3 / 17
ことかの章 香りのないクラスメイト②
しおりを挟む
「カモミールティーをどうぞ。」
「ありがとう。」
琴弧は少し微笑みながら言った。
カモミールティーの味わいを楽しんだ後、カモミールのリラックス効果では緊張を抑えきれなかったのか、呂律が回らない様子で話し始めた。
「あ、あの、たっ、たけたっ、竹達くんは・・・」
「竹達って言いにくいよね、遠慮せずに晶って呼んで。」
友人がいない琴弧にとって、仲良くなるための課題とも言える名前呼びの壁を意図せず超えることができた。しかしながら名前を呼ぶことに慣れていない琴弧はためらいがちに続ける。
「あっ、・・・晶くんはどうして香文学部を設立したの?香文学ってあまり聞いたことがない分野だと思うんだけど。」
晶は少し軽く咳払いをして待ってましたと言わんばかりの得意げな表情をしながら、二ヶ月間温めてきた部員勧誘のスピーチを始めた。
「僕は香りも出会いの一つだと思ってる。だけど香りは主観的なもので、同じ香りでも音無さんと僕では感じ方が異なることだってある。僕は音無さんにカモミールティーだと言ってお茶を出したけれど、もし何も言わずにお茶を出していたとすれば、音無さんはカモミールティーと認識できたと思う?」
「正直に言って難しかったと思う。」
予想通りの返答が来て、晶は勢い付いた。
「そうだよね。そしてこれには、実はレモンバームとハチミツもブレンドしているんだ。つまり、香りに関する情報は嗅覚の経験と合わせて言語も伴っていないと認識が困難だということになる。だから香りを言葉で表現して伝えていく必要性を感じて香文学部にしたのさ。」
晶は自分のスピーチをちゃんと聞いているかを確認するために琴弧を一瞥して続けた。
「だけど一つ問題があって・・・僕は香りには敏感だけど、文字に起こすことが苦手なんだ。だから今は一緒に活動してくれる部員を探してる。特に音無さんのような日常的に本を読んでいる人を。」
最後に、琴弧に部員になって欲しいと目で訴えて勧誘のプログラムが終了した。 少しの沈黙の後に少し緊張が解けた様子の琴弧が自信なさげに口を開いた。
「私は本が好きってわけじゃない。どうしても一人でいる時間が多いから本に頼ってるだけ。本を開いていても文字が頭に入って来ない時もある。本を読むふりをして考え事をしている時もある。だから少し、ほんの少しでもそんな日常を変えたいと思ったの。でもどうしたら良いかわからなくて。」
「それで僕のところに相談しに来てくれたってわけだね。」
「初めて話すのに変なことを言うけど、晶くんには不思議な求心力を感じてる。それが変わるための手がかりになるんじゃないかと思って部室に来てみたんだ。」
「それは凄く嬉しい相談だよ。そしてちょうど今、解決策を思いついた。」
晶は新入部員獲得のために一肌脱ぐことにした
「本当?やっぱり晶くんって只者じゃないんだね。」
「僕の家に来てみない?」
話の流れから微塵も予想していなかった急な誘いに琴弧は一瞬固まった。
ずり落ちた眼鏡をクイと上げた後、軽蔑気味に続けた。
「・・・晶くんってさ、そうやって手当たり次第に女子を誘ってるんじゃない?・・・」
「酷い言い方!僕は人生で初めて女の子を誘ってるんだけどな・・・。音無さんだから誘ってるのに。」
「それはどういう・・・」
「意味か知りたいでしょ?じゃあ家に来てよ。きっと変わりたいと思い始めた音無さんの背中を押せる。」
何も言わずに晶を疑いの目で見ている琴弧に、言い訳をするように続けた。
「本当なんだってば!僕の家は代々続く町の薬局なの。あと少し『特別な香草』も栽培してる。」
「特別な香草?」
「正確には、知る人ぞ知る香草って表現が正しいかな。」
「その知る人ぞ知る香草にはどういうものがあるの?」
「今は秘密。実際に見た方が早いよ。」
「晶くんって思ってたより強引なんだね。」
「嫌いじゃないでしょ? ね?」
伏し目がちになっていた琴弧を覗き込んで晶は意地悪な返答をした。
「・・・そういう顔・・・しちゃうんだ。」
屈託のない笑顔の晶と目が合った琴弧は驚き、赤らめ顔で目を逸らしながら言った。何か非日常の気配をぼんやりと感じたかのように。
「ありがとう。」
琴弧は少し微笑みながら言った。
カモミールティーの味わいを楽しんだ後、カモミールのリラックス効果では緊張を抑えきれなかったのか、呂律が回らない様子で話し始めた。
「あ、あの、たっ、たけたっ、竹達くんは・・・」
「竹達って言いにくいよね、遠慮せずに晶って呼んで。」
友人がいない琴弧にとって、仲良くなるための課題とも言える名前呼びの壁を意図せず超えることができた。しかしながら名前を呼ぶことに慣れていない琴弧はためらいがちに続ける。
「あっ、・・・晶くんはどうして香文学部を設立したの?香文学ってあまり聞いたことがない分野だと思うんだけど。」
晶は少し軽く咳払いをして待ってましたと言わんばかりの得意げな表情をしながら、二ヶ月間温めてきた部員勧誘のスピーチを始めた。
「僕は香りも出会いの一つだと思ってる。だけど香りは主観的なもので、同じ香りでも音無さんと僕では感じ方が異なることだってある。僕は音無さんにカモミールティーだと言ってお茶を出したけれど、もし何も言わずにお茶を出していたとすれば、音無さんはカモミールティーと認識できたと思う?」
「正直に言って難しかったと思う。」
予想通りの返答が来て、晶は勢い付いた。
「そうだよね。そしてこれには、実はレモンバームとハチミツもブレンドしているんだ。つまり、香りに関する情報は嗅覚の経験と合わせて言語も伴っていないと認識が困難だということになる。だから香りを言葉で表現して伝えていく必要性を感じて香文学部にしたのさ。」
晶は自分のスピーチをちゃんと聞いているかを確認するために琴弧を一瞥して続けた。
「だけど一つ問題があって・・・僕は香りには敏感だけど、文字に起こすことが苦手なんだ。だから今は一緒に活動してくれる部員を探してる。特に音無さんのような日常的に本を読んでいる人を。」
最後に、琴弧に部員になって欲しいと目で訴えて勧誘のプログラムが終了した。 少しの沈黙の後に少し緊張が解けた様子の琴弧が自信なさげに口を開いた。
「私は本が好きってわけじゃない。どうしても一人でいる時間が多いから本に頼ってるだけ。本を開いていても文字が頭に入って来ない時もある。本を読むふりをして考え事をしている時もある。だから少し、ほんの少しでもそんな日常を変えたいと思ったの。でもどうしたら良いかわからなくて。」
「それで僕のところに相談しに来てくれたってわけだね。」
「初めて話すのに変なことを言うけど、晶くんには不思議な求心力を感じてる。それが変わるための手がかりになるんじゃないかと思って部室に来てみたんだ。」
「それは凄く嬉しい相談だよ。そしてちょうど今、解決策を思いついた。」
晶は新入部員獲得のために一肌脱ぐことにした
「本当?やっぱり晶くんって只者じゃないんだね。」
「僕の家に来てみない?」
話の流れから微塵も予想していなかった急な誘いに琴弧は一瞬固まった。
ずり落ちた眼鏡をクイと上げた後、軽蔑気味に続けた。
「・・・晶くんってさ、そうやって手当たり次第に女子を誘ってるんじゃない?・・・」
「酷い言い方!僕は人生で初めて女の子を誘ってるんだけどな・・・。音無さんだから誘ってるのに。」
「それはどういう・・・」
「意味か知りたいでしょ?じゃあ家に来てよ。きっと変わりたいと思い始めた音無さんの背中を押せる。」
何も言わずに晶を疑いの目で見ている琴弧に、言い訳をするように続けた。
「本当なんだってば!僕の家は代々続く町の薬局なの。あと少し『特別な香草』も栽培してる。」
「特別な香草?」
「正確には、知る人ぞ知る香草って表現が正しいかな。」
「その知る人ぞ知る香草にはどういうものがあるの?」
「今は秘密。実際に見た方が早いよ。」
「晶くんって思ってたより強引なんだね。」
「嫌いじゃないでしょ? ね?」
伏し目がちになっていた琴弧を覗き込んで晶は意地悪な返答をした。
「・・・そういう顔・・・しちゃうんだ。」
屈託のない笑顔の晶と目が合った琴弧は驚き、赤らめ顔で目を逸らしながら言った。何か非日常の気配をぼんやりと感じたかのように。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ペットになった
ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる