知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第66話 十面埋伏・前

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「あー、敵陣に動きありました。間もなくこっち来ます」

 言っている内容に反して、緊迫感のないイッガーの報告を受けると、俺は残った軍に出撃命令を出した。

 すでにサカキとブリーダが率いるオムカ軍3千に、トロン軍とスーン軍は出立している。
 残ったオムカ軍3千と俺の隊、そしてワーンス軍のみが残っていた。

「それでは、行ってきます」

 ジルが2千を率いて陣を後にする。
 ギリギリまで出立を遅らせたのは、万が一敵の斥候が空の陣を見つけないようにするための予防だ。

 さすがに歩哨ほしょう(見張り)も立てない状況では罠だと勘繰られる可能性はある。
 だから俺たちの部隊とワーンス軍でギリギリまで引きつける必要があった。

「隊長、そろそろです」

 ジルが出発して5分ほど経った後、ウィットが東の方向を見ながらそう告げる。

「よし、火を消したら歩哨を残して陣を出るぞ」

「隊長がまた1人で残ると言い出すかと思いましたよ」

「一応寝込んだと思わせなきゃいけないからな。それにワーンス軍の指揮をしなきゃいけない」

「はい。こっちは俺に任せてください。必ずや敵の将軍を討ち取ってやりますよ。火つけ役のザインやリュースたちも逸ってますからね。南郡巡回隊だ、とか言って他の奴らも一緒に」

 俺と南郡を一緒に回ったザイン、リュース、マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウの7人のことだ。
 彼らは歩哨として敵が近づくのを待ち、敵が突っ込んでくる前に導火線に火をつけて逃げるという、大事な役割を持っている。

「ああ。期待してる」

 無理をするな、とは言えない。
 ここで敵を叩いておく必要があるのは確かだから。

 ウィットが去っていくと、俺はワーンス軍の司令官代理に声をかける。

「じゃあ、行きましょうか」

「はっ、ジャンヌ殿」

 ウィットたちが去って少し時間をおいて、俺とワーンス軍も陣の外に出る。
 そしてすぐに南の丘を乗り越え、そこに軍を伏せた。

 俺と司令官代理だけが丘の上で、馬に乗って眼下に広がる原野と陣を視野に入れる。
 陣は静まりかえり、炎も消えている。入口だけ灯りがともっており、歩哨役のザインたちがいるのが見える。

 皆はちゃんと隠れているだろうか。
 夜襲であることと地形を考えると、敵は最短の道を来ることが予想できた。
 その進路にならないところに伏せさせたが、万が一敵の進路が逸れたら鉢合わせになる。

 だから少し遠くで停止して、敵の奇襲部隊が通り過ぎたら配置につくよう念を押したが、一応、今のところ何もなさそうだ。

 風の音がわずかに聞こえる、平和な夜のひと時。
 しかしあと十数分もすれば、血で血を洗う修羅の領域が展開されるに違いない。

 待つ時間が永遠にも感じる。
 本当にこれでいいのか。敵は上手く来るのか。実は各個撃破のまとじゃないのか。あるいは待ち伏せされているのではないか。迂回部隊に背後から強襲されるのではないか。

 様々な最悪の想定を、想い浮かべては打ち消してを繰り返す。
 あり得ないとは言い切れない。
 だから不安になる。下手したら味方が数千人単位で死ぬかもしれない。
 そのプレッシャーが、胃をごろりと重く転がすような感じを与えて気分を悪くする。

 東にうごめくものを見たのはそれから10分後だった。
 それは近づくにつれて大きさを増し、人の群体であることが次第に分かってきた。

「来たみたいですが……多いですね。4千、いや、5千くらいはいるかもしれません」

「新兵を出すわけがないし、鉄砲隊は夜襲に向かない。おそらく左右の軍を預かる四天王の軍全てだろう」

「本当に四天王が来るでしょうか?」

「来るさ。自分で発案したんだ。人に任せるはずがない」

「はぁ……見てきたようにおっしゃるのですね」

「あー、いや。あれだ。あいつらこらえ性がないみたいだから。絶対出て来るって思ったんだよ。それにドスガに指揮官はそいつらしかいないだろ?」

 あぶねー。墓穴を掘るところだった。

「我々が外に出ているの、見破られていないですかね」

「さぁ。とりあえず相手の動きを見るさ。それからでも遅くはない」

 強がりを言った。

 もうここまで来れば、後は信じるしかない。
 敵が罠に気づいて迎撃態勢をとったらそれまで。
 明日の戦いでは勝ち目がなくなる。

 だから祈るような思いで俺は奇襲部隊の様子を睨みつける。

「止まりました」

 司令官代理が呟く。
 確かにドスガ軍は、陣から200メートルほどの位置で停止した。

 まさか気づかれたか……?

「どうやら斥候を出しているようですね。我々がすでに寝込んでいること、少しの見張りがいることを掴んでくれればよいのですが……」

「ここまで来たんだ。あとは運を天に任せよう」

「はぁ……」

 しばらく見ていたが、奇襲部隊は止まったまま動かない。
 その間にも時間は経ち、次第にイライラが増してくる。

 成功か。失敗か。どっちだ。
 大学受験の合否を見るようなドキドキ。
 いつまで待たせるんだとイライラ。
 胃が捻じ曲がるかと思うほどのキリキリ。

 そして――

「動いた!」

 司令官代理が短く叫んだ。
 言葉通りに敵はゆっくりと陣の方へ。
 そして次第に速度を上げる。

 もう気づかれても構わないと思ったのか、勢いよく駆け、そして止まった。
 次の瞬間、赤い筋が陣に向かって飛んでいく。

 火矢だ。

 火矢は陣にある木材や天幕に突き刺さり、燃え広がっていく。

「ジャンヌ殿、あの火矢は……」

「大丈夫だ」

 かめに敷き詰めて蓋をした火薬はそれくらいでは燃えない。
 導火線に火がつけば別だが、それでも少しは時間が稼げる。
 というより先にザインたちが火をつけているはずだ。

 喚声があがる。

 火矢を放ったらすぐに突撃。
 奇襲としては教科書通り満点の行動だ。

 まずは先陣が攻め込み、そして後詰めがその後ろから続く。

 だがそれもすぐに困惑に代わる。
 陣には人っ子一人、もとい火つけの7人以外の姿がいないのだから。

 その困惑が彼らの命運を分ける。

 ハマった。

 確信した俺は、左手をピストルの形にして陣を指し、

BANGバンッ!」

 次の瞬間、爆発が起こった。
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