ。くそ、前はあんなのいなかったぞ。どこにあんな組織だったものがあるんだよ」
「でも鉄砲ってあれだろ? 撃ったら次まで時間がかかるって。なら犠牲覚悟で突っ込めば……」
「ダメだ。相手は発射と装填を交互に行ってる。間断なく撃ってくるぞ」
「うぅ、む」
正直どうしようもない。
まさか鉄砲隊がいるとは思いもよらなかった。
いや、独立だ戴冠式だで後回しになっていたが、そもそも自分で鉄砲隊を作ろうと思ったくらいだ。誰かがやってもおかしくはない土壌はできていたのだ。
しかも今の取り換え撃ちを見るところ100や200の数では済まない鉄砲の数がある。こちらも弓は持ってきていて、射程距離もそれほど変わらないが威力は段違いだ。
オムカの軍は誰もが専業の兵だが、それでも弓の腕前は千差万別。弓の名人なら敵の急所を狙い撃つこともできるが、全員が全員そうではない。
それに対して鉄砲は誰が撃っても(命中精度の差はあれど)あたれば致命傷を与える威力を保持している。織田信長が鉄砲を重視したのも、腕前にかかわらず強い殺傷性を持つところがあったのが一因とされている。
シータからの輸入品を見る限り、この世界の銃は火縄銃よりは若干マシなものレベルだ。だが現代日本の知識を持つプレイヤーがいた場合、改良がなされている可能性もないとは言い切れない。もしライフリングがされていれば、この距離でも危険だ。
さらに防弾の盾や竹束のような鉄砲の防御になるものが調達できるわけでもない。
丘陵地を盾に使えなくもないが、そうなると兵力差がまた問題になる。
つまり勝てない。この状況では。
さっきのように不意を打ったならまだしも、相手に待ち構えられたら途端に鉄砲は最強の兵器となる。
「軍師殿!」
「隊長殿!」
ブリーダとクロエが来た。
どうやら2人とも無事だったようだ。
「死傷者は合わせて1000近くになるかもっす」
ブリーダの報告に胸が痛む。無理な攻撃に付き合わされた結果だ。
だがそれは受け止めるしかない。
「あれって、もしかしてクルレーン隊っすかね。南郡の東、シータ王国の方にいる豪族で、傭兵みたいなのをしてるって親から聞いたことがあるっす」
ブリーダが何か思い出したようだ。
傭兵。
なるほど、雑賀衆みたいなのがいるのか。
となるとますます手が出しづらい。
それはつまり鉄砲のエキスパート集団ということだ。
下手に攻めれば手痛い被害を負うだろう。
「とりあえずここに陣を張る。負傷者はそこで傷の手当てを。残りは辛いだろうが我慢――」
「オムカ王国軍に申し付ける!」
不意に戦場に響き渡る大音声が敵陣から響いた。
聞き覚えがある。確か、ドスガ王国で聞いた四天王のジョーショーの声。
「貴国の女王は我がドスガ王国に賓客となっている! これ以上の戦闘は、その意思を無下にするものである! ただちに戦闘を止め、降伏しろ! さもなければ貴人の命は保証しない!」
衝撃が走った。
まさか、という思いと、やはり、という思いが交錯する。
マリアがドスガ王国に捕まった。おそらくニーアもだろう。
一番危惧していたことが起きてしまった。
兵たちにざわめきが広がる。
サカキを始め、オムカの兵はすべからく女王を敬愛している。女王あっての国だと思っている。
それを犠牲にして勝つことなど、意識の外にしかないのだ。
兵力差。
鉄砲隊。
人質。
士気。
……ふぅ。
空を見上げる。
昼下がりの青い空。
ここまでか。
「降伏しよう」
ぼそりと、だけど意志をもってそうつぶやく。
「なっ……いや、でも……」
サカキがうろたえた様子で言葉をつぐ前に俺は首を振った。
「まぁなんとか停戦にまで持ち込んでみる。だから俺が使者になる。後は頼んだよ」
「ばっ! 無茶だ! 俺が行く!」
「そっす! そういうのはこっちに任せるっす!」
サカキとブリーダが唾を飛ばして反論してくる。
それに対し、俺は冷静に告げた。
「お前らは軍をまとめなきゃダメだろ。ここで誰かが暴走して見ろ。女王様は呆気なく殺されるぞ」
「つかちょっと待ってくださいっす! 女王様が捕まったなんて、絶対嘘っすよ!」
「嘘かどうか判断できない。もし本当だったら本当に取り返しのつかないことになる。そうなったらオムカは終わる」
「うっ……」
ブリーダが引きつったような顔で押し黙る。
「隊長殿、なら私を連れて行ってください。命に代えて隊長殿を守ります」
「自分も行きます!」
クロエ、そしてウィットが声を上げると、それに部下たちが続く。
「ダメだ。何かあった時のために残ってもらわないと」
正直怖い。
武器も力もない俺が、たった独りで敵陣に乗り込むなんて、殺してくれと言っているようなものだ。
けどここは俺以外適任がいない。
俺なら少ない政治力を知力でカバーできるが、サカキにもブリーダにも、もちろんクロエやウィットにも交渉は無理だ。
俺たちの返答が来ないからか、ジョーショーからの更なる通告が聞こえてきた。
「降伏の意思があるのであれば! オムカ王国軍師ジャンヌ・ダルクが出頭せよ! もちろん1人でだ! それまで他の者は手出し無用! それを破ればどうなるか分かっているだろう!」
「ほら、あっちもそれを望んでるってよ」
「む……むぅ……」
「ただ時が来たらお前らの力が頼りになる。その時までは耐えてくれ」
サカキ、ブリーダ、クロエ、ウィット。
4人の顔を見ていく。
その誰もが悲痛な面持ちでいる。
「……分かった。けど絶対無理すんなよ。ジャンヌちゃんが死んだら、俺も死ぬしかないからな」
サカキの覚悟のこもった言葉に、他の3人も異口同音に続く。
だからお前ら。重いって。
けど、今はその重さも悪くない。
絶対死ねない。
マリアのため、ニーアのため、ジルのため、そしてサカキ、ブリーダ、クロエ、ウィットのため。
そう思えば、生きてやろうという気が起きてくる。
さぁ、行こうか。
俺は心の中で思って、単騎、敵の大軍へと馬を走らせた。
何が起きた、というのは状況を見れば一目瞭然だ。
潰走する敵は、左右に分かれて唯一軍を保っているドスガ軍の背後に回ろうとしている。
そのドスガ軍の前衛は横一列に並び、片膝立ちのポーズをとって、こちらに何かを向けている。
それは煙を噴いた筒状のもの。
「……鉄砲!」
迂闊。追撃に手間取ったのはこの準備のためか。
しかもその間にも敵の前列の鉄砲隊が入れ替わる。
再び轟音。
味方が悲鳴を上げて倒れていく。
「鉦を打て! 追撃は中止だ!」
退き鉦が打たれる。
火縄銃の有効射程距離は100メートルほど。
だから大事を取って150メートルほど退いた。
「あれが鉄砲か? ありゃやべぇぞ。何もしてないのに味方が死んだ」
真っ先に戻って来たサカキが俺のところに来て言った。
最前線で戦っていたのだろう。鎧はボロボロでいくつも浅手を受けているらしく、ところどころに血がにじんでいた。
「それが鉄砲だよ。くそ、前はあんなのいなかったぞ。どこにあんな組織だったものがあるんだよ」
「でも鉄砲ってあれだろ? 撃ったら次まで時間がかかるって。なら犠牲覚悟で突っ込めば……」
「ダメだ。相手は発射と装填を交互に行ってる。間断なく撃ってくるぞ」
「うぅ、む」
正直どうしようもない。
まさか鉄砲隊がいるとは思いもよらなかった。
いや、独立だ戴冠式だで後回しになっていたが、そもそも自分で鉄砲隊を作ろうと思ったくらいだ。誰かがやってもおかしくはない土壌はできていたのだ。
しかも今の取り換え撃ちを見るところ100や200の数では済まない鉄砲の数がある。こちらも弓は持ってきていて、射程距離もそれほど変わらないが威力は段違いだ。
オムカの軍は誰もが専業の兵だが、それでも弓の腕前は千差万別。弓の名人なら敵の急所を狙い撃つこともできるが、全員が全員そうではない。
それに対して鉄砲は誰が撃っても(命中精度の差はあれど)あたれば致命傷を与える威力を保持している。織田信長が鉄砲を重視したのも、腕前にかかわらず強い殺傷性を持つところがあったのが一因とされている。
シータからの輸入品を見る限り、この世界の銃は火縄銃よりは若干マシなものレベルだ。だが現代日本の知識を持つプレイヤーがいた場合、改良がなされている可能性もないとは言い切れない。もしライフリングがされていれば、この距離でも危険だ。
さらに防弾の盾や竹束のような鉄砲の防御になるものが調達できるわけでもない。
丘陵地を盾に使えなくもないが、そうなると兵力差がまた問題になる。
つまり勝てない。この状況では。
さっきのように不意を打ったならまだしも、相手に待ち構えられたら途端に鉄砲は最強の兵器となる。
「軍師殿!」
「隊長殿!」
ブリーダとクロエが来た。
どうやら2人とも無事だったようだ。
「死傷者は合わせて1000近くになるかもっす」
ブリーダの報告に胸が痛む。無理な攻撃に付き合わされた結果だ。
だがそれは受け止めるしかない。
「あれって、もしかしてクルレーン隊っすかね。南郡の東、シータ王国の方にいる豪族で、傭兵みたいなのをしてるって親から聞いたことがあるっす」
ブリーダが何か思い出したようだ。
傭兵。
なるほど、雑賀衆みたいなのがいるのか。
となるとますます手が出しづらい。
それはつまり鉄砲のエキスパート集団ということだ。
下手に攻めれば手痛い被害を負うだろう。
「とりあえずここに陣を張る。負傷者はそこで傷の手当てを。残りは辛いだろうが我慢――」
「オムカ王国軍に申し付ける!」
不意に戦場に響き渡る大音声が敵陣から響いた。
聞き覚えがある。確か、ドスガ王国で聞いた四天王のジョーショーの声。
「貴国の女王は我がドスガ王国に賓客となっている! これ以上の戦闘は、その意思を無下にするものである! ただちに戦闘を止め、降伏しろ! さもなければ貴人の命は保証しない!」
衝撃が走った。
まさか、という思いと、やはり、という思いが交錯する。
マリアがドスガ王国に捕まった。おそらくニーアもだろう。
一番危惧していたことが起きてしまった。
兵たちにざわめきが広がる。
サカキを始め、オムカの兵はすべからく女王を敬愛している。女王あっての国だと思っている。
それを犠牲にして勝つことなど、意識の外にしかないのだ。
兵力差。
鉄砲隊。
人質。
士気。
……ふぅ。
空を見上げる。
昼下がりの青い空。
ここまでか。
「降伏しよう」
ぼそりと、だけど意志をもってそうつぶやく。
「なっ……いや、でも……」
サカキがうろたえた様子で言葉をつぐ前に俺は首を振った。
「まぁなんとか停戦にまで持ち込んでみる。だから俺が使者になる。後は頼んだよ」
「ばっ! 無茶だ! 俺が行く!」
「そっす! そういうのはこっちに任せるっす!」
サカキとブリーダが唾を飛ばして反論してくる。
それに対し、俺は冷静に告げた。
「お前らは軍をまとめなきゃダメだろ。ここで誰かが暴走して見ろ。女王様は呆気なく殺されるぞ」
「つかちょっと待ってくださいっす! 女王様が捕まったなんて、絶対嘘っすよ!」
「嘘かどうか判断できない。もし本当だったら本当に取り返しのつかないことになる。そうなったらオムカは終わる」
「うっ……」
ブリーダが引きつったような顔で押し黙る。
「隊長殿、なら私を連れて行ってください。命に代えて隊長殿を守ります」
「自分も行きます!」
クロエ、そしてウィットが声を上げると、それに部下たちが続く。
「ダメだ。何かあった時のために残ってもらわないと」
正直怖い。
武器も力もない俺が、たった独りで敵陣に乗り込むなんて、殺してくれと言っているようなものだ。
けどここは俺以外適任がいない。
俺なら少ない政治力を知力でカバーできるが、サカキにもブリーダにも、もちろんクロエやウィットにも交渉は無理だ。
俺たちの返答が来ないからか、ジョーショーからの更なる通告が聞こえてきた。
「降伏の意思があるのであれば! オムカ王国軍師ジャンヌ・ダルクが出頭せよ! もちろん1人でだ! それまで他の者は手出し無用! それを破ればどうなるか分かっているだろう!」
「ほら、あっちもそれを望んでるってよ」
「む……むぅ……」
「ただ時が来たらお前らの力が頼りになる。その時までは耐えてくれ」
サカキ、ブリーダ、クロエ、ウィット。
4人の顔を見ていく。
その誰もが悲痛な面持ちでいる。
「……分かった。けど絶対無理すんなよ。ジャンヌちゃんが死んだら、俺も死ぬしかないからな」
サカキの覚悟のこもった言葉に、他の3人も異口同音に続く。
だからお前ら。重いって。
けど、今はその重さも悪くない。
絶対死ねない。
マリアのため、ニーアのため、ジルのため、そしてサカキ、ブリーダ、クロエ、ウィットのため。
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