知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第58話 激情の謀略

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『オムカ王国の宰相がドスガ王によって殺害された。ドスガ王は無情にも一国の代表を呼び寄せ、意にそぐわないとして殺してみせたのだ。皆には考えて欲しい。先のトロン王室も、ドスガ王は私欲のために彼らを殺し、交易権を独占した。それによって起こったことはもう周知の通りだろう。このようなドスガ王の暴挙を許しておいて良いのだろうか? 良いわけはない。彼は今、オムカ王国の宰相を謀殺したことで、オムカへの領土欲をあらわにしたのだ。オムカ王国の女王との婚約を発表したのも、オムカ国王となる野心の現れではないか。そうなれば後は時間の問題だ。ワーンス王国も、トロン王国も、スーン王国も、フィルフ王国も、この野心高き男に飲み込まれるだろう。そうなれば悲惨である。ドスガ王の野心と欲望を満たすために、今度は北へと駆り出され、金も食料も、そして命さえも奪われることだろう。そのような王の行為を助けてよいのだろうか? 許してよいのだろうか? 今一度、皆には考えて欲しい。この先、どうやって生きるか。どう人間らしく生活をすべきか』

 激情のままに筆を走らせる。
 カルキュールの魂が乗り移ったかのようにひたすらに。少し古臭い言い方になったのもそのせいか。

 いや、諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいの『出師すいしの表』ばりの名文を書き上げてやろう、という無駄な思いもあったのかもしれない。

 死者を利用しているようで少し後ろめたいが、その本人がそうしろというのだから遠慮はいらない。

 思えばカルキュールのことはただの口うるさいおじさんという以外、何も知らない。
 年齢も家族も結婚歴も趣味も何も。
 知らないまま――いや、知ろうとしないまま死んでしまった。

 けど、彼の残した思いだけは知ることができた。

 あの後、彼の泊まっていた部屋をのぞいた。
 ほとんど荷物のない整然とした室内、そのテーブルの上に2通の手紙があった。

 1通はマリア宛て。
 勝手にしろと言っておきながらこれだ。やはりあの時の突き放した言葉は本心ではなかったのだろう。

 そしてもう1通は――と、宛名を見て驚いた。
 あの人物が手紙を託されるほどにカルキュールの信頼を得ていたのかと。
 だがある意味納得した。当然と思った。同時に帰ったら伝えなければならない人物が増えたと思い、気が重くなった。

 逆に俺への手紙はなかった。
 当然だ。あの時に話したのが全てだろう。

 だから気にすることはない。
 ただ、これでマリアを助けられなければ、あの世に行った時にカルキュールに何を言われるか。

 そう思うと、やってやると思えるのだから不思議だ。
 あんなにいがみ合っていたのに。目の敵にしていたのに。
 遠く離れることで知ることができたこと。

 本当に、俺はいつも気づくのが遅いんだ。
 マリアにニーア、ジル、そして里奈。
 離れてようやくその大切さを知る。

「部下は何人動かせる?」

 イッガーを部屋に呼んで聞いた。
 事件の次の日から、俺はミストとの関りを断った。下手に動いて感づかれたりすると、ミストに危険が及ぶ危険があるからだ。

 その代わり、イッガーが部屋を訪れる頻度が多くなった。
 彼ならば誰に気づかれることなく部屋に入ってこれるので、俺はここにいながら様々な手が打てる。

「ドスガの王都に5名、外に7名ってところです」

「分かった。それじゃあ外の7人にはそれぞれ南郡の都市に散ってもらう。この檄文げきぶんを写して街や王都にばらまいてくれ。それとこれはそれぞれジルとサカキとワーンス王に。今、サカキはワーンスにいるんだよな?」

「……はい、そうです。フィルフには近づけないので、ワーンスの王都に入りました」

「わかった。じゃあサカキとワーンス王は1つでいいな」

「えっと……分かりました。じゃあ、自分が行きます」

「いや、イッガーには別のところに行って欲しい」

「別……ですか?」

 イッガーは相変わらず乏しい表情で、何を考えているのか分からない。
 本当に同じ現代人なのかと思ってしまう。
 いや、仕事の出来に人柄は関係ないと思い直し、気を取り直してイッガーに告げる。

「ああ。お前には南東のスーン王国に行って欲しい。お前にしかできない、かつ危険な任務だがやってくれるか?」

 少し脅かすような言い方だが、本当に危険なのだ。
 そしてこれはおそらくイッガーにしかできない。

 だからある程度の覚悟はもって事に当たって欲しいのだが、

「はぁ……分かりました」

 そう答えられた時は、何も考えてないんじゃないかと疑った。

「いいのか? 本当に危険だぞ」

「はぁ。別に。行けと言われればどこにでも行きます」

 なんか拍子抜けした。
 まぁいいや。やるというのならやってもらおう。

「じゃあ、分かった。これをスーンの国王に直接渡してほしい。できるだけ極秘裏に」

「はぁ、分かりました」

 だから張り合いがないんだよなぁ。
 国王ってことは、一番警備が厳しいところだ。その相手に極秘裏に直接渡して欲しいとなれば、表から正々堂々行くわけにはいかない。

 そうなると必然、忍び込むしかないのだが、そうなると捕まった時に殺されても文句は言えないのだ。
 気配を消すスキルを持つイッガーでも五分くらいだと考えている。

「ちょっとだけ質問いいですか?」

 イッガーからの質問なんて初めてだったから一瞬、面くらったが、これで逆に質問がない方がおかしい。
 少し安堵して俺は内容を促した。

「えっと……その、やり方は、自分に任せてもらっていいですか?」

「あぁ、それはもちろんだ」

「……はぁ」

「…………」

「………………」

「………………」

「………………?」

「だからなんでそれで黙るの!?」

 もうなんだろう。この子(多分年上だろうけど)不安。

「あー、その……やり方を任されれば、なんとでも、します。要は国王をちょっと脅して、スーンをこっちに引き込めばいいんですよね」

「……っ!」

 そうだ、いつもはぼーっとしてるのに、時々鋭いところがあるんだよな。

「ああ。次はそっちの番だって、ちょっと驚かしてやりたい」

「分かりました。まぁ、あまり期待せず待っててください。自分も、ちょっと今回のこと、腹に据えかねてるんで」

 全くの無表情でそう言われてもなぁ……。緊迫感がない。

 とはいえ、ここはイッガーに頼むしかないのも確か。
 だからそう考えてくれるのは悪い事じゃない。

「分かった。よろしく頼む。それともう1つなんだけど」

「はぁ、なんでしょう」

「クロエをなんとかここに連れてこれないか? ワーンス王国とスーン王国と方向が正反対なのは確かなんだけど」

 手元で動かせる駒が欲しい。
 ニーアもまだ完全に回復してないし、ミストとは無関係を装っておきたい。

 だからこそのクロエの起用。
 しかし今や厳戒態勢に入っている王都に、簡単に入れるはずもない。だからこそイッガーたちに頼るしかないのだ。

「分かりました。なんとかやってみます」

「頼む」

 頼むだけ頼んでイッガーが出ていくと、思考を切り替えた。
 やることは多い。

 各国を味方につけるのは良いが、その後にドスガ軍に勝つ必要があるのだ。
 それが成功しなければ、マリアの救援など絵に描いた餅。そのための軍略は必須で、そこが一番苦慮すべきところだった。

 また、今はまだ怪しまれるべきではないから、ドスガ王からの呼び出しには応じなければならない。正直どのツラ下げて、という気分だが、それをぐっと堪えてドスガ王には接する。
 我ながらよくやる、と思う。

 というよりドスガ王はカルキュールの件については関知していないように思えた。
 不快な思い出だからか向こうから話してこようとはしないし、こちらも不用意に話題にしても困るので真意は分からないが。

 いや、それでも無視していること自体が罪だ。
 知りませんでした、では済まない立場にいるのだ。
 だからもう容赦はない。

 水鏡とも話はした。

「もう少し情勢を見るためここに残るわ。けどこれはシータ王国の公人としての任務だから。ま、まぁアッキーがどうしてもっていうなら? わたし個人として手伝ってあげなくはないけど? え、いや土下座とか……そんな……。分かったわよ。二言はないわ。へ? 水路? いや、まぁ多分できると思うけど」

 という感じで、押しに弱い水鏡には土下座戦法でなんとか協力は取り付けた。

 とはいえここまでやって戦局は五分五分。
 やはりどうしても『マリアジョーカー』の存在が戦局に響いている。

 ドスガ王にマリアとの面会を何度求めているが、さすがにそこまでは許してもらえない。
 無事、という報告しか受けていないのでなんともヤキモキするが、こればかりは仕方ない。

 あと一手。
 マリアに対する懸念が払しょくされれば、勝利への道標はできたも同然なのだが……。

 だが3日後。
 その一手を埋めるべく、あの人物が俺を訪問してきた。

 それはある意味俺が待ちわびたもので、ある意味あまり会いたくなかったもので、それでいて俺の軍略を加速させるためのもの。

「やぁこれはこれは。ジャンヌ・ダルク直々のお出迎えとは私も鼻が高い。いやいや、そんなに睨まないでください。私だってそれほど暇ではないので。ほら知ってますか? 南郡の各国が再び反旗を翻したこと。そう、ドスガ王国は今や孤軍。誰かさんが何かをしたのか分かりませんが、大変でして。おっと、怖い怖い。そう噛みつくような顔をしなくてもいいじゃないですか。可愛いお顔が台無しですよ? さてさて、先ほど言った通り私も暇ではありません。むしろ超忙しいのです。ですがこうやってここに来たのには理由があります。ええ、薄々察しているかと思いますが。はい。では本題に参りましょう。オムカ王国軍師ジャンヌ・ダルク殿に聞きます――国を売る話と国を滅ぼす話。どちらがお好みですか?」

 マツナガが、意地の悪い笑みを浮かべて俺の前に現れた。
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