知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話11 立花里奈(エイン帝国軍所属)

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「ジャンヌ・ダルク、ねぇ。ふざけた名前だ」

「プレイヤーなの?」

 後ろから問いが発せられる。誰かは知らない。知る必要もない。

「はい、それは確認済みです。そうですよね、尾田張人くん?」

「あー、そう来るのね。そういう話の流れなのね。はいそうですよっと。そして俺がそいつにボコボコにやられた尾田ですよー」

「申し訳ありません。そういう意味で振ったわけではないのですが」

「いいって別に。それを知られても俺の実力は変わんないわけだし? てか馬鹿にしたら殺すだけだし」

「できれば仲間内では勘弁してほしいのですが……」

「ま、いーけど。それより同兵力で軽くひねられた、おっさん少女大将軍の方が問題だよねー」

「おっさんじゃないー! 僕様はまだにじゅ――じゅうよんさいだもん! てか軽くひねられてもない! あれは様子見なの!」

 杏が張人に噛みつく。
 この2人、知り合いだったのか。

 ギャーギャーと左右で言い合いが続く。
 煌夜もそれを持て余しているようで、おさまりがつかなくなったころ、

「強いのか?」

 後ろから声。
 堂島さんだ。

 背中に伝わる圧が凄い。
 怒鳴るわけでもない叫ぶわけでもない、ただの煌夜への問い1つで、張人と杏の言い合いがストップした。

「杏から報告は受けた。興味深い。相当な戦上手に思えるが」

「弱くはありません。彼女のおかげでオムカ王国は独立しました。そして南部自治領も帝国から離れ、今ではオムカの属領扱いとなりましたから」

「厄介ということか、煌夜?」

「ぶー、元帥。僕様の獲物だって言ったじゃんかー」

 杏の静かな抗議。
 だがその疑問に煌夜は静かに首を振る。

「いえ、それほどではありません。いくら南部自治領を併呑したといえど、帝国に勝てる兵力ではありませんから」

「そうか……」

 それきり、背後からの圧と熱が急速にしぼんだようだ。
 興味を失ったのか、それとも闘志を内に秘めたのか。

 おかげで教会内はしんと水を打ったように静かになった。

「話を続けます」

 煌夜はこちらを見回してそう言った。

「今、そのジャンヌ・ダルクが帝都に来ています。彼女の仲間と共に」

「っ!」

 再び驚愕が走る。
 私にはかなりの衝撃。
 あの子が来ている。
 明彦くんに似た彼女が。

 会えるだろうか。
 いや、会いたい。会うしかない。会う以外の選択肢がない。どこにいるのだろう。今から行こうか。行こう。この会議が終わるのを待つまでもない。どこにいるのか分からないなら、煌夜を締めあげてでも居場所を吐かせる。ただそれだけ。

 そんな私の神経を逆なでする声が教会に響いた。

「はっはー、分かったぜ、コーヤ。お前はこういいたいわけだ。そのジャンヌ・ダルクって奴をぶち殺す相談だな?」

 後ろの方だ。
 誰かは分からない。

 だが――彼女を殺す。
 そう聞いただけで、何かがはじけた。

 頭が痛い。

 地面を蹴る。

 頭が痛い。

 疾走感。
 高い天井。それがすぐ近くにあり、体をひねり視線を移せば、眼下に長椅子が並び、10の人影が映る。

 頭が痛い。

 その中の1人に狙いを定めた。
 だらしなく足を前の椅子に放り出して深々と座る長身の男。ハット型の帽子を目深にかぶったまま、その男が今の言葉を吐いたのだ。
 堂島さんも似たような発言をしていたが、頭が痛くなることはなかった。
 その軽薄さが、遊びのように彼女を殺そうとする雰囲気が、殺意が余計に溢れだしていく。

 それを一瞬で理解した。

 頭が痛い。

 足の裏を天井のはりに接地させ、刀を抜いた。

 これがそもそもの元凶。
 私をおかしくした元。

 けど今は、それに感謝している。

 だって、彼女を○そうとする奴を○すことができるんだから。
 そしてこれを握っている間は頭痛から解放される。

 頭が――快感。

「あはっ!」

 だから笑った。

 笑って、梁を蹴った。
 足場が砕ける。けどその分の加速は得た。
 目標は帽子の男。

 行った。

 衝撃。破砕。破壊。
 だが、そこに人体はない。
 無機物の椅子が砕け散るだけだ。

「あぁん? てめぇ、何しやがんだ!」

 声。帽子の男。生きている。それだけで十分だ。
 ぶち○すには、充分な理由。

「死ね、このクソアマ」

 男がどこから取り出したのか、手に持った拳銃をこちらに向ける。
 遅い。その前に、私がお前を○す。

 だから握った刀を男に向かって突き出そうとして――

「そこまで!」

 止められた。
 渾身の力を込めて突き出した刀を。

 普通なら肉を貫き、血管を切り裂き、細胞を破裂させ、根元から吹き飛ばすほどの威力を込めた突きを。
 素手で。しかも片手で。

 私と帽子の男の間に入った、シャツ姿の眼鏡をかけた優男やさおとこ
 男は、腕を左右に広げるようにして、右手が私の刀の先端を、左手が帽子の男の拳銃の銃口を握っている。

 何で止められたか。分からない。
 いくら力を入れようとも、いや、そもそも力が入らない。ちょっと動かせば、この優男の腕一本吹き飛ばすことなんて簡単なのに。なぜ動かない。

「よぉ、諸人もろびとさんよぉ。俺の相棒をクソを拭いた汚ねー手で触んないでもらえますかねぇ……」

「すまないな、キッド。だが仲間で争う場ではないだろう」

 諸人と呼ばれた優男が、帽子の男――キッドという名なのか――をなだめる。

「仲間ぁ? いきなり刀ぶん回す女なんざ仲間にもならねぇよ。しかもそいつ、噂じゃあ味方殺しの狂人だろうが」

「キッド。言葉に気をつけなさい」

「はぁ? 喧嘩売ってきたのはあっちだろうが! どけ。さもなきゃ、あんたでも容赦しねぇぞ?」

「仕方ありません……」

 キッドと名乗る男が動く――その前に諸人が動いた。掴んだ拳銃を放すと、そのまま滑らせるようにキッドの腕に沿って動く。
 そして諸人の左手がキッドの胸部に達した時、

「『私の言葉を聞きなさいヴォクス・デイ』!」

 電撃が走った気がした。
 キッドと名乗る男は、何か衝撃を受けたようにその場で何度か痙攣すると、やがて糸の切れた人形のようにその場で長椅子にもたれるように仰向けに倒れた。

 何をしたのかは分からない。
 けど何かスキルを使ったのだろうことは想像できる。

 諸人は深くため息をつくと、構えを解いてこちらに向き直り、

「立花里奈さん、でしたかな。すまないが彼の無礼はこれで収めてもらえないか」

 何故か諸人がそう言って頭を下げる。
 刀からも手を放していた。

 ちょっと振れば、この男の頭は落ちる。
 けど、もうそんな激情は通り過ぎていた。頭痛も引いていた。

「ええ、構いません。私も、これ以上……騒ぎを大きくしたくないので」

 完全に気絶しているらしい、キッドと名乗る男を見たが、怒りも何も感じない。
 どうでもいい。

 だから刀を収めると、回れ右して自分の席に戻る。視界の端で張人がやれやれといった様子で肩をすくめていたのが、若干気に障った。

「仲裁ありがとうございます、諸人さん」

 煌夜がホッとした様子で諸人にお礼を言った。

「なぁに。ちょっとしたお節介さ。君ならもっと簡単に止めただろう?」

「買いかぶりですよ」

 煌夜が苦笑する。
 嘘を言っている。なんとなくそう思う笑みだった。

「安心してください、里奈さん。私たちは彼女に危害を加えるために集まったのではありません。私は彼女を味方に引き入れたいと思っています」

 集まった人たちのざわめきが響く。
 それを知っていた者、知らない者、何か予測をしていた者。それぞれがそれぞれの思惑に頭を働かせる。

 私には分からない。
 というよりどうでもいい。それでも私は彼女に会いに行くのだから。邪魔をすれば○すだけのこと。

「里奈さん、あまり殺気をばらまかないでいただけるとありがたいのですが」

「それはあんた次第よ」

「私が彼女の居場所を探り当てます。それまでは大人しくしていただけませんか。必ず貴女とは話す場を設けさせていただきます。この広い帝都。無為無策に探すよりは得策だと思いますが」

 それは、確かに。
 この帝都、東京とまではいかないけど、かなりの広さがある。その中で人間1人を闇雲に探すなんて、砂漠で針を探すようなものだ。

「分かったわ。じゃあ任せる」

「ええ、必ず里奈さんの期待に沿うよう努力しますとも。ただ、後でまた少し調整――いえ、お話をさせていただきますか。そのジャンヌ・ダルクという人を少し知っておきたいので」

 そう言われても私はほとんど知らない。明彦くんのことを言うわけにはいかないから、何を話せばいいのか。でも彼と話すと頭痛が少し和らぐ。
 だからとりあえず後で訪問しようと思った。

「彼女を手に入れれば、我々の目的が叶うのも目前です。そのためには是非、皆さんの力を貸していただきたい。そしてその一番手となるのが――仁藤にとうさん。お願いできますか」

「ん? ああ、ボク? へっへ。はいよ、任された。ってことはボクのやり方でやっちゃっていいってことだね?」

「ええ。期待してますよ」

「んじゃあ何人かちょっち選ばせてもらって、ふふふ。楽しいゲームの始まりになりそうだ」

 正直、何を企んでるのか知らない。どうでもいい。
 探してくれるというのなら、出会いをセッティングしてくれるというのなら、少し待ってみよう。

 彼女と会える日を、一日千秋の思いで待ちわびた。
 それがあと数日で叶うのだ。
 こんなに嬉しいことはない。
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