知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話29 ブリーダ(オムカ王国騎馬隊隊長)

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「しまったっす!」

 にらみ合った状態の敵の横をすり抜けて、敵の別動隊の騎馬隊3千が味方の本隊へ駆けていくのを見て舌打ちする。

 それを追い払うために急行すると、すぐに退いて距離を取られる。
 その隙に、今までにらみ合っていた部隊が逆側から本体を襲う。

 さっきからこの繰り返しだ。

「くそっ、ちょこまかと! なんなんすか!」

「焦らないの」

 合流したアイザがたしなめてくるが、いいようにやられて焦りがでないわけがない。

 あぁ、もう。
 なんでいっつもこんな劣勢ばっかなんすか。

 いや、軍師殿を責めているわけじゃなく。

 とはいえ大丈夫なんすかね。

 昨夜、師団長殿から伝令が来て、本隊を守って撤退するよう言われた。
 そして殿軍は無視するようにとも。

 駆けている途中、敵の本隊が殿軍と交戦するのを見た。
 やがて大軍に呑まれていったのも見た。

 それを歯ぎしりしながら見送って、そして敵の騎馬隊が来た。
 本隊はほぼ歩兵だ。騎馬の速度からは逃げられない。

 だから自分たちがやるしかなかった。

 敵は部隊を3つに割った。
 こちらも半分をアイザに託して敵を止めるのだが、それでも1隊はどうしても防げない。
 本隊に突っかかった騎馬隊は、こちらが追うか本隊が足を止めて迎撃態勢に入るとさっと離脱する。

 一度の突撃でそれほど討たれる数は少ないが、それでもじわじわと出血させてくるこのやり方はイライラしかない。
 それをほぼ一昼夜やられたのだから、たまったものではない。

 せめてあと2千、いや、1千の騎馬隊があれば。
 だがないものを願ってもしょうがない。
 こうなったら敵の倍動いて2隊を翻弄するしかないか。

 そう覚悟を決めた時、

「南より軍勢!」

「敵っすか!?」

 南を見る。
 夕焼けに染まる平原の向こうに、確かに軍が動く様子が見える。
 あれは……騎馬隊!?

 こちらにはもう兵力はない。となれば敵だ。
 ここでさらに新手が来るとなると、今度こそ本当にどうしようもない。

 せめてこの身を犠牲にしてでも軍師殿を守るしかない。
 そう思ったのだが――

「あ、新手が敵の騎馬隊に突っ込みました!」

「なんなんすか!」

 叫ぶものの、誰も答えを持っていない。

 とにかくあれは敵ではないらしい。
 少なくとも帝国を敵とするのは同じだ。

 予期しない援軍に、敵がうろたえるのが分かる。
 そこを逃さず速度を上げて一気に突っ込んだ。
 敵。斬った。反応が遅い。後続も続く。敵が逃げ出した。早い。憎らしいほどにいい判断だ。

 敵の騎馬隊は散りながらも、味方の位置を巧みに利用して追撃を防ぐ。
 そして3隊がまとまった。

 こちらもアイザと合流し、にらみ合う。

 そして新手の騎馬隊――2千ほどだろうか。
 そちらにも警戒しながら馬の足並みを落とし、相手の出方を見る。

 相手より数は少ないが、挟撃できる状態。悪くない。
 そう思ったのだが――

「新手の軍、こちらに来ます!」

「馬鹿っすか!? 一体どこのどいつ――」

 馬蹄が響く。
 2千の割にはかなり動きが重い。
 それもそのはず。その人も馬もこちらより一回り大きい。
 鎧と馬甲を着こんでいるらしく、そのため大きく見えたのだろう。
 そしてその先頭の男は――

「はっはー! ビンゴ王国を救う救世主にして破壊神! クリッド・グリードただいま参上!」

 え……?

 クリッド……どっかで聞いたことがあるような。
 その間にもクリッドを名乗る男が率いる軍は、顔が認識できるまで近づいて、

「むむ! お前はギュワンダー! よく生きていたな!」

「だから誰っすか」

 ダ、しか合ってないじゃないっすか。

 あぁ、そうだ。今ので思い出した。
 今年の頭にやった運動会とやら。そこの競争で無駄に突っかかって来た自称ビンゴ王国の特攻隊長。こんなことで思い出したくなかったっすが。

「で、どうしたんすか。わざわざ挟撃の形を捨ててまで」

「きょうげき? なんの話だ?」

 もしかして何も分かってないっすか!?

 そんな自分の呆れ顔を見て取ったのか、クリッドはびしっとこちらに指を突きつけてくる。

「いや、状況は理解しているぞ! ゆえに勝負だ、ギュワンダー! どちらが帝国兵を多く討つか!」

「全然理解している人間の言葉じゃないっすが……」

「よし、では、スタートだ! ははは! この勝負、わたしの勝ちだな! 恐怖はなく、高揚が身を包む今、すなわち我々の一番輝く時なのだから!」

 クリッドの騎馬隊が前に出た。
 わざわざ敵に真正面からぶつかろうとしているようだ。

「いや、だから! あーーーー、もうっす!」

 なんでわざわざ不利になりにいくんすか!
 挟撃はなくなったけど、部隊指揮ができる人間が3人いることは、少なくとも相手のプレッシャーになったというのに。

「アイザ! 半分で敵の左翼から突き崩すっす!」

「あの筋肉男……殺す」

「一応味方っすから!」

「はぁ……面倒」

 とはいいつつも、アイザは部隊を連れて、クリッドの右へ出る。自分は左だ。

 その間にもクリッドは敵と距離を詰める。

 どこかで進路を変えるだろう。まさか本当に真正面からぶつからないだろうと。
 そう自分は思った。
 そしてそれは相手も同じだったらしい。

 だが、クリッドにその気がさらさらないと気づいたのは、敵の騎馬隊と接触する寸前だった。

「ふっははははは!」

 高笑いが響く。

 そして――ぶつかった。

 敵の騎馬隊がひしゃげた。

 それほどの一撃。
 先頭を走るクリッドは、大きなつちのようなもので、相手の馬ごと叩き潰している。

「これぞグリード隊の真骨頂! 突撃、特攻、吶喊とっかん! すなわち猪突猛進だぁぁぁ!」

 えぇ……滅茶苦茶っす。

 どうやら自分たちはスピード重視な反面、アーマープレートと馬甲で覆われたクリッドの騎馬隊は破壊力に特化しているらしい。
 相手が明らかに動揺するのが見えた。あれだけ重量があるものが突っ込んで来れば、それは確かに相手もビビる。

 だからそこを左右から同時に突き崩す。

 行ける。

 3方向からの突撃。
 それで一気に優勢になる。
 2、3人を叩き落した。

 このままいけば敵を潰走することはできなくても、半分近くには数を減らせる。
 そう思った矢先のことだ。

「てっしゅう、てっしゅうだー! ギュワンダー、貴様らもだ!」

「なんで!?」

「退くんだよ! ふはははは!」

 クリッドは訳の分からない笑い声をあげながら、敵にぶつかった後に馬首を返した。
 ええい、もう知らねっす!

「ちっ、退くっすよ! アイザに聞こえるよう鉦鳴らす!」

 後ろから敵が追ってくると思ったが、この急激な反転に誘いを感じたのか、あるいは予想以上にクリッドの突撃が効いたのか、すぐには追ってこない。

 その間にもクリッドはどんどん進んでいく。
 あれだけ馬甲を背負っているのだからすぐ追いつくと思ったが、じりじりと距離が詰まっていくにすぎない。
 きっと良い馬なんだろう。うちにも少し欲しい。

 と、別れていたアイザの部隊が戻って来た。

「ちょっと、どういうこと」

 予想通りアイザが不機嫌そのもので馬を寄せてくる。
 とはいえ自分にも分からない。

 いや、分からなかった。過去形だ。

 今は分かる。
 クリッドが目指すべき先、そこは本隊に食いつく歩兵集団があった。

「あいつらを追い払ってからっす!」

「ふん、了解」

 敵は3千くらいの歩兵だった。
 こちらの騎馬隊が到着すると攻撃を中止して、こちらの防御を取る。
 だが、クリッドの突撃に一撃で潰走させられ逃げて行った。

 あそこで馬を返していなかったら、もっと犠牲は大きくなっていただろう。

「ふん、手ごたえがない!」

 憮然とするクリッドへ馬を寄せる。

「なんでわかったんすか」

「ん、なにがだ?」

「敵っすよ。本隊が襲われてるってことっす」

「知らん!」

「はぁ?」

「知らん。だが、そうだな。なんとなくだ!」

 あぁ、そういう奴っすか。
 軍師殿みたいに理詰めですべてを進めるタイプとは別に、完全に本能の赴くままに勘で動くタイプもいる。
 うちの師団長が良い例だ。こいつもそういうタイプということっすか。

「しかし、これはどこまで退くのだ? 正直、来たばかりでよく分からん。説明するのだ、ギュワンダー!」

 あんたさっき状況は理解してるって言ったじゃないっすか。
 とはいえこいつと揉めるのも疲れる。だから自分が理解している限りを軽く説明した。

「むむむむ……悪逆非道なり、帝国め。このクリッド・グリード。王太子の元から援軍に来たはいいものの、これでは周回遅れではないか!」

「ま、そういうわけっすから。とりあえず軍師殿が確保しているという川辺の砦まで退くっすよ」

「ふむ……川辺の砦というと、イナの砦だな。だがそうなると少し南に流されたようだ」

 南、か。
 地図は頭に入っているが、初めての土地でしかも日暮れ。さらに敗走の中でのことだから今はもうどこにいるのか分からない。
 ただ、ひたすらに東へ向かえばよいのだが、南に来ているということは遠回りしているということ。

 こうやって時間を稼ぎ、敵の本隊は東進して川岸の砦を獲るつもりなのだろう。
 軍師殿の部下たちが守っているはずっすが、果たして大丈夫っすかね。

「ふん、だがまさか本当に貴様と共闘することになるとはな。あの時の言葉、ちゃんと覚えていたようだな」

「いや、覚えていたというか……てか滅びてるじゃないっすか、国。なにやってるんすか」

「ぐっ……だがそれとこれとは話は別! あの時の借り、きっちり返させてもらおう!」

「いや、そういうのいいっすから」

「ふはははは! 遠慮するな兄弟! うむ、この際だ。我らで義兄弟のちぎりを結ぼうではないか!」

「誰が兄弟っすか!」

 どっちが兄かとか考えたくもない。
 それ以上に腹立たしいのが、

「仲いいわね」

 このやり取りを見てアイザがぽつりと言った言葉。
 こんな奴と一緒にされるなんて、心外極まりない。

 けど、どこかこの共闘に心を躍らせている自分がいるのも、確かだった。
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