知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第7話 オビシ三国軍事会談

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 窓から見下ろす王都の風景。
 そこは今やお祭り騒ぎだ。

「第二種目は格闘大会、第三種目は競馬。そして第四種目は100メートル走とか……これ考えたやつ、絶対ギャンブラーだろ」

「発案者はあきらだから。文句はあっちに言ってよね」

「ふーん、てかもう終わりでよくない? 飽きちゃったんだけど」

 俺は今、大運動会から離れて、王宮の2階部分にいる。
 ここに来たばかりの時に、倒れた俺が寝ていた空き部屋だ。

 そこに水鏡と喜志田、2人を招いてテーブルを囲っている。

「てかその体操着。ぷっ、いい年した大人がコスプレとか、超笑える」

「あなたもでしょうが……てかアッキー、後で一緒に写真撮らない?」

「誰が撮るか!」

 もちろん雑談するためじゃない。
 これこそが大運動会を開催した真の目的。

「てかさー、俺たちが話すとか意味あんの? 適当にやればよくない?」

「そういうわけにはいかないだろ。さすがにあの巨大国家を相手に単独は厳しい」

「ふーん、まいいけど。首脳会談とかちょっち面白そうだし?」

 そう、俺たちが集まった理由。
 それはオムカ、ビンゴ、シータの3カ国首脳会談だ。本来は王直々ないし宰相が行うようなものだが、議題が議題だけにこの3人となったわけだ。

 もちろん、エイン帝国への侵攻についての話だ。

 さすがに表立ってこの3人が顔を合わせるのは危険だ。
 おそらく帝国の間諜がいるだろうし、帝国侵攻の時期を悟られる可能性がある。

 だから修好のために大運動会という隠れ蓑を開催して、それを俺たちが集まる名目にしたのだ。それで100%騙せるとは思えないが、何もしないよりはマシだということでこの運びとなった。
 まぁ、一応各国の融和を求めての理由もあったけど、さっきのビンゴ王国の人を考えるとそれも無駄だったかもしれない。

「とりあえずおさらいだ。今、オムカが動かせる兵力は最大で2万。南郡とは友好な関係を築けてはいるけど、そこから兵力を持ってくるのはまだ厳しい。去年の戦はかなり激戦だったんだ」

「シータは北部戦線にある3万、いえ、南郡への備えがなくなったのと海岸線の警備を投入すれば5万はいけるわ」

「ビンゴはどうかなぁ。まぁなんとかやりくりして7万とかくらいじゃない?」

「合計14万か……」

 数だけ聞けば大したものだ。
 だが、それだけでは全く足りない。

「対してエイン帝国軍200万、か」

 そう、エイン帝国軍は200万もの兵を持つとうたっている。
 3カ国連合の10倍以上の兵力ということだ。

「そんな数、帝国領の収穫高と経済状態、人口から算出してもあり得ないわ。ただの過剰訴求よ。実際は70いれば良い方。その中で帝都の守りと各地の守備、それから北の異民族の防衛を考えると実質動かせるのは多くて40万くらいのはずよ」

「そうそう、てかそんなに兵がいたら今頃俺たち滅んでるって。ま、それでも3倍はいるんだけどね」

「そうか……ところで喜志田。前に言ってたのは本当なのか? 返してもらえるって話」

「んー、あぁアレ? マジマジ。もう出血大サービスでプレゼントしちゃうよ」

 この会議が始まる前、喜志田が言った内容に俺は耳を疑った。

『王様がね。あの砦、オムカに返していいって』

 あの砦とは、俺がこの世界に来た時にビンゴ王国がオムカ国から奪った砦で、去年行われたオムカとビンゴの連合軍とエイン帝国軍が戦った時に争点となった砦だ。

 それをビンゴ王国は無償でオムカに返還するという。
 そんな虫のいい話、何か裏があるに決まっている。

「んんー? なに? 疑ってるの?」

「そりゃあな。去年、俺たちから奪っておいて、さらに救援要請までして守った砦だ。なんで今さら俺たちに返す?」

「そんなこと言われてもなぁ。俺、ただの使いっパシリだし?」

「んなわけねーだろ」

「おっと、怖いなぁ。ねぇ水鏡くん。ジャンヌ・ダルクってたまに怖くない?」

「え、私? いや、その……」

 関係のない話から急に振られて焦った様子の水鏡だが、すぐに冷静な顔に戻ると、

「私も気になるわ。そんな領土問題をあっさり放棄するなんて、ちょっと信じられない」

「んー、じゃあクイズにしようか。返還する理由は次のうちどれでしょー? 1番、保持するのがめんどくさかったから。2番、女王即位の結納品。3番、単なる義侠心ぎきょうしんの現れ。さぁどれ!?」

 この男。どこまで本気だよ。
 てか全部嘘くさい。

 まぁいい。
 これも狐の化かし合いだ。
 少し切り込んでみるのも悪くない。

「答えは4番。砦を狙うエイン帝国の主力を俺たちが受け持っている間に西から一気に北上して帝都をつく。そのための餌を俺たちにやれってことだろ」

「うわー、そんな意地悪すると思う? もっと人を信じたほうがいいよ、君?」

「生憎、お前らには痛い目に遭わされてるんでね。今日の第一種目でも、危ないところだった」

「ふーん、あっそ」

「こらこら、ここに私事を持ち込まないの。で? 答えはどれなの、喜志田さん?」

 水鏡が俺と喜志田の間に入って仲介してくる。
 うぅん。どうも、去年のことがあるからか熱くなってしまうな。

「答え? うーんと、うーんと……あはは、答えなんてないや」

「お前ふざけんなよ!?」

「アッキー!」

 水鏡からの叱責。
 そうだ、落ち着け。

「へぇ、アッキーってもしかして本名? 俺もそう呼んでいい?」

「お前がふざけるのをやめたらな」

「分かった。じゃあ真面目に答えるよ。答えはアッキーの言う通りさ。去年、アッキーたちが戦ってきた敵の総大将と会ったって話だよね。尾田張人おだはるとって言ったっけ? ねぇ、アッキー? 実は彼、前に内通を持ち掛けてきた将軍でね。調べてみたところあれは教皇の左腕って話だよアッキー。つまり帝国軍の主力の1つなんだアッキー。今は数は少ないけど、帝国が本気出したら十万単位で攻めて来るよ、アッキー。そんなところにいたら危ないから、うちは引っ込んで後はアッキーにお任せってこと。分かった、アッキー?」

 こいつ、急に真面目なトーンで何を……。
 てかアッキーアッキーうるさい。

「いい性格してるわね。初めから答えのない3択なんて」

「べっつにー。ただアッキーならそれくらい読んでくれるとは思ったわけだけど」

「おい、俺はまだその呼び名を許したわけじゃないぞ」

「ええー? ふざけるのをやめたら呼んで良いって言ったよ? アッキーはこうやって国の代表やってるのに、二枚舌使うつもり? ふーん、それって外交的にまずくない?」

「いいんだよ、俺の政治力なんてたかがしれてる。てかお前、俺の知ってるやつに似てるぞ」

「それはきっと八面玲瓏はちめんれいろうで清廉潔白な素晴らしい人間なんだろうね」

「いや、言葉で人を操って自分は傷つかないところにいる、サディスティックで最低で下種で最低で策士で最低で裏切り者で最低で自己中で最低で最低な人間だよ」

「それはおかしいな。俺に似た人間がそんな極悪非道な便所虫みたいな人間のわけがないし」

「いや、そっくりだね。だってお前と――」

「はいはい。いつまでやりあってるの。私から見たら2人とも似た者同士よ」

 水鏡、それはかなりひどい評価だぞ。

 だが……確かに。頭を冷やせ。
 ここで喜志田とやりあってもしょうがない。
 どのみち、3国が連合してようやく土俵に立てるレベルの戦力差なのだから。

「分かった。どういう裏があるにせよ、元の領土を返してもらうに越したことはない。オムカはその要請を受諾する」

 一応、マリアからは全権を任されている。
 国益を損なわない限り、俺の判断がすべてになるのだ。

「はいせいりーつ。じゃあ受け渡しとかは……いや、面倒だ。グロス・クロスにでもやらせるから勝手にして」

「ああ、うちも宰相に任せる。そういうのは面倒だ」

「あなたたち、本当に似た者同士だわ」

 水鏡が肩を落とすように嘆息した。
 本当心外だからやめてくれるかなぁ。

「それで? 領土問題は解決したとして、いつやるの?」

 そう、それが一番の問題だ。
 それぞれが個別に出撃したとして、戦力差で圧倒的に劣っているのだから各個撃破されて終わりだ。

 3方面同時進行によって相手の頭脳を麻痺させ、劣勢を互角に持ち込むことこそが肝要。
 そのためには出陣する時期を他国と合わせなければならない。

「今が4月でしょー? これから戻ってなんだかんだして、早くて6月とかじゃないかな。でもやっぱり収穫の終わった9月とか10月がいいけどね」

「あっそ。で、アッキーは?」

「うちはいつでもいい」

「へぇ、自信満々だ」

 そういうわけじゃない。
 どちらかと言えば“いつでもダメ”が正しい。
 オムカは去年、戦続きだった。農民と兵士は分業されているから、収穫が減るということはないが、そもそも1年間無税という誰かさんが作った法案のせいで6月までは全く実入りがないのだ。

 今は貯蓄を食いつぶしながら南郡からの収益で食いつないでいるが、出せて2万の出兵が1度だけ可能というレベルだろう。

「んー、とはいえだよ。年末に宣戦布告してきた帝国が、そこまで待ってもらえるかな」

「そこだな。正直、今でさえ危ういと見てる。いつ来てもおかしくない。叶うなら来月にでも出兵したいくらいだ」

「好戦的ね、アッキー」

「そういうわけじゃないさ、水鏡。ただ、やらないとやられるってだけだ」

「ふーん。ま、いいけど。じゃあこのお祭りが終わったらすぐに兵を出せるわね。うちが先にいただいてるけど」

「へ?」

「偽装よ。国王と水軍都督がいない状態で攻勢には出ないはず。その隙をついて今、あまつ時雨しぐれが帝国領に進行中よ」

「はぁ!?」

 い、いつの間にそんな手を……。

「あ、奇遇だね。うちもそう。先鋒のクリッドを連れてきてるけど、本国からは本命の将軍が北上中。いやー、嘘ついて黙ってようと思ったけど、シータ王国って意外にも好戦的なんだね」

「はあぁ!?」

 こいつら。やることがえげつない。
 軍の主力や代表がオムカでこんなことをやってるうちに、まさか攻めて来るなんて誰も思わないだろう。

「そういうわけだからアッキーも出兵よろしくー。ま、これなら少しは楽に勝てるよね」

「あ、あぁ……」

 話がいきなり飛びすぎて、俺ですら話についていけなかった。
 てかもう出兵時期とか関係ないじゃん。開戦してるじゃん。

 その時、外から空砲の音が響いてきた。
 それが競技終了の合図だと知っている。

「ん……終わったみたいだね」

「そうね、きっと明がバカみたいにはしゃいでると思うから、殴ってでもさっさと帰らないと」

「てか君の国の王様、フットワーク軽いね?」

「嫌になっちゃうけどね」

「んじゃ、俺も帰るかなぁ。最悪そのまま北方戦線に直行だわー。めんどくさいけど、『一撃必殺ワンターンキル』が必要になるかもしれないし」

「それ、あなたのスキル? 物騒な名前ね」

「ん、水鏡ってゲームとかやらない系? ま、条件さえ揃えば問答無用で敵将をぶっ殺すことができるって優れものなんだよ。まぁ、その条件がめっちゃめんどいんだけど」

 やれやれ、この2人。
 頼もしいというかマイペースというか。

 それでもこちらが先手を取れたのは大きい。
 帝国が本気を出す前に、なんとか優位な態勢を作るしか生き延びる方法はない。

 せっかく独立して南郡にも地盤が作れたというのに、まったく楽にならない。
 やれやれ、今年もまた大変そうだ。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。
そしていよいよ、3つほど閑話を挟んだ後に北伐開始となります。新たに出現する強敵との戦いまで今少しお待ちください。

また、いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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