知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第14話 噂

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 帝国軍を撃退し、ヨジョー地方復興の目途が立った6月中旬。
 俺は王都バーベルに戻ってきていた。

 もう少し北にいたかったが、これ以上は業務に支障が出るので、後ろ髪を引かれる思いで戻ってきた。

 王都では各国の情勢が待っていた。
 ビンゴ王国は一気に敵主力を撃破。ただ深追いはせず、ヴィー地方という帝国領最西端の地域を制圧し、にらみ合いをしているという。
 一方のシータ王国はウォンリバー北岸に大量の砦群を作り、持久戦の構えを取っているようだ。

 対して俺たちオムカ王国はヨジョー地方の復興と同時並行で、ウォンリバーを渡るための船づくりと陸路の捜索を行っている。
 陸路は先だって敵が渡ってきた地点があるが、それでも船は必要だし、敵にバレている場所から攻め入っても警戒されているだろうからあまり使い道はない。
 とまぁ、船ができるまであと最低でも2か月はかかる見通しで、今すぐ対岸に攻め込むことはできない状態だったりする。

 だからか、帝国軍は最低限の防衛兵力を北岸の砦に置くだけにした。
 尾田張人が率いる軍は西か東、どちらかに振り分けられそうだ。
 悔しいが、こちらとしては手出しができない状況。水鏡と喜志田には謝罪の手紙を送った。

 1つだけ吉報があるといえば、マツナガの金策が上手くいったことだ。
 南郡の諸国から融資を取り付けたという。

 どんな魔法を使ったのだ、と思ったが、これまた詐欺に近いやり方でひやひやした。

 まずあいつはヨジョー地方の被害をおおざっぱに調べ、それを南郡各国の首脳部へと援助を申し出た。
 それだけでは断られるか、良くてはした金を掴まされて終わりだっただろう。

 だがあいつの巧妙なところは、

『ビンゴ王国やシータ王国からも寄付金が届く予定だ』

『今、両国はエイン帝国にて互角の戦いをしており、我々オムカ王国が参戦できればたちどころにエイン帝国は劣勢になるだろう』

『エイン帝国を打倒した暁には、この寄付金の大きさがその後の国の優劣を決めることになりそうだ』

『○×国はこれほどの寄付をいただく予定だ』

ということを吹き込んだ。

 もちろんビンゴ王国やシータ王国から寄付金の話なんて来ていないが、おそらく見舞金くらいのものは届くだろう。
 両国とも帝国と互角の戦いをしているのは本当だが、それでオムカが参戦したら帝国は苦戦する、というのはまだ何も分からない。
 エイン帝国を倒した後の話なんてまったく出てないし、そもそもエイン帝国を倒すのは数年では無理な話だから絵に描いた餅と言って差し支えない。

 眉唾ものの話だが、そのどれも100%嘘ではない。だが真実でもない。
 すべてにおいて断言はせず、できなかったらごめんなさい、というどこの悪徳政治家の公約だとツッコミたいほどの巧妙さだ。

 ただ「他人がやっているから」「政治情勢で有利に立てる」「他の国はもっと援助している」といった競争心理を突いた話術で各国を翻弄。
 南郡の諸国としては、兵を出さずに武功を買うことになるので、兵を失うよりは、と競って金を出したという。
 クラウドファンディングというより、将来的な社会的地位をオークションにかけたのだった。

 結果、マツナガは大金をせしめた。
 その額200億。

 よくもそんな額を、と更に問い詰めてみれば、なんとこいつ、南郡に出入りする外国の商人にも話を持ち掛けたらしい。
 なんでも王都バーベルへの通行書とオムカ商人へのわたりをちらつかせ金をせびったという。彼らからすれば、更に商売の幅ができる話だから、こぞって金をだしたことだろう。

 全く、本当にやり口としては最低で、あいつに借りを作ったようで複雑な気持ちだが、結果としては大成功と言って良い。
 これでヨジョー地方の人たちが救えるなら安いものだ。

 軍費にも余力が出来て、再び北への出兵を視野に入れていたところ、同じく北に行っていたイッガーが戻ってきた。
 何やら話があるということで俺の執務室で話を聞くことにした。

「ずいぶんかかったな。ヨジョー地方にもう帝国軍はいないぞ」

 先のヨジョー地方からの帝国軍の撤退は、大地震に対する帝国の謀略だと看破かんぱしている。
 そしてその裏付けとなる周辺地域の調査は、彼の部下から報告が上がっていたので、もう新しい情報はないだろうと思っていた。

「はぁ……そうみたいです。ただ、この2か月近く。自分は、帝国の主都まで……足を運びまして」

「へ!?」

 初耳だった。
 どうりでイッガー本人の戻りが遅かったわけだ。

「そりゃまた……凄いことしてきたな」

「まぁ……潜入自体は簡単でしたよ。なにせ首都は……全然戦争してる感じじゃないでしたから」

「ま、それもそうか。戦線は遠く離れてるし。一番近い俺たちも足止め食らってるし」

「はぁ……それよりちょっと驚いたのが、文明が違います」

「は?」

 いきなり言われても何のことか分からない。

「あ、その……文明のレベルといいますか。あっちに行って驚いたのが、線路が、あったことです。どうやら馬車鉄道……らしいんですが、蒸気機関が、その、出来てて、蒸気機関車の、開発が計画されてるとか」

「はぁ!?」

「あと自転車らしきものもありました。町並みは古いままですけど、そこらの技術、オムカの比じゃないです」

「なんだそりゃ……いや、それもプレイヤーか」

 そもそもまだ鉄砲が流行り始めた時期なのにもかかわらず、次々と新しい鉄砲が作られているのもおかしな話だ。
 俺は現代の知識を持ったプレイヤーが、オーバーテクノロジーとして技術を流入しているのだと結論付けたが、まさかここまでとは……。

「というかマズいぞ。機関車は兵力と物資の高速&大量輸送を。自転車は通信の大幅改善を。帝国の広い領土の欠点がそこらにあったのに、それを覆す技術革新が出るなんて……いや、だからこそ、か」

「はぁ……そういうものですか」

「ああ、助かった。これだけでも大分戦略が変わってくる。マツナガにも共有しておくとして、水鏡と喜志田にも伝えないとな。それで? 他はどんな感じだった? 街の様子は?」

「街並みは……うちとあまり変わった様子は、ないですね。ただオムカに……天罰が下ったって、もちきりでした」

「天罰ねぇ」

「なんでもパルルカ教っていうのが……今、帝国では流行ってて。その教皇が……今回の地震を予知し、オムカの進軍を止めたと」

「予知……」

 ザワッと、体中の血液が冷えた気がした。
 それこそ今回の一件に深くかかわるワードだったから。

「その教皇の名前は!?」

「たしか……コヤ教皇、とかいう名前です。なんでも百発百中の予知を行い、衰退していたパルルカ教を復興させた……奇跡の人だと。一度、説教の場面に出くわしたので……観察したんですが……なんとも善人風のいけすかない奴でしたよ。なんか……異様に細い目で、あまり表情が変わらないんですから」

 いや、お前も十分表情が変わらない人間だけどな。

「ふーん、パルルカ教ね。面白い名前だけど……気になるな」

「例の司祭、ですか?」

 ドスガ王の最期の言葉はイッガーには伝えている。
 彼が懸念していたある宗教の司祭。それが恐ろしい男だと。

 その司祭がプレイヤーで、そのスキルが予知だとしたら確かに恐ろしい。

「その宗教と教皇を探ってもらえないか。もちろん深入りは禁物だ。相手は相当厄介なプレイヤーのようだからな」

 あの尾田が素直に従う男だ。タダ者なわけがない。
 慎重に慎重を重ねていくしかない。

 ふぅ、これだけでもお腹いっぱいだ。
 本当にイッガーがいてくれて助かった。これで多少は後手に回らなくても打てる手が増えたと思う。

「はぁ……了解です。あ、というかもう1つ。ちょっとこれは噂……程度の話なんですが」

「ん、噂でもいい。そこから本当のことが出るかもしれないからな」

「なんでもオムカ王国の先王が、まだ帝国で生きているという……話でした。まぁ噂も噂で、都市伝説みたいな――」

「なんでそれを先に言わない!」

 思わず机を叩いて身を乗り出していた。

「え、いや。それは……その、噂なので」

「あぁ、いや。ごめん。そういう意味で怒鳴ったんじゃないんだ。……それはまだ誰にも言ってないよね?」

「あ、はい……それは、もちろん」

「このことは絶対秘密で。……いや、どうせバレるな。くそ、ちょっと一緒に来てくれ」

 もしこれが本当だとしたらかなりヤバい。

 マリアの戴冠は、彼女の父親、つまり先王がすでに死んでいる上で行われたもの。
 だがここで先王が生きていたとなれば、帝国の介入があったにせよ、その王権はまだあちらにあるはず。
 そうなると、もしその先王が生きて帰されでもしたら、オムカは2つに割れる可能性がある。

 あるいは先王を餌にして、こちらを誘い込もうという形もあるが……。
 どちらにせよよくない。

「え、父上が……」

 マリアに話した時の反応はある意味予想通りだった。
 それ以上は言葉にならない。

 当然か。
 何年も前に連れ去られて以来、すでに死んだと思われていた父親が生きているなど。

「ジャンヌ、それ本当?」

 ニーアが険しい表情で聞いてくる。

「イッガーが帝都で掴んできた噂程度だ。でも本当だとしたら捨て置けない」

「……そう、ね」

 呟くニーアも苦しそうだ。
 呆然とするマリアに同情しているのだろう。

「おそらく罠でしょうね。そもそもこの時期にそんな噂が出るのがおかしな話です。おそらく虚報かと。おそらく先王とやらは生きてはいないでしょう。帝国に占領されていた時期も考えると、先王を生かしておく必要はありませんからね」

 そんな空気の中、マツナガがしたり顔で口を挟んだ。
 相変わらず空気を読めない……いや、読まないやつだ。

 ニーアが人を殺しそうな目で睨みつけるが、マツナガはただ肩をすくめただけだった。
 あの目を前にすげぇ胆力と思うが、やっぱり最低だ。

「爺さん、確認したいんだけど本当に先王は亡くなったのか?」

 当時のことを一番知っているであろう人間に話を振った。
 マツナガが遠慮なく言った後だから、少しは楽にそのことを聞けた。

「一応、そういうことにはなっとるのぅ」

「一応?」

「誰も確認した者がいないからの。いきなり帝国から使者が来て、『先王が亡くなったから娘を女王に立てろ。そして宰相と軍の総帥はこちらで準備する』などと一方的に通告してきたんじゃよ。それで来たのがロキンとハカラじゃ」

 あの2人か……。

「つまりオムカの関係者は誰も連れ去られてから先王の姿を見ていないと」

「そうじゃ」

 過去の記録や風聞から探るのは無理か。
 ならやることは1つだ。

「どちらにせよ、情報の収集は続けるため、誰かが帝都に潜入する必要がある。軍は動かせないから少数精鋭になるな」

 そして少数精鋭となると、よほど腕に自信があるか、あるいは異能――スキルを持った者が必要になる。
 なるほど、こうやって餌を撒いてオムカの主力プレイヤーを一気に削るという見方もできるな。

「じゃあ、あたしが行く!」

「いや、ニーアは今はマリアの傍にいてやってくれ。今はお前の支えが必要だ」

「うぅ、分かった。けどそれってもしかして……」

「推奨できませんね。得る物より失うものが多すぎます。あ、ちなみに私は嫌です。そんなめんどくさ――危険なところには行けません。宰相ですし」

 うん。誰もお前に期待してないから。

 それに、どれだけ反対されようがもう決めたのだ。

 これはこの場所に来るまで考えていたこと。
 このままただ受け身に回っていては状況は打破できない。
 早急に軍を北に進めるべきだろうし、それを考慮すると俺は北にいた方がいい。
 そしてそれが帝都だとしても。

 だから――

「俺が帝都に行く」
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