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第2章 南郡平定戦
第65話 気がかりは全て話し合って
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落ち着きを取り戻したメルにカルキュールの手紙を渡している頃に、ようやく補給部隊が到着した。
メルに案内されて物資を確認する。
上蓋のない箱に車輪をつけただけのワゴン型輸送車が、全部で25台。
剣や槍といった武器が500。俵に入っているのは麦らしく、全部で40俵。
あとは干肉や乾燥させたパンのような保存食で、5千の兵が3日は食いしのげるくらいの物量だった。
正直、焼け石に水程度の補給物資だったが、俺はそんなものよりもあるものに圧倒的に目を引かれた。
「これは……」
火薬だ。
爆雷と名付けた陶器に火薬を詰め込んだ爆弾が輸送車2台に積まれていた。オムカにはまだ輸入経路はないから、シータ王国からの贈り物の中にあったものだろう。
ハワードも粋なことをするとは思うけど、これだけの物量の火薬を輸送するなんて怖いもの知らずだなぁ……。
とはいえ文句は言わない。
いや、むしろ大歓喜してキスしたいくらいだ。しないけど。
これで勝てる。
勝利への道しるべが見えた。
というわけで補給物資の差配を担当の者に指示して、俺は再び主要メンバーを呼んで軍議を開いた。
「今日、敵から夜襲がある」
開口一番に放ったその言葉で、ざわめきが起こった。
「そう思われる理由はなんなのだ?」
一番俺に協力的ではないスーン軍の将軍が懐疑的に聞いてくる。
だから俺はその理由を語った。
もちろん『古の魔導書』のことなんて言っても伝わらないから、そこらへんはドスガ王国にいて耳にした話として伝えた。
俺が語り終えると、皆が黙って考え込んでしまった。
ありうる話ではあるのだ。
だが決定的な根拠はない。
だから迷う。
その中で声を出したのは、意外にもトロン軍の将軍だった。
「仮に夜襲があったとして、貴殿はいかがなさるおつもりですか?」
作戦の内容について、とりあえずさわりだけ示した。
そのうえで将軍は頷く。
「試しにやってみても良いでしょう。空振りしたとしても、我々に損はない」
「助かります」
「ただし! これで何事もなければ、明日、わが軍は陣を払わせていただく!」
「なっ!?」
声をあげたのはオムカの面々。
やはり、と思ったから俺は声をあげなかった。
「稚拙な用兵、根拠のない夜襲。振り回される身にもなっていただきたい。これ以上は到底付き合いきれませぬ。確かに我らはドスガが憎い。王族を皆殺しにした奴らを許すわけにはいかない。しかし、国民の安全を考えればこれ以上無駄な争いを続けることが正しいのか。そう考える時期にさしかかっているのです」
「うむ! 貴殿の言う通りだ! スーン王国も同じ意見だ!」
スーン軍の将軍が追従するようにトロン軍の将軍に賛成する。
やはりこの2国か。
想定通りの応対だから俺は聞く。
「つまり過去の遺恨を捨ててドスガにおもねる方が安全だと」
「そう捉えていただいても構いませんな」
ここまではっきり言われると気持ちい。
はっ、ならその言葉尻を利用させてもらう。
「それは逆に言えば、この夜襲までは協力するということですね。そして逆に今日、夜襲があってそれを撃退出来れば、明日は我らに味方する。そういうことですね?」
「ば、馬鹿な。そんな屁理屈があって――」
「当然だ。その時は明日。我が軍は全軍火の玉となってドスガ王目掛けて突っ込むことを約束しよう」
「な、なんだと……!?」
背筋を伸ばし、俺から目をそらさずに言い放ったトロンの将軍。
対してうろたえて目をきょろきょろとさせるスーンの将軍。
なるほど。そういうことか。
俺とドスガ、しっかりと両天秤にかけられたらしい。食えない男だ。そうでもなければ、この乱世では生き残れないのだろう。
「いいでしょう。では今日の作戦詳細を伝えます」
それから夜襲に対する備えについて、途中でサンドイッチの差し入れをはさんで、2時間ほど軍議が続いた。
ようやくすべてが決まった時には陽は暮れ、兵たち思い思いに休憩していた。
見張りはしっかりしているから、武器を手放さなければそれは怠慢ではない。
方々でたき火があがっている。
少し離れたところに、輸送部隊がたむろすエリアがあった。
明日、一度ワーンス王国まで戻るそうだ。
そのさらに少し離れたところにメルはいた。
彼女は個人用に小さな火を起こして座り込んでいる。
さっきは荷物の運び込みとかでうやむやになってしまったが、手紙を渡しただけで話す機会がなかった。
だから心配だった。
ちょうど良いタイミングだったので、俺は彼女の後ろから近づき――
「――――ぐすっ」
足を止めた。
メルはただ座り込んでいるだけではなかった。
火の灯りを利用して、手紙を読んでいたのだ。
手紙の厚みはそれほどなかったから、そう長い内容ではないはずだ。
けれどまだ読んでいるということは、あれから何度も読み返したのだろう。
涙がこぼれてもいいように、こうして少し他人から距離を置いて。
きっと今、彼女は故人と語り合っているのだろう。
それは彼女だけの神聖な領域。
俺みたいなよそ者が入り込んでよい場所ではない。
だから止まった足を今度は後ろに向けて動かしたとき、背中が何かにぶつかった。
「あ――」
振り返る。
そこにはジルがいた。
「ジャンヌ様。いかがされました?」
「いや、メルが心配だったけど……カルキュールのやつはちゃんと後始末はしてたみたいだって安心してたところ」
「なるほど……惜しい人を亡くしました」
「…………ぷっ」
あまりにテンプレの言葉をジルが言ってきたので、思わず吹き出してしまった。
「えっと、何か?」
「いや、別に。ただ、ジルだなぁって」
「すみません、分かりかねます……」
「いや、いいんだ」
ふと我に返る。
こうして普通に話せているのが、少し意外だと。他人の心配をしていたことで、少し気持ちに隙間ができたのだろう。
いや、本来はこれでいいんだ。
変に意識する相手じゃない。俺、男だし。
そうだ、これでいいんだ。
だから再びジルに視線を戻して――
「――――」
何も言えなかった。
こちらを気遣うような、何かを問いかけるような瞳が、俺の心にある隙間を埋めていくようで。
何もかもぶちまけたとしても、ただ柔らかく頷いて受け止めてくれる気がして。
そんな彼の顔を見ると、もう何も言えない。
あぁ、俺はどうしてしまったのだろう。
こんなことなら、再会しなかった方が……いや、そんなわけない。
ジルと再会できたことは喜ぶべきだ。
というか、戦争なのだ。
カルキュールやタキ隊長のように、二度と会えない可能性だってあった。
そして明日、いや、今夜。
俺かジル、どちらかが死ぬ可能性だってあるんだ。
話さなければ、分かりえないことがある。
それはあのおっさんが俺に教えてくれたこと。
だから――
「あのな、ジル……少し話があるんだが」
意を決して言葉にする。
そして、後悔した。
まだ決意が足りていない気がしたから。
けど今は前へ進む。
そこまで自分を追い込まないと始まらなかった。
「はい、なんでしょう」
「その、ここじゃ少しあれだから……歩かないか」
「分かりました。準備はほぼ整っているので問題ないでしょう」
そして連れ添って歩く。
陣の中、だけれど人気のいない方へ。
「えっとだな……」
さって、いざ口にすると恥ずかしいぞ。
てか告白への断り方なんて分からない。
したこともされたこともないのだから。
里奈とはまだそんな仲ではなかった。
これがドスガ王のように、一蹴できる相手ならいい。
けどジルとはこの後も顔を合わせるだろうし、友人として良い関係は続けていきたいと思う。
あぁ、だから世の中の男女は、こうも告白に対し一喜一憂するのか。いやいや、まだまだ学ぶことが多いなぁ。
なんて現実逃避したところで、事態は変わらない。
とはいえここで答えなければ、次のチャンスはないかもしれない根源的な恐怖も襲ってくる。
呼吸にして3つ。
足を止めた。
そしてジルを見据える。
もう迷わない。
そして言った。
「その……お前の、その気持ち……ってのか、それはとても、嬉しいというか。もったいないというか……。だけど、それに応えるのは、無理だ。だって、俺は…………男…………だし。それにまだ早いというか出会って半年だし、だからごめん!」
もう軍師っていう名前は返上した方がいいほどの滅茶苦茶な言葉。
最後の方はよくわからず早口になってしまった。
それでも言えた。
きっちりとお断りの返事を。頭を下げて。
「……………………」
沈黙。
それも当然か。
いきなりこの返事を聞かされたのだから、相手も困って――
「えっと、申し訳ありません。何のお話でしょうか?」
「…………え?」
今なんて言った?
何のお話?
……まさか。まさかまさかまさかまさか!
マジか!
この男!
もしかして自分で言ったことに気づいてない?
とぼけているわけでもなさそうだ。本気で分かっていない。
そういえばハワードの爺さんがジルをこう評していた。
堅物、だと。
ありえなくはない。
ってことはあれか。
ジルに告白したつもりはなく、完全に俺の独り相撲ということで、完全に空回ってたということで。
うわっ、恥ずかし!
どんだけ自意識過剰なんだよ!
ちょっとちやほやされて勘違いしちゃった!?
てか男相手だぜ!?
しかも今の外見じゃ10歳以上離れてるってのに!
はい、黒歴史決定。
こんなの誰にも言えない。
全身全霊で墓場まで持っていく話だ。
いや、ないわー。
俺ないわー。
てか帰りたい。
今すぐ家に帰ってベッドに潜り込みたい。
あ、というかこれってあれか?
もしかしてあのクソ女神に筒抜け案件?
うわ、絶対ニヤニヤ顔でこのこと根掘り葉掘り聞いてくるわ。
……夢の中だから、立件もされないし罪にも問われないよな。完全犯罪万歳。
「あの……ジャンヌ様? いかがしましたでしょうか?」
「いや、いい。なんでもない。ただ自分の心にケリをつけた。それだけだから。全然まったくメイビーたくさんこれっぽっちも毛ほどの量も全体的に包括的に総合的に問題ない」
もう自分自身がわけがわからなかった。
俺って本当に知力100?
「はぁ。しかしジャンヌ様。無理をしているのではありませんか? 私で力になれることであればいつでもお話しください。話せばすっきりすることも多々あるものですから。私はただ貴女の力になりたい。それだけなのです」
うわぁ、こいつあれか。天然のジゴロか。
よくもまぁそんな台詞が吐けるものだ。というかもしかしたらあの時の告白も、この延長線上だったのかもしれない。
「このド天然!」
「……? いえ、天然パーマではありませんが」
そういう返しが天然だってんだよ!
呆れるような思いの中、ふいに湧いてきた感情。
いや衝動。
「…………っぷ、あははははは!」
なんだか愉快だった。
自分の空回りっぷりが。
ジルの朴訥とした天然真面目っぷりが。
おかしいくらいに笑える。
あぁ、やっぱりちゃんと話さないと分からないものだな。
もうこの件については深く考えることはしないようにしよう。
そうなるとあとは1人。
俺がきちんと話さないといけない人物。
そのためには、明日勝たなければそんな未来は訪れない。
「ジル、勝とうな。明日、いや、この夜襲。生きて、勝って、皆でオムカに帰るんだ」
「ええ、もちろんです。貴女は私が必ず守ります」
ジルの力強い即答。
それがなんとも心強いと思った。
メルに案内されて物資を確認する。
上蓋のない箱に車輪をつけただけのワゴン型輸送車が、全部で25台。
剣や槍といった武器が500。俵に入っているのは麦らしく、全部で40俵。
あとは干肉や乾燥させたパンのような保存食で、5千の兵が3日は食いしのげるくらいの物量だった。
正直、焼け石に水程度の補給物資だったが、俺はそんなものよりもあるものに圧倒的に目を引かれた。
「これは……」
火薬だ。
爆雷と名付けた陶器に火薬を詰め込んだ爆弾が輸送車2台に積まれていた。オムカにはまだ輸入経路はないから、シータ王国からの贈り物の中にあったものだろう。
ハワードも粋なことをするとは思うけど、これだけの物量の火薬を輸送するなんて怖いもの知らずだなぁ……。
とはいえ文句は言わない。
いや、むしろ大歓喜してキスしたいくらいだ。しないけど。
これで勝てる。
勝利への道しるべが見えた。
というわけで補給物資の差配を担当の者に指示して、俺は再び主要メンバーを呼んで軍議を開いた。
「今日、敵から夜襲がある」
開口一番に放ったその言葉で、ざわめきが起こった。
「そう思われる理由はなんなのだ?」
一番俺に協力的ではないスーン軍の将軍が懐疑的に聞いてくる。
だから俺はその理由を語った。
もちろん『古の魔導書』のことなんて言っても伝わらないから、そこらへんはドスガ王国にいて耳にした話として伝えた。
俺が語り終えると、皆が黙って考え込んでしまった。
ありうる話ではあるのだ。
だが決定的な根拠はない。
だから迷う。
その中で声を出したのは、意外にもトロン軍の将軍だった。
「仮に夜襲があったとして、貴殿はいかがなさるおつもりですか?」
作戦の内容について、とりあえずさわりだけ示した。
そのうえで将軍は頷く。
「試しにやってみても良いでしょう。空振りしたとしても、我々に損はない」
「助かります」
「ただし! これで何事もなければ、明日、わが軍は陣を払わせていただく!」
「なっ!?」
声をあげたのはオムカの面々。
やはり、と思ったから俺は声をあげなかった。
「稚拙な用兵、根拠のない夜襲。振り回される身にもなっていただきたい。これ以上は到底付き合いきれませぬ。確かに我らはドスガが憎い。王族を皆殺しにした奴らを許すわけにはいかない。しかし、国民の安全を考えればこれ以上無駄な争いを続けることが正しいのか。そう考える時期にさしかかっているのです」
「うむ! 貴殿の言う通りだ! スーン王国も同じ意見だ!」
スーン軍の将軍が追従するようにトロン軍の将軍に賛成する。
やはりこの2国か。
想定通りの応対だから俺は聞く。
「つまり過去の遺恨を捨ててドスガにおもねる方が安全だと」
「そう捉えていただいても構いませんな」
ここまではっきり言われると気持ちい。
はっ、ならその言葉尻を利用させてもらう。
「それは逆に言えば、この夜襲までは協力するということですね。そして逆に今日、夜襲があってそれを撃退出来れば、明日は我らに味方する。そういうことですね?」
「ば、馬鹿な。そんな屁理屈があって――」
「当然だ。その時は明日。我が軍は全軍火の玉となってドスガ王目掛けて突っ込むことを約束しよう」
「な、なんだと……!?」
背筋を伸ばし、俺から目をそらさずに言い放ったトロンの将軍。
対してうろたえて目をきょろきょろとさせるスーンの将軍。
なるほど。そういうことか。
俺とドスガ、しっかりと両天秤にかけられたらしい。食えない男だ。そうでもなければ、この乱世では生き残れないのだろう。
「いいでしょう。では今日の作戦詳細を伝えます」
それから夜襲に対する備えについて、途中でサンドイッチの差し入れをはさんで、2時間ほど軍議が続いた。
ようやくすべてが決まった時には陽は暮れ、兵たち思い思いに休憩していた。
見張りはしっかりしているから、武器を手放さなければそれは怠慢ではない。
方々でたき火があがっている。
少し離れたところに、輸送部隊がたむろすエリアがあった。
明日、一度ワーンス王国まで戻るそうだ。
そのさらに少し離れたところにメルはいた。
彼女は個人用に小さな火を起こして座り込んでいる。
さっきは荷物の運び込みとかでうやむやになってしまったが、手紙を渡しただけで話す機会がなかった。
だから心配だった。
ちょうど良いタイミングだったので、俺は彼女の後ろから近づき――
「――――ぐすっ」
足を止めた。
メルはただ座り込んでいるだけではなかった。
火の灯りを利用して、手紙を読んでいたのだ。
手紙の厚みはそれほどなかったから、そう長い内容ではないはずだ。
けれどまだ読んでいるということは、あれから何度も読み返したのだろう。
涙がこぼれてもいいように、こうして少し他人から距離を置いて。
きっと今、彼女は故人と語り合っているのだろう。
それは彼女だけの神聖な領域。
俺みたいなよそ者が入り込んでよい場所ではない。
だから止まった足を今度は後ろに向けて動かしたとき、背中が何かにぶつかった。
「あ――」
振り返る。
そこにはジルがいた。
「ジャンヌ様。いかがされました?」
「いや、メルが心配だったけど……カルキュールのやつはちゃんと後始末はしてたみたいだって安心してたところ」
「なるほど……惜しい人を亡くしました」
「…………ぷっ」
あまりにテンプレの言葉をジルが言ってきたので、思わず吹き出してしまった。
「えっと、何か?」
「いや、別に。ただ、ジルだなぁって」
「すみません、分かりかねます……」
「いや、いいんだ」
ふと我に返る。
こうして普通に話せているのが、少し意外だと。他人の心配をしていたことで、少し気持ちに隙間ができたのだろう。
いや、本来はこれでいいんだ。
変に意識する相手じゃない。俺、男だし。
そうだ、これでいいんだ。
だから再びジルに視線を戻して――
「――――」
何も言えなかった。
こちらを気遣うような、何かを問いかけるような瞳が、俺の心にある隙間を埋めていくようで。
何もかもぶちまけたとしても、ただ柔らかく頷いて受け止めてくれる気がして。
そんな彼の顔を見ると、もう何も言えない。
あぁ、俺はどうしてしまったのだろう。
こんなことなら、再会しなかった方が……いや、そんなわけない。
ジルと再会できたことは喜ぶべきだ。
というか、戦争なのだ。
カルキュールやタキ隊長のように、二度と会えない可能性だってあった。
そして明日、いや、今夜。
俺かジル、どちらかが死ぬ可能性だってあるんだ。
話さなければ、分かりえないことがある。
それはあのおっさんが俺に教えてくれたこと。
だから――
「あのな、ジル……少し話があるんだが」
意を決して言葉にする。
そして、後悔した。
まだ決意が足りていない気がしたから。
けど今は前へ進む。
そこまで自分を追い込まないと始まらなかった。
「はい、なんでしょう」
「その、ここじゃ少しあれだから……歩かないか」
「分かりました。準備はほぼ整っているので問題ないでしょう」
そして連れ添って歩く。
陣の中、だけれど人気のいない方へ。
「えっとだな……」
さって、いざ口にすると恥ずかしいぞ。
てか告白への断り方なんて分からない。
したこともされたこともないのだから。
里奈とはまだそんな仲ではなかった。
これがドスガ王のように、一蹴できる相手ならいい。
けどジルとはこの後も顔を合わせるだろうし、友人として良い関係は続けていきたいと思う。
あぁ、だから世の中の男女は、こうも告白に対し一喜一憂するのか。いやいや、まだまだ学ぶことが多いなぁ。
なんて現実逃避したところで、事態は変わらない。
とはいえここで答えなければ、次のチャンスはないかもしれない根源的な恐怖も襲ってくる。
呼吸にして3つ。
足を止めた。
そしてジルを見据える。
もう迷わない。
そして言った。
「その……お前の、その気持ち……ってのか、それはとても、嬉しいというか。もったいないというか……。だけど、それに応えるのは、無理だ。だって、俺は…………男…………だし。それにまだ早いというか出会って半年だし、だからごめん!」
もう軍師っていう名前は返上した方がいいほどの滅茶苦茶な言葉。
最後の方はよくわからず早口になってしまった。
それでも言えた。
きっちりとお断りの返事を。頭を下げて。
「……………………」
沈黙。
それも当然か。
いきなりこの返事を聞かされたのだから、相手も困って――
「えっと、申し訳ありません。何のお話でしょうか?」
「…………え?」
今なんて言った?
何のお話?
……まさか。まさかまさかまさかまさか!
マジか!
この男!
もしかして自分で言ったことに気づいてない?
とぼけているわけでもなさそうだ。本気で分かっていない。
そういえばハワードの爺さんがジルをこう評していた。
堅物、だと。
ありえなくはない。
ってことはあれか。
ジルに告白したつもりはなく、完全に俺の独り相撲ということで、完全に空回ってたということで。
うわっ、恥ずかし!
どんだけ自意識過剰なんだよ!
ちょっとちやほやされて勘違いしちゃった!?
てか男相手だぜ!?
しかも今の外見じゃ10歳以上離れてるってのに!
はい、黒歴史決定。
こんなの誰にも言えない。
全身全霊で墓場まで持っていく話だ。
いや、ないわー。
俺ないわー。
てか帰りたい。
今すぐ家に帰ってベッドに潜り込みたい。
あ、というかこれってあれか?
もしかしてあのクソ女神に筒抜け案件?
うわ、絶対ニヤニヤ顔でこのこと根掘り葉掘り聞いてくるわ。
……夢の中だから、立件もされないし罪にも問われないよな。完全犯罪万歳。
「あの……ジャンヌ様? いかがしましたでしょうか?」
「いや、いい。なんでもない。ただ自分の心にケリをつけた。それだけだから。全然まったくメイビーたくさんこれっぽっちも毛ほどの量も全体的に包括的に総合的に問題ない」
もう自分自身がわけがわからなかった。
俺って本当に知力100?
「はぁ。しかしジャンヌ様。無理をしているのではありませんか? 私で力になれることであればいつでもお話しください。話せばすっきりすることも多々あるものですから。私はただ貴女の力になりたい。それだけなのです」
うわぁ、こいつあれか。天然のジゴロか。
よくもまぁそんな台詞が吐けるものだ。というかもしかしたらあの時の告白も、この延長線上だったのかもしれない。
「このド天然!」
「……? いえ、天然パーマではありませんが」
そういう返しが天然だってんだよ!
呆れるような思いの中、ふいに湧いてきた感情。
いや衝動。
「…………っぷ、あははははは!」
なんだか愉快だった。
自分の空回りっぷりが。
ジルの朴訥とした天然真面目っぷりが。
おかしいくらいに笑える。
あぁ、やっぱりちゃんと話さないと分からないものだな。
もうこの件については深く考えることはしないようにしよう。
そうなるとあとは1人。
俺がきちんと話さないといけない人物。
そのためには、明日勝たなければそんな未来は訪れない。
「ジル、勝とうな。明日、いや、この夜襲。生きて、勝って、皆でオムカに帰るんだ」
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そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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