知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
264 / 627
第3章 帝都潜入作戦

閑話32 長浜杏(エイン帝国大将軍)

しおりを挟む
 目が覚めた。
 天幕。そして、武骨な男たちの顔が出迎えた。
 寝起き、最悪。いや、そんなことはどうでもいい。

「今……何時? いや、僕様はどれだけ気を失っていた?」

「およそ、2時間ほどです」

「そうか……うっ!」

 起き上がろうとしてくらっと来た。そして痛み。
 見れば上着は脱がされ右肩には包帯が巻かれて、それが赤く染まっていた。

「大将軍様! 無理をなさらず!」

「いい。問題ないから。これは?」

「失礼と思いましたが、お召し物を脱がさせていただき手当をいたしました」

 女性士官の1人がそう言って頭を下げた。

 そうだ思い出した。1万5千で押し包んで、このまま敵を殲滅できる。そう思った瞬間、男が目の前に来た。
 異様に目をギラギラさせた男。
 あの男が指揮官。
 部隊の動かし方で分かっていた。5月に相手をした将だ。
 きっと相手も気づいただろう。
 だから僕様を殺そうとした。

 今さらながらに震えがくる。
 あと少し、あの男の剣がずれていたら自分はどうなっていたのか。

「あの男は……? 敵の指揮官はどうなった?」

「はっ……重傷を負わせましたが……その……」

「逃がした?」

「はっ、申し訳ありません!」

「謝罪はいいよ。僕様が指揮をとれなくなってたのも悪い。事実だけを告げて」

「はっ! 離脱した敵の2千が戻り、包囲網を外から破られました。中の1千に意識がいっていたため、奇襲同然の攻撃に耐えられず突入を許してしまいました」

 離脱した2千が戻ってきた?
 そうだ。てっきりあの指揮官を含めた1千は捨て石になるつもりだと思った。それで本隊と騎馬隊2千を逃がすのだと。
 その覚悟もさることながら、結局歩兵部隊は足止めをくらい、1万5千の騎馬隊も言いように翻弄ほんろうされた事実。
 だからあの指揮官は、次のために必ず殺さなければならないと思い、罠にめたわけだけど……。

 離脱した2千は、1千を見殺しにすることができなかった、というわけか。

「それで、逃げられたんだ……」

「申し訳ありません……」

「だからいいって。それで? 戦況は? あと被害報告」

「はっ! 敵はウォンリバーを背にして陣を組んでおります。その数およそ1万」

「減ったね」

「最初に歩兵で押せたのと、最後に騎馬隊を多く討てたのが大きいかと」

 ふーん。あの指揮官を仕留め損ねたのは残念だけど、その損害ならもう出てこれないかな。

「それで味方は?」

「はっ、歩兵が1千2百。騎馬隊が425、大将軍様直属からは27名です。現在兵力は4万5千となります」

「分かった。この戦が終わったら名簿見せて。さて……」

 起き上がる。
 右肩が突っ張った感じ。それ以外は問題ない。

「マントを!」

「だ、大将軍様! まさか出陣を!?」

「当然。敵は背水で追い込まれているし、まだ陽はある。ここで攻めなきゃ、相手は逃げるよ」

「し、しかし……そのお体では」

「肩が動かなくても指揮はできる!」

 そうだ。あと一押しで勝てる。
 逆にここで手をこまねけば、相手に再起の機会を与えてしまう。

「しかしユイン将軍もおっしゃっていたではありませんか……ここは引き分けでも良しとすべきと」

 その言葉に、一瞬思いが飛んだ。

『大将軍様……相手には魔の物がおります。あれはまともに戦ってはなりません。必ず……貴女様にも、災いをもたらします。ここは無念ですが、引き分けに持ち込みますよう……』

 昨夜の火災でユインは大火傷を負い、後方に運ばれていった。静かなたたずまいにすっきりとした容貌で帝都でも人気の高かった男が、髪は燃え、肌は焼けただれて目をそらさないでいるのが難しいくらい。
 正直、死ななかったのが奇跡のような状態だった。

 サジが死に、ユインが離脱した今、人手不足に陥っていた。
 2千を指揮する人間は多くいるけど、それ以上の兵を動かす人間がいない。

 まさかあの時会ったあの少女が、これほど悪辣あくらつな戦い方をしてくるとは夢にも思わなかった。
 そしてその少女と戦えることを、少し嬉しく思ったのも嘘のようだ。

 今は、ただ憎しみしかない。
 サジを殺し、ユインに重傷を負わせただけではない。2万近い兵を死傷させ、さらにはこの僕様の体とプライドを大いに傷つけたジャンヌ・ダルクを許すわけにはいかない。

「7万連れて行って2万の敵と引き分けろって? 冗談。ここで退いたら負けだよ」

「は……はっ!」

「出陣し、そしてオムカ軍を蹂躙じゅうりんする! すぐに兵をそろえて!」

「ははっ!」

 将たちが陣幕から出て動き出す。

 見事なものだよ、ジャンヌ・ダルク。
 けどそれももう終わりだ。遊びの相手としては楽しかったけど、ちょっとおいたが過ぎた。
 さすがの僕様もいい加減、怒り心頭、怒髪天を突くってやつだよ。

 4万に踏みつぶされて圧死するか、河に落として溺死するか。
 それとも捕まって生き恥をさらされた上で首を落とされるか。

 冷静になれ。
 そう必死に押しとどめる自分がいる。

 けど無理。
 もう殺す。
 激情のまま殺す。それが軍として当然の在り方だ。

 だからあとは圧倒的な数の暴力で攻め立てるのだ。
 果たしてあっちはどんな手を打ってくるのか。

 さぁ、最後の戦の始まりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...