309 / 627
第4章 ジャンヌの西進
第23話 2人の里奈
しおりを挟む
翌朝。
まだ眠っているマリアをしり目に、すでに起きていたニーアに挨拶して部屋を出る。
それから一度家に戻り、すでに起きだしていたクロエと一緒に朝食を取った。
出発の準備はクロエ任せで済んでいたから、今日1日はまだ動ける余裕がある。
パンがメインの朝食を終え、クロエと食後のお茶を一服した後。
俺は里奈のところに向かった。
そして里奈に昨日のくだりを話すと、
「……うん、分かった」
本人も色々思うことがあったのだろう。
少し緊張しながらもそう快く頷いてくれた。
一応、マリアとニーアについては前もって話していたから、そこは問題ないはず。
問題はそこまでの道のり。街では兵の誰かに見とがめられる可能性もあるし、王宮にはジルやサカキといった、敵としての里奈を知っている人たちがいる。
里奈はそうなったら素直に言い分を受け入れると言っているが、俺からすればとんでもない話だ。
「んー……この季節だからマフラーで顔の半分は隠すとして。帽子と、あとはサングラスみたいなのがあればいいけど……」
「分かった。ちゃんと準備していくから。心配せずに待ってて」
何やら里奈には作戦があるようだ。
里奈がそこまで言うならと、約束の時間と場所だけ伝えて俺はその場を後にした。
それから先に王宮に出仕して残った仕事を片付けて午後。
王宮の門の前で待っていると、向こうから里奈と思わしき人物が歩いてくるのが見えた。
思わしきというのは、最初は里奈と気づかなかったからだ。
顔半分をマフラーで隠しているのは分かる。けど、それ以上に問題なのが上半分。
てっきり帽子でもかぶってくるのかと思ったけど違った。
里奈だとすぐに分からなかったのは、その頭部がまるっきり変わっているからだ。
里奈の流れるようなさらさらの黒髪。
それが今では短く適当に刈り揃えられているだけの、無残なものになってしまっていた。
「お待たせ、明彦くん」
「お待たせって……お前、その髪……」
「あ、変だったかな。オムカと戦ってた時は、ロングだったから切れば分からないかなって。どうかな?」
マフラーをずらして、ニッと笑う里奈。
どこかボーイッシュな感じがして新鮮だ。
「いや、その……なんというか……」
いや、いいだろ。めっちゃ似合ってる。これなら前までの里奈だとはパッと見で分からない。本当、女性は髪型1つで印象が変わるんだなぁ。
俺も少し変えてみるか。
去年の夏、シータ王国の夏に暑苦しくなって切ったまま放置したままだから、今ではかなりボリューミーだ。そういったおしゃれでの髪型をしたことないから、考えてみよう。
っと、それより今は里奈だ。
感想を聞かれている以上、ごまかすのはよくない。
とはいえなんだか恥ずかしいな。面と向かって言うのも。
「い、いい……んじゃないかな」
「本当? 良かった」
花が咲くように、里奈が嬉しそうに笑う。
うわぁ、くそ可愛いじゃないかよ。
ありだな、ショートも。
てかその笑顔もまたマリアと似ている。
姉妹なんじゃないかって思うくらい。
ま、ありえないけど。
というわけで心も軽くなったところで里奈を王宮へと案内する。
だがその心が油断を招いたのか。早速、難敵に見つかった。
「おっすー、ジャンヌちゃん。元気ー?」
「おや、そのお方は……?」
ジルとサカキだ。
くそ、今一番会いたくなかったのに!
だがこの程度は想定内。
だから俺は動揺を押し殺して、ジルとサカキに里奈を紹介する。
「あぁ、彼女は里奈。俺の友達。里奈、こっちは軍部の総司令のジルと、師団長のサカキ」
とりあえず先制攻撃。
下手に探られるよりは公開してしまった方が良い。
「初めまして」
里奈がぺこりと頭を下げて挨拶する。
それに対して男2人は挨拶を返しながらも少し首をひねる。
よし、今だ。
「じゃ、そういうことで――」
俺は里奈の手を取って2人の間を通り抜けようとする。
三十六計逃げるに如かず。こういうことはためらったら負けだ。
「ん? んん? ねぇ、リナちゃん? 前にどこかで会ったことない?」
だがその前に、サカキがずいっと里奈の前に一歩踏み出して進路を塞いだ。
こいつ、野生の勘でも働いてんのか!?
「というよりどなたかと似ていられるような……女王様?」
そしてジルは持ち前の鋭さを出してんじゃない!
ええい、ここは一時撤退!
「その女王様からのお呼び出しだから、じゃ!」
サカキの体をどけるようにして先へ進む。
はぁ……いきなりどっと疲れたぞ。
サカキなんて、里奈に斬られてるわけだからな……。バレたら一大事だった。
だが里奈は俺のそんな心配をよそに、
「なんか、ドキドキしたね?」
なんで笑ってられるんだよ。
里奈ってこんな感じだったっけか? 肝が据わってるというか、鈍いというか。
ともかく、最初の難問はクリアした。
あとは最後の難問をどうにかするだけだ。
面会場所は謁見の間だった。
一応、公式の場で行ったという体面が必要なのでそこだった。
衛兵に通され、誰もいない広間で待つこと1分。
「女王陛下のおなり」
ニーアの声と共に、マリアが姿を現した。
俺が跪き頭を下げると、里奈もそれに倣う。
「面をあげよ」
マリアの声に顔をあげる。
玉座にマリア、その隣にニーアがいるだけの閑散とした室内。そこで俺と里奈は2人に向き合った。
「お初に、お目にかかります、立花里奈です。女王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしく。この度は御前に招かれましたこと……大変光栄に思います」
たどたどしいながらも、礼儀を整えた挨拶を行う里奈。
だが里奈の口上を受ける側は、目を見開いてどこか上の空だ。
「マリア?」
口上が終わっても反応を示さないマリアに問いかける。
だがそれでも動かない。その視線ははっきりと里奈に注がれているが、心ここにあらずといった感じ。
対するニーアはまず里奈を見て目を見開き、そしてマリアを見て、再び里奈を見る。
ご主人を見失った犬みたいだった。
まぁでも分からないでもない。
確かにこうやって並ぶとますます似ているんだから。
それこそ肉親、そう――
「姉、さま?」
姉妹みたいに……って、え!?
まさかの言葉をマリアがつぶやいたので、俺は思わず立ち上がってマリアとニーアに視線を向ける。
「姉? いたのか?」
「え、ええ……。12ほど離れたお方が。ただ10年ほど前にお亡くなりになられたのだけれど」
さすが。幼いころから付き人だったというのだから、ある程度は詳しいのだろう。
マリアが今14歳。
10年前というと、つまり16、7歳くらいで亡くなったということか。
里奈の今の姿。16と言われればそうだが、もう少し上な気もする。この年頃の少女というのはあまり変化がないか、大違いかの極端なものだからないということはない。
……いや、待て待て。
そもそも里奈は、俺と同じ元の世界から来たプレイヤーだ。この世界の人間と瓜二つだといって、血縁関係があるわけがない。
そう。だから他人の空似。この世には3人のそっくりさんがいるという。それが異世界の人間だった。ただそれだけのこと。
…………それだけのこと、だよな。
「あ、いや。すまぬのじゃ。余がオムカ王国第37代女王じゃ」
慌てて姿勢をなおしたマリアが威厳をもってそう告げた。
「しかし似ているとは聞いていたが、これほど……これほど姉さまに似ているとは」
「お前とも似てるだろ?」
「うぅむ……それが、よく分からんのじゃ。似ておるのか、ニーア?」
「そうですね……目と耳が2つあって、鼻と口が1つあるくらいには」
「それ似てないって言ってるよな」
「いや、嘘うそ。まぁ似てなくもない、かなぁ」
「じゃあ声は? 声ならマリアも分かるだろ?」
「うぅーん……」
マリアは唸ってしまったし、ニーアは首をかしげるばかり。
里奈に至っては苦笑いしている。なんだよ。俺の勘違い、というか補正が入ってたってことかよ。
「でもお前の姉と似てるんだろ。ならマリアも成長すれば似るんじゃないのか?」
「うーん。確かに姉さまは、ちっちゃいころにそっくりと言ってくださったが……」
「その前にジャンヌ。残念だけど女王様と彼女は2つも大きな違いがあるわ!」
と、ニーアがビシッと人差し指と中指を立てて突き付けてきた。
「そう、1つ目は髪の色! 女王様の家系は雪のような白い御髪が特徴なの。対する彼女は黒。これは大きな違いよ!」
「まぁ、そりゃ見れば分かるさ」
そんなことを我が物顔で語られても困る。
「そしてもう1つ、これがとっても重要なの……」
ニーアが真剣な表情で腕を降ろすと、マリアをじっと見つめる。
そして次は里奈。もう一度マリア、そして里奈。
一体なんなんだ。
ん、いや待てよ。なんかあいつ。顔じゃないところを見ているぞ。マリアと里奈の違い。顔より下。その違い。すなわち大か小か。
つまり――
「あぁ、マリアは胸が小さいからなぁ!」
声に出していた。
そして、あっ、と後悔した。
謁見の間を冷たい空気が流れる。
そして、
「ジャンヌがいじめるのじゃーーー!」
「こらーーー! 女王様を泣かせるな!」
マリアが泣き出し、ニーアがつっかかってくる。
「お、お前が言い出したんだろ!」
「言ってませんー。見ただけですー」
「あ、あの明彦くん。今のってどういう意味?」
里奈が食いついてきた。
だがそれがさらに別方向に油を注いだ。
「ん? アキヒコ? 誰それ? ん……アキヒコ。アキヒーコ。アキ。アッキー!? ジャンヌ? なにその名前!?」
「あーいや、これは……」
「そうじゃ! 聞いたぞ! ジャンヌがアッキーと呼ばれてる! どういうことなのじゃ!」
俯いて泣いていたはずのマリアまで参戦してきた。
「マリア、お前ウソ泣きかよ!」
「えっと、明彦くん。何かダメだったかな、明彦くんって呼ぶの」
「あ、いや……里奈、だからその名前は……」
「また言ったのじゃー! なんなのじゃ、アキヒコクンってー!」
「そうだそうだ! あたしたちには秘密かー!」
「あ、ごめんね、明彦くん。そのわざとじゃないから、明彦くんって呼ぶの、もうやめるね、明彦くん」
「分かったから! 里奈、頼むからそう呼ぶのをやめて……」
もはやこの場は収拾不可能なほど混乱していた。
ひたすらに明彦くんを連呼する里奈。まさかわざとじゃないよな。そしてひたすらにそのことで俺を糾弾するマリアとニーア。
玉座から降りたマリアと、大股で近づいてきたニーアに詰め寄られ、窮した果てに出した答えが、一時保留。
ビンゴ王国から帰ったらじっくり話す場を設ける。
そう約束して、解放された時にはもうぐったりだ。なんでこんなことで疲れてるんだよ、俺……。
「面白い人たちだったね」
色々問い詰められて疲労困憊の俺に対し、顔が似てるとあってか親しみをもって会話が広がった里奈。
なんだ、この差は。
まぁ、里奈とマリアがうまくいってくれただけでもまだマシか。
正体がバレることもなかったし。意外とこのまま行けるんじゃないか。
なんて軽く思ったものの、この一件が後に重要な意味を持つことを、俺はまだ知らなかった。
――――――――――――
7/30
マリアの年齢が間違っていたのを修正させていただきました。
まだ眠っているマリアをしり目に、すでに起きていたニーアに挨拶して部屋を出る。
それから一度家に戻り、すでに起きだしていたクロエと一緒に朝食を取った。
出発の準備はクロエ任せで済んでいたから、今日1日はまだ動ける余裕がある。
パンがメインの朝食を終え、クロエと食後のお茶を一服した後。
俺は里奈のところに向かった。
そして里奈に昨日のくだりを話すと、
「……うん、分かった」
本人も色々思うことがあったのだろう。
少し緊張しながらもそう快く頷いてくれた。
一応、マリアとニーアについては前もって話していたから、そこは問題ないはず。
問題はそこまでの道のり。街では兵の誰かに見とがめられる可能性もあるし、王宮にはジルやサカキといった、敵としての里奈を知っている人たちがいる。
里奈はそうなったら素直に言い分を受け入れると言っているが、俺からすればとんでもない話だ。
「んー……この季節だからマフラーで顔の半分は隠すとして。帽子と、あとはサングラスみたいなのがあればいいけど……」
「分かった。ちゃんと準備していくから。心配せずに待ってて」
何やら里奈には作戦があるようだ。
里奈がそこまで言うならと、約束の時間と場所だけ伝えて俺はその場を後にした。
それから先に王宮に出仕して残った仕事を片付けて午後。
王宮の門の前で待っていると、向こうから里奈と思わしき人物が歩いてくるのが見えた。
思わしきというのは、最初は里奈と気づかなかったからだ。
顔半分をマフラーで隠しているのは分かる。けど、それ以上に問題なのが上半分。
てっきり帽子でもかぶってくるのかと思ったけど違った。
里奈だとすぐに分からなかったのは、その頭部がまるっきり変わっているからだ。
里奈の流れるようなさらさらの黒髪。
それが今では短く適当に刈り揃えられているだけの、無残なものになってしまっていた。
「お待たせ、明彦くん」
「お待たせって……お前、その髪……」
「あ、変だったかな。オムカと戦ってた時は、ロングだったから切れば分からないかなって。どうかな?」
マフラーをずらして、ニッと笑う里奈。
どこかボーイッシュな感じがして新鮮だ。
「いや、その……なんというか……」
いや、いいだろ。めっちゃ似合ってる。これなら前までの里奈だとはパッと見で分からない。本当、女性は髪型1つで印象が変わるんだなぁ。
俺も少し変えてみるか。
去年の夏、シータ王国の夏に暑苦しくなって切ったまま放置したままだから、今ではかなりボリューミーだ。そういったおしゃれでの髪型をしたことないから、考えてみよう。
っと、それより今は里奈だ。
感想を聞かれている以上、ごまかすのはよくない。
とはいえなんだか恥ずかしいな。面と向かって言うのも。
「い、いい……んじゃないかな」
「本当? 良かった」
花が咲くように、里奈が嬉しそうに笑う。
うわぁ、くそ可愛いじゃないかよ。
ありだな、ショートも。
てかその笑顔もまたマリアと似ている。
姉妹なんじゃないかって思うくらい。
ま、ありえないけど。
というわけで心も軽くなったところで里奈を王宮へと案内する。
だがその心が油断を招いたのか。早速、難敵に見つかった。
「おっすー、ジャンヌちゃん。元気ー?」
「おや、そのお方は……?」
ジルとサカキだ。
くそ、今一番会いたくなかったのに!
だがこの程度は想定内。
だから俺は動揺を押し殺して、ジルとサカキに里奈を紹介する。
「あぁ、彼女は里奈。俺の友達。里奈、こっちは軍部の総司令のジルと、師団長のサカキ」
とりあえず先制攻撃。
下手に探られるよりは公開してしまった方が良い。
「初めまして」
里奈がぺこりと頭を下げて挨拶する。
それに対して男2人は挨拶を返しながらも少し首をひねる。
よし、今だ。
「じゃ、そういうことで――」
俺は里奈の手を取って2人の間を通り抜けようとする。
三十六計逃げるに如かず。こういうことはためらったら負けだ。
「ん? んん? ねぇ、リナちゃん? 前にどこかで会ったことない?」
だがその前に、サカキがずいっと里奈の前に一歩踏み出して進路を塞いだ。
こいつ、野生の勘でも働いてんのか!?
「というよりどなたかと似ていられるような……女王様?」
そしてジルは持ち前の鋭さを出してんじゃない!
ええい、ここは一時撤退!
「その女王様からのお呼び出しだから、じゃ!」
サカキの体をどけるようにして先へ進む。
はぁ……いきなりどっと疲れたぞ。
サカキなんて、里奈に斬られてるわけだからな……。バレたら一大事だった。
だが里奈は俺のそんな心配をよそに、
「なんか、ドキドキしたね?」
なんで笑ってられるんだよ。
里奈ってこんな感じだったっけか? 肝が据わってるというか、鈍いというか。
ともかく、最初の難問はクリアした。
あとは最後の難問をどうにかするだけだ。
面会場所は謁見の間だった。
一応、公式の場で行ったという体面が必要なのでそこだった。
衛兵に通され、誰もいない広間で待つこと1分。
「女王陛下のおなり」
ニーアの声と共に、マリアが姿を現した。
俺が跪き頭を下げると、里奈もそれに倣う。
「面をあげよ」
マリアの声に顔をあげる。
玉座にマリア、その隣にニーアがいるだけの閑散とした室内。そこで俺と里奈は2人に向き合った。
「お初に、お目にかかります、立花里奈です。女王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしく。この度は御前に招かれましたこと……大変光栄に思います」
たどたどしいながらも、礼儀を整えた挨拶を行う里奈。
だが里奈の口上を受ける側は、目を見開いてどこか上の空だ。
「マリア?」
口上が終わっても反応を示さないマリアに問いかける。
だがそれでも動かない。その視線ははっきりと里奈に注がれているが、心ここにあらずといった感じ。
対するニーアはまず里奈を見て目を見開き、そしてマリアを見て、再び里奈を見る。
ご主人を見失った犬みたいだった。
まぁでも分からないでもない。
確かにこうやって並ぶとますます似ているんだから。
それこそ肉親、そう――
「姉、さま?」
姉妹みたいに……って、え!?
まさかの言葉をマリアがつぶやいたので、俺は思わず立ち上がってマリアとニーアに視線を向ける。
「姉? いたのか?」
「え、ええ……。12ほど離れたお方が。ただ10年ほど前にお亡くなりになられたのだけれど」
さすが。幼いころから付き人だったというのだから、ある程度は詳しいのだろう。
マリアが今14歳。
10年前というと、つまり16、7歳くらいで亡くなったということか。
里奈の今の姿。16と言われればそうだが、もう少し上な気もする。この年頃の少女というのはあまり変化がないか、大違いかの極端なものだからないということはない。
……いや、待て待て。
そもそも里奈は、俺と同じ元の世界から来たプレイヤーだ。この世界の人間と瓜二つだといって、血縁関係があるわけがない。
そう。だから他人の空似。この世には3人のそっくりさんがいるという。それが異世界の人間だった。ただそれだけのこと。
…………それだけのこと、だよな。
「あ、いや。すまぬのじゃ。余がオムカ王国第37代女王じゃ」
慌てて姿勢をなおしたマリアが威厳をもってそう告げた。
「しかし似ているとは聞いていたが、これほど……これほど姉さまに似ているとは」
「お前とも似てるだろ?」
「うぅむ……それが、よく分からんのじゃ。似ておるのか、ニーア?」
「そうですね……目と耳が2つあって、鼻と口が1つあるくらいには」
「それ似てないって言ってるよな」
「いや、嘘うそ。まぁ似てなくもない、かなぁ」
「じゃあ声は? 声ならマリアも分かるだろ?」
「うぅーん……」
マリアは唸ってしまったし、ニーアは首をかしげるばかり。
里奈に至っては苦笑いしている。なんだよ。俺の勘違い、というか補正が入ってたってことかよ。
「でもお前の姉と似てるんだろ。ならマリアも成長すれば似るんじゃないのか?」
「うーん。確かに姉さまは、ちっちゃいころにそっくりと言ってくださったが……」
「その前にジャンヌ。残念だけど女王様と彼女は2つも大きな違いがあるわ!」
と、ニーアがビシッと人差し指と中指を立てて突き付けてきた。
「そう、1つ目は髪の色! 女王様の家系は雪のような白い御髪が特徴なの。対する彼女は黒。これは大きな違いよ!」
「まぁ、そりゃ見れば分かるさ」
そんなことを我が物顔で語られても困る。
「そしてもう1つ、これがとっても重要なの……」
ニーアが真剣な表情で腕を降ろすと、マリアをじっと見つめる。
そして次は里奈。もう一度マリア、そして里奈。
一体なんなんだ。
ん、いや待てよ。なんかあいつ。顔じゃないところを見ているぞ。マリアと里奈の違い。顔より下。その違い。すなわち大か小か。
つまり――
「あぁ、マリアは胸が小さいからなぁ!」
声に出していた。
そして、あっ、と後悔した。
謁見の間を冷たい空気が流れる。
そして、
「ジャンヌがいじめるのじゃーーー!」
「こらーーー! 女王様を泣かせるな!」
マリアが泣き出し、ニーアがつっかかってくる。
「お、お前が言い出したんだろ!」
「言ってませんー。見ただけですー」
「あ、あの明彦くん。今のってどういう意味?」
里奈が食いついてきた。
だがそれがさらに別方向に油を注いだ。
「ん? アキヒコ? 誰それ? ん……アキヒコ。アキヒーコ。アキ。アッキー!? ジャンヌ? なにその名前!?」
「あーいや、これは……」
「そうじゃ! 聞いたぞ! ジャンヌがアッキーと呼ばれてる! どういうことなのじゃ!」
俯いて泣いていたはずのマリアまで参戦してきた。
「マリア、お前ウソ泣きかよ!」
「えっと、明彦くん。何かダメだったかな、明彦くんって呼ぶの」
「あ、いや……里奈、だからその名前は……」
「また言ったのじゃー! なんなのじゃ、アキヒコクンってー!」
「そうだそうだ! あたしたちには秘密かー!」
「あ、ごめんね、明彦くん。そのわざとじゃないから、明彦くんって呼ぶの、もうやめるね、明彦くん」
「分かったから! 里奈、頼むからそう呼ぶのをやめて……」
もはやこの場は収拾不可能なほど混乱していた。
ひたすらに明彦くんを連呼する里奈。まさかわざとじゃないよな。そしてひたすらにそのことで俺を糾弾するマリアとニーア。
玉座から降りたマリアと、大股で近づいてきたニーアに詰め寄られ、窮した果てに出した答えが、一時保留。
ビンゴ王国から帰ったらじっくり話す場を設ける。
そう約束して、解放された時にはもうぐったりだ。なんでこんなことで疲れてるんだよ、俺……。
「面白い人たちだったね」
色々問い詰められて疲労困憊の俺に対し、顔が似てるとあってか親しみをもって会話が広がった里奈。
なんだ、この差は。
まぁ、里奈とマリアがうまくいってくれただけでもまだマシか。
正体がバレることもなかったし。意外とこのまま行けるんじゃないか。
なんて軽く思ったものの、この一件が後に重要な意味を持つことを、俺はまだ知らなかった。
――――――――――――
7/30
マリアの年齢が間違っていたのを修正させていただきました。
1
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる