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第4章 ジャンヌの西進
第8話 ジャンヌ・ダルクの旗
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馬で王都から出て草原を走る。
走るといっても疾走ではなく、軽く駆けるくらいのスピードだ。
「た、隊長……私なんかがいいのでしょうか……」
「大丈夫大丈夫、何かあったらこのクロエがなんとかするから! ね、隊長殿!」
「ん……まぁそうだな」
「う、うぅ……はい」
護衛につくのはクロエとマールだ。
本当はもっと護衛を、という話だったがあまり多く連れていくと相手を警戒させるし、女子だけの方が油断するだろう。
クロエはいつも通りとして、マールはあまりこういうことに慣れていない感じだ。
そもそも部隊長に抜擢された時もおろおろしていたし、帝都潜入の時も自信なさげだった。
それでも、彼女は適任だった。
というか多分この中で一番政治が高いんじゃないかな、と思っている。
個性派ぞろいの部隊をまとめあげたり、宿の手配や諸事抜かりないところが彼女のその力量を示している。
彼女に足りないのは経験。だからこその抜擢だ。
それに、あまり放っておくとふさぎ込みそうで、少しはこき使ってやろうという思いもあった。
「マールはいつも通りしてくれてればいいから。とりあえず自分の命を最優先して」
「は、はい!」
「そうそう! 隊長殿はこのクロエが全力で守りますからね!」
「はいはい、頼りにしてますよ。ただ俺が良いって言うまでその双鞭は抜くなよ?」
「うふふー、どうですかねー。隊長殿に買ってもらった、『ジャンヌ・マーク2』と『ダルク・セカンド』は血に飢えてるのですよー」
物騒だな。
てか名称統一しろよ。
「言うこと聞けないなら置いてくからな」
「あうー! 冗談です! クロエはちゃんと言うこと聞くいい子です!」
いい子って……お前、今の俺より年上だよな?
「あー、マール。というわけでこいつの世話も頼む」
「よろしくね、マール!」
「は、はい……自信ないですけど……」
なんて会話をしながら、進路を北東にとって3日。
途中の村で休憩を取りながらたどり着いたのは4日目の午後だ。
「隊長、あれのようです。問題の中心人物、ブソン卿のいる領地というのは」
そもそもオムカ王国に爵位というのはないらしい。ただオムカ王からどこぞの領地をもらい、そこの支配権を得る代わりに年貢を出すというシステムとなっている。
一応、卿という尊称がつけられるようだが、要はただの土地の有力者でしかない。
つまりオムカ王国とは各地の豪族を支配する大領主という意味合いが強い。
それがエイン帝国に支配されることにより、ほぼ王都バーベル近郊のみの支配権となり、豪族への支配権はかなり弱体化した。
その後、オムカ王国の独立により各地の豪族に再び支配権を確立していったが、それはやはり、
『これまで帝国の犬だったやつが今さら何の用だ』
という感が強く、現状も絶対的な支配権は確立していない。
そのため、本来なら彼ら豪族から兵を徴集してエイン帝国と戦うはずだったのが、独自の軍隊で戦うを余儀なくされたわけで。
とはいえそこにはメリットもあった。
敗北イコール滅亡という軍は士気が高く、その戦闘能力は折り紙つきと言ってもいいだろう。帝国時代の負の遺産で、唯一のメリットだ。
とにかく、そういう背景のため、彼らはまだ独立領主という立場を捨てきれていない。
けど、今はそんなことを言っている場合じゃない。オムカに住むすべての人間が力を合わせないとエイン帝国には勝てないのだ。
だからこの交渉は、相手の謀反を思いとどまらせる以上に、どれだけこちらに引き込ませることができるか。
そこが争点になってくる。
「っし、行くか」
気合を入れ、馬に備えていた旗を取り出す。
それはいつものオムカの旗――ではない。
青を基調としているものの、銀の縁取りなどかなり豪華になっている。
何より意匠が違う。
「お、それが女王陛下より賜れた旗ですか」
「ああ、これが噂の」
そう、これこそが俺――ジャンヌ・ダルク専用の旗。
出発の直前にマリアから渡されたのだ。
『俺の旗?』
『うむ! いつまでもオムカの旗というのも味気ないからの。ジャンヌの、ジャンヌによる、ジャンヌのための旗じゃ! ニーアと図柄を決めたのじゃぞ!』
『これは……俺?』
馬上で旗を振る俺の影が旗にでかでかと描かれている。
てかどこかファッション会社のロゴみたいだ。
『本当はジャンヌの似顔絵と迷ったんじゃがの』
『全力でこっちで』
ということで、俺専用というちょっと恥ずかしいけどテンションの上がるプレゼントがあった。
さすがに俺の筋力に合わせてか、少し小さめに作られているがそれでも重い。
だから馬の鞍には補助パーツが備え付けてあり、そこに旗の石づき部分を収めると右肩に立てかけるだけで旗を掲げることができるのだ。
うぅん、いいんじゃない。
やっぱ男は専用機とかオリジナルとかって言葉に弱いよなぁ。
とにかくそれでテンションもちょい上がりのまま、敵地とも言える領内に入っていく。
相手側ももちろん俺たちのことを掴んでいるのだろう。
数分としないうちに前方に騎馬軍が現れ――50騎ほどか――俺たちの行く手を塞いだ。
すぐにクロエとマールが俺をかばうように前に出る。
「ブソン卿の領内に押し入る貴様らは何者だ! 答えなければ斬って捨てる!」
騎馬隊の先頭にいる大柄の男が大声をあげる。
威圧するような、どこか傲慢さをかもしだすその雰囲気に、嫌悪感を抱く。
おそらくブソンの私兵だろう。
ただすぐに襲いかかってくるわけではないと分かったので、俺は2人の間から前に出る。
「私はオムカ王国軍師ジャンヌ・ダルク。ブソン卿への取り次ぎをお願いしたい!」
俺の名前にどうやら相手は反応をした。
誰もが顔を見合わせてこちらの様子をうかがってくる。
隊長格らしき大男は、しばらくの逡巡の後、
「し、しばし待たれよ!」
そうなるよなぁ。アポもないし。
けどここは畳みかける場所。
だから腹に力を入れて叫ぶ。
「待つ必要はない! それとも貴君はたった3人の女子に恐れをなしたとでも言うのか!」
豪族の私兵が好き勝手やっている、という情報は掴んでいる。
そんな連中だから相応にプライドが高いはずだ。
だからこんな風に言われれば、必ず乗ってくるに違いないと踏んでの言葉だった。
それを裏付けるように、相手は苦虫を噛み潰したような表情で、
「わ、分かった。ついて参られよ……」
よし、まずは先手を取った。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。
領主のブソンとやらの顔を拝ませてもらおうじゃないか。
走るといっても疾走ではなく、軽く駆けるくらいのスピードだ。
「た、隊長……私なんかがいいのでしょうか……」
「大丈夫大丈夫、何かあったらこのクロエがなんとかするから! ね、隊長殿!」
「ん……まぁそうだな」
「う、うぅ……はい」
護衛につくのはクロエとマールだ。
本当はもっと護衛を、という話だったがあまり多く連れていくと相手を警戒させるし、女子だけの方が油断するだろう。
クロエはいつも通りとして、マールはあまりこういうことに慣れていない感じだ。
そもそも部隊長に抜擢された時もおろおろしていたし、帝都潜入の時も自信なさげだった。
それでも、彼女は適任だった。
というか多分この中で一番政治が高いんじゃないかな、と思っている。
個性派ぞろいの部隊をまとめあげたり、宿の手配や諸事抜かりないところが彼女のその力量を示している。
彼女に足りないのは経験。だからこその抜擢だ。
それに、あまり放っておくとふさぎ込みそうで、少しはこき使ってやろうという思いもあった。
「マールはいつも通りしてくれてればいいから。とりあえず自分の命を最優先して」
「は、はい!」
「そうそう! 隊長殿はこのクロエが全力で守りますからね!」
「はいはい、頼りにしてますよ。ただ俺が良いって言うまでその双鞭は抜くなよ?」
「うふふー、どうですかねー。隊長殿に買ってもらった、『ジャンヌ・マーク2』と『ダルク・セカンド』は血に飢えてるのですよー」
物騒だな。
てか名称統一しろよ。
「言うこと聞けないなら置いてくからな」
「あうー! 冗談です! クロエはちゃんと言うこと聞くいい子です!」
いい子って……お前、今の俺より年上だよな?
「あー、マール。というわけでこいつの世話も頼む」
「よろしくね、マール!」
「は、はい……自信ないですけど……」
なんて会話をしながら、進路を北東にとって3日。
途中の村で休憩を取りながらたどり着いたのは4日目の午後だ。
「隊長、あれのようです。問題の中心人物、ブソン卿のいる領地というのは」
そもそもオムカ王国に爵位というのはないらしい。ただオムカ王からどこぞの領地をもらい、そこの支配権を得る代わりに年貢を出すというシステムとなっている。
一応、卿という尊称がつけられるようだが、要はただの土地の有力者でしかない。
つまりオムカ王国とは各地の豪族を支配する大領主という意味合いが強い。
それがエイン帝国に支配されることにより、ほぼ王都バーベル近郊のみの支配権となり、豪族への支配権はかなり弱体化した。
その後、オムカ王国の独立により各地の豪族に再び支配権を確立していったが、それはやはり、
『これまで帝国の犬だったやつが今さら何の用だ』
という感が強く、現状も絶対的な支配権は確立していない。
そのため、本来なら彼ら豪族から兵を徴集してエイン帝国と戦うはずだったのが、独自の軍隊で戦うを余儀なくされたわけで。
とはいえそこにはメリットもあった。
敗北イコール滅亡という軍は士気が高く、その戦闘能力は折り紙つきと言ってもいいだろう。帝国時代の負の遺産で、唯一のメリットだ。
とにかく、そういう背景のため、彼らはまだ独立領主という立場を捨てきれていない。
けど、今はそんなことを言っている場合じゃない。オムカに住むすべての人間が力を合わせないとエイン帝国には勝てないのだ。
だからこの交渉は、相手の謀反を思いとどまらせる以上に、どれだけこちらに引き込ませることができるか。
そこが争点になってくる。
「っし、行くか」
気合を入れ、馬に備えていた旗を取り出す。
それはいつものオムカの旗――ではない。
青を基調としているものの、銀の縁取りなどかなり豪華になっている。
何より意匠が違う。
「お、それが女王陛下より賜れた旗ですか」
「ああ、これが噂の」
そう、これこそが俺――ジャンヌ・ダルク専用の旗。
出発の直前にマリアから渡されたのだ。
『俺の旗?』
『うむ! いつまでもオムカの旗というのも味気ないからの。ジャンヌの、ジャンヌによる、ジャンヌのための旗じゃ! ニーアと図柄を決めたのじゃぞ!』
『これは……俺?』
馬上で旗を振る俺の影が旗にでかでかと描かれている。
てかどこかファッション会社のロゴみたいだ。
『本当はジャンヌの似顔絵と迷ったんじゃがの』
『全力でこっちで』
ということで、俺専用というちょっと恥ずかしいけどテンションの上がるプレゼントがあった。
さすがに俺の筋力に合わせてか、少し小さめに作られているがそれでも重い。
だから馬の鞍には補助パーツが備え付けてあり、そこに旗の石づき部分を収めると右肩に立てかけるだけで旗を掲げることができるのだ。
うぅん、いいんじゃない。
やっぱ男は専用機とかオリジナルとかって言葉に弱いよなぁ。
とにかくそれでテンションもちょい上がりのまま、敵地とも言える領内に入っていく。
相手側ももちろん俺たちのことを掴んでいるのだろう。
数分としないうちに前方に騎馬軍が現れ――50騎ほどか――俺たちの行く手を塞いだ。
すぐにクロエとマールが俺をかばうように前に出る。
「ブソン卿の領内に押し入る貴様らは何者だ! 答えなければ斬って捨てる!」
騎馬隊の先頭にいる大柄の男が大声をあげる。
威圧するような、どこか傲慢さをかもしだすその雰囲気に、嫌悪感を抱く。
おそらくブソンの私兵だろう。
ただすぐに襲いかかってくるわけではないと分かったので、俺は2人の間から前に出る。
「私はオムカ王国軍師ジャンヌ・ダルク。ブソン卿への取り次ぎをお願いしたい!」
俺の名前にどうやら相手は反応をした。
誰もが顔を見合わせてこちらの様子をうかがってくる。
隊長格らしき大男は、しばらくの逡巡の後、
「し、しばし待たれよ!」
そうなるよなぁ。アポもないし。
けどここは畳みかける場所。
だから腹に力を入れて叫ぶ。
「待つ必要はない! それとも貴君はたった3人の女子に恐れをなしたとでも言うのか!」
豪族の私兵が好き勝手やっている、という情報は掴んでいる。
そんな連中だから相応にプライドが高いはずだ。
だからこんな風に言われれば、必ず乗ってくるに違いないと踏んでの言葉だった。
それを裏付けるように、相手は苦虫を噛み潰したような表情で、
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