知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第23話 2人の里奈

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 翌朝。
 まだ眠っているマリアをしり目に、すでに起きていたニーアに挨拶して部屋を出る。

 それから一度家に戻り、すでに起きだしていたクロエと一緒に朝食を取った。
 出発の準備はクロエ任せで済んでいたから、今日1日はまだ動ける余裕がある。

 パンがメインの朝食を終え、クロエと食後のお茶を一服した後。
 俺は里奈のところに向かった。

 そして里奈に昨日のくだりを話すと、

「……うん、分かった」

 本人も色々思うことがあったのだろう。
 少し緊張しながらもそう快く頷いてくれた。

 一応、マリアとニーアについては前もって話していたから、そこは問題ないはず。
 問題はそこまでの道のり。街では兵の誰かに見とがめられる可能性もあるし、王宮にはジルやサカキといった、敵としての里奈を知っている人たちがいる。
 里奈はそうなったら素直に言い分を受け入れると言っているが、俺からすればとんでもない話だ。

「んー……この季節だからマフラーで顔の半分は隠すとして。帽子と、あとはサングラスみたいなのがあればいいけど……」

「分かった。ちゃんと準備していくから。心配せずに待ってて」

 何やら里奈には作戦があるようだ。
 里奈がそこまで言うならと、約束の時間と場所だけ伝えて俺はその場を後にした。

 それから先に王宮に出仕して残った仕事を片付けて午後。
 王宮の門の前で待っていると、向こうから里奈と思わしき人物が歩いてくるのが見えた。

 思わしきというのは、最初は里奈と気づかなかったからだ。
 顔半分をマフラーで隠しているのは分かる。けど、それ以上に問題なのが上半分。

 てっきり帽子でもかぶってくるのかと思ったけど違った。
 里奈だとすぐに分からなかったのは、その頭部がまるっきり変わっているからだ。

 里奈の流れるようなさらさらの黒髪。
 それが今では短く適当に刈り揃えられているだけの、無残なものになってしまっていた。

「お待たせ、明彦くん」

「お待たせって……お前、その髪……」

「あ、変だったかな。オムカと戦ってた時は、ロングだったから切れば分からないかなって。どうかな?」

 マフラーをずらして、ニッと笑う里奈。
 どこかボーイッシュな感じがして新鮮だ。

「いや、その……なんというか……」

 いや、いいだろ。めっちゃ似合ってる。これなら前までの里奈だとはパッと見で分からない。本当、女性は髪型1つで印象が変わるんだなぁ。

 俺も少し変えてみるか。
 去年の夏、シータ王国の夏に暑苦しくなって切ったまま放置したままだから、今ではかなりボリューミーだ。そういったおしゃれでの髪型をしたことないから、考えてみよう。

 っと、それより今は里奈だ。
 感想を聞かれている以上、ごまかすのはよくない。
 とはいえなんだか恥ずかしいな。面と向かって言うのも。

「い、いい……んじゃないかな」

「本当? 良かった」

 花が咲くように、里奈が嬉しそうに笑う。

 うわぁ、くそ可愛いじゃないかよ。
 ありだな、ショートも。

 てかその笑顔もまたマリアと似ている。
 姉妹なんじゃないかって思うくらい。
 ま、ありえないけど。

 というわけで心も軽くなったところで里奈を王宮へと案内する。
 だがその心が油断を招いたのか。早速、難敵に見つかった。

「おっすー、ジャンヌちゃん。元気ー?」

「おや、そのお方は……?」

 ジルとサカキだ。
 くそ、今一番会いたくなかったのに!

 だがこの程度は想定内。
 だから俺は動揺を押し殺して、ジルとサカキに里奈を紹介する。

「あぁ、彼女は里奈。俺の友達。里奈、こっちは軍部の総司令のジルと、師団長のサカキ」

 とりあえず先制攻撃。
 下手に探られるよりは公開してしまった方が良い。

「初めまして」

 里奈がぺこりと頭を下げて挨拶する。
 それに対して男2人は挨拶を返しながらも少し首をひねる。

 よし、今だ。

「じゃ、そういうことで――」

 俺は里奈の手を取って2人の間を通り抜けようとする。
 三十六計逃げるにかず。こういうことはためらったら負けだ。

「ん? んん? ねぇ、リナちゃん? 前にどこかで会ったことない?」

 だがその前に、サカキがずいっと里奈の前に一歩踏み出して進路を塞いだ。
 こいつ、野生の勘でも働いてんのか!?

「というよりどなたかと似ていられるような……女王様?」

 そしてジルは持ち前の鋭さを出してんじゃない!
 ええい、ここは一時撤退!

「その女王様からのお呼び出しだから、じゃ!」

 サカキの体をどけるようにして先へ進む。

 はぁ……いきなりどっと疲れたぞ。
 サカキなんて、里奈に斬られてるわけだからな……。バレたら一大事だった。

 だが里奈は俺のそんな心配をよそに、

「なんか、ドキドキしたね?」

 なんで笑ってられるんだよ。
 里奈ってこんな感じだったっけか? 肝が据わってるというか、鈍いというか。

 ともかく、最初の難問はクリアした。
 あとは最後の難問をどうにかするだけだ。

 面会場所は謁見の間だった。
 一応、公式の場で行ったという体面が必要なのでそこだった。

 衛兵に通され、誰もいない広間で待つこと1分。

「女王陛下のおなり」

 ニーアの声と共に、マリアが姿を現した。
 俺がひざまずき頭を下げると、里奈もそれに倣う。

おもてをあげよ」

 マリアの声に顔をあげる。
 玉座にマリア、その隣にニーアがいるだけの閑散とした室内。そこで俺と里奈は2人に向き合った。

「お初に、お目にかかります、立花里奈です。女王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしく。この度は御前に招かれましたこと……大変光栄に思います」

 たどたどしいながらも、礼儀を整えた挨拶を行う里奈。
 だが里奈の口上を受ける側は、目を見開いてどこか上の空だ。

「マリア?」

 口上が終わっても反応を示さないマリアに問いかける。
 だがそれでも動かない。その視線ははっきりと里奈に注がれているが、心ここにあらずといった感じ。

 対するニーアはまず里奈を見て目を見開き、そしてマリアを見て、再び里奈を見る。
 ご主人を見失った犬みたいだった。

 まぁでも分からないでもない。
 確かにこうやって並ぶとますます似ているんだから。

 それこそ肉親、そう――

「姉、さま?」

 姉妹みたいに……って、え!?

 まさかの言葉をマリアがつぶやいたので、俺は思わず立ち上がってマリアとニーアに視線を向ける。

「姉? いたのか?」

「え、ええ……。12ほど離れたお方が。ただ10年ほど前にお亡くなりになられたのだけれど」

 さすが。幼いころから付き人だったというのだから、ある程度は詳しいのだろう。

 マリアが今14歳。
 10年前というと、つまり16、7歳くらいで亡くなったということか。
 里奈の今の姿。16と言われればそうだが、もう少し上な気もする。この年頃の少女というのはあまり変化がないか、大違いかの極端なものだからないということはない。

 ……いや、待て待て。
 そもそも里奈は、俺と同じ元の世界から来たプレイヤーだ。この世界の人間と瓜二つだといって、血縁関係があるわけがない。

 そう。だから他人の空似。この世には3人のそっくりさんがいるという。それが異世界の人間だった。ただそれだけのこと。

 …………それだけのこと、だよな。

「あ、いや。すまぬのじゃ。余がオムカ王国第37代女王じゃ」

 慌てて姿勢をなおしたマリアが威厳をもってそう告げた。

「しかし似ているとは聞いていたが、これほど……これほど姉さまに似ているとは」

「お前とも似てるだろ?」

「うぅむ……それが、よく分からんのじゃ。似ておるのか、ニーア?」

「そうですね……目と耳が2つあって、鼻と口が1つあるくらいには」

「それ似てないって言ってるよな」

「いや、嘘うそ。まぁ似てなくもない、かなぁ」

「じゃあ声は? 声ならマリアも分かるだろ?」

「うぅーん……」

 マリアは唸ってしまったし、ニーアは首をかしげるばかり。
 里奈に至っては苦笑いしている。なんだよ。俺の勘違い、というか補正が入ってたってことかよ。

「でもお前の姉と似てるんだろ。ならマリアも成長すれば似るんじゃないのか?」

「うーん。確かに姉さまは、ちっちゃいころにそっくりと言ってくださったが……」

「その前にジャンヌ。残念だけど女王様と彼女は2つも大きな違いがあるわ!」

 と、ニーアがビシッと人差し指と中指を立てて突き付けてきた。

「そう、1つ目は髪の色! 女王様の家系は雪のような白い御髪みぐしが特徴なの。対する彼女は黒。これは大きな違いよ!」

「まぁ、そりゃ見れば分かるさ」

 そんなことを我が物顔で語られても困る。

「そしてもう1つ、これがとっても重要なの……」

 ニーアが真剣な表情で腕を降ろすと、マリアをじっと見つめる。
 そして次は里奈。もう一度マリア、そして里奈。

 一体なんなんだ。
 ん、いや待てよ。なんかあいつ。顔じゃないところを見ているぞ。マリアと里奈の違い。顔より下。その違い。すなわち大か小か。
 つまり――

「あぁ、マリアは胸が小さいからなぁ!」

 声に出していた。
 そして、あっ、と後悔した。

 謁見の間を冷たい空気が流れる。
 そして、

「ジャンヌがいじめるのじゃーーー!」

「こらーーー! 女王様を泣かせるな!」

 マリアが泣き出し、ニーアがつっかかってくる。

「お、お前が言い出したんだろ!」

「言ってませんー。見ただけですー」

「あ、あの明彦くん。今のってどういう意味?」

 里奈が食いついてきた。
 だがそれがさらに別方向に油を注いだ。

「ん? アキヒコ? 誰それ? ん……アキヒコ。アキヒーコ。アキ。アッキー!? ジャンヌ? なにその名前!?」

「あーいや、これは……」

「そうじゃ! 聞いたぞ! ジャンヌがアッキーと呼ばれてる! どういうことなのじゃ!」

 俯いて泣いていたはずのマリアまで参戦してきた。

「マリア、お前ウソ泣きかよ!」

「えっと、明彦くん。何かダメだったかな、明彦くんって呼ぶの」

「あ、いや……里奈、だからその名前は……」

「また言ったのじゃー! なんなのじゃ、アキヒコクンってー!」

「そうだそうだ! あたしたちには秘密かー!」

「あ、ごめんね、明彦くん。そのわざとじゃないから、明彦くんって呼ぶの、もうやめるね、明彦くん」

「分かったから! 里奈、頼むからそう呼ぶのをやめて……」

 もはやこの場は収拾不可能なほど混乱していた。
 ひたすらに明彦くんを連呼する里奈。まさかわざとじゃないよな。そしてひたすらにそのことで俺を糾弾するマリアとニーア。

 玉座から降りたマリアと、大股で近づいてきたニーアに詰め寄られ、きゅうした果てに出した答えが、一時保留。

 ビンゴ王国から帰ったらじっくり話す場を設ける。
 そう約束して、解放された時にはもうぐったりだ。なんでこんなことで疲れてるんだよ、俺……。

「面白い人たちだったね」

 色々問い詰められて疲労困憊の俺に対し、顔が似てるとあってか親しみをもって会話が広がった里奈。
 なんだ、この差は。

 まぁ、里奈とマリアがうまくいってくれただけでもまだマシか。
 正体がバレることもなかったし。意外とこのまま行けるんじゃないか。

 なんて軽く思ったものの、この一件が後に重要な意味を持つことを、俺はまだ知らなかった。

――――――――――――
7/30
マリアの年齢が間違っていたのを修正させていただきました。
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