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第2章 南郡平定戦
第67話 十面埋伏・後
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火のついた火薬が圧倒的速度で燃焼して、甕の破片と火の粉を周囲にまき散らすのだ。
悲鳴が木霊する。
完璧なタイミング――にはならなかった。
敵がまず先陣を突っ込ませ、その後に本隊が突っ込む形になったため、爆発は先陣を巻き込みはしたが本隊に被害は少ない。
それでも約5千のうち3分の1は死傷させたのだから十分な戦果ではあるのだが、俺が欲しいのは大戦果だ。
だからすぐに二の矢を放つ。
「今だ、突っ込め!」
俺は取り出した鐘を大きく連打した。
すると背後に隠れていた兵たちが、一斉に丘を登ってくる。
「行きます!」
司令官代理が馬上から告げる。
するとそのまま俺の横を通って丘を駆け下りる。部隊はそれに続く。
反対側の丘からも、ウィットたちの1千が同じように逆落としで敵本隊横腹を突く動きをする部隊が見えた。
南からワーンス軍が、北からウィットたちがほぼ時を同じくして本隊へと挟撃を食らわせる。
成功したかに見えた奇襲から、いきなりの火炎地獄、そして左右から逆に奇襲となれば浮足立たないわけがない。
敵の陣がたわむ。合わせて2千の襲撃にもかかわらず、敵の本隊は後退し始めた。
一度退いて態勢を立て直そうというのだろう。
だから俺は続いて鉦を連打する。
「第2陣、行け!」
鉦の音が聞こえたのか、敵の本隊が退いた頃合いを見たのか、少し離れた丘からまた部隊が現れる。
ジルの指揮する2隊だ。
再び南北から挟み込むようにして敵に突っ込む。
防いだと思ったところに更に奇襲を受けたのだ。
敵は更に混乱し、唯一の逃げ道である東へと駆けていく。そこをジルは無遠慮に突き崩していくのが見えた。
十面埋伏。
三国志における大戦、官渡の戦いにおいて曹操の軍師である程昱が行ったとされる策。
それ以前の楚漢戦争における国士無双の韓信も同じ作戦を行ったといわれる。
すなわち、囮部隊が戦っているところに伏兵による奇襲で敵を後退させる。
だがその後退したところにも伏兵がいて、次々に奇襲を行い敵を袋叩きにする。
それが左右合わせて10部隊あることからこの名前がついた。
生憎、今回用意できたのは8部隊だから八面埋伏とでもいうべきか。
だが――
「足りない……!」
半分の伏兵が襲った時点で見えた。
煌々と火を放つ陣の灯りに照らされた中、挟撃を受け歪む敵軍の中。揺るがない2つのポイント。
おそらく精鋭。すなわち四天王を囲む本隊の中の本陣。
あれを逃すわけにはいかない。
一瞬、残った部隊を敵の逃走ルートに蓋をさせて包囲殲滅をも考えた。
だがそれは敵を窮鼠に追い込むことになる。死に物狂いで逃げようとする敵を相手にすれば、それだけこちらも犠牲が出る。明日の戦いを考えると、その犠牲は許容できない。
だから俺は馬を走らせ丘を降りる。
ワーンス軍とウィットたちは逃げ遅れた敵の掃討にかかっていた。
「隊長!」
ウィットだ。
となるとここら辺にいるのは俺の部隊。
「俺の隊は続け! 四天王のどちらか1人だけでも討つ!」
「……はっ!」
先に走り出す。
ここが勝負所だ。
だから俺も前に出る。
そこへ俺の左右から一歩前に出る馬があった。
「先陣は俺たちに任せてもらいますぜ!」
「ああ、ザイン! 鹿狩りと一緒だ! 俺たちが一番をもらう!」
ザインとリュースが意気込んで馬を走らす。
火をつけた後、すぐに敵を蹴散らしながらここまで戻ってきたらしい。
「行きます! マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウ! お前らは隊長を守れ!」
ウィットが残った南郡巡回隊のメンツに俺の守備を命じた。
余計なことを。いや、その配慮はありがたい。
馬を走らせ逃げる敵を追う。
相手は奇襲のためにほとんどが歩兵だ。だから馬で追いつくことはたやすい。
だが、問題はそこからだ。
敵の本陣を攻めようとすれば、歩兵の中をかき分けていかなければならない。
かといって回り込もうにも、左右はジルの部隊が攻めあげているから下手すれば同士討ちになる。
3度目の鉦を鳴らす前に、前方で喚声があがった。
3つ目の伏兵、トロン軍とスーン軍が勝手に攻めかかったのだろう。
残る伏兵はあと1つ。
時間はない。
「強行突破する!」
馬に備え付けた旗を握る。
そして巻いた状態で前へと突き出す。
前方斜め左。
乱れの少ない方だ。
よく統率が取れているからことから、おそらく四天王筆頭ジョーショーだろう。
あいつがカルキュールを……。仇を討つ。いや、これも軍略。討てるなら討っておきたい相手だ。ただそれだけ。
「「了解!」」
ザインとリュースが速度を上げる。
それに合わせて後続が俺を追い越していく。
マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウは俺と速度を合わせている。
最前線――ザインとリュースが敵の最後尾に噛みついた。
そこからは時間との勝負だ。
前も言った通り騎兵、特に軽騎兵に属するものは速度が重要だ。
機動力でかく乱し、奇襲、退路を断つなどの戦法で敵をかき乱すのが主な仕事。
足を止めての乱戦なんて自殺行為もいいところ。
だからこれは敵が混乱している間に、俺たちが敵の本陣にたどり着けるかどうかの賭けだ。
「うぉぉぉぉ!」
「突き進めぇ!!」
ザインとリュースの雄たけびが聞こえる。
それに続く部下たちも速度をあげるため、どんどんと敵陣の奥へと突入することになる。
「行けるか……いや、行くしかない!」
「はい、隊長。やってやりましょう」
ヨハンが人懐っこい笑みを浮かべて同意した。
この柔らかな笑みの持ち主が、隊内でも有数の剣の遣いてだというのだから分からない。
ヨハンが剣を抜く。他の4人も同時。
ヨハンが逃げる敵を斬る。一部、反撃してくる敵がいた。
それを部下たちが馬上から斬り下ろすことで排除していく。
心苦しく感じる。
俺だけ剣を振るわず、俺だけ命をかけず、俺だけ守られているのだ。
仕方ないと分かっていても、力になれないのが、共に手を汚してやれないのが辛い。
だからせめて祈る。
彼らが1人でも多く生還できるよう、傷つくことがないよう、精いっぱい祈る。
「見えた!」
声に反応する。
固まった敵の本陣。
それが20メートルほど先に見える。
あれを討ち果たせば。
俺はその中にいるだろう見えないジョーショーを睨みつけた。
悲鳴が木霊する。
完璧なタイミング――にはならなかった。
敵がまず先陣を突っ込ませ、その後に本隊が突っ込む形になったため、爆発は先陣を巻き込みはしたが本隊に被害は少ない。
それでも約5千のうち3分の1は死傷させたのだから十分な戦果ではあるのだが、俺が欲しいのは大戦果だ。
だからすぐに二の矢を放つ。
「今だ、突っ込め!」
俺は取り出した鐘を大きく連打した。
すると背後に隠れていた兵たちが、一斉に丘を登ってくる。
「行きます!」
司令官代理が馬上から告げる。
するとそのまま俺の横を通って丘を駆け下りる。部隊はそれに続く。
反対側の丘からも、ウィットたちの1千が同じように逆落としで敵本隊横腹を突く動きをする部隊が見えた。
南からワーンス軍が、北からウィットたちがほぼ時を同じくして本隊へと挟撃を食らわせる。
成功したかに見えた奇襲から、いきなりの火炎地獄、そして左右から逆に奇襲となれば浮足立たないわけがない。
敵の陣がたわむ。合わせて2千の襲撃にもかかわらず、敵の本隊は後退し始めた。
一度退いて態勢を立て直そうというのだろう。
だから俺は続いて鉦を連打する。
「第2陣、行け!」
鉦の音が聞こえたのか、敵の本隊が退いた頃合いを見たのか、少し離れた丘からまた部隊が現れる。
ジルの指揮する2隊だ。
再び南北から挟み込むようにして敵に突っ込む。
防いだと思ったところに更に奇襲を受けたのだ。
敵は更に混乱し、唯一の逃げ道である東へと駆けていく。そこをジルは無遠慮に突き崩していくのが見えた。
十面埋伏。
三国志における大戦、官渡の戦いにおいて曹操の軍師である程昱が行ったとされる策。
それ以前の楚漢戦争における国士無双の韓信も同じ作戦を行ったといわれる。
すなわち、囮部隊が戦っているところに伏兵による奇襲で敵を後退させる。
だがその後退したところにも伏兵がいて、次々に奇襲を行い敵を袋叩きにする。
それが左右合わせて10部隊あることからこの名前がついた。
生憎、今回用意できたのは8部隊だから八面埋伏とでもいうべきか。
だが――
「足りない……!」
半分の伏兵が襲った時点で見えた。
煌々と火を放つ陣の灯りに照らされた中、挟撃を受け歪む敵軍の中。揺るがない2つのポイント。
おそらく精鋭。すなわち四天王を囲む本隊の中の本陣。
あれを逃すわけにはいかない。
一瞬、残った部隊を敵の逃走ルートに蓋をさせて包囲殲滅をも考えた。
だがそれは敵を窮鼠に追い込むことになる。死に物狂いで逃げようとする敵を相手にすれば、それだけこちらも犠牲が出る。明日の戦いを考えると、その犠牲は許容できない。
だから俺は馬を走らせ丘を降りる。
ワーンス軍とウィットたちは逃げ遅れた敵の掃討にかかっていた。
「隊長!」
ウィットだ。
となるとここら辺にいるのは俺の部隊。
「俺の隊は続け! 四天王のどちらか1人だけでも討つ!」
「……はっ!」
先に走り出す。
ここが勝負所だ。
だから俺も前に出る。
そこへ俺の左右から一歩前に出る馬があった。
「先陣は俺たちに任せてもらいますぜ!」
「ああ、ザイン! 鹿狩りと一緒だ! 俺たちが一番をもらう!」
ザインとリュースが意気込んで馬を走らす。
火をつけた後、すぐに敵を蹴散らしながらここまで戻ってきたらしい。
「行きます! マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウ! お前らは隊長を守れ!」
ウィットが残った南郡巡回隊のメンツに俺の守備を命じた。
余計なことを。いや、その配慮はありがたい。
馬を走らせ逃げる敵を追う。
相手は奇襲のためにほとんどが歩兵だ。だから馬で追いつくことはたやすい。
だが、問題はそこからだ。
敵の本陣を攻めようとすれば、歩兵の中をかき分けていかなければならない。
かといって回り込もうにも、左右はジルの部隊が攻めあげているから下手すれば同士討ちになる。
3度目の鉦を鳴らす前に、前方で喚声があがった。
3つ目の伏兵、トロン軍とスーン軍が勝手に攻めかかったのだろう。
残る伏兵はあと1つ。
時間はない。
「強行突破する!」
馬に備え付けた旗を握る。
そして巻いた状態で前へと突き出す。
前方斜め左。
乱れの少ない方だ。
よく統率が取れているからことから、おそらく四天王筆頭ジョーショーだろう。
あいつがカルキュールを……。仇を討つ。いや、これも軍略。討てるなら討っておきたい相手だ。ただそれだけ。
「「了解!」」
ザインとリュースが速度を上げる。
それに合わせて後続が俺を追い越していく。
マール、ヨハン、グライス、ルック、ロウは俺と速度を合わせている。
最前線――ザインとリュースが敵の最後尾に噛みついた。
そこからは時間との勝負だ。
前も言った通り騎兵、特に軽騎兵に属するものは速度が重要だ。
機動力でかく乱し、奇襲、退路を断つなどの戦法で敵をかき乱すのが主な仕事。
足を止めての乱戦なんて自殺行為もいいところ。
だからこれは敵が混乱している間に、俺たちが敵の本陣にたどり着けるかどうかの賭けだ。
「うぉぉぉぉ!」
「突き進めぇ!!」
ザインとリュースの雄たけびが聞こえる。
それに続く部下たちも速度をあげるため、どんどんと敵陣の奥へと突入することになる。
「行けるか……いや、行くしかない!」
「はい、隊長。やってやりましょう」
ヨハンが人懐っこい笑みを浮かべて同意した。
この柔らかな笑みの持ち主が、隊内でも有数の剣の遣いてだというのだから分からない。
ヨハンが剣を抜く。他の4人も同時。
ヨハンが逃げる敵を斬る。一部、反撃してくる敵がいた。
それを部下たちが馬上から斬り下ろすことで排除していく。
心苦しく感じる。
俺だけ剣を振るわず、俺だけ命をかけず、俺だけ守られているのだ。
仕方ないと分かっていても、力になれないのが、共に手を汚してやれないのが辛い。
だからせめて祈る。
彼らが1人でも多く生還できるよう、傷つくことがないよう、精いっぱい祈る。
「見えた!」
声に反応する。
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それが20メートルほど先に見える。
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