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第2章 南郡平定戦
第63話 誤算と誤算と誤算
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鉦の音が鳴り響く。
大地を踏み鳴らす音と共に、味方の軍勢が動き出した。
オムカ軍5千。
前面に竹束を持った対鉄砲部隊。その後ろに弓兵。ブリーダの騎馬隊は機を見て突っ込むため、その後ろで待機している。
ゆっくりと距離を詰めるオムカ軍に対し、ドスガ軍の中央軍は動かない。
それもそのはず、中央軍は傭兵の鉄砲部隊だからだ。無理に動くことなく、敵が射程に入るのを待てばいい。だから動かない。
弓と鉄砲の射程はほぼ互角。
だからその射程に入ったところから戦闘が始まる。
続いて鉦の音が鳴る。
左右の軍が動き出すのだ。
「よし、行くぞ」
俺はウィット、そしてその後に続く部下たちに進軍の合図を出した。
共に南郡を視察したザイン、リュース、マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウの面々も見える。
まずは右翼の前衛にいるワーンス軍とトロン軍が動く。
その後についていくように、俺たち200も続く。
正直、この開戦までの時間がキツイ。胃がキリキリと痛み始めて破裂しそうになるのだ。
タキ隊長に気にするなと言われたけど、やっぱりすぐに性根は変えられないらしい。
ダダダダダッッ!!
一斉射が響き渡った。
「中央が始まった……」
なら今が突撃するチャンス。
敵の鉄砲隊がオムカを釘付けしているうちに敵左翼を潰す。
それを分かっているからか、前を進むワーンス軍とトロン軍が速度を上げた。タキ隊長だろう。ワーンスの軍から右方向に離脱していく軍勢が見える。少し後方に位置して、俺から見て左にいるフィルフ軍も同様だ。
だがそこでふと違和感を感じた。
「銃声の数、少なくないか?」
隣にいるウィットに聞く。
俺は前の戦場で直接聞いたわけじゃない。遠くから聞いただけだ。
だがその時の連続した発砲音とは、どこか違う気がする。なんというか、濃度が薄いというか……。
「どうでしょう。轟音は轟音なのであまり変わりが……いえ、少し少ない気もしないでも……」
「……まさか!」
気づいた。気付かされた。
中央軍の鉄砲の数が減っている。
敵を倒したからじゃない。
だとしたら、それが何の意味を持つのか。
「全軍停止だ! 伝令! 誰かワーンスとトロン、フィルフを停止させろ!」
叫んだ。
だが遅かった。
途端、轟音が目の前から聞こえた。
前方から悲鳴があがる。
進軍が止まった。
当然だ、鉄砲に対する備えなどしていないのだから、無防備そのもの。
迂闊も迂闊。
どうして相手がいつまでも同じことをすると思った。
中央軍の鉄砲をこちらに回していたのだろう。
そしてのこのこやってきた俺たちに、不意の鉄砲を見舞ったのだ。芸の細かいことに、兵が増えたことを不自然に思わせないよう中央に新兵を回して帳尻を合わせていた。
だから気づけなかった。いや、不思議にすら思わなかった。
布陣が同じだから、戦力も同じと考えたミスだ。
俺たちが位置を変えたように、相手も変えると何故考えなかったのか。ただでさえ、相手はあの最低の男だというのに。
「隊長、これは……」
迷う。
その間にも鉄砲が火を噴き味方に血を流させる。
いや、ここは迷っている場合じゃない。
「退却の鉦を鳴らせ! 伝令も出せ! 退くんだ!」
こうなるとタキ隊長に感謝だ。
俺が別動隊になっていたらこの判断はできなかった。あるいは遅れていた。そうなったら壊滅的な打撃を受けていたかもしれない。 今ならまだ、傷は浅い。
鉦が連打される。
それを聞いた兵たちは、我先にと逃げ出す。
なんとか軍としての態勢を整えているのはオムカくらいだった。他はてんでばらばらに逃げ出した。
俺たちにとって幸いなことは、敵の追撃がなかったことだ。
敵の前衛は鉄砲隊と新兵で混成されている。だから追撃と思っても、すぐには追撃に移れない。
だから逃げ出してから兵を減らすことはなかった。
だが、真の不幸はその後にやってきた。
「いったいどうなっているのだ! 何故我らが鉄砲を受けなければならない! この責任、どうとるつもりだ!」
スーン軍の将軍が、顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
「落ち着かれよ、スーンの」
トロンの将軍は即席の椅子に座り腕を組んでいる。
だがそれは怒りを押し殺しているだけで、スーンの将軍と同じように俺に対して問責の視線を投げかけて来る。
「これが落ち着いていられるか! こうなったら我が軍は勝手にさせてもらうぞ!」
「だがそれでは勝てまい。ドスガ軍の兵力には全く敵わないのだからな」
「しかしこのザマではないか! やはりこの小娘に任せるなど無理だったのだ!」
以前の俺ならカッとなっていただろうが、マリアたちのことを思って何とか自重できた。
「見極めが甘かったことは謝罪いたします。ですがどうか、もう一度。もう一度だけやらせていただけないでしょうか」
「そう何度もチャンスがあると思うな! 次は全滅するかもしれんのだぞ!」
反論の言葉もない。
もう一度とはいえ、それで勝てなければおそらく二度とドスガ軍には勝てないだろう。
その責任の重さがずしりと心にのしかかってくる。
「遅いですね」
空気を断つように、フィルフの将軍が漏らす。
「ふん、今さら気づいてどうする。この小娘には戦場など分かっていないのだ!」
「いえ、違います。ワーンスの将軍です」
陣幕の空気が一瞬止まった。
確かにタキ隊長がまだ戻ってきていない。
別動隊にいたから戻りが遅くなっているのだろうか。いや、それにしてはもう陽も落ちた。
道に迷ったか、あるいは――
「失礼いたします。ワーンス軍の司令官代理のものです!」
「入ってください」
ジルが応える。
だが待て。
今、なんて言った?
入ってきたのは20代後半の男。
軍服はボロボロで、いたるところから血がにじみ出ている。いや、返り血か。
「ワーンス軍司令官代理のアズと申します」
「どうしましたか。その、司令官殿は?」
ジルの問いに、男は一瞬顔を下げる。
その表情はなんだ。
怒り、悲しみ、憤り。
そのどれでもあり、どれでもないような表情。
そして、その事実を告げた。
「ワーンス軍司令官は……戦死なされました」
「…………え?」
戦死?
死んだ?
タキ隊長が?
さっきまで、喋っていたのに?
「我らが迂回しようとしたところ、近くの丘の上から鉄砲で狙撃され……タキ隊長は真っ先に……頭部を撃ち抜かれて即死なされました」
狙撃。
読まれていたのは右翼の突撃だけじゃなかった。
さらにそこから別動隊を出すことまで見抜かれていた。
この丘陵地帯だ。
兵が潜むのに格好の場所だろう。
つまり、それを見抜けなかった俺のミスだ……。
「その後、鉄砲隊が200ほど撃ちかけてきましたので、我々は突撃。味方に多大な被害を出しましたが、200を殲滅して帰投しました」
「そう、ですか……残念です」
ジルが深く頭を垂れる。
サカキ、ブリーダ、ウィットがそれに続く。
トロン、スーン、フィルフの将軍もそれに倣った。
俺は、動かなかった。
動けなかった。
まだタキ隊長の死を受け入れられない。
これが夢だと思いたかった。
なぜこんなに衝撃的なのだろう。彼と会ったのはほんの数回だけだ。
それなのに、ここまで悲しく思うのは何故だろう。
いや、違う。
俺のミスで彼は死んだのだ。
あるいは俺と役割を交代しなければ、彼は死ななかったはずだ。
だからこんなに胸が苦しい。
自分のせいなだけじゃない。
自分の身代わりになるような死に、さすがの俺も声が出ない。
「ジャンヌ・ダルク殿」
司令官代理アズの声、そしてこちらを向く気配。
その顔を俺は直視できなかった。
きっと恨みと敵意と悲憤に満ちた顔をしているに違いない。
俺の作戦がまずかったと攻めるに違いない。
だが――
「我がワーンスの軍、すべてを貴女にお預けします」
「え――」
アズの予想もしない言葉に、俺は思わず顔をあげた。
彼の顔を見る。
焼けて勇ましい顔に、瞳が熱を持つ。
そこには責めるような色はない。逆にすがりつくような、哀願するような、託すような想いがひしひしと伝わってくる。
「司令官は言っておりました。オムカの軍師殿はできたお方だと。彼女であれば、南郡を幸せに導いてくれるだろうと。だから私は、我々は決めたのです。司令官亡き後は、貴女に軍をお預けしたいと」
「えっと……いや、それは……ダメ、だろ。だって、違う国だぞ。ワーンス王は? 勝手なことをしたら……困るだろ」
「王様からは、オムカを助けよ以外のことは聞いていないと司令官は言っておりました。ですから問題ございません」
タキ隊長は、もしかしたらこのことを予見していたのか?
そう思えるほどの手際の良さだ。さもでもなければ別動隊を代わろうなんて言い出さなかっただろうし。
とんでもない借りを作ってしまった。
そしてそれはもう返せないのだ。
やれることとしたら、彼らを無事に故国に帰し、ドスガを下してワーンス王国を安寧に導く事くらいか。
いや、やろう。
それを、やろう。
そうしなければ、俺は人でなしになってしまう。
そう思った。
だから――
「ご助力感謝します。是非、共に戦っていただきたい」
深く、頭を下げた。
それは彼に対してというより、今は亡きタキ隊長への謝罪とも言えた。
「名に聞く軍師様の采配、楽しみにしております。此度は少し手間取りましたが、次はもちろん挽回していただけると信じております」
胸がぎゅっと締め付けられる気分だ。
タキ隊長に言われた言葉。
『失敗したら失敗したでそれを挽回する作戦を考えるだけ。だから決まった後はもう、開き直って良いのではないでしょうか。考えるだけ考えたのだから、もう知るか! という感じで』
あぁ、そうだな。
失敗したら、それを挽回しよう。
やるだけやったのだから、後悔はしないで。
前だけ、見て進め。
そう涙をこらえて思った。
大地を踏み鳴らす音と共に、味方の軍勢が動き出した。
オムカ軍5千。
前面に竹束を持った対鉄砲部隊。その後ろに弓兵。ブリーダの騎馬隊は機を見て突っ込むため、その後ろで待機している。
ゆっくりと距離を詰めるオムカ軍に対し、ドスガ軍の中央軍は動かない。
それもそのはず、中央軍は傭兵の鉄砲部隊だからだ。無理に動くことなく、敵が射程に入るのを待てばいい。だから動かない。
弓と鉄砲の射程はほぼ互角。
だからその射程に入ったところから戦闘が始まる。
続いて鉦の音が鳴る。
左右の軍が動き出すのだ。
「よし、行くぞ」
俺はウィット、そしてその後に続く部下たちに進軍の合図を出した。
共に南郡を視察したザイン、リュース、マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウの面々も見える。
まずは右翼の前衛にいるワーンス軍とトロン軍が動く。
その後についていくように、俺たち200も続く。
正直、この開戦までの時間がキツイ。胃がキリキリと痛み始めて破裂しそうになるのだ。
タキ隊長に気にするなと言われたけど、やっぱりすぐに性根は変えられないらしい。
ダダダダダッッ!!
一斉射が響き渡った。
「中央が始まった……」
なら今が突撃するチャンス。
敵の鉄砲隊がオムカを釘付けしているうちに敵左翼を潰す。
それを分かっているからか、前を進むワーンス軍とトロン軍が速度を上げた。タキ隊長だろう。ワーンスの軍から右方向に離脱していく軍勢が見える。少し後方に位置して、俺から見て左にいるフィルフ軍も同様だ。
だがそこでふと違和感を感じた。
「銃声の数、少なくないか?」
隣にいるウィットに聞く。
俺は前の戦場で直接聞いたわけじゃない。遠くから聞いただけだ。
だがその時の連続した発砲音とは、どこか違う気がする。なんというか、濃度が薄いというか……。
「どうでしょう。轟音は轟音なのであまり変わりが……いえ、少し少ない気もしないでも……」
「……まさか!」
気づいた。気付かされた。
中央軍の鉄砲の数が減っている。
敵を倒したからじゃない。
だとしたら、それが何の意味を持つのか。
「全軍停止だ! 伝令! 誰かワーンスとトロン、フィルフを停止させろ!」
叫んだ。
だが遅かった。
途端、轟音が目の前から聞こえた。
前方から悲鳴があがる。
進軍が止まった。
当然だ、鉄砲に対する備えなどしていないのだから、無防備そのもの。
迂闊も迂闊。
どうして相手がいつまでも同じことをすると思った。
中央軍の鉄砲をこちらに回していたのだろう。
そしてのこのこやってきた俺たちに、不意の鉄砲を見舞ったのだ。芸の細かいことに、兵が増えたことを不自然に思わせないよう中央に新兵を回して帳尻を合わせていた。
だから気づけなかった。いや、不思議にすら思わなかった。
布陣が同じだから、戦力も同じと考えたミスだ。
俺たちが位置を変えたように、相手も変えると何故考えなかったのか。ただでさえ、相手はあの最低の男だというのに。
「隊長、これは……」
迷う。
その間にも鉄砲が火を噴き味方に血を流させる。
いや、ここは迷っている場合じゃない。
「退却の鉦を鳴らせ! 伝令も出せ! 退くんだ!」
こうなるとタキ隊長に感謝だ。
俺が別動隊になっていたらこの判断はできなかった。あるいは遅れていた。そうなったら壊滅的な打撃を受けていたかもしれない。 今ならまだ、傷は浅い。
鉦が連打される。
それを聞いた兵たちは、我先にと逃げ出す。
なんとか軍としての態勢を整えているのはオムカくらいだった。他はてんでばらばらに逃げ出した。
俺たちにとって幸いなことは、敵の追撃がなかったことだ。
敵の前衛は鉄砲隊と新兵で混成されている。だから追撃と思っても、すぐには追撃に移れない。
だから逃げ出してから兵を減らすことはなかった。
だが、真の不幸はその後にやってきた。
「いったいどうなっているのだ! 何故我らが鉄砲を受けなければならない! この責任、どうとるつもりだ!」
スーン軍の将軍が、顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
「落ち着かれよ、スーンの」
トロンの将軍は即席の椅子に座り腕を組んでいる。
だがそれは怒りを押し殺しているだけで、スーンの将軍と同じように俺に対して問責の視線を投げかけて来る。
「これが落ち着いていられるか! こうなったら我が軍は勝手にさせてもらうぞ!」
「だがそれでは勝てまい。ドスガ軍の兵力には全く敵わないのだからな」
「しかしこのザマではないか! やはりこの小娘に任せるなど無理だったのだ!」
以前の俺ならカッとなっていただろうが、マリアたちのことを思って何とか自重できた。
「見極めが甘かったことは謝罪いたします。ですがどうか、もう一度。もう一度だけやらせていただけないでしょうか」
「そう何度もチャンスがあると思うな! 次は全滅するかもしれんのだぞ!」
反論の言葉もない。
もう一度とはいえ、それで勝てなければおそらく二度とドスガ軍には勝てないだろう。
その責任の重さがずしりと心にのしかかってくる。
「遅いですね」
空気を断つように、フィルフの将軍が漏らす。
「ふん、今さら気づいてどうする。この小娘には戦場など分かっていないのだ!」
「いえ、違います。ワーンスの将軍です」
陣幕の空気が一瞬止まった。
確かにタキ隊長がまだ戻ってきていない。
別動隊にいたから戻りが遅くなっているのだろうか。いや、それにしてはもう陽も落ちた。
道に迷ったか、あるいは――
「失礼いたします。ワーンス軍の司令官代理のものです!」
「入ってください」
ジルが応える。
だが待て。
今、なんて言った?
入ってきたのは20代後半の男。
軍服はボロボロで、いたるところから血がにじみ出ている。いや、返り血か。
「ワーンス軍司令官代理のアズと申します」
「どうしましたか。その、司令官殿は?」
ジルの問いに、男は一瞬顔を下げる。
その表情はなんだ。
怒り、悲しみ、憤り。
そのどれでもあり、どれでもないような表情。
そして、その事実を告げた。
「ワーンス軍司令官は……戦死なされました」
「…………え?」
戦死?
死んだ?
タキ隊長が?
さっきまで、喋っていたのに?
「我らが迂回しようとしたところ、近くの丘の上から鉄砲で狙撃され……タキ隊長は真っ先に……頭部を撃ち抜かれて即死なされました」
狙撃。
読まれていたのは右翼の突撃だけじゃなかった。
さらにそこから別動隊を出すことまで見抜かれていた。
この丘陵地帯だ。
兵が潜むのに格好の場所だろう。
つまり、それを見抜けなかった俺のミスだ……。
「その後、鉄砲隊が200ほど撃ちかけてきましたので、我々は突撃。味方に多大な被害を出しましたが、200を殲滅して帰投しました」
「そう、ですか……残念です」
ジルが深く頭を垂れる。
サカキ、ブリーダ、ウィットがそれに続く。
トロン、スーン、フィルフの将軍もそれに倣った。
俺は、動かなかった。
動けなかった。
まだタキ隊長の死を受け入れられない。
これが夢だと思いたかった。
なぜこんなに衝撃的なのだろう。彼と会ったのはほんの数回だけだ。
それなのに、ここまで悲しく思うのは何故だろう。
いや、違う。
俺のミスで彼は死んだのだ。
あるいは俺と役割を交代しなければ、彼は死ななかったはずだ。
だからこんなに胸が苦しい。
自分のせいなだけじゃない。
自分の身代わりになるような死に、さすがの俺も声が出ない。
「ジャンヌ・ダルク殿」
司令官代理アズの声、そしてこちらを向く気配。
その顔を俺は直視できなかった。
きっと恨みと敵意と悲憤に満ちた顔をしているに違いない。
俺の作戦がまずかったと攻めるに違いない。
だが――
「我がワーンスの軍、すべてを貴女にお預けします」
「え――」
アズの予想もしない言葉に、俺は思わず顔をあげた。
彼の顔を見る。
焼けて勇ましい顔に、瞳が熱を持つ。
そこには責めるような色はない。逆にすがりつくような、哀願するような、託すような想いがひしひしと伝わってくる。
「司令官は言っておりました。オムカの軍師殿はできたお方だと。彼女であれば、南郡を幸せに導いてくれるだろうと。だから私は、我々は決めたのです。司令官亡き後は、貴女に軍をお預けしたいと」
「えっと……いや、それは……ダメ、だろ。だって、違う国だぞ。ワーンス王は? 勝手なことをしたら……困るだろ」
「王様からは、オムカを助けよ以外のことは聞いていないと司令官は言っておりました。ですから問題ございません」
タキ隊長は、もしかしたらこのことを予見していたのか?
そう思えるほどの手際の良さだ。さもでもなければ別動隊を代わろうなんて言い出さなかっただろうし。
とんでもない借りを作ってしまった。
そしてそれはもう返せないのだ。
やれることとしたら、彼らを無事に故国に帰し、ドスガを下してワーンス王国を安寧に導く事くらいか。
いや、やろう。
それを、やろう。
そうしなければ、俺は人でなしになってしまう。
そう思った。
だから――
「ご助力感謝します。是非、共に戦っていただきたい」
深く、頭を下げた。
それは彼に対してというより、今は亡きタキ隊長への謝罪とも言えた。
「名に聞く軍師様の采配、楽しみにしております。此度は少し手間取りましたが、次はもちろん挽回していただけると信じております」
胸がぎゅっと締め付けられる気分だ。
タキ隊長に言われた言葉。
『失敗したら失敗したでそれを挽回する作戦を考えるだけ。だから決まった後はもう、開き直って良いのではないでしょうか。考えるだけ考えたのだから、もう知るか! という感じで』
あぁ、そうだな。
失敗したら、それを挽回しよう。
やるだけやったのだから、後悔はしないで。
前だけ、見て進め。
そう涙をこらえて思った。
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