知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第16話 聖なる栄光

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「まったく……昨日は寿命が縮んだよ」

「ええ、でもどうにかなったから良いんじゃない?」

「そうかもしれないけどさ……」

「死ぬときは前のめり。ジャンヌが教えてくれた言葉よ?」

「いや、それもまた使い方が違うというか……」

 昨夜は大盛り上がりの酒宴だった。
 当初は歓迎の雰囲気を出しながらも間諜スパイを疑っていた様子の砦の守備隊長だったが、夕食の席でためしにアヤに歌わせると評価をガラッと変えた。

 彼女の歌で飲めや歌えやの大騒ぎになったのだ。
 それで誰も俺たちを疑いの目で見ず、ただの歌手とその護衛として厚遇してくれたのだ。

 これはまたアヤの歌の力か。
 以前聞いた時と違って、穏やかでかつ楽しくなるような旋律に乗せられた歌は、事情を知っている俺たちすらも少し陽気にさせたようだ。

 もちろん酒は断ったが、柄にもなくはしゃいだ気がする。

 帝都まで護衛をするという申し出を、他の街も見て回りたいので、というそれらしい言い訳で断って、こうして無事に帝都への道を進んでいるのだ。

「それにマネージャーの袖の下も効いたみたいだな。どの国も金か」

「見ていらしたんですね」

 マネージャーの女性、ホーマが鋭い眼光で睨みつけてきた。
 20代中盤から後半の額縁眼鏡が似合う、クールビューティーと言うべき女性。パンツスタイルのスーツを着せたらもっとマネージャーらしくなるだろう。うん、残念だ。何が?

「そりゃ、あのいかめしいツラした隊長さんが、あんたと握手した直後に笑顔になった。何をしたかは明確だね」

「…………」

「ジャンヌ、違うの、彼女は――」

「別に悪いとは言ってないよ。金で身の安全を買えるなら安いもんだ。後でマツナガに請求しといてくれ。うちはちょっとした小金持ちになったから、利子付けて返してくれるさ」

 それは本心だった。
 だがそれとは別に政治にかかわるものとして、これは見過ごせないと考える。

 賄賂が効く、ということは普段もあの隊長は賄賂を受け取っているということ。
 そもそも俺たちに北上の意思はないのは分かり切っているから、今ここの守備隊長なんてものは誰でもいいのだ。要は置物、要は閑職かんしょく、要は左遷だ。

 あの隊長としても不満が溜まっているのだろう。
 だから通行人に対して、職質をして賄賂をせびっているに違いない。

 もちろん、その程度の男だからこそここに回されたというべきなのだが、ここで問題なのはその隊長だけの話ではない。

 どんな国家でも、終焉は主に国の腐敗から始まる。
 ではその腐敗とは何か。

 トップの腐敗、役人の腐敗、軍の腐敗。

 その諸悪の根源となりうるのが賄賂だと俺は個人的に思っている。
 賄賂とは要は不平等の塊なのだ。

 賄賂で要職にありつけるとなれば、無能が国の重要な職種につくことにもなる。
 賄賂で便宜を図ってもらうために、無理な徴税をして民を苦しめることになる。
 さらに軍部などの治安機構にまでそれが広まれば、犯罪者も賄賂さえ払えば無罪になるから犯罪が横行し、かといって軍部はそれを取り締まらないから治安は悪化の一途をたどる。

 そうして上も下も国を維持する能力が下がっていく。
 さらに貧富の差が激しくなっていく。
 それが国が腐るということだ。

 そして腐った国は弱く、簡単に倒れる。

 中国四大奇書の『三国志演義』の後漢と『水滸伝すいこでん』の北宋など、それら国が腐って滅びたことを端的に分かりやすく描いたものだろう。

 閑話休題。

 つまり何が言いたいかというと、エイン帝国も同じような道を辿っているのではないか、ということだ。
 圧倒的な兵力と、宗教という二輪があるからなんとかもっているだけのことで。だがもし、そのどちらかが外れれば、いとも簡単に広大な版図を持つこの大帝国も倒れてしまうのではないか。

 このことは誰にも言えない。
 まだ確証もないし、すべて想像でしかないのだから。

 ま、それを探りにいくのもありだな。

「隊長殿、どうかしましたか? 難しい顔をして」

 色々考えが顔に出てしまっていたのだろう。
 クロエを中心にみんなが心配そうな顔を向けて来る。

「いや、結構のどかな雰囲気なんだなぁって」

 ごまかした。
 彼らには話すべき内容でもないから。

「ま、そうですねー、昼寝でもできそうです」

「ルック、そんなことしたら置いてくぞ」

「もう、ザインもそんなこと言わないの。ルックだって本気じゃないだろうし。それこそ貴方を置いてくわよ」

「じょ、冗談だよ、マール。そんな冷たいこと言うなよ」

 ザインが泣きそうな声でマールに食い下がる。
 その雰囲気に、おや? とちょっと思った。

「ふん、甘いな貴様ら。こんなの見せかけだけだろ。あんな小者の隊長にここら辺を守れるはずもない」

「うん、てゆうか人がいなさすぎるよね。ここってもう帝都領なんでしょ? なんで街どころか農村すらないの?」

 ほぅ。
 ウィットもクロエもなかなか鋭いところを突く。

 たしかにクロエの言う通り、数時間ほど馬を進めたが人っ子一人いない。オムカなら王都の近くにはあのおじいさんたちのような例外は除いて、それなりに田畑が見えたのだが。
 それでも、あの隊長がきちんと仕事をしてくれていればいいのだが、ウィットの言う通りだとすると――

「……っ! 隊長殿!」

 クロエが反応し、他の4人がそれに続く。
 ザインとルックがアヤの馬車についた。

 そこでようやく俺も何が起きたか分かった。前と後ろ。
 茂みに隠れていたらしく、30人ばかりの男たちに囲まれていた。

「おうおうおうおう、ここらを俺らの縄張りと知っての狼藉かぁ? 無事に通してほしけりゃ、金を払いなぁ! 俺たちこそは帝国を打倒する義軍『聖なる栄光ホーリー・グローリー』。その肥やしになるのだから満足するのだなぁ!」

 身なりも顔も良くない、頭も悪そうな男が凄みを利かせてくる。
 まったく神聖ホーリー栄光グローリーとは無縁の男たち。

 その男を含めて騎馬は3、後ろにも3。武器も装備はまちまち。よく見れば服装も新しいものそうだが、汚れるがままにしてあるから汚く見える。おそらく奪ったのだろう。

「噂をすれば、かよ!」

 くそ、どうする?

「ジャンヌさん。ここはわたしが――」

 御者をしていたマネージャーのホーマが声をかけてきた。
 金を払って通してもらおうということだろう。

「いえ、彼らには通じません。払ったところで身ぐるみをはがされるだけです」

 それでも終わらないだろうが、口に出すのもおぞましい。

「では……どうするのです?」

 そうだ、結局そこに行きつく。
 俺たち6人はそこそこ良い馬に乗っているから、逃げられる可能性は大いにある。だがそうなった場合、アヤとこのマネージャーは逃げられない。

 なら強行突破か、と思うがそれも難しい。
 こっちは戦える人間が5人しかいない。前方に戦力を集中すれば突破はできるかもしれないが、少しでも手間取ると背後から挟撃される。それよりなにより、今はアヤというウィークポイントがあるのだ。

 だから迷い、そしてそれが次第に自分の首を絞めていくのを自覚していた時だ。

「そこの人たち! 悪人ですね!」

「は!?」

 声がした。
 どこだ? 声はすれど姿は見えず。

「はっはっは、ここですよ! とぅ!! シュタッ!」

 賊が隠れていた草むらの反対側から影が飛び出した。
 てかシュタッって口で言ったよな。

 そこから現れたのは小柄な少女。
 赤髪のショートカットの小柄で、くりんとした瞳が印象的。ハーフパンツにショートブーツとかなりアグレッシブな感じの格好をしている。

「あなたたち、いたいけな女子供をかどわかそうとする、すなわち悪ですね! ならば私が退治します!」

 そう言って少女は、賊の頭らしき人物に指を突きつける。

 それが彼女――玖門竜胆くかどりんどうとの出会いだった。




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