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第4章 ジャンヌの西進
第40話 喜志田の罠
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「てかなんだよ! あの登場の仕方! 敵襲かと思っただろうが!」
「えー、てかあんな簡単な偽兵にかかっちゃうとか、それ軍師としてどうなの? 視野狭すぎじゃないですー?」
「ぐっ……てかどっから来たんだよ。北の山脈を超えてきたのか?」
「他国の人にはおっしえませーん」
喜志田はこちらをからかうように笑みを浮かべたまま舌を出してきた。
こいつ、殴ってやろうか。
とはいうものの、多くの人目がある以上軽々しく手は出せない。
今、村の広場にはこの村に住むほぼ全員が出張ってきていた。
場所は村の広場。
陽はすでに落ち、キャンプファイヤーのごとく燃え上がるたき火と、各所にあるかがり火で明るさが担保されている。
そして所かしこに料理が盛られた皿と酒が置かれ、その周りでは兵と村人たちが飲めや歌えやの大騒ぎとなっている。
喜志田に連れられた3千にヴィレスの2千500、そして俺たちの500で総勢6千の軍勢になったことの祝賀会だった。
3千の増員というのはやはり大きく、皆の顔には笑顔が張り付いている。
さらに一部の陽気な兵たちは喜志田を囲んで今後の展望を語りだしていた。
「将軍! さすがです、ここに3千もの兵をつれてきていただけるなんて!」
「んー? あぁ、あれでもまだ半分だから。あと2千くらいはいるよ。山の下だけどね」
「おお、更に2千! これなら砦に籠る連中とも互角以上の戦いができますね!」
「ん、そうだねーそれでいいんじゃない?」
「キシダ将軍、では……」
「ああ、そろそろ邪魔な侵略者たちには帰ってもらおうか」
「おお……」
ビンゴの兵たちから、声にならない熱が漏れ出てくる。
「ついに来た。あの薄汚い侵略者どもを、この我らの国から追い出す日が!」
「ビンゴ王国よ、永遠なれ!」
「そうだ、我々にオムカ軍も加えれば、帝国など鎧袖一触だ!」
ビンゴの兵が口々に意気込みを語り、酒席が良い感じに温まっていく。
これほどの士気なら少し敵が多くても善戦できるはずだ。
なんて思っていたが。
「えー、いや別に。オムカ要らなくない?」
喜志田がぶっこんで来た。
液体窒素でもぶちまけたように、急速に場の熱気が凍る。
「おい、それは……」
凍った空気を何とかしようと、俺は喜志田に反論しようとするもあっちの方が早かった。
「てかオムカ何やってんの? 500とか援軍の意味ないじゃん。もっと連れてこいよって感じ。君らも言いなよ。少ないってさ」
「や、それは、しかし……」
センドが汗をかきながら俺と喜志田へ視線を右往左往させている。
同盟国への配慮と上司に対する気遣いに板挟みになり、言葉が出ないらしい。
「え、でも最初思ったんじゃない? たった500? って」
「あ、それは……はい、もう……」
押し切られるようにセンドが曖昧に頷く。
こいつ……後からやってきて好き勝手言いやがって。
「こっちにはこっちの事情があんだよ」
「あぁ、そっか。そっちの台所厳しいもんねー。貧乏国は辛い辛い」
「お前、喧嘩売ってるのか?」
「違うよ、買ってるんだよ。たった500しか援軍よこさないとかって舐めたことやる、喧嘩売ってきたのは君たちだろう?」
「数じゃあそうかもしれないけどな、質じゃあ500以上の働きはできるぞ」
「うわ、そういうこと言う? 寒いわー。てかないわー」
こいつ。言わせておけば。
あまり自分を過大評価したくない俺だけど、マリアの国が不必要にけなされるのを黙って聞いていられない。思わず大言壮語が口に出た。
「はっ、俺が500指揮すりゃ、帝国1万なんて余裕で撃退してやるよ!」
だがそれが狡猾に張り巡らされた喜志田の罠だと気づかずに、俺は喧嘩を買ったのだ。買ってしまったのだった。
「はい、みんな聞いた? オムカ軍は1万と戦って勝てるって。じゃあオムカには先鋒を任せようねー」
あ、てめぇ!
下手な言質取りやがって!
いや、今のは俺も迂闊だったけどさ!
しかし、喜志田の真骨頂は更にこれからだった。
「んんー? ってことはだよ? オムカの500にうちの精鋭5千500を加えた6千なら、12万と戦って勝てるってことだよね?」
そりゃ数字の上ではそうだろうけど、
おい、まさか――
「というわけで皆、俺なんかよりずぅぅぅっと頭が良くて謀略家の天才軍師様が皆を勝利に導いてくれるから。しっかり言う事聞くよーに!」
「おおおおおおお!」
「はぁ!?」
なに言い出してんの、こいつ!?
さっきまでこっちを散々、煽ってたのに! なんで俺が総責任者になってるんだよ。
「お前、何言い出すんだよ」
頭に血が登ったまま、喜志田に詰め寄る。
だが喜志田は何を怒っているのか分からないといった表情で、
「え? いやアッキーに任せりゃ大丈夫なんでしょ?」
「はぁ? お前もやれよ!」
「え、やだよ」
きっぱりと、すがすがしいまでに端的に断る喜志田。
頭がくらっと来た。
「俺さぁ、王国が滅亡してから、いやする前からこっち働きづめじゃん? てか牢に入れられたんだよ? 殺されかけたんだよ? そりゃもう萎えるわ。だから働くモチベじゃありません。というわけでアッキー、頑張ってー」
こいつ、俺に押し付けるだけ押し付けて逃げやがった!
いや待て。そんなことで押し付けられる俺じゃないぞ。
「他国の人間が指揮取って、言う事聞くわけないだろ。今は酒も入って熱に浮かされてるだけだ。すぐに言う事聞かなくなる。俺じゃあ無理なんだよ」
「大丈夫だって。聞いたよ。先日の戦闘の話。ぶっ倒れるまでやってしかも連戦連勝ってんだから。それでビンゴ将兵の心もわしづかみ。本当、どんな謙遜だよって話さ」
そう、なのか?
ビンゴ兵とはあまりかかわることがないから分からない。
「やれやれ、知らぬは自分だけってことかな。おーい、ヴィレス」
「はっ! なんでしょう、将軍」
「このジャンヌちゃんの言うこと聞いて指揮できる?」
「はっ、喜んで。もし不服従な者がいれば私が斬ります」
「ん、分かった。サンキュー」
礼儀正しく頭を下げてヴィレスが去っていく。
ヴィレス、お前もか。
お前もジルタイプか。
重いんだよ! 想いが!
「ま、そういうわけで。アッキーに任せてオールオッケーなわけ」
「どこがオールオッケーなんだよ!?」
「いや、だってさ。俺って頭良くって働き者だけど? なんかどーも人から色々言われてさ。気に食わないだの、生意気だの」
こいつこそ、自分のことあんま認識してないじゃねぇか。
今まさに気に食わなくて生意気だと思ってる人間が目の前にいることを教えてやろうか?
「だから更迭とかされて、もうこりたっていうの? だからこいつらはアッキーに任せて隠遁します!」
「うん、ふざけんなよ?」
「えー、それに言ったじゃん。張松になるって。劉備というアッキーを引き入れたら後は知りません」
「張松殺されてるからな、内通がバレて」
「あ、じゃあ孟達でいいや」
「孟達だって有能でちゃんと働いてんだよ! てか裏切る気マンマンかよ!」
まさかのここで三国志トークがさく裂するとは思わなかった。
ちなみに孟達は張松たちの仲間で劉備の蜀取りに貢献するも、後に劉備の義弟・関羽の死の責任を負わされそうになって敵国である魏に亡命。
けどその魏でも次第に冷遇されるようになって、再び蜀に寝返ろうとしたが殺されてしまう優秀なのに残念な武将だ。
「てか、お前も仕事しろよ。俺だけにやらせんな。それなら俺たち帰るぞ」
こうなったら俺も強気のカードを切る。
俺だけ貧乏くじを引いてたまるかって気分だ。
「えー、でもいいの? ここで俺たちが負けちゃったら、そっちこそ困るんじゃないの? 2方面から攻撃されたら終わるよね、オムカ?」
「ぐっ……」
「てかあのジャンヌ・ダルクが同盟国を見捨てて逃げるってヤバくない? 最初から見捨てるならまだしも、援軍出しておいて負けそうだから帰りますとかって、最も性質悪くない? そんなんで各国をつなぎとめられる? 南郡とかヤバいんじゃない?」
「ぐぐっ!」
「ま、その点俺はいいんだよ。別にビンゴに愛着ないし。死ぬ前に帝国に亡命するって手もあるからさ。ま、しないけど」
こいつ、どこまで本気なんだよ。
言葉の全てが嘘に聞こえる。
巧みに嘘と真実を混ぜてくるうちの宰相よりはマシだが……いや、どっちもどっちだな!
「それにね。これは本気で思ってるんだけど。俺じゃ無理なんだよ。俺じゃあ皆がついてこない。ただ成り行きで戦って、たまたま勝っただけで将軍になった男だよ。軍学とかも知らないし、ただ若干歴史を知ってるからなんとかなってるただの素人だ。いつ化けの皮がはがれるか戦々恐々してたんだ。そして更迭されて……国が滅んだ。俺が頼りなかったから……何もできなかったから。だから俺なんかより、アッキーの方が向いてる。そう思うから言ったんだ」
それは、喜志田が見せた初めての弱気だった。
やる気がないという見せかけも、あるいはその自信ののなさにつながっているのかもしれない。
そんなことはない。お前はできる奴だとけしかけることは可能だ。
けど、今こいつはこいつなりに責任を感じているのだと知った。
ったく。しょうがねーな。
これでも一時とはいえ一緒に戦った仲間だ。同じ国から来たプレイヤーだ。
見捨てるのは、さすがに後味が悪い。
「分かった。ここでの戦は俺が引き受ける。けどお前はここにいて、せめてこの戦いの行く先だけは見て、それから決めろよ。亡命するのか、隠居するのか、それともまだ戦い続けるのかを」
「…………」
喜志田は俯いたまま答えない。
何か感じ入ることがあったのだろう。
そう思ったのだが――
「っしゃー! アッキーからお墨付きもらったー。これでグータラ三昧しても怒らないってことだよねー。さーて、引きこもるぞー」
「は!?」
コイツイマナンツッタ?
ナニヲドウスルッテ?
「夜に寝て昼に起きる。睡眠は1日12時間。仕事もせずにゴロゴロ人生。それこそが人間のあるべき姿だと思うんだけど、どう思う、アッキー? ん? どうしたんだい。そんな怖い顔して。可愛い顔が台無しじゃないか。ほら、もっと飲んで飲んで。辛いことは飲んで忘れる。年齢? そんなのこの世界、この時代には関係ありませんー。さって、寝るぞー」
喜志田は固まってしまった俺からさっさと離れると、そのまま近くの小屋へと入って行ってしまった。
扉が激しい音を立てて閉まる。まるでここから出ないと言わんばかりの覚悟を示したようだった。
そして残された俺。
周囲のどんちゃん騒ぎの中、俺の周囲1メートルが氷河期のように冷たい空気に包まれる。
その中で俺の体は熱く燃えたぎっていた。
なぜかって?
それはもちろん――
「あんのクズ野郎!」
喜志田に対する怒りでだよ!
「えー、てかあんな簡単な偽兵にかかっちゃうとか、それ軍師としてどうなの? 視野狭すぎじゃないですー?」
「ぐっ……てかどっから来たんだよ。北の山脈を超えてきたのか?」
「他国の人にはおっしえませーん」
喜志田はこちらをからかうように笑みを浮かべたまま舌を出してきた。
こいつ、殴ってやろうか。
とはいうものの、多くの人目がある以上軽々しく手は出せない。
今、村の広場にはこの村に住むほぼ全員が出張ってきていた。
場所は村の広場。
陽はすでに落ち、キャンプファイヤーのごとく燃え上がるたき火と、各所にあるかがり火で明るさが担保されている。
そして所かしこに料理が盛られた皿と酒が置かれ、その周りでは兵と村人たちが飲めや歌えやの大騒ぎとなっている。
喜志田に連れられた3千にヴィレスの2千500、そして俺たちの500で総勢6千の軍勢になったことの祝賀会だった。
3千の増員というのはやはり大きく、皆の顔には笑顔が張り付いている。
さらに一部の陽気な兵たちは喜志田を囲んで今後の展望を語りだしていた。
「将軍! さすがです、ここに3千もの兵をつれてきていただけるなんて!」
「んー? あぁ、あれでもまだ半分だから。あと2千くらいはいるよ。山の下だけどね」
「おお、更に2千! これなら砦に籠る連中とも互角以上の戦いができますね!」
「ん、そうだねーそれでいいんじゃない?」
「キシダ将軍、では……」
「ああ、そろそろ邪魔な侵略者たちには帰ってもらおうか」
「おお……」
ビンゴの兵たちから、声にならない熱が漏れ出てくる。
「ついに来た。あの薄汚い侵略者どもを、この我らの国から追い出す日が!」
「ビンゴ王国よ、永遠なれ!」
「そうだ、我々にオムカ軍も加えれば、帝国など鎧袖一触だ!」
ビンゴの兵が口々に意気込みを語り、酒席が良い感じに温まっていく。
これほどの士気なら少し敵が多くても善戦できるはずだ。
なんて思っていたが。
「えー、いや別に。オムカ要らなくない?」
喜志田がぶっこんで来た。
液体窒素でもぶちまけたように、急速に場の熱気が凍る。
「おい、それは……」
凍った空気を何とかしようと、俺は喜志田に反論しようとするもあっちの方が早かった。
「てかオムカ何やってんの? 500とか援軍の意味ないじゃん。もっと連れてこいよって感じ。君らも言いなよ。少ないってさ」
「や、それは、しかし……」
センドが汗をかきながら俺と喜志田へ視線を右往左往させている。
同盟国への配慮と上司に対する気遣いに板挟みになり、言葉が出ないらしい。
「え、でも最初思ったんじゃない? たった500? って」
「あ、それは……はい、もう……」
押し切られるようにセンドが曖昧に頷く。
こいつ……後からやってきて好き勝手言いやがって。
「こっちにはこっちの事情があんだよ」
「あぁ、そっか。そっちの台所厳しいもんねー。貧乏国は辛い辛い」
「お前、喧嘩売ってるのか?」
「違うよ、買ってるんだよ。たった500しか援軍よこさないとかって舐めたことやる、喧嘩売ってきたのは君たちだろう?」
「数じゃあそうかもしれないけどな、質じゃあ500以上の働きはできるぞ」
「うわ、そういうこと言う? 寒いわー。てかないわー」
こいつ。言わせておけば。
あまり自分を過大評価したくない俺だけど、マリアの国が不必要にけなされるのを黙って聞いていられない。思わず大言壮語が口に出た。
「はっ、俺が500指揮すりゃ、帝国1万なんて余裕で撃退してやるよ!」
だがそれが狡猾に張り巡らされた喜志田の罠だと気づかずに、俺は喧嘩を買ったのだ。買ってしまったのだった。
「はい、みんな聞いた? オムカ軍は1万と戦って勝てるって。じゃあオムカには先鋒を任せようねー」
あ、てめぇ!
下手な言質取りやがって!
いや、今のは俺も迂闊だったけどさ!
しかし、喜志田の真骨頂は更にこれからだった。
「んんー? ってことはだよ? オムカの500にうちの精鋭5千500を加えた6千なら、12万と戦って勝てるってことだよね?」
そりゃ数字の上ではそうだろうけど、
おい、まさか――
「というわけで皆、俺なんかよりずぅぅぅっと頭が良くて謀略家の天才軍師様が皆を勝利に導いてくれるから。しっかり言う事聞くよーに!」
「おおおおおおお!」
「はぁ!?」
なに言い出してんの、こいつ!?
さっきまでこっちを散々、煽ってたのに! なんで俺が総責任者になってるんだよ。
「お前、何言い出すんだよ」
頭に血が登ったまま、喜志田に詰め寄る。
だが喜志田は何を怒っているのか分からないといった表情で、
「え? いやアッキーに任せりゃ大丈夫なんでしょ?」
「はぁ? お前もやれよ!」
「え、やだよ」
きっぱりと、すがすがしいまでに端的に断る喜志田。
頭がくらっと来た。
「俺さぁ、王国が滅亡してから、いやする前からこっち働きづめじゃん? てか牢に入れられたんだよ? 殺されかけたんだよ? そりゃもう萎えるわ。だから働くモチベじゃありません。というわけでアッキー、頑張ってー」
こいつ、俺に押し付けるだけ押し付けて逃げやがった!
いや待て。そんなことで押し付けられる俺じゃないぞ。
「他国の人間が指揮取って、言う事聞くわけないだろ。今は酒も入って熱に浮かされてるだけだ。すぐに言う事聞かなくなる。俺じゃあ無理なんだよ」
「大丈夫だって。聞いたよ。先日の戦闘の話。ぶっ倒れるまでやってしかも連戦連勝ってんだから。それでビンゴ将兵の心もわしづかみ。本当、どんな謙遜だよって話さ」
そう、なのか?
ビンゴ兵とはあまりかかわることがないから分からない。
「やれやれ、知らぬは自分だけってことかな。おーい、ヴィレス」
「はっ! なんでしょう、将軍」
「このジャンヌちゃんの言うこと聞いて指揮できる?」
「はっ、喜んで。もし不服従な者がいれば私が斬ります」
「ん、分かった。サンキュー」
礼儀正しく頭を下げてヴィレスが去っていく。
ヴィレス、お前もか。
お前もジルタイプか。
重いんだよ! 想いが!
「ま、そういうわけで。アッキーに任せてオールオッケーなわけ」
「どこがオールオッケーなんだよ!?」
「いや、だってさ。俺って頭良くって働き者だけど? なんかどーも人から色々言われてさ。気に食わないだの、生意気だの」
こいつこそ、自分のことあんま認識してないじゃねぇか。
今まさに気に食わなくて生意気だと思ってる人間が目の前にいることを教えてやろうか?
「だから更迭とかされて、もうこりたっていうの? だからこいつらはアッキーに任せて隠遁します!」
「うん、ふざけんなよ?」
「えー、それに言ったじゃん。張松になるって。劉備というアッキーを引き入れたら後は知りません」
「張松殺されてるからな、内通がバレて」
「あ、じゃあ孟達でいいや」
「孟達だって有能でちゃんと働いてんだよ! てか裏切る気マンマンかよ!」
まさかのここで三国志トークがさく裂するとは思わなかった。
ちなみに孟達は張松たちの仲間で劉備の蜀取りに貢献するも、後に劉備の義弟・関羽の死の責任を負わされそうになって敵国である魏に亡命。
けどその魏でも次第に冷遇されるようになって、再び蜀に寝返ろうとしたが殺されてしまう優秀なのに残念な武将だ。
「てか、お前も仕事しろよ。俺だけにやらせんな。それなら俺たち帰るぞ」
こうなったら俺も強気のカードを切る。
俺だけ貧乏くじを引いてたまるかって気分だ。
「えー、でもいいの? ここで俺たちが負けちゃったら、そっちこそ困るんじゃないの? 2方面から攻撃されたら終わるよね、オムカ?」
「ぐっ……」
「てかあのジャンヌ・ダルクが同盟国を見捨てて逃げるってヤバくない? 最初から見捨てるならまだしも、援軍出しておいて負けそうだから帰りますとかって、最も性質悪くない? そんなんで各国をつなぎとめられる? 南郡とかヤバいんじゃない?」
「ぐぐっ!」
「ま、その点俺はいいんだよ。別にビンゴに愛着ないし。死ぬ前に帝国に亡命するって手もあるからさ。ま、しないけど」
こいつ、どこまで本気なんだよ。
言葉の全てが嘘に聞こえる。
巧みに嘘と真実を混ぜてくるうちの宰相よりはマシだが……いや、どっちもどっちだな!
「それにね。これは本気で思ってるんだけど。俺じゃ無理なんだよ。俺じゃあ皆がついてこない。ただ成り行きで戦って、たまたま勝っただけで将軍になった男だよ。軍学とかも知らないし、ただ若干歴史を知ってるからなんとかなってるただの素人だ。いつ化けの皮がはがれるか戦々恐々してたんだ。そして更迭されて……国が滅んだ。俺が頼りなかったから……何もできなかったから。だから俺なんかより、アッキーの方が向いてる。そう思うから言ったんだ」
それは、喜志田が見せた初めての弱気だった。
やる気がないという見せかけも、あるいはその自信ののなさにつながっているのかもしれない。
そんなことはない。お前はできる奴だとけしかけることは可能だ。
けど、今こいつはこいつなりに責任を感じているのだと知った。
ったく。しょうがねーな。
これでも一時とはいえ一緒に戦った仲間だ。同じ国から来たプレイヤーだ。
見捨てるのは、さすがに後味が悪い。
「分かった。ここでの戦は俺が引き受ける。けどお前はここにいて、せめてこの戦いの行く先だけは見て、それから決めろよ。亡命するのか、隠居するのか、それともまだ戦い続けるのかを」
「…………」
喜志田は俯いたまま答えない。
何か感じ入ることがあったのだろう。
そう思ったのだが――
「っしゃー! アッキーからお墨付きもらったー。これでグータラ三昧しても怒らないってことだよねー。さーて、引きこもるぞー」
「は!?」
コイツイマナンツッタ?
ナニヲドウスルッテ?
「夜に寝て昼に起きる。睡眠は1日12時間。仕事もせずにゴロゴロ人生。それこそが人間のあるべき姿だと思うんだけど、どう思う、アッキー? ん? どうしたんだい。そんな怖い顔して。可愛い顔が台無しじゃないか。ほら、もっと飲んで飲んで。辛いことは飲んで忘れる。年齢? そんなのこの世界、この時代には関係ありませんー。さって、寝るぞー」
喜志田は固まってしまった俺からさっさと離れると、そのまま近くの小屋へと入って行ってしまった。
扉が激しい音を立てて閉まる。まるでここから出ないと言わんばかりの覚悟を示したようだった。
そして残された俺。
周囲のどんちゃん騒ぎの中、俺の周囲1メートルが氷河期のように冷たい空気に包まれる。
その中で俺の体は熱く燃えたぎっていた。
なぜかって?
それはもちろん――
「あんのクズ野郎!」
喜志田に対する怒りでだよ!
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