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第4章 ジャンヌの西進
閑話30 椎葉達臣(エイン帝国プレイヤー)
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「どうやら追撃はここまでですね」
前方で行われる騎馬隊同士の戦いを見て、そう呟いた。
ここまで問題はなかったが、やはり最後の最後でつまずいた。
敗走先の砦に潜ませていたキッドと諸人さんによるジャンヌ・ダルクの狙撃。
そして自分のスキル『罪を清める浄化の炎』による砦のかく乱。
その混乱に乗じて猛追を加えて敵を殲滅する。
ジャンヌ・ダルクについては完璧だった。
生死は不明だが、肩と頭に一発ずつ。おそらく助からないだろう。
そしてジャンヌ・ダルクを燃やす炎。
史実のような因果を思えば、少し愉快な思いになる。
そこまでは順調。
あとは逃げ散る敵を追いうちに討ち、できれば殲滅してしまいたかったので、騎馬隊を出したのだが……。
「あの2千ほど。敵の増援ですかね」
タニアに確認の意味も含めて聞いてみる。
「あの旗、あの具足。おそらく南部で抵抗していた、旧ビンゴ王国の王太子が率いる軍かと」
「そんなところの軍がここに……やれやれ、実戦は本当にままならない」
「仕方ありません。それに、あの増援を得ても敵の本隊はすでに潰走状態。このまま追ってもよいのでは?」
確かに敵はもうボロボロだ。
しかも南東に追ったから、敵が逃げ込む拠点から大きく進路を外している。
だがここでもう1つの誤算が顔を出した。
敵の本隊は南東にある森へ逃げ込んだ。
これから夜になる。森でバラバラになった敵を討つのは難しいだろう。
下手に部隊を分散すれば、逆襲される可能性もある。
「いや、ここで終わりです。さすがに我が軍も疲れが見れます。ここまで負けを装って、そこから一気に反撃しての追撃。疲労のピークでしょう。近くの砦に移って、休息を取ります」
そう、とりあえず南に敵を追っただけで満足すべきだ。
それをタニアも了解したのだろう。
「なるほど……分かりました。追撃は中止。そのように手配します」
「軍は5千ずつ6隊に分け、北と南の砦にそれぞれ3隊ずつ。交代で不寝番を立て、明朝、打って出ます」
「はっ!」
タニアに告げるだけ告げて、肩の力を抜く。
自分は逸っていないだろうか。いや、冷静だ。
それ以上に想いが溢れる。
里奈。
今も君はそこにいるのか。
僕は君を殺そうとしているのか。
もっと里奈について問いただしたいところはあった。
だが諸人さんはキッドの付き添いとして今は後方にいる。
だから里奈については分からない。
今はそれでいいのかもしれない。そう思った。
今はタニアを始めとする、この軍の皆をどうにかしたいという思いも大きいのだ。
自分が背負うには重すぎる命たち。そして何より、自分の身かわいさ。
まずは精一杯のことをする。
もとより劣るこの身だ。ビンゴとオムカの連合軍を川の向こうに追い払ったうえで、里奈のことは考えよう。
休息を取り翌朝。
昨夜、また“あの人物”が来て、敵はゾイ川に一番近い砦――自分たちが数日前まで過ごしていたイナの砦だ――に籠っているという報告があった。
だが近づいてみて不審に思う。
相手は砦のこちらに一番近い西門を開け放っているようだ。
それを見て1つの単語が頭に思い浮かぶ。
空城の計。
敵はこちらの動きにもさすがに気づいているはずだ。
それなのに、どうぞ攻めてきてくださいと言わんばかりに門を開け放っているのだから、怪しい事この上ない。
もちろん、ただ単に逃げてきた味方を収容するために、門を開け放っているだけなのかもしれない。
どちらかは分からない。
だから反応を見るために軍を進める。
「前進します」
3万を動かす。
疲労で少し動きの鈍くなっていた部隊も、一晩の休憩で力を取り戻したようだ。
進む。
敵に動きはない。
進む。
やはり敵に動きはない。
距離が1キロを切った。
号令をかければ、数分で3万の軍が殺到する距離だ。
それでも敵に動きはない。
そこに至って自分は全軍を止めた。
「門は西門だけが開いている。そうですね?」
「はい。偵察の報告では。そして多くの人、そして馬の気配もあったと」
タニアが単調に答える。
それがまた不審を募らせる。
「敵は騎馬隊も出してこない。どういうことでしょう?」
「砦の中に誘っているのでしょうか」
「いや、そんな狭いところで騎馬隊は活きない。あの5千ほどの騎馬隊が、相手の主力であり生命線である。そのはずなのに……」
なのに何もしてこない。この沈黙が怖い。
「リュンエン部隊長の1万を二段に分けて出します」
「はっ!」
ほどなくして、前衛の1万が前に出る。
5千ずつに二段になって進んでいく。
その前衛が自分たちと砦、その中間あたりに位置した時。
敵に動きがあった。
西門から1つの小さな影が出てきた。
それはふらっと散歩に行く、といった感じで、武器も防具も何もない、ただの一般人。
降伏の使者か?
一瞬、そう思ったが、その人物が女性で、それでいてどこか妖しい気配を漂わせていたからその思いを打ち消した。
リュンエン部隊長はその人物に戸惑っているのだろう。
だが進軍を止めるわけにはいかず、そのまま突き進む。
加速度的に両者の距離が詰まる。
そして、それが100メートルを切った時、
「速い!」
女性が走り出した。
オリンピックのスプリンターも驚きの加速。
みるみるうちに距離がなくなる。
何をする気だ、という思いのうちに、まさかそのまま突っ込むのかと驚愕が重なる。
1万の半分とはいえ5千だ。
そこに1人で? 自殺願望でもあるのか?
自分が固唾をのんでその光景を注視しているのに気づいた。
そして――
人が、爆ぜた。
「え?」
ぶつかった5千の最前列。
そこにいた歩兵が高々と宙を舞う。
そんなこと、ありえない。
爆弾でも爆発したのかと思ったが、そんな爆発音は聞こえなかったし、何より爆弾でもあれほど高くは飛ばないだろう。
そしてそれは単発では済まない。
次々に人が爆ぜ、隊列を組んだ前衛が食い散らかされていく。
理解ができない。
こっちは合わせて1万。相手はたったの1人だ。
だがその時、頭の片隅では1つの数式が組み上がるところだった。
プレイヤー。
女性。
証言。
殺戮。
それらが1つのものに結びつこうとして、それでもやっぱり信じられなくて。
「里奈……?」
言葉に出すと、急にその言葉が現実味を帯びていく。
そんなバカな。そんなはずが。だって里奈は優しい子だ。あんな風に、人を吹き飛ばすような人じゃない。
だから確かめるんだ。
あれが里奈じゃないことを。
あれが里奈であってはならないことを。
「将軍、どこへ!?」
タニアが馬の轡をとった。
ハッとした思いで彼女を見やる。
どうやら無意識のうちに馬を進めようとしていたらしい。
「異常事態です。今すぐ前衛に退却の指示を」
あぁ、そうだ。
指示を出さなきゃ。
あれが里奈だろうと里奈でなかろうと……いや、里奈ならばなおさら、退却させないといけない。
「退却! 退却の鉦を鳴らせ!」
すぐに鉦の音がなり、前衛が退いていく。
接敵はわずか1分足らず。
なのに退いてきた兵は、怪我人を含めて1千近く減っていた。
文字通り、一騎当千とでもいうのか。
視線を再び相手に向ける。
血にまみれて佇む女性。
彼女はうつむいたまま動かないが、やがておもむろに天へと顔をあげると、
「あははははははははは!」
嗤う。
狂おしいほどに、嗤う。
その声。
里奈、か。
いや、違う。里奈の声じゃない。
こんなの、里奈じゃない。
「将軍、どうしますか……遠巻きに矢で射かければあるいは……」
おそらく駄目だろう。
彼女に完全に呑まれてしまった。
兵も、何より僕も。
矢を射るにはもう少し近づかなければならない。
そうなれば、あの爆発的な加速。おそらく矢を放つ間に、距離を詰めてくるだろう。
乱戦だ。そうなれば、こちらはどうしようもなくなる。
5千じゃダメでも3万なら、そう思うの浅はかな考えだ。
相手が100とか千とかならまだどうにかしようもある。
だが相手は1人なのだ。
それはつまり戦う面積が小さいという事。
こちらも一度に戦える人数は、多くて100人になる。
つまり大局的に見れば3万対1など相手にならないが、局地的に見れば100対1になる。
それでも絶望的な差だが、3万対1よりはマシだろう。
さらにこちらは同士討ちを恐れて手出しがしづらいのに対し、相手は片っ端から斬ればいいのだ。周りは全て敵なのだから。
勝機があるとすれば、相手が攻め疲れて止まった時か、あるいは退こうと距離を取ろうとした時。
だがそのために一体何人を犠牲にする?
10か、20か。
そんなわけがない。
今のでわずか1分で1千だとすれば、その2倍や3倍では効かないだろう。
何よりすでに恐怖は植え付けられている。
途中で恐怖にかられた兵が逃げ出すことも十分に考えられる。
そうなったら最悪だ。
収拾がつかなくなり、全軍が雪崩を打ったように潰走することになる。
たった1人に、3万が負けるのだ。
劣等な自分にはお似合いの結末とも言えるが、そんな博打はうちたくない。何より、犠牲にしていい命なんてないのだ。
ここまで考えて……この戦局は詰んでいる。そう判断した。
攻めることもできない。
受けることもできない。
なら後は、退くしかない。
3万で攻めてこの結果は不本意だが、相手の戦力はかなり削った。
増援があったとしても1万は切るだろう。
なによりジャンヌ・ダルクを討ったのは大きい。
あの煌夜教皇を始め、様々なプレイヤーが気にするその人物。
オムカの精神的主柱になっているだろう人物。
死んだという報告は受けていないが、重傷でも戦線離脱すれば御の字だ。
一気に揉み潰したいところだが、あんな反則級がいるとすればこちらも慎重にならざるを得ない。
しばらくまたにらみ合いが続くだろう。
けど……ひとまずはそれで満足するか。
僕みたいな人間が、欲張ってもしょうがない。
「全軍、撤退する」
「……申し訳ありません。あの戦力は、知りませんでした」
「いえ、タニアのせいではありませんよ」
自分は知っていたと言えば知っていた。
諸人さんからの報告。
だがそんな報告を誰が信じる?
ましてやそれが里奈だなんて。
まさかあれが里奈のわけがない。
あんなものが里奈のわけがない。
どっかのイカれたプレイヤーに違いない。
そうに、違いない。
前方で行われる騎馬隊同士の戦いを見て、そう呟いた。
ここまで問題はなかったが、やはり最後の最後でつまずいた。
敗走先の砦に潜ませていたキッドと諸人さんによるジャンヌ・ダルクの狙撃。
そして自分のスキル『罪を清める浄化の炎』による砦のかく乱。
その混乱に乗じて猛追を加えて敵を殲滅する。
ジャンヌ・ダルクについては完璧だった。
生死は不明だが、肩と頭に一発ずつ。おそらく助からないだろう。
そしてジャンヌ・ダルクを燃やす炎。
史実のような因果を思えば、少し愉快な思いになる。
そこまでは順調。
あとは逃げ散る敵を追いうちに討ち、できれば殲滅してしまいたかったので、騎馬隊を出したのだが……。
「あの2千ほど。敵の増援ですかね」
タニアに確認の意味も含めて聞いてみる。
「あの旗、あの具足。おそらく南部で抵抗していた、旧ビンゴ王国の王太子が率いる軍かと」
「そんなところの軍がここに……やれやれ、実戦は本当にままならない」
「仕方ありません。それに、あの増援を得ても敵の本隊はすでに潰走状態。このまま追ってもよいのでは?」
確かに敵はもうボロボロだ。
しかも南東に追ったから、敵が逃げ込む拠点から大きく進路を外している。
だがここでもう1つの誤算が顔を出した。
敵の本隊は南東にある森へ逃げ込んだ。
これから夜になる。森でバラバラになった敵を討つのは難しいだろう。
下手に部隊を分散すれば、逆襲される可能性もある。
「いや、ここで終わりです。さすがに我が軍も疲れが見れます。ここまで負けを装って、そこから一気に反撃しての追撃。疲労のピークでしょう。近くの砦に移って、休息を取ります」
そう、とりあえず南に敵を追っただけで満足すべきだ。
それをタニアも了解したのだろう。
「なるほど……分かりました。追撃は中止。そのように手配します」
「軍は5千ずつ6隊に分け、北と南の砦にそれぞれ3隊ずつ。交代で不寝番を立て、明朝、打って出ます」
「はっ!」
タニアに告げるだけ告げて、肩の力を抜く。
自分は逸っていないだろうか。いや、冷静だ。
それ以上に想いが溢れる。
里奈。
今も君はそこにいるのか。
僕は君を殺そうとしているのか。
もっと里奈について問いただしたいところはあった。
だが諸人さんはキッドの付き添いとして今は後方にいる。
だから里奈については分からない。
今はそれでいいのかもしれない。そう思った。
今はタニアを始めとする、この軍の皆をどうにかしたいという思いも大きいのだ。
自分が背負うには重すぎる命たち。そして何より、自分の身かわいさ。
まずは精一杯のことをする。
もとより劣るこの身だ。ビンゴとオムカの連合軍を川の向こうに追い払ったうえで、里奈のことは考えよう。
休息を取り翌朝。
昨夜、また“あの人物”が来て、敵はゾイ川に一番近い砦――自分たちが数日前まで過ごしていたイナの砦だ――に籠っているという報告があった。
だが近づいてみて不審に思う。
相手は砦のこちらに一番近い西門を開け放っているようだ。
それを見て1つの単語が頭に思い浮かぶ。
空城の計。
敵はこちらの動きにもさすがに気づいているはずだ。
それなのに、どうぞ攻めてきてくださいと言わんばかりに門を開け放っているのだから、怪しい事この上ない。
もちろん、ただ単に逃げてきた味方を収容するために、門を開け放っているだけなのかもしれない。
どちらかは分からない。
だから反応を見るために軍を進める。
「前進します」
3万を動かす。
疲労で少し動きの鈍くなっていた部隊も、一晩の休憩で力を取り戻したようだ。
進む。
敵に動きはない。
進む。
やはり敵に動きはない。
距離が1キロを切った。
号令をかければ、数分で3万の軍が殺到する距離だ。
それでも敵に動きはない。
そこに至って自分は全軍を止めた。
「門は西門だけが開いている。そうですね?」
「はい。偵察の報告では。そして多くの人、そして馬の気配もあったと」
タニアが単調に答える。
それがまた不審を募らせる。
「敵は騎馬隊も出してこない。どういうことでしょう?」
「砦の中に誘っているのでしょうか」
「いや、そんな狭いところで騎馬隊は活きない。あの5千ほどの騎馬隊が、相手の主力であり生命線である。そのはずなのに……」
なのに何もしてこない。この沈黙が怖い。
「リュンエン部隊長の1万を二段に分けて出します」
「はっ!」
ほどなくして、前衛の1万が前に出る。
5千ずつに二段になって進んでいく。
その前衛が自分たちと砦、その中間あたりに位置した時。
敵に動きがあった。
西門から1つの小さな影が出てきた。
それはふらっと散歩に行く、といった感じで、武器も防具も何もない、ただの一般人。
降伏の使者か?
一瞬、そう思ったが、その人物が女性で、それでいてどこか妖しい気配を漂わせていたからその思いを打ち消した。
リュンエン部隊長はその人物に戸惑っているのだろう。
だが進軍を止めるわけにはいかず、そのまま突き進む。
加速度的に両者の距離が詰まる。
そして、それが100メートルを切った時、
「速い!」
女性が走り出した。
オリンピックのスプリンターも驚きの加速。
みるみるうちに距離がなくなる。
何をする気だ、という思いのうちに、まさかそのまま突っ込むのかと驚愕が重なる。
1万の半分とはいえ5千だ。
そこに1人で? 自殺願望でもあるのか?
自分が固唾をのんでその光景を注視しているのに気づいた。
そして――
人が、爆ぜた。
「え?」
ぶつかった5千の最前列。
そこにいた歩兵が高々と宙を舞う。
そんなこと、ありえない。
爆弾でも爆発したのかと思ったが、そんな爆発音は聞こえなかったし、何より爆弾でもあれほど高くは飛ばないだろう。
そしてそれは単発では済まない。
次々に人が爆ぜ、隊列を組んだ前衛が食い散らかされていく。
理解ができない。
こっちは合わせて1万。相手はたったの1人だ。
だがその時、頭の片隅では1つの数式が組み上がるところだった。
プレイヤー。
女性。
証言。
殺戮。
それらが1つのものに結びつこうとして、それでもやっぱり信じられなくて。
「里奈……?」
言葉に出すと、急にその言葉が現実味を帯びていく。
そんなバカな。そんなはずが。だって里奈は優しい子だ。あんな風に、人を吹き飛ばすような人じゃない。
だから確かめるんだ。
あれが里奈じゃないことを。
あれが里奈であってはならないことを。
「将軍、どこへ!?」
タニアが馬の轡をとった。
ハッとした思いで彼女を見やる。
どうやら無意識のうちに馬を進めようとしていたらしい。
「異常事態です。今すぐ前衛に退却の指示を」
あぁ、そうだ。
指示を出さなきゃ。
あれが里奈だろうと里奈でなかろうと……いや、里奈ならばなおさら、退却させないといけない。
「退却! 退却の鉦を鳴らせ!」
すぐに鉦の音がなり、前衛が退いていく。
接敵はわずか1分足らず。
なのに退いてきた兵は、怪我人を含めて1千近く減っていた。
文字通り、一騎当千とでもいうのか。
視線を再び相手に向ける。
血にまみれて佇む女性。
彼女はうつむいたまま動かないが、やがておもむろに天へと顔をあげると、
「あははははははははは!」
嗤う。
狂おしいほどに、嗤う。
その声。
里奈、か。
いや、違う。里奈の声じゃない。
こんなの、里奈じゃない。
「将軍、どうしますか……遠巻きに矢で射かければあるいは……」
おそらく駄目だろう。
彼女に完全に呑まれてしまった。
兵も、何より僕も。
矢を射るにはもう少し近づかなければならない。
そうなれば、あの爆発的な加速。おそらく矢を放つ間に、距離を詰めてくるだろう。
乱戦だ。そうなれば、こちらはどうしようもなくなる。
5千じゃダメでも3万なら、そう思うの浅はかな考えだ。
相手が100とか千とかならまだどうにかしようもある。
だが相手は1人なのだ。
それはつまり戦う面積が小さいという事。
こちらも一度に戦える人数は、多くて100人になる。
つまり大局的に見れば3万対1など相手にならないが、局地的に見れば100対1になる。
それでも絶望的な差だが、3万対1よりはマシだろう。
さらにこちらは同士討ちを恐れて手出しがしづらいのに対し、相手は片っ端から斬ればいいのだ。周りは全て敵なのだから。
勝機があるとすれば、相手が攻め疲れて止まった時か、あるいは退こうと距離を取ろうとした時。
だがそのために一体何人を犠牲にする?
10か、20か。
そんなわけがない。
今のでわずか1分で1千だとすれば、その2倍や3倍では効かないだろう。
何よりすでに恐怖は植え付けられている。
途中で恐怖にかられた兵が逃げ出すことも十分に考えられる。
そうなったら最悪だ。
収拾がつかなくなり、全軍が雪崩を打ったように潰走することになる。
たった1人に、3万が負けるのだ。
劣等な自分にはお似合いの結末とも言えるが、そんな博打はうちたくない。何より、犠牲にしていい命なんてないのだ。
ここまで考えて……この戦局は詰んでいる。そう判断した。
攻めることもできない。
受けることもできない。
なら後は、退くしかない。
3万で攻めてこの結果は不本意だが、相手の戦力はかなり削った。
増援があったとしても1万は切るだろう。
なによりジャンヌ・ダルクを討ったのは大きい。
あの煌夜教皇を始め、様々なプレイヤーが気にするその人物。
オムカの精神的主柱になっているだろう人物。
死んだという報告は受けていないが、重傷でも戦線離脱すれば御の字だ。
一気に揉み潰したいところだが、あんな反則級がいるとすればこちらも慎重にならざるを得ない。
しばらくまたにらみ合いが続くだろう。
けど……ひとまずはそれで満足するか。
僕みたいな人間が、欲張ってもしょうがない。
「全軍、撤退する」
「……申し訳ありません。あの戦力は、知りませんでした」
「いえ、タニアのせいではありませんよ」
自分は知っていたと言えば知っていた。
諸人さんからの報告。
だがそんな報告を誰が信じる?
ましてやそれが里奈だなんて。
まさかあれが里奈のわけがない。
あんなものが里奈のわけがない。
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そうに、違いない。
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しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
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そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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