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第3章 帝都潜入作戦
閑話7 堂島???(エイン帝国軍元帥)
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元々戦いが好きだったわけではない。
むしろ争いごとは嫌いだった。
おとなしい性格で、両親からはよく手のかからない子だったと言われた。学校でも誰と特に親しいわけでもなく、かといって誰に嫌われるものでもなく、誰からも等距離で無難な生活を過ごしていた。
そんな少女時代。
何事にも興味が持てなかったからかもしれない。
両親にも、友達にも、お喋りにも、学校にも授業にも部活にもお洒落にも遊びにも趣味にも夢にも未来にも――生きることすらも。
それが、この世界に来て変わった。
いや、押さえつけられていたものが解放されたというのだろうか。
初めて人を殺したのはこの世界に来て3日目だった。
正直もっと取り乱すと思ったけど、思ったのは1つ。
あぁ、こんなものかという失望。
それから帝国軍兵士となった自分は各地を転戦。
特に苦戦することもなかったのは、スキル『疾風怒濤』のおかげだろう。
そのスキルにしたのは、世界史の授業で習った時に、その和訳と語呂の良さを覚えていたからで、特に内容を見て決めたわけじゃない。
ただそのスキルは今や名前と効果を変えている。
そのスキルを選んだこと、それは成功だった。
いや、大いなる失敗の一歩目だったのかもしれない。
それから5年。
学生だった自分は、いつの間にか20歳を超えていた。
そして、この国の軍の頂点に立っていた。
帝国軍元帥。
それが自分の今の肩書。
正直、政治とか国の仕組みどころか軍事もよく分からないから、調練も補給も人事も何もかも誰かにやってもらう。
自分が与えられた仕事は1つだけ。
勝つこと。
それだけならば、自分でもできる。
誰よりも上手くやる自信がある。
だが、出来すぎてしまった。
出来すぎてしまったがゆえに、自分はこの地位にいて、そしてただ作業するだけのように敵を滅ぼすしかなくなったのだ。
自分が周囲に興味を持てなくなったように、世界が自分に興味を持てなくなったような感覚。
それが、今の自分の全てだ。
「元帥閣下。陛下に帰還の連絡をいたしますか?」
戦場から帰還した後、副官のボージャンがそう聞いてくる。
30代後半で何事もそつなくこなし、周囲に気が利く男だが、帝室を重視するきらいがあるため、こうしてめんどくさいことを言ってくる点が玉に瑕だった。
「いい。将校1人を送ってまた勝ったとでも言っておけ。今日は人に会う」
「……はっ」
ボージャンは少し納得いかないという風に、沈黙に反抗の意思を添えて元帥府から出て行った。
「ふぅ……」
上着を脱いで掛ける。
鎧を着るのも煩わしい。戦場ではいつも軽装だった。そして一度も傷を負っていない。
体に傷を負うのが嫌というわけではないが、痛いのをわざわざ進んでする趣味もないからどうでもよかった。
豪奢な部屋の中心にあるふかふかのソファー。
そこに体を投げ出して体を預ける。
そのまま目を閉じる。
眠るわけではない。
これまでの戦を振り返るのだ。
今回はビンゴ王国との戦だった。
西の戦線が押されているので援軍を求めてきたので、最初は蹴った。
「各地の戦線で押し返す、それこそが貴様らがいる意味だろう。第一、自分は帝都を守るための軍である。自分が出て皇帝陛下が危険な目に遭ったとなればどう責任を取るつもりだ?」
そうは言ったけど、本当はめんどくさかったのだ。
どうせまた自分が出れば勝負は決まる。それがつまらないと感じたのはいつだったか。
だから本当に危険になるまでは出ないつもりだったが、皇帝からの勅命という形で戦場に呼び出された。
誰かが裏で皇帝を操ったのだろうけど、その辺の政治ゲームはどうでもよかった。
またつまらない戦をするのだ。そう思うと暗鬱だった。
だから自分の旗下にして帝国最強の騎馬隊を称する5千を連れて西の戦線へと出かけたのだが、やはりというか退屈だった。
いや、これまでの相手よりはかなり善戦したと言ってもいい。
自分が突っ込むと敵はその勢いを殺して取り囲むようにしてきた。
十分に訓練されている兵の動きに少し驚いた。
だが自分が先頭に立って、包囲の一端を食いちぎると、敵は大慌てで後退。その先で守りを固めてしまい、戦線は膠着した。
それからなんとか敵を動かそうとする味方と、こちらの裏を突こうと陽動に陽動を重ねる敵の一進一退の攻防となった。
こちらは失いかけた地の利を奪い返したわけだから、よほどのことがなければ負けないだろう。そう見た自分は、敵の陽動部隊を2、3潰してそのまま誰にも言わず戦線を離脱した。
犠牲はなかった。傷を負った者が20名ほどいたが、戦線離脱するほどのものでもない。
現場の指揮官などは舌打ちしただろうが、そこらへんの対処はボージャンは心得ているだろう。
むしろあの敵にあそこまで押しまくられていたことへの、挽回のチャンスをお膳立てしてあげたのだ。そう思ってもらわないと困る。
だから退屈ながらも、少し手ごたえのある敵との戦いは、まぁそこそこに楽しめたというところか。
「元帥、おかえりー」
そんな自分の思考を断ち切るように、自室のドアが無遠慮に開いた。
そしてその声で誰が来たのかもわかる。
幼い少女の独特の舌足らずの高い声。
うざったらしいやかましさを持ちつつも、その天才的な閃きと果断な行動でこの帝国軍ナンバー2の地位にいる少女であり、プレイヤー。
長浜杏だ。
「あ、また寝てるし」
「寝てはいない」
目を開ける。
そこには覗き込むようにする杏の顔が大きく映っている。
「ですよねー。元帥は帰ってくるといっつもそうやって振り返るんだよね。あれ、なんか今回は少し機嫌良い?」
声で自分の機嫌をはかっているのか……。
少し気をつけようと思う。
「まぁ、な。西にも少しは楽しめそうなやつがいた」
「西、ってーとビンゴかぁ。そういえば去年、張人きゅんが勝ったり負けたりしたよねー」
「張人? きゅん?」
「あーほらー、やっぱり忘れてる。てゆうか興味なし? ほら、オムカ戦線で頑張ってるプレイヤーの」
「あぁ、いたな……」
「もう、駄目だよー、少しは他人に興味持たないと。てか元帥に覚えてもらえてないとか、きっと張人きゅんショックだろうなぁ」
いや、いる。
杏以外に1人だけ。
出会った時は強烈だった。
果てしない死の香り。
漆黒の暴力の気配。
濡れて乾かぬ血の匂い。
あれが敵だったら、と思うとこの自分でも身の毛がよだつ。
寄ってたかって時間切れまで粘ってなぶり殺すしか対処法は見つからない。
だがその間に、数百から1千ちかくの犠牲は覚悟すべきだろう。
そんな相手。
名前は、そう……立花里奈と言ったか。
「元帥、聞いてる?」
「ん……あぁ。そうだな」
といったものの全然聞いていなかった。
あの死を体現した少女のことを思うと、どうも血がさわぐというか。
「杏。どうだ? 自分と試し戦でもしてみないか?」
「冗談でしょう? そんなことしたら帝国は滅ぶよ」
確かに彼女の言う通りだ。
自分と彼女が争ったら、それこそ試しなんてことにはならない。
全力で勝ちに行く、つまり殺し合いになる。
どちらが勝つにせよ、帝国軍最強の一角が崩壊する。
仮にも自国が攻められている時にやることじゃない。
まぁ、仕方ないだろう。
「あ、そうだ。元帥。それなら南に行ってみたら? ちょっと面白い相手がいてさ」
そして杏は喋りだす。
張人とかいうプレイヤーと共に、災害による被害を受けたオムカ王国に攻め込んだこと。
弱った相手を徹底的に叩く。戦略として正しい。そして戦術としても及第点だ。尾田張人という人物。なかなか非凡な人間なのかもしれない。
だが、それをことごとく撃退した。
杏の率いる3千も、敵騎兵2千に妨害され戦局を動かすことはできなかったようだ。
その一部始終を聞いて、思った感想。
「……面白い」
久しぶりにその言葉を発した。
これほどイキの良い相手は久方ぶりだ。
しかもこれで万全の状態ではないのだから。
「あ、駄目だよ元帥。あれは僕様が先に見つけたんだからね。そりゃ自分の我がままを聞いてくれた元帥には感謝してるけどさ。それとこれとは別。それに元帥がそう何度も遠征されると、うちが舐められるんだよね。エイン帝国余裕なくないって」
「……仕方ないな」
「そうそう、元帥ってのはそうやってどっしり構えないと。ね、堂島――ミカンちゃん?」
途端、憤怒が体を満たす。
寝転がったソファからバネのように起き上がる。ゼロコンマ3秒。
そのまま杏の喉元目掛けて手を突き出す。ゼロコンマ2秒。
そしてその喉を握りつぶし――
「っ!」
なかった。
確実にとらえたと思った右手は空を切る。
いつの間にか杏は自分から5メートルは離れて、ドアの近くにいた。
杏のスキル。読まれた、か。
ただそれで怒りが収まるものでもない。
そのへらへらとした表情を見ながら、怒りをぶつける。
「私を、その名前で呼ぶな」
堂島美柑。
その可愛らしい名前が嫌いだった。
特に理由はない。
けど自分はもっと違う。この世界にいる自分はかりそめのもので、本当の自分はもっと気高い狼のような、もっと鋭さを持った存在。そう感じていたから、この名前は嫌いだった。
「おっと、怖い怖い。もうちょっとおしとやかにいこうよ。女の子なんだから」
「貴様も女だろうに」
「っと、藪蛇。てか冗談だよ、元帥。ね、だから怒らないで。あははー、笑っていこうよ。ほら。というわけで、うん。じゃあ僕様は帰るね。ではではー」
そのまま杏はドアから出て行こうとする。
その背中に声をかけた。
「待て。死ぬ前にこれだけは教えろ」
「怖いなぁ。一応聞いておくよ」
「そのオムカ軍を率いていた者の名前。それを教えていけ」
「あぁ、張人きゅんが恨めしそうに言ってたのを聞いたよ。なんでも相手もプレイヤーで、絶世の美女なんだって。名前は――」
そして杏はその名前を告げて――
「ジャンヌ・ダルク」
ドアが閉まった。
むしろ争いごとは嫌いだった。
おとなしい性格で、両親からはよく手のかからない子だったと言われた。学校でも誰と特に親しいわけでもなく、かといって誰に嫌われるものでもなく、誰からも等距離で無難な生活を過ごしていた。
そんな少女時代。
何事にも興味が持てなかったからかもしれない。
両親にも、友達にも、お喋りにも、学校にも授業にも部活にもお洒落にも遊びにも趣味にも夢にも未来にも――生きることすらも。
それが、この世界に来て変わった。
いや、押さえつけられていたものが解放されたというのだろうか。
初めて人を殺したのはこの世界に来て3日目だった。
正直もっと取り乱すと思ったけど、思ったのは1つ。
あぁ、こんなものかという失望。
それから帝国軍兵士となった自分は各地を転戦。
特に苦戦することもなかったのは、スキル『疾風怒濤』のおかげだろう。
そのスキルにしたのは、世界史の授業で習った時に、その和訳と語呂の良さを覚えていたからで、特に内容を見て決めたわけじゃない。
ただそのスキルは今や名前と効果を変えている。
そのスキルを選んだこと、それは成功だった。
いや、大いなる失敗の一歩目だったのかもしれない。
それから5年。
学生だった自分は、いつの間にか20歳を超えていた。
そして、この国の軍の頂点に立っていた。
帝国軍元帥。
それが自分の今の肩書。
正直、政治とか国の仕組みどころか軍事もよく分からないから、調練も補給も人事も何もかも誰かにやってもらう。
自分が与えられた仕事は1つだけ。
勝つこと。
それだけならば、自分でもできる。
誰よりも上手くやる自信がある。
だが、出来すぎてしまった。
出来すぎてしまったがゆえに、自分はこの地位にいて、そしてただ作業するだけのように敵を滅ぼすしかなくなったのだ。
自分が周囲に興味を持てなくなったように、世界が自分に興味を持てなくなったような感覚。
それが、今の自分の全てだ。
「元帥閣下。陛下に帰還の連絡をいたしますか?」
戦場から帰還した後、副官のボージャンがそう聞いてくる。
30代後半で何事もそつなくこなし、周囲に気が利く男だが、帝室を重視するきらいがあるため、こうしてめんどくさいことを言ってくる点が玉に瑕だった。
「いい。将校1人を送ってまた勝ったとでも言っておけ。今日は人に会う」
「……はっ」
ボージャンは少し納得いかないという風に、沈黙に反抗の意思を添えて元帥府から出て行った。
「ふぅ……」
上着を脱いで掛ける。
鎧を着るのも煩わしい。戦場ではいつも軽装だった。そして一度も傷を負っていない。
体に傷を負うのが嫌というわけではないが、痛いのをわざわざ進んでする趣味もないからどうでもよかった。
豪奢な部屋の中心にあるふかふかのソファー。
そこに体を投げ出して体を預ける。
そのまま目を閉じる。
眠るわけではない。
これまでの戦を振り返るのだ。
今回はビンゴ王国との戦だった。
西の戦線が押されているので援軍を求めてきたので、最初は蹴った。
「各地の戦線で押し返す、それこそが貴様らがいる意味だろう。第一、自分は帝都を守るための軍である。自分が出て皇帝陛下が危険な目に遭ったとなればどう責任を取るつもりだ?」
そうは言ったけど、本当はめんどくさかったのだ。
どうせまた自分が出れば勝負は決まる。それがつまらないと感じたのはいつだったか。
だから本当に危険になるまでは出ないつもりだったが、皇帝からの勅命という形で戦場に呼び出された。
誰かが裏で皇帝を操ったのだろうけど、その辺の政治ゲームはどうでもよかった。
またつまらない戦をするのだ。そう思うと暗鬱だった。
だから自分の旗下にして帝国最強の騎馬隊を称する5千を連れて西の戦線へと出かけたのだが、やはりというか退屈だった。
いや、これまでの相手よりはかなり善戦したと言ってもいい。
自分が突っ込むと敵はその勢いを殺して取り囲むようにしてきた。
十分に訓練されている兵の動きに少し驚いた。
だが自分が先頭に立って、包囲の一端を食いちぎると、敵は大慌てで後退。その先で守りを固めてしまい、戦線は膠着した。
それからなんとか敵を動かそうとする味方と、こちらの裏を突こうと陽動に陽動を重ねる敵の一進一退の攻防となった。
こちらは失いかけた地の利を奪い返したわけだから、よほどのことがなければ負けないだろう。そう見た自分は、敵の陽動部隊を2、3潰してそのまま誰にも言わず戦線を離脱した。
犠牲はなかった。傷を負った者が20名ほどいたが、戦線離脱するほどのものでもない。
現場の指揮官などは舌打ちしただろうが、そこらへんの対処はボージャンは心得ているだろう。
むしろあの敵にあそこまで押しまくられていたことへの、挽回のチャンスをお膳立てしてあげたのだ。そう思ってもらわないと困る。
だから退屈ながらも、少し手ごたえのある敵との戦いは、まぁそこそこに楽しめたというところか。
「元帥、おかえりー」
そんな自分の思考を断ち切るように、自室のドアが無遠慮に開いた。
そしてその声で誰が来たのかもわかる。
幼い少女の独特の舌足らずの高い声。
うざったらしいやかましさを持ちつつも、その天才的な閃きと果断な行動でこの帝国軍ナンバー2の地位にいる少女であり、プレイヤー。
長浜杏だ。
「あ、また寝てるし」
「寝てはいない」
目を開ける。
そこには覗き込むようにする杏の顔が大きく映っている。
「ですよねー。元帥は帰ってくるといっつもそうやって振り返るんだよね。あれ、なんか今回は少し機嫌良い?」
声で自分の機嫌をはかっているのか……。
少し気をつけようと思う。
「まぁ、な。西にも少しは楽しめそうなやつがいた」
「西、ってーとビンゴかぁ。そういえば去年、張人きゅんが勝ったり負けたりしたよねー」
「張人? きゅん?」
「あーほらー、やっぱり忘れてる。てゆうか興味なし? ほら、オムカ戦線で頑張ってるプレイヤーの」
「あぁ、いたな……」
「もう、駄目だよー、少しは他人に興味持たないと。てか元帥に覚えてもらえてないとか、きっと張人きゅんショックだろうなぁ」
いや、いる。
杏以外に1人だけ。
出会った時は強烈だった。
果てしない死の香り。
漆黒の暴力の気配。
濡れて乾かぬ血の匂い。
あれが敵だったら、と思うとこの自分でも身の毛がよだつ。
寄ってたかって時間切れまで粘ってなぶり殺すしか対処法は見つからない。
だがその間に、数百から1千ちかくの犠牲は覚悟すべきだろう。
そんな相手。
名前は、そう……立花里奈と言ったか。
「元帥、聞いてる?」
「ん……あぁ。そうだな」
といったものの全然聞いていなかった。
あの死を体現した少女のことを思うと、どうも血がさわぐというか。
「杏。どうだ? 自分と試し戦でもしてみないか?」
「冗談でしょう? そんなことしたら帝国は滅ぶよ」
確かに彼女の言う通りだ。
自分と彼女が争ったら、それこそ試しなんてことにはならない。
全力で勝ちに行く、つまり殺し合いになる。
どちらが勝つにせよ、帝国軍最強の一角が崩壊する。
仮にも自国が攻められている時にやることじゃない。
まぁ、仕方ないだろう。
「あ、そうだ。元帥。それなら南に行ってみたら? ちょっと面白い相手がいてさ」
そして杏は喋りだす。
張人とかいうプレイヤーと共に、災害による被害を受けたオムカ王国に攻め込んだこと。
弱った相手を徹底的に叩く。戦略として正しい。そして戦術としても及第点だ。尾田張人という人物。なかなか非凡な人間なのかもしれない。
だが、それをことごとく撃退した。
杏の率いる3千も、敵騎兵2千に妨害され戦局を動かすことはできなかったようだ。
その一部始終を聞いて、思った感想。
「……面白い」
久しぶりにその言葉を発した。
これほどイキの良い相手は久方ぶりだ。
しかもこれで万全の状態ではないのだから。
「あ、駄目だよ元帥。あれは僕様が先に見つけたんだからね。そりゃ自分の我がままを聞いてくれた元帥には感謝してるけどさ。それとこれとは別。それに元帥がそう何度も遠征されると、うちが舐められるんだよね。エイン帝国余裕なくないって」
「……仕方ないな」
「そうそう、元帥ってのはそうやってどっしり構えないと。ね、堂島――ミカンちゃん?」
途端、憤怒が体を満たす。
寝転がったソファからバネのように起き上がる。ゼロコンマ3秒。
そのまま杏の喉元目掛けて手を突き出す。ゼロコンマ2秒。
そしてその喉を握りつぶし――
「っ!」
なかった。
確実にとらえたと思った右手は空を切る。
いつの間にか杏は自分から5メートルは離れて、ドアの近くにいた。
杏のスキル。読まれた、か。
ただそれで怒りが収まるものでもない。
そのへらへらとした表情を見ながら、怒りをぶつける。
「私を、その名前で呼ぶな」
堂島美柑。
その可愛らしい名前が嫌いだった。
特に理由はない。
けど自分はもっと違う。この世界にいる自分はかりそめのもので、本当の自分はもっと気高い狼のような、もっと鋭さを持った存在。そう感じていたから、この名前は嫌いだった。
「おっと、怖い怖い。もうちょっとおしとやかにいこうよ。女の子なんだから」
「貴様も女だろうに」
「っと、藪蛇。てか冗談だよ、元帥。ね、だから怒らないで。あははー、笑っていこうよ。ほら。というわけで、うん。じゃあ僕様は帰るね。ではではー」
そのまま杏はドアから出て行こうとする。
その背中に声をかけた。
「待て。死ぬ前にこれだけは教えろ」
「怖いなぁ。一応聞いておくよ」
「そのオムカ軍を率いていた者の名前。それを教えていけ」
「あぁ、張人きゅんが恨めしそうに言ってたのを聞いたよ。なんでも相手もプレイヤーで、絶世の美女なんだって。名前は――」
そして杏はその名前を告げて――
「ジャンヌ・ダルク」
ドアが閉まった。
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