知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第51話 脱衣王

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 何をすべきか、考えた。

 マリアの奪還か。
 ニーアの救出か。
 ジルの解放か。
 フィルフの救援か。
 オムカ国軍の維持か。
 オムカ王都の防衛か。

 そのどれもが重要過ぎて、どれが一番かなんて決められない。
 だってそのすべてに人命がかかっている。
 どれが一番かを決めるということは、その命に順序をつけるということ。

 そんなこと、俺にはできない。

 もちろん、オムカ国軍師のジャンヌ・ダルクならできる。
 最上はマリアの奪還。
 最低はジルの解放。
 優先度をつけるならそうなる。

 だけど俺はオムカ国軍師のジャンヌ・ダルクでありながら、日本の写楽明彦なのだ。
 そんな俺だから命に順序をつけることはできず、考えが巡り巡ってこうなった。

 6つの項目を最上に置き、自分の命を最低に置いた。
 自分の命と引き換えに命を救う。軍師の策とは思えないな。可能性も低いし。捨身飼虎しゃしんしこ、お釈迦様かよ。

 そんなことを考えて馬に揺られ、2日目の昼前。
 10人のドスガ兵に連れられてドスガ王国の王都にたどり着いた。

 山を背景にして、相変わらず攻めにくそうな城だ。
 変わらず不景気そうな城下町を抜け、そのまま王宮に通された。元から武器は持っていないから没収も何もない。

 ただ連れていかれた場所は驚いた。
 てっきり地下牢にでも入れられるのかと思っていたが、通されたのは豪奢な一間だった。
 オムカと比べると、王宮の規模も一回り小さいが、オリエンタルな雰囲気の絨毯やソファといった家具は独特の色を出している。砂漠を越えて他国と貿易した南郡特有のものなのだろう。

 そして何より驚いたのが、そこにいた人物。
 オムカでは早々に退出したからあまり印象になかった。
 何よりそのふてぶてしい態度と、傲岸そうな顔がその時の人物とはすぐにつながらなかったからだ。

「わしがドスガの国王、トゥーナイド・ドスガである」

 まさかいきなり国王の部屋に通されるとは。
 思ってもみなかった展開に、俺はまだ一言も喋れていない。

「貴様がジャンヌか……」

 じろり、と睨まれる。
 その視線に友好的なものはない。怒りを通り越した殺意に満ちた視線。
 それが俺を下から上に舐めるように動く。まるでどこから傷つけてやろうかと品定めするように。

 俺はそれを跳ねのける意味で、腹に力を入れて礼をした。

「こ、この度は、お目通りいただき恐悦至極」

「ふん、世辞はいい」

 心底つまらなそうにドスガ王は嘆息する。

 どうやら短気な性格のようだ。
 ならここは一気に本題に移るべきだ。

「オムカは停戦を望みます。今後、南郡については一切手を出さないことは約束いたします。更に私の身を預けますので、つきましては女王様の返還を――」

「分かった」

 ドスガ王がそっけなく頷く。
 まさかこうも簡単に応じてくれるとは思わず、目を見張る。

 だがその後に続く言葉には耳を疑った。

「服を脱げ」

「へ?」

 今何て言った?
 フクヲヌゲ?

 上手く言葉が変換できない。

 えっと……あぁ、そうか。王に謁見しているんだ。なのにこんな武骨な格好じゃあ失礼に当たる……のかな?
 よく結論は出ないまま、胸当てを外し上着を脱ぐ。シャツ1枚は少し寒い季節だが、この部屋は暖かい。

 それでようやく話が進む。
 そう思ったが――

「違う、全部だ」

「は?」

 全部?
 脱ぐ?
 え?
 どういうこと?

「わしを貶めたオムカの軍師。殺してやろうと思ったが直に会って気に入った。わしのめかけになれ」

 え、え、え!?
 めかけ? って……えっと、なんだっけ!?
 ヤバい。頭が真っ白。

 それって、やっぱりあれか?
 こいつと、結婚しろってことか!?

 ありえない。
 男と結婚なんて……いや、でもジルは……そうじゃなく!

 駄目だ。相当混乱している。ただなんとか言葉は出た。
 こういう事態は何度か起きていた。その時に切り抜けてきた必殺の言葉が!

「いや、俺、まだ、その、12だし」

「わが国では結婚のできる年だ。問題ない」

 問題あるわー!
 てか必殺、弱っ! 若干サバ読んだのに、効果弱っ!

 ヤバいヤバいヤバいヤバい。
 てか、こいつ脱ぎ始めた!?

「オムカの姫君を妃、オムカの軍師を妾。ふふっ、これでオムカは我が手中に」

 マリアとW婚!?
 ふざけんな、こいつロリコンか!
 あぁ、もう! この世界にまともなやつが本当に少ない!

「そ、そうだ。マリア、女王様はどこに!?」

「いずれ会わせてやる。だが今はこちらが大事だ」

「待った待った待った待った! ニーアは! もう1人いただろ!?」

「ふん、あの召使か。四天王のモーモに分け与えたからな。今頃地下の牢でお楽しみだろう。後で見に行くか? ここから出てすぐだからな」

 っ!
 ニーア……無事なのかよ、お前。

「さぁもう時間稼ぎは良いだろう? 脱げ。そして股を開け。嫌だというならこちらから行くぞ」

 上半身裸の男が迫る。
 普段見慣れたものモノなのに、なんともおぞましく感じてしまった。

 怖い。足がすくむ。
 恥ずい。声が出ない。
 キモい。腰が引ける。

 これ以上に暴力的な戦場にいたはずなのに。
 それ以上に原始的な恐怖が迫ってくる。

 くそ、俺だって男なのに。
 相手が男だったら、一撃必殺の急所攻撃で……ん?

「あ、あの……少し、後ろを向いてくれますか。…………は、恥ずかしいので」

 我ながら猫なで声が気持ち悪い。
 けどこれだ。ここが勝負。ちょっと恥じらって視線を逸らすのがポイント!

「ふむ。ならば10秒だけやろう。さぁ脱げ」

 こいつ、どれだけ脱がせたがりなんだ。
 だがここが勝機!

「この……変態がっ!」

 思いっきり足を蹴り上げた。
 男の股下に。ブーツを叩きこんだ。

「お、おおおおおおおおおおお!」

 ドスガ王は急所を押え、その場にへたり込んでしまった。
 うわぁ、ご愁傷様。
 今はないものの、自分も股の辺りがぞくぞくとする。

 とはいえ同情している暇はない。

 悶える王を置いて、俺は部屋の飛び出した。
 周囲に人気はいない。あんなことをしようとしたのだ。人払いをしていたのだろう。
 このままなら逃げられそうだ。
 だがそれは何の解決にもならない。

 マリアとニーア。
 その2人を助け出す。
 それさえできれば大逆転。
 一気にドスガ王国を踏みつぶすことだって可能だ。

 もちろん問題はある。
 初めての場所だ。どこに何があるか分からない。

 いや、1つは分かる。
 ドスガ王がさっき漏らした。この部屋の近くにある地下牢。
 ということは階段があるはずだが……あった!

 少し奥まったところにある通路。
 そこにポツンと扉があり、わずかに開いたそこには下へと続く階段が見えた。

 金属製のらせん階段。
 音を立てないよう、ブーツを脱ぎ靴下のまま降りていく。

 鉄のひんやりとした感触が足から伝わってくる。
 長い。
 2階分は降りた気がする。
 ようやく底にたどり着いたが、そこはじめじめと湿った空間。
 微妙に濡れてぬめぬめとした地面に足をつける勇気はなく、再びブーツを履いて奥へ。それでも音を響かせないよう、つま先立ちで歩く。

『――――』

 何か声が聞こえた。
 そして何かを打つ音。

 蝋燭の灯りだけが唯一の光源となる、薄暗くてじめじめした空間。

 その一番奥の牢にいた。
 背中を向けた赤毛の人物。
 その奥に見える。手錠をはめられ蹲るのは――

「ニーア!」

「誰!?」

 しまった、馬鹿か!
 背中を向けていた人物――赤毛の女がこちらに振り向く。

 こうなったら仕方ない。
 脳をフル回転させてこの場を切り抜ける情報をかき集めて構築する。

 確かドスガ王が四天王のモーモにニーアを預けたとか言ってた。
 ということはこいつがモーモ。

「あんたは……?」

「ドスガ四天王のモーモだな。俺はオムカ王国軍師のジャンヌ・ダルク」

「へぇ、あんたが! これはまた……なかなかな美しい素材だ」

 向けられた顔にぞっとする。
 頬にある傷跡がいびつに曲がる。ドスガ王より気色悪い。今すぐ逃げ出したい。

 けどニーアがいる。
 ぐったりと石畳に倒れ込んだ姿。置いていけるわけがない。

 女性でも四天王を名乗る以上、力では敵わない。もう不意打ちもできない、
 となると口先三寸か。

 あぁ、もうしょうがない。
 この俺、一世一代の大芝居だ。

「その人物を離せ、モーモ」

「はぁ? 何言ってんの。これはわたしがドスガ王から頂いたおもちゃ。どこの馬の骨とも分からん奴に言われてもお断りだね」

「そのドスガ王からの命令だ。このたび、俺は王の妾となった。その代わりにその者をオムカに返す約束を取り付けた」

「ふーん……王がねぇ」

 確認を取られたら終わる。
 だからここは押せ、だ。

「その者を今すぐ引き渡せ。それとも王の機嫌を損ねたいのか?」

「…………」

 女がじっとこちらを見つめて来る。
 嘘かどうかを判断しようとしているのだろう。
 だから俺は歯を食いしばって、その視線に耐える。この瞬間を逃しては、ニーアを助け出すことは不可能だから。

 そして――

「ま、いっか。これにも飽きてきたし。いいよ、連れてきな」

 ホッと安堵感が全身を満たす。
 体の力が抜けそうになるのを、そして顔に出るのを必死にこらえた。

「ご理解感謝する」

 女はニーアの手錠を鍵で外した。

 今すぐ駆け寄りたい想いを堪えて、一歩、また一歩と近づいていく。
 そしてようやくたどり着いた時、俺は顔をしかめた。

 予想以上にボロボロで、さらに悪臭がひどく、まったく動きがない。

 ニーア、生きてるのか。
 ボロボロの服に耳をあて、心音を確かめる。

「やだなぁ、殺してなんかないって。ま、もうすぐ死ぬかもだけど」

「すぐに連れていく。そこをどけ」

「はいはいっと」

 女が一歩横に動く。
 俺はニーアを背負うと、ふらつく足を叱咤して歩き出す。

 重いとか筋力がないとか言ってられない。
 ここで助けなければ、彼女は死んでしまう。その想いが足を動かす。

 牢を出て長く伸びる通路を経て階段に足をかけた時、奥から声が聞こえた。

「ジャンヌちゃんよぉ」

 モーモの声だ。
 どこかあざけるような、面白がるような声色でそいつは続ける。

「そいつはもうくれてやるわ。飽きたし。ただ、もしあんたが嘘ついて、わたしからおもちゃを奪ったっていうなら――」

 そしてその女は宣言した。

「そいつの代わりに、あんたで楽しませてもらうから」

 どの口が言うか。
 貴様だって、さんざんニーアをいたぶってくれたくせに。
 この礼は直々にさせてもらうからな。

 そう心に決め、俺はニーアを背負ったまま階段を上り始めた。
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