知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第48話 軍師と策士の化かし合い

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「尾田、張人!」

 相手の視線に負けないよう、腹に力を入れて叫ぶ。
 口を曲げていびつに笑った尾田張人は、両手を広げて、

「よく覚えてくれました。はくしゅーパチパチ」

 本当に拍手してるし。

 いや、これがこいつのペースだ。
 そうやってふざけているように見せて、どこかで急所を突いてくる。

 油断は、厳禁だ。

「何しに来やがった」

「そうツンケンすんなよ。今日はやり合いに来たんじゃねぇっつーの」

 尾田張人はため息をついてぼりぼりと頭を掻く。
 その行為がわざとらしく、それでいて自然で、要はうさんくさい。

「信じられるわけ、ないだろ」

 こいつが何をしてきたか。
 どこに所属しているのか。
 忘れるわけがない。

「あぁ、そういやなんか殺されたんだっけ? そっちの軍の偉い人」

 こいつ。おちょくってるのか。
 駄目だ。俺の中の感情が、溢れだして止まらない。

「お前ら――」

「あー、怒んなよ? あれ、俺カンケーないから」

 俺の言葉を遮るように、尾田張人は先に弁解を始める。
 その態度が、俺の神経を逆なでする。

「どの口が――」

「それに俺。もう帝国の人間じゃないから」

「え?」

 帝国の人間じゃない?
 なら……いや、信じるな。
 こいつは人を操るとかいうスキルを持つ。
 ということはスキルを使わずとも、もともとそういった性質を持っていると思った方がいい。

 こいつの言葉には、虚実が入り乱れている。

「ま、信じる信じないはどうでもいいよ。俺は忘れ物、届けに来ただけだからさ」

「忘れ、物?」

「そ。これ――返すから」

 尾田張人が傍にある長椅子を示す。
 ここからでは見えない。
 意を決して俺は尾田張人に近づく。
 そして示された長椅子。そこに何かある。

 人間大の――いや、人間だ。
 そしてそれは俺の見間違いでなければ、俺の良く知る存在で――

「里奈!?」

 里奈だ。
 月明かりでも分かるほど薄汚れた服で、髪の毛もぼさぼさになっているけど間違いなく里奈だ。
 寝ているのか気を失っているのか、ぴくりとも動かない。

 いや、待て。
 なんでここに里奈がいる? いるわけがない。だって、里奈は帝都で……。

「どういう、ことだ」

「だから返すって言ったじゃんか。……いや、返すじゃないな。貸しとくって方がいいな」

「何が、狙いだ?」

「ん?」

「里奈がここにいるわけない。ならこれは罠だろ。お前の目的はなんだ? 俺をここに呼び出して殺すことか? それとも里奈を人質にオムカに降伏させるつもりか? それとも――」

 だが最後まで言葉は出なかった。
 その前に、1つの衝動が教会を包んだからだ。
 その衝動とは。

「ぷっ……あはははあははは!」

 暗闇の教会に響く笑い声。
 尾田張人が腹をかかえて、笑声をぶちまける。

 なんだ。何をそんなに笑う。

 ようやく笑い声が小さくなり、涙をぬぐいながら尾田張人は俺に向かって言った。

「いやー、さすが。頭の回転早いね。そこまで読み取るとは。でも残念。君の推理は大外れ。深読みのし過ぎ。軍師辞めたら?」

「なにが、だよ」

「まったく、せっかく俺が善意でリーナちゃんを救い出してあげたってのに。これだから疑う事しかできない人間は哀しいねぇ」

「救い出した?」

「そ。なんでか知らないけど、地下牢に入れられてたんだよ。あの赤星煌夜に」

「あの、男」

 生きていたのか。
 いや、里奈が生きているということはそういうことだ。
 里奈があの男を殺していたら、そのまま自死を選んでいただろう。あの時の里奈はそれほど思い詰めていた。

「きっとお前ら関連だろ。王都にいたって聞いたし。それにその後に起こったことを考えれば。で、留守番も暇だし、なんかリーナちゃんが捕まってるって噂聞いて。それで……まぁ色々あってこうなったわけだ」

 色々? 
 てかなんか違和感。

 里奈が――リーナちゃんとかって親し気に呼んでるのはとりあえず置いておくとして――なんか、こいつの行動がおかしい。

 帝国でも将軍に列せられたほどの男だ。
 なのに留守番? そういえばこいつが出てきた気配はなかった。
 また、こいつが噂で動くような簡単な人間か?
 それに加えて、色々あったって……都合の悪い部分を省略したのか。

 そこまで聞いて、1つの仮説が浮かんだ。
 当たってる確率は低いけど、もし本当なら相当面白いことになる。

 これまでなんだかんだ振り回してくれた礼も出来るだろう。

 だから言った。

「つまりお前はあれだ。蚊帳かやの外に置かれてたってことだ。それでムカついて里奈を連れ出した、と。ガキかよ」

「はぁ? ちげーし。全然地球が終わってもちげーし。そんな独りよがりな妄想考えて恥ずかしくないのかよ。はっ、何が天才軍師だ。ただの当てずっぽうな誇大妄想のちんちくりんじゃねーか」

 っと、どうやら図星らしい。
 弱点見っけ。

「なにが誇大妄想だ。お前みたいなやつこそ恥ずかしいだろ。宣戦布告とか格好つけてやっておいて、帝国から逃げ出した? はっ、道化だな」

「てめぇ……マジ殺してやろうか」

「殺せるものなら殺してみろ。お前に行き場はない。里奈を連れてどこに行く。困るのはお前だろ?」

 沈黙。
 にらみ合う。

 折れたのは意外なことに相手だった。

「ちっ、これだからてめぇみたいな口で生きてるやつとは話が合わねぇ」

「こっちもお前みたいに適当に生きてるやつとは話が合わないよ」

「ふん。なんとでもいえ。とにかく用はそれだけだ。これ以上話してると本当に殺したくなるからよ。じゃあな。ちゃんと後で返せよ」

 それだけ言うと、尾田張人は俺の横を通り過ぎ、そのまま背を向けて扉の方へと歩き出す。
 あの男。
 去年会った時は何かが違う。そんな気がした。

 きっとそれは、1つの物事によるものじゃないのか。
 これも推測。
 あてずっぽうより酷い、軍師がするべきではないもの。
 希望的観測といったものだ。

 それでも、そうと思ったら言わずにはおられない。
 だからその背中に声をかけていた。

「おい。行くところがないならうちに来るか?」

 何を言っているんだ、とは思う。
 こいつはオムカを潰そうとした相手だ。
 仲間を何人も殺した相手だ。

 けど、どこか憎めない。
 分かってる。

 地下牢の里奈を救い出した? 何のために。
 そのために帝国を裏切った? 何のために。
 里奈をここまで連れてきた? 何のために。

 将軍という立場にいたのに、それを捨てた。
 帝国にいれば元の世界に戻れる可能性が一番高いのに。それを捨てた。

 何のために。

 こいつもそうだ。
 きっとそうだ。

「里奈も、そうして欲しいんじゃないのか」

 同じ女性に恋をした男として、俺はこいつにどこか親しみを感じているのかもしれない。

「…………」

 再び沈黙が支配する。
 そして尾田張人が口を開く。

「誰がお前のところなんか。知ってるか? 俺はお前を恨んでるんだぜ。去年、俺に恥をかかせてくれたからな」

「ふん、それはお前が独りよがりで弱かったからだろ」

「……ちっ、減らず口を」

「生憎、口が俺の商売道具だからな」

「地獄に落ちろ」

「お前がな」

「…………」

「…………」

 再び沈黙。

「…………ふん、じゃあな」

 これ以上は無意味と悟ったのか、あるいはどうでもいいと思ったのか。
 ぷいっと視線を外した尾田張人は、振り返ることもなく歩き出す。

 なんだか小憎らしい態度で、俺は最後に悪態をつくことにした。

「1つだけ言っとく」

「……」

「次、里奈をリーナちゃんって呼んだら、殴る」

 返事は、右手の親指を下に。
 キザったらしいことしやがって。

 教会の扉。
 その境界線を尾田張人は超えた。

 クロエは何もしない。
 きっと俺が何も言わないから黙って通したのだろう。

 とにかくその姿が闇の中に消えて、俺はようやく体の力を抜いた。

 ……そうだ、里奈!

 我に返ったように思い出し、里奈に駆け寄る。
 眠っている。生きている。

 嘘じゃない。夢じゃない。偽物でもない。
 里奈が、立花里奈がここにいる。

 もう二度と会えないと思っていた。
 もう死んでしまったと思っていた。

 そんな存在が、こうして無事に姿を見せているのだから、この世界もまだ捨てたものじゃないと感じてしまう。

 この世界。
 その行く末を決めなければならない。
 決断はもうすぐそこにある。

 けど、今はそんなことはどうでもいい。
 里奈がいる。それだけで、今は何もいらない。

 だから俺は、いつまでも里奈の隣に座り込んでいた。

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3章完結…間近です。
ここまで読んでいただいて、大変ありがとうございます。ただもう少しだけお付き合いください。

いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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