知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第17話 正義と書いてジャスティスと読む

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「あなたたち、いたいけな女子供をかどわかそうとする、すなわち悪ですね! ならば私が退治します!」

 俺たちの前に立ちふさがった少女が、ビシッと指を盗賊たちに突きつけて言い切る。

 いたいけな女子供って……俺たちか?

「ええい、なんだ貴様は! 野郎ども、ぶっ殺せ!」

 おお、なんか定番通りのセリフに反応。
 じゃなくて! 危ないぞ、逃げろ!

「むむ! 問答無用というわけですか! ならば――正義ジャスティス!」

 少女は握った右こぶしに左手を当てる。そして左手を横に動かすと、その下からは緑の棒――いや、木刀だ――が姿を現した。
 手品のような手際。まさか――

「第三もん! 風竜かざりゅう!」

 木刀を構えた少女に10人ばかりが躍り出る。
 普通ならなぶり殺しに遭う数。
 だが――

正義ジャスティス!!」

 少女が発声と共に木刀を振るった。
 一閃。
 そして突風が吹いた。

「ぎゃあああああ!」

 襲い掛かった10人が、ワイヤーで吊っているのかと思うくらいド派手に吹き飛んだ。
 それを仲間の賊は呆然と見届けていた。

 もちろんそのチャンスを逃す俺ではない。

「クロエ、ウィットは前! ザイン、マール、ルックは後ろ!」

 それだけで彼らには十分だった。
 残った賊は、すっかり腰砕け。だからそこに猛者が踏み込めば後は散り散りに逃げるしかない。
 さほど深追いもせず、無傷で5人は戻ってきた。

 ふぅ……。
 大きくため息。とりあえず危機は脱した。それもこれもあの謎の少女のおかげだ。

「ありがとう助かっ――」

「近づかないでください! この悪の親玉!」

「はぁ!?」

「勝負はついたというのに、そこの武器を持った人たちを使ってなぶり殺しするとは……これこそ邪悪!」

 いや、殺してないからね。
 追い払っただけだからね。

 てかさっき俺たちのことか弱いって言ったよね? 主張がぶれぶれだった。

「えっと、それ剣じゃないかな?」

「これは木刀です! それに私は正義ジャスティスだから良いのです!」

 んな無茶苦茶な。
 てか木刀であんなことできるのってありえないだろ。

「すみません、隊長殿。ムカつくんで、とりあえずぶっとばしていいですか?」

「普通にダメだからね? ちょっと落ち着こうかクロエ」

「いいや、隊長。ここは奴の言う通りです。我らはともかく隊長を悪と言った所業、地獄で後悔させましょう! やれ、クロエ!」

「ウィット、お前なにあおってんの!?」

「へっへー、こういう時はウィット分かってるねぇ。じゃあ、やりましょうか!」

 クロエが馬から降り、腰に下げた双鞭そうべんを両手に持つと、ウォームアップのつもりか左右に何度か振る。
 恐ろしい風を切る音がした。

「む、その笑い。悪者の笑みですね! ならば正義ジャスティス執行! スキル『九紋竜くもんりゅう』!」

「ちょっ、待った……って、スキル!?」

 やっぱりこの娘、プレイヤー!?
 なんて戸惑っている間に、勝負は始まっていた。

「いっくぞぉ!」

 クロエが一直線に突っ込む。

「ちょ、クロエ手加減!」

 それだけ言うのが精いっぱいだ。

「無問題! 九紋竜形態変化チェンジフォーム、第一もん! 火竜かりゅう!」

 少女は木刀に左手を当てると、ゆっくり動かす。
 すると緑色だった木刀が赤色に変化した。

「そんな手品で!」

「いいえ、正義ジャスティスです!」

 意味が分からん。けど、何かヤバい。

「クロエ、待――」

 金属音。
 クロエの双鞭の一撃を、少女が木刀で受け止めたのだ。

「はっ、やる――え?」

 クロエが何かに気づいた。
 受け止められた双鞭と木刀がゆっくり動いている。
 それはまるでバターをナイフで切るように、ゆっくりと木刀が鞭を切り裂いていく。

 そして――

正義ジャスティス!!」

 スパン、とクロエの持つ鞭2つの上部が真っ二つに切り裂かれた。
 おいおい。あれ、鉄だよな……。

「あぁ! 私の愛しのジャンヌ(命名)とダルク(命名)がぁ!」

 おい。お前、なに武器に人の名前をつけてるんだよ。

「もうあったまきた! 鉄拳制裁!」

 クロエは双鞭をしまうと、徒手空拳で少女に打ちかかる。
 聞けばあの運動会でニーアに打ち勝ったとかいう話だ。相手が鉄をも切り裂く剣を持っていたとしても、相手にはならないだろう。

「むっ、なら――九紋竜形態変化チェンジフォーム!」

 少女は再び左手を木刀に当てる。
 すると色が変わる。黄色に光る木刀だ。

「第四もん! 雷竜らいりゅう!」

 少女は黄色の木刀を構え――突く。
 速い。
 だがそれをクロエは避ける。さらに突く。避ける。突く。避ける。

 雷光のごとき突きをひたすらに避けるクロエはもはや人間離れしている。

「む、やりますね。ではこれはどうです! チェストォォォ!!」

 大上段からの打ち込み。
 突きより遅い。
 だからクロエはそれを反撃の契機とした。

「そんなもの!」

 打ち下ろされた木刀を両手で挟み込む。
 白刃取りだ。

 そうなれば木刀を折るなり、さばいて懐に入り込むなりなんとでもなる。
 はずが――

「覚悟――ぎゃわわわわわわわ!」

 途端、クロエが何かに痺れたように体を痙攣けいれんさせ、そのまま崩れ落ちてしまった。

「ふっふっふ! これぞ第四紋・雷竜らいりゅうの真の強さ! スタンガン付き木刀の真価、すなわち正義ジャスティスなのです!」

「んな正義があるかぁ!」

 完全に暗器(隠し仕込んだ武器)じゃねぇか。反則だ。
 いや、別に試合じゃないからいいのか……じゃなく!

「さぁ、これで悪の1人は倒れました! さぁ、次はどの悪が正義ジャスティスされますか!?」

 くっ、マズイ。
 この中でトップクラスのクロエがやられたら他には……って、うん?

「わ・た・しの愛がこんなんでやぶれるかー!」

 クロエが不意打ちとばかりに、少女につかみかかる。
 そのまま彼女の後ろに回ると、首に腕を回した。

「さぁ、隊長殿! もうキュッとしちゃっていいですか? こう、鴨の首を絞めるみたいにキュって!」

「ううー、狸寝入りとは卑怯です! もっと正義ジャスティスしてください!」

「うるさいの! 隊長殿の前で変な声上げさせて……この恨み、はらさでおくべきかー!」

 ギャーギャーと騒ぐ2人を前にして、俺自身もどこか冷静さを失っていたのを自覚した。
 そして冷静になるとこの騒ぎに頭を抱えたくなる。
 まったく、こんなことしてる場合じゃないってのに。

「お前らいい加減にしろ!」

 これぞジャンヌ流スキル第四紋……雷親父! なんちゃって。
 いや、まだオヤジって年じゃないよ。本当だよ。

 なんか知らないけどどっと疲れた……。
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